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師の為に

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第三章

「よき者だ、しかし私への想いが強過ぎ」
「それで、ですか」
「それが故に」
「御仏の教えから離れ煩悩が強くなっていないか」
 こう言うのだった。
「若しやな」
「あの方ですらですか」
「そうなっていますか」
「あの霊佑殿でも」
「その様に」
「そうでなければよいのだがな」
 鑑真は彼のことを心から案じていた、それは懊悩となって出ていた。だがその間も福州から日本に渡る用意を進めていた。
 霊佑は福州に着くと役人達に必死に頭を下げた、そのうえで彼等に言うのだった。
「どうか和上が来られたら」
「はい、その時はですな」
「和上を」
「どうかお止め下さい、日本に渡られるのは」
「危険ですな、確かに」
「それは」
 役人達もこのことはわかっていた、それでだった。
 彼等も決意している顔でだ、平伏してまで頼み込む霊佑に答えた。
「霊佑殿お立ち下さい」
「我等も同じ思いです」
 穏やかな声でだ、霊佑にこう言ったのである。
「和上は唐朝きっての高僧、何かってはなりません」
「ですから」
「では」
「はい、我等が必ずです」
「和上をお止めします」
 こう言ってだ、霊佑を立たせ鑑真を止めることを約束したのだ。彼等にとっても鑑真のことは気掛かりであったが故に。
 霊佑はこのことも心の底から安堵した、そして兄弟弟子達に言うのだった。
「福州の方々には協力してもらえることになった」
「そうなのか、それではだな」
「もうこれで」
「うむ、憂いはない」
 こうだ、彼等に確かな顔で語った。
「全ての責は私にある」
「霊佑殿にと」
「そう言われるか」
「貴殿等に責はない」
 このことについてだというのだ。
「一切な」
「しかしそれは」
「幾ら何でも」
「私が全てやったことだ」
 こう言うのだった。
「和上のお心に逆らったことはな」
「和上はどうしても日本に渡られたい」
「そう思われるからな」
「それは私も知っている、しかしだ」
 鑑真のことを思うとどうしてもなのだ、それでなのだ。
「和上に何かあっては駄目だ」
「そして和上のお心に逆らう責はか」
「貴殿が」
「全て背負う」
 この覚悟を今言うのだった。
「貴殿達は何も言わないでくれ」
「しかしそれは」
「幾ら何でも」
「いいのだ」
 霊佑は確かな顔と声で彼等に答えた。
「それでな」
「そう言うのか、あくまで」
「貴殿はそれでいいのか」
「私はその覚悟で福州まで行ったからな」 
 だからいいというのだ。
「気にすることはない」
「そう言うのか」
「貴殿はあくまで」
 共に鑑真のことを案じて止めたいと考えている者達は暗い顔で応えた、霊佑はあくまで自分だけのこととした。
 そして鑑真が福州に赴くとその港でだった。 
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