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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第1章 悪魔のような聖女のような悪魔
  第14話 聖女のような悪魔

 
前書き
・第1章ラストです。
・シリアス風味
 

 
 俺たちは、教会に突入して、すぐさま礼拝堂へと躍り出た。
 すると、チャペル内にたむろしていた神父服姿のエクソシストがすぐさま攻撃してくる。
 あいにく、俺の戦闘技術は未熟もいいところだ。
 だから――



「――木場ッ!うまく捌いてくれ!デカイのかますぞ!!」

「了解。手早く頼むよ、っと!」


 ――仲間を頼る。
 短い付き合いとはいえ、木場のことは信頼している。
 木場も俺を信頼して、敵の攻撃を集めつつ、捌いていく。
 おかげで、俺への攻撃が途切れた


 ――――その隙を狙う!!


「っらあ!!」


 素早く木場の前に出て、限界までブーストをかけた右ストレートを叩き込もうとする。
 が、正面のエクソシストに、素早いバックステップで回避される。
 勢い余った俺は、地面に拳を叩きつけた。


 ドガアアアアアアアッッッッ


 轟音が響くが、狙いをはずしたと勘違いした敵から、笑みがこぼれようとして――固まった。


 ―――目の前に、大量の石礫が迫って来たのだから


 思わず笑みがもれる。
『狙い通り』に、地面を下から掬うようにして叩き込んだ結果なのだから。
 瓦礫を大量にくらったエクソシストたちは、動きを止めた。
 ――その隙を逃すような木場ではない。
 騎士(ナイト)の名に相応しいスピードで次々と切り捨てていく。
 運よく範囲外にいた奴らも、シグナムとザフィーラが蹴散らす。


「ナイスだ。兵藤くん!」

「へっ。お前も完璧なタイミングだったぜ、っと!」





 ――――兵藤一誠は、目の前の光景を事実と認識できなかった


 ものの数分で、地上の残敵を始末し終えた。
 奥からシグナムがやってきて「地下への階段をみつけた」という。
 木場と顔を見合わせると、すぐさま 階段を駆け下りた。
 広々とした地下礼拝堂には、大勢の堕天使とエクソシストがおり。
 そのさらに先には―― 


 ――――十字架に貼りつけにされたアーシア・アルジェントの姿があった


 目から血の涙を流し、苦悶の表情を浮かべる彼女は、もはやピクリとも動かない。
 手足は力なく垂れ下がり、両の掌には、杭が打ち込まれ血を流し続けている。


 ――――明らかに、手遅れだった


「おまえらああああああああ!!」
『Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!Boost!!』

「まて、迂闊に飛び出すな兵藤くん!」


 制止しようとする木場の声がどこか遠くで聞こえる。
 景色も音も置き去りにして飛び出した俺は、限界を無視して倍加の力を使い


 ――広間のど真ん中に拳を叩きつけた!


 ドガアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ


 再び轟音が鳴り響き、地面に大きなクレーターができた。
 一連の行動に追いつけなかった堕天使たちは、陥没した地面に足をとられ転倒してしまう。
 その隙を縫うようにして、俺は急速にアーシアに接起するが、堕天使の女に遮られた。


「クソッ!お前、赤龍帝だったのか。わたしの邪魔ばかりしやがって。あの時殺しておくんだった……!!」


 よくみると、見覚えのある顔だった。
 かつて、天野夕麻と名乗り告白してきた女――レイナーレだった。


「よくもッ!おまえが、アーシアをッッ!!」 


 ――――体中が悲鳴を上げているが、関係ねえ。


 ――――こいつだけは、こいつだけは許すわけにはいかない!!


「回復能力をもつ神器は珍しいからねぇ!だからこそ、あの女の神器を貰い受けようとおもったのにッッ!!」


 激昂する俺をみて、やや落ち着きを取りなおした彼女は、嘲笑しながら話しかける。


「原因不明の理由で、儀式は失敗。あの女も死亡してどうしようかと思ったケド。どのみち、神器を取りだしたら死ぬわけだし、諦めるとするわ。でも、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』さえあれば、何も問題ないわね――」


 その後、恍惚とした表情で自らの「目的」とやらを演説する堕天使。
 要するに、神器を手に入れて、上司の気を惹きたいらしい。


 ――――そんなことのためにアーシアは犠牲になったのか。


 煮えたぎるような激しい怒りのなか、どこか冷静に思考する自分がいた。
 冷静な部分は、己の内の中に「力ある意思」の存在に気づく――



 ――――ようやく俺にきづいたか、今代の赤龍帝よ


 その一言で全てを理解した。
 コイツだと。コイツが俺に宿っている力の正体。
 『赤龍帝の籠手』の内に眠る龍の魂――――ドライグだ、と。



(ドライグ、力を貸してほしい。あの女を倒せるだけの力を)

(お安い御用だ、相棒。意識を研ぎ澄ませ――いまの相棒ならどうすればいいかわかるはずだ)

(――――ッッ!これかっ!!)


『Welsh Dragon Balance Breaker!!!』





 ―――どうしてこうなった!?


 兵藤一誠がまさかの禁手化(バランス・ブレイク)だと!?
 この時期になんで禁手化するんだよ。
 度肝を抜かれたボクは、あわててヴィータに連絡をとった。
 地下礼拝堂が、兵藤一誠のレイナーレに放った一撃のせいで崩落したのだから。 


(ボクたちの力も合わせれば、グレモリー眷属の戦力がすごいことになりそうだな)


 一応、説明すると「禁手化(バランス・ブレイク)」というのは、神器のパワーアップ化のことだ。
 第二形態に変身する、といえばわかりやすいだろうか。
 大幅にパワーアップ出来るが、禁手化に至るには、相当な労力と時間がかかる――というのが常識だ。
 あっさりと常識を破ってしまう兵藤一誠の資質は、並はずれているのだろう。
 原作で『歴代最低の赤龍帝』と呼ばれたのはうそだったのだろうか。


 ――――幸い、ヴィータもアーシア(本物)も、無事だった。


 そこで、地下天井の崩落にまぎれて小細工を急いで実行。
 アーシア(偽物)とアーシア(本物)を、急いで入れ替え、シャマルとともに現場に直行する。
 苦肉の策として、シャマルが、治癒魔法で虫の息だったアーシアを延命したことにした。
 貼りつけのままかろうじて生きていたのは、『聖女の微笑み(トワイライト・ヒーリング)』の賜物だろう、とも主張してみた。


(あの時点で、『身代わり』にされたフリード・ゼルセンは死亡していたケドネ)


 そして、今に至る。
 兵藤一誠は、アーシアの無事に喜び、彼の暴走を間近でみていた木場たちは安堵の息を吐いている。
 シグナムも『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』には度肝を抜かれたようだ。
 『間違っても力くらべはしたくない』とのことだ。
 防御に長けたザフィーラでさえ、『全力の防御ならなんとかなる』程らしい。


(原作知識の弊害――いや、原作なんてあってないようなものか。改めて痛感したよ)


 彼が激昂した原因であるアーシア(偽)の死亡は、どうやらボクたちのせいみたいだ。
 アーシア(偽)に仕立て上げられたフリード・ゼルセンは、当然、神器なんてもっていない。
 そんな、アーシア(偽)から神器を取り出すことは不可能だ。
 しかしながら、事情など知らない堕天使たちは、アーシア(偽)の抵抗力のせいだと考えた。


 ――――その結果が、拷問まがいの『儀式』だった


 しかも、ゆっくりと弄るつもりが、教会が襲撃されて焦りがうまれ――――ついには殺してしまった。
 いくらフリード・ゼルセンを素体にしているとはいえ、ひとたまりもなかったようだ。
 そうこうするうちに、死亡したアーシア(偽)の姿をみた兵藤一誠が、堕天使の仕打ちに激怒し、


 ―――ご覧の有様だよ!!


 いまは深く反省している。
 いきなり原作ブレイクしてしまった。
 まあ、原作知識はあくまで参考程度。
 やりたいようにやった結果だから、素直に受け止めたほうがいいだろう。


「はい、これでアーシアはグレモリー眷属の一員。つまりは、わたしたちの仲間で家族のようなものよ」

「その、ありがとうございます。わたし気を失って、何も覚えていなくて。みなさんに助けていただいた上さらに御厄介になってしまって――」


 目の前で、アーシア・アルジェントが照れつつお礼を述べている。
 彼女は、原作通りリアス・グレモリーの転生悪魔になった。
 駒はもちろん「僧侶(ビショップ)」である。


 ――――アーシア・アルジェントの転生悪魔化を薦めたのは、ボクだ


 一命を取り留めたとはいえ、まだ危険な状態(という設定)だったし――原作でも、神器を抜かれ死ぬ寸前だった彼女は転生悪魔となっている。
 とはいえ、原作知識云々を置いておいても、現実的な選択肢ではあった。
 グレモリー眷属が情に厚いことは、実際に付き合いのあるボクは重々承知している。
 さらに、リアス・グレモリーは、現在の魔王の妹であり、迂闊に手出しはできない。
 頼る先しては破格だろう。


「よろしいのですか、マスター。遠くから見守らずとも、もっと近寄って会話に混ざってもよろしいのではありませんか?」

「いや、これでいいんだよ。まずは、同じグレモリー眷属と仲良くなったほうがいいだろう?」

「マスターがそのように仰るのならば、とりあえず納得することにします」

「『とりあえず』なのかい―――」


 苦笑とともに言葉が漏れる。
 うまくごまかしていたつもりだったが、リインフォースにはお見通しだったみたいだ。
 記憶にあるここ数日一緒に遊んだ「アーシア」の姿と、目の前で照れくさそうに微笑む「アーシア・アルジェント」の姿が、重ならないのだ。
 苦難から解放されたアーシア・アルジェントが明るさを取り戻したせい、とも思ったが――


「―――ええ。『とりあえず』です。話せるときがきたらでいいですから、話してください。『家族に隠し事はダメ』と教えてくれたのは、誰だと思いますか」

「リインフォースには敵わないなあ――うん。まだ、ボクも明確にはわからないんだ。転生悪魔化を薦めたのはボクだ。いまでも、この選択は正しいと思う」

「何か問題があるということですか?」

「いや、問題と言うかボク個人のことなんだ。嬉しそうなアーシアには悪いけれど、素直に喜べない自分がいてね。ボクも、なぜこんな気持ちになるのか、全く分からないんだよ」


 ――そう。本当にわからないのだ。
 アーシア・アルジェントが悪魔化することに不利益はない。
 彼女は救われ、リアス・グレモリーは戦力を手に入れ、ボクは原作知識を活用できる。
 それなに、どこか納得できない自分がいる。
 理屈では分かるが、湧き上がる感情はどうにもできない。


「……そうです、か」


 どうも考え事に夢中だったせいか、リインフォースの心配そうな眼差しに気づくことができなかったみたいだ。


 ――『何かあると確信したのはこのときだった』


 と、後に彼女は語ってくれた。
 思えば、もっと早くから家族に相談し、頼るべきだったのだろう。
 いや、頼ったところで結果は変わらなかったのかもしれない。
 このとき、ボクは深く考えることはなかった。
 
 

 
後書き
・以上、主人公うっかり原作ブレイクするの巻でした。
・一誠さんはISSEIさんになりました。
・フリードは犠牲になったのだ。犠牲の犠牲にな。
 
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