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LOVE,91

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第一章


第一章

                  LOVE,91
 ずっと昔の話。まだバブルとかそんなことを言われていた頃。
 贔屓のヤクルトが阪神を何とか破って優勝して野村さんが宙に舞った年。結構色々あったけれど一番憶えているのは君と出会ったことなんだ。
 あの時君に出会ったのは木漏れ日のテラスだった。君にはじめて出会ってすぐに見惚れた。飲みかけのカプチーノをそのままにして君に見惚れたんだ。
 思わず声をかけたらそれに応えてくれた。まるで夢みたいだった。
「何かしら」
「あっ、いや」
 何て言えばいいかわからなかった。ただ無意識のうちに声をかけただけでそこまで考えていなかった。それでも君に声をかけたのがはじまりだった。
「あの、ちょっと」
「ナンパ?」
 わかっていたから笑顔で応えてくれたのはわかっている。今も。
「面白いわね。乗ったわ」
「乗ったの?」
「ええ。丁度タイプだしね」
 水色の服に艶やかな笑顔が映えていた。水色の君はあの昔のアメリカ映画に出て来る美人みたいだった。水色のマリリン=モンローだった。ふわふわした軽い服が丁度そんな感じだった。金髪じゃなかったけれどモンローは本当は黒髪だったらしいからそれでいいとも思った。
「乗るわ」
 言いながら僕の席のところに来て座った。ウェイトレスに声をかけてから。
「それにね」
「そう。じゃあ」
「一緒のを御願い」
 僕の飲みかけのカプチーノを見て言ってきた。
「カプチーノをね」
「それでいいんだ」
「ええ。ただ」
 君はここでまた僕に言ってきた。
「今はナンパでいいけれど次はしっかりとしたのがいいわ」
「デートってこと?」
「ええ、そうよ」
 にこりと笑って頷いてきてくれた。
「デートがしたいんだけれど」
「今からじゃ駄目かな」
「今はナンパじゃない」
 こう言って断ってきた。今の僕の誘いは。
「今度ね。電話番号渡すわ」
「そりゃどうも」
 この時はまだ携帯電話なんてものはなかった。思えば本当に昔だ。あの時は随分ハイテクな中に暮らしていると思っていたけれど今程じゃなかった。もっとも十五年も経てばその時も同じことを思うんだろうけれど。
「じゃあそういうことで。その時にね」
「うん。その時に」
 これで話が決まった。電話番号は本物だった。どうやらマジで好かれたらしい。それにまずは喜んでから彼女と話して日時とか待ち合わせ場所に行く場所を決めて。それでその日に待ち合わせ場所の銅像の前に行くと向かい側の歩道から小さく手を振って僕のところにやって来た。やっぱり服はあの水色のふわふわとしたワンピースだった。あの時と一緒の格好だった。
「待った?」
「ううん」
 この時のやり取りはデートのやり取りの定番だった。
「今来たところさ」
「そう、よかった」
 君は僕の今の言葉を聞いて笑顔を浮かべてくれた。
「それならね」
「じゃあ行くか」
「ええ」
 待ち合わせ場所に来た君といっしょに向かったのは吹き抜けのギャラリーだった。人影はまばらで僕達は静かなデートを楽しんだ。
 
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