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オリ主達の禁則事項

作者:夢一夜
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交差点の中心で理不尽を叫ぶ少女

禁則事項第参条

 オリ主は世界を超えて人を呼び寄せる事、送り込む事を原則として禁止する。
“原則”となっているのは、二つの世界の接触が必ずしも悪影響ばかりではない事と、後天的な諸々で世界を渡れるようになる人間の為であり、その原則を外れる例外に該当するかどうかの判断基準の全権を大母神から秋晴に預ける事とする。

―――――――――――――――――

 第参条はオリ主の中には世界を渡る能力を求める人間がいて、そういった連中のための禁則事項である。
 本来ならば、世界を渡るのは神の所業なのだが、オリ主が世界を跨いだとき、召喚前の世界との間に特殊なラインが形成されてしまう。
 オリ主と言う特異点を基準とし、神の能力補正を加える事で、元の世界限定ではある物のオリ主による異世界移動が可能となるのだ。

 そう…たとえば地球と言う世界…その東京と言う場所に…ピンクブロンドの髪を持ち、プリーツスカートに白シャツ、その上に“黒マント”を羽織ると言うまるで“魔法使い”のような恰好の…いてはならない人間がいたりすると言うような事が起こる。
 …起こってしまった。

「な、何なのよこれ…」

 少女は、いきなり現れた圧倒的な光景にその目を限界まで見開いて唖然とした。
 見上げるような巨大な建造物は、彼女が知る最も大きな建造物である城より巨大で、道は呆れるほどに広い。
 彼女が知る通とは、大通りであってもこの数分の一の横幅しかない。
 しかも、その道には馬車に似た、しかし牽引する馬を持たない“箱”が走っている。

 しかも箱は四方にいて、威嚇するように自分を囲んでいる…彼女には知りようがないし、知っているはずの無い知識ではあるが、威嚇されているように見えるのは彼女の勘違いだ。
問題がるのは彼女のいる場所である。
彼女以外の人間はそれに気が付いている…少女は大通りの交差点、そのど真ん中にいたのだ。

「■■■■!!」
「え?何?」

 箱の中にいた人間が、彼女に何かを言っている。
 それは分かるのだが、聞いた事もない言葉だった。
 当然理解など出来ない。

「き、キャ!!」

 次いで、箱の出す音なのか大きな音が周囲から上がる。
 それがクラクションと言う物であり、そこにいると危ないからどけと言う意味のリアクションなのだが、当然のごとき彼女には分からない。
 それどころか耳障りな音に恐怖を感じた少女が、マントの中から取り出したのは木で出来た杖…マントと合わせて見ると、本当に魔法使いのようだ。

「ば、馬鹿にして、これでも貴族の端くれよ!!わけわかんないけど、背中を見せたりはしない!!かかってらっしゃい!!」

 最悪な事に…彼女はクラクションを自分に対する威嚇ととったらしい。
 高らかに、誇り高く宣言するも、それを聞いた周りの人間達の反応は芳しくない。
 向こうからの言葉だけでなく、自分からお言葉も彼等には理解できなかったようだ。
 それどころか、少女の事を勘違いした数名が少女を指さして笑い始めた。
 笑う人間に何を感じたのか、少女の顔が真っ赤になる。

「ば、っかにして…!私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールよ!!」

 それは…ゼロの使い魔と言う名のライトノベル…そのヒロインの名前と同じものだ。

「…ってえ!!」

 交差点の中央で聞いたことの無い言葉で喚き、なのに全く動かない彼女…ルイズに痺れを切らしたのだろう。
 トラックが一台、交差点に入って来た。
 勿論、クラクションを鳴らしながらである。

 ドライバーにルイズを轢く気はない。
 直ぐ傍を通り抜けてビビらせ、すれ違いざまに罵声でも浴びせてやろうとでも思ったのだろう。
 血気盛んと言うかなんというか…交通法的には車の方が強者ではあるが、ドライバーにしてみれば外国人とは言え、日本にきていながらその交通法を真正面から無視しているのだから少し怖い目を見ればいいと…そんな風に思っていた

「ちょ、何!!来ないでよ!!」

 だが、ルイズの方はドライバーの思いを正しく受け取らなかった。
 言葉も分からず、自分が交通法を無視している事にも気付いていない彼女の認識では…鉄?の馬車が自分に向かってくるという事実だけだ。 
 けたたましい音と共に迫ってくる馬車を前に、ルイズは本能的に杖を掲げ…呪文と共に振り下ろした。

 その結果は直後に現れる。
振り下ろされた杖の先で…アスファルトが爆発した。
 爆弾では無く、火薬ですらない爆発と言う“魔法”の力が発動し、地面を抉り飛ばしたのだ。
 もうもうと立ち上る白煙が晴れた時…そこに先程までの喧騒はなかった。
 向かって来ていたトラックは横転し、タイヤを空回りさせている。
 うるさかったクラクションは消えていた。

 色々な物が過密な東京と言う場所に置いて、無音の空間が誕生したのだ。
 押し黙った周りの様子に満足した少女…ルイズは溜飲を下げ、その対して厚くもない胸を張った。

「あ、あんた達が悪いんだからね!!どう、これで私が貴族って分かったかしら!?分かったら早く言葉の分かる人を呼んで頂戴!!」
「「「「「「■■―――――!!」」」」」」
「貴族としての扱いを希望…え?」

 周囲の人間が揃って大声を上げた事で、ルイズは驚きに身を固くする。
 彼ら、彼女達が何を言っているかは分からなかった。
 ルイズに分かったのは、回りの人間がルイズに何かを叫び、箱に乗っている者達はそれを抜け出してまで逃げて行くと言う事だけだ。
 その中には、横転したトラックから抜け出してきたドライバーもいた…どうやらシートベルトをちゃんと締めていたらしく、目立った外傷はなく無傷に見える。
走る姿も健脚ですぐに人の塊に紛れて見えなくなった。

 大津波の直前のように人の波が消えていくのを茫然と見送ることしかできなかった。
 気がつけば…あれほど周囲で自分に注目していた人間は一人もいなくなっている。

 無人になった町の中、未だ交差点の中央にルイズだけが取り残されていた。

「な、何なのよ…そりゃあ、失敗した爆発魔法なんて…でも逃げる事なんて…」

 言葉の壁はかようにも厚い。
 ルイズの聞きとれなかった言葉にはテロだとか爆弾だとか言う単語がふんだんに含まれていたりするが、当のルイズは自分が危険人物と認識された事にすら気付いていない。
 彼女は失敗したとはいえ魔法を見た彼等が自分の事を貴族と知り、今までの無礼に真っ青になって逃げ出したのだと判断している。
 実際は、いきなり交差点の中心で“爆発物を爆発させた”危険人物から逃げ出した形なのだが…この認識の違い、常識の違いはこの状況においてかなりまずいのだが、それもまたルイズには分からない事だ。

「え?今度は何?」

 人のいなくなった交差点の中央で茫然としていたルイズだが、殆ど間をおかずに再び囲まれる事になる。
 ただし、今度彼女を囲んだのは先ほどまでの統一性の無い服装の平民達では無く、紺色の服を着た集団…軍かそれに似た統率された人間たちであるのは間違いない。
 彼等は全員が鉄製の工具のようなものを両手で持ち、ルイズに向けている。

「ちょ、ちょっと…あんた達何してんの!!ぶ、無礼じゃない!!この杖とマントが見えないの!?私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!!ヴァリエール家の三女よ!!」

 ルイズの余裕が一瞬で吹っ飛んだ。
 彼等が何をしようとしているのか、あの道具が何なのかはルイズには分からない。
 それでもこの状況がかなりまずく、自分が何かとんでもない事をやらかしてしまったのは、男達の様子と自分に向けてくる苛烈な視線から分かる。
 この状況で自分の危機に気づけないのなら、人間として以前に動物としての生存本能に欠陥があるに違いない。

「■■■■―――!!」
「あーもう、だから分かる言葉で話しなさいよ!!」

 男達…この世界の警官である彼等は、ルイズに武装を解除するように促したのだが、やはりルイズにはその言葉を正しく受け取る事が出来ない。
 むしろ警官に杖を向ける始末だ。
 彼女の国でなら、これだけで既に警告と恫喝となるが、地球においてはただ棒を向けられているとしか分からない。
 警官達は“ルイズのマントの中に隠してあるかもしれない爆発物”に警戒はしていても、自分達に向けられている杖が危険だとは認識していなかった。

 しかしそれはお互いさまで、拳銃を構えている警官達の様子がただ事ではないので、それに怯えてはいるが、ルイズは自分に向けられている銃口の危険性が正しく認識できていない。
 
それが正しく伝わらないのは幸か不幸か…もし、警官達が杖を向けられると言う事の本当の意味を知っていたら…ルイズが拳銃とそれを向けられている危険性を正しく認識できていたら…どちらかがパニックを起こして史上初、魔法と拳銃の銃撃戦が発生していたかもしれないのだから…。

「■■■■」
「だ、だから分からないってば、あんた達それで何するつもりよ!!」

 最後通牒出会った警官の言葉も…やはりつながらない。
 警官達が拳銃を構えなおし、ルイズに複数の視線と銃口が向けられている…アスファルトを吹っ飛ばしたのが一番まずかった。
 人の集まる場所での道路を吹き飛ばす爆弾騒ぎを起こすような危険人物相手ならば、警官達にも余裕はない。
たとえ相手が見た目は可憐な少女であっても十分に拳銃使用の条件は満たしている…つまりこの場での射殺もありうると言う事だ。
 
「ま、待って…待ってってば…ぁ!!」
「■■■!!!」

 その時、全員の目見移ったのは光だった。
 一瞬で、五感が消える。
 無明、無音、無感覚に捕らわれたルイズと警官隊がパニックに囚われなかったのは、それが本の瞬きほどの時間だったからだ。
 警官隊が資格を取り戻した時、その視界の中には何もなかった。
 ルイズも…彼女の起こした爆発でえぐられたアスファルトの惨状も…横転してボコボコになったトラックでさえ元通りになって鎮座している。

…その後、彼等は当然ルイズのモンタージュを作ろうとしたのだが、何故か全員の印象がバラバラで、半端に記憶されている事に気づく事となる。

――――――――――――――――――

「や、やばかった…」

 交差点から十分に離れた場所の路地裏で、秋晴は18ビートを刻む鼓動を深呼吸を繰り返して徐々に押さえて行く。
 実際、ギリギリのタイミングだった。
 もう数瞬でも遅ければ警官達の獣が火を噴くか、ルイズの魔法が炸裂していただろう。
 命中率が悪いと一部で評判のニューナンブと爆発場所を明確に定められない爆発魔法も応酬がどんな結果をもたらすか…あの場所の周囲には乗り捨てられた車もあったし、更にまずい事に最初に倒れたトラックからはガソリンが漏れ出していた。

 ガソリンを知らないルイズならともかく、警官達さえそれに気づかず拳銃を使おうとしていたのだから、どれだけダイ・ハードな状況だったか…後もう少しでも遅ければ、拳銃や爆発魔法で文字通りの意味であの場所一体が火を噴いていたはず…ルイズも警官達もまとめて動く松明になっていた可能性は十分にある。
別にブルース・ウィリスに憧れてもいないし、なりたいとも思わない秋晴としては、危機一髪過ぎた状況に鳥肌と冷や汗が止まらない。

「ん~んん~!!」
「お?あ、ごめんごめん」

 それにしても、あれだけの絶体絶命を切り抜けた俺すごくない?…などと内心だけで自画自賛で酔っていた秋晴を現実に戻したのは腕の中で身動ぎする感触と口をふさいでいる為にくぐもっている抗議の言葉だった。
 問答無用で拉致って来たルイズの事を忘れていた秋晴があわてて彼女を開放する。

「あ、あんた誰よ!!わ、私はルイズ・フランソワー…って言うか言葉通じてる!?」

 どうやら意志の疎通ができない事で相当に心細い思いをしていたようだ。
 顔色を青くして問いかけてくるルイズを安心させる為に頷きつつ笑いかけた。

「俺の名前は秋晴」
「よ、よかった~」

 言葉が通じない事が相当なストレスだったのだろう。
 ルイズは秋晴の目の前で、安堵のあまりへたり込んだ…まあ、そんな自分の姿に気づくと即座に立ち上がり、スカートとマントの埃を払った…あえて見なかったことにするのが紳士で大人の対応かと思う。

「そ、それでここは何処なの?トリスタニアなの?教えなさいよ!!」

 上から目線なのは原作の彼女を知っているので気にしない。
 彼女の年齢は確か一六歳…生い立ちや劣等感から少し人間不信気味な女子高生が、少しばかり鷹揚な態度をとった所で、目くじらを立てるほど大人気なくはないつもりだ。
 さっきの照れ隠しが存分に混じっているのが丸分かりなのだが…本人はそれを隠せていると思っているのか…何気にそっちのほうが気になった。

「私は確か…春の使い魔召還の儀式で…使い魔を召喚して…」

 徐々に、ルイズは自分がここに来る前の記憶が戻って来たらしい。
 そう、彼女は“使い魔”を召喚し、“成功”した。

「でも現われたのは見た事もない服を着た平民で…思い出した!!何であいつ私が何かを言う前に使い魔になるのを断ったのよ!!そして何か光ったと思ったらあの場所に…一体全体何なのよ!!」

 原作の通り相当に沸点が低い…自分と言葉をかわせる秋晴が現れた事で多少の余裕を取り戻せたためだろう…思い出し笑いならぬ思い出し怒りと言う奴だ。

「うん、それを含めて今から説明するけど…落ち着いて聞いてほしいんだ」
「な、何よ…」
「ここは君のいた世界じゃない」
「は?」

 ルイズの目が点になった。
 無理もないと思う…何故、ハルキゲニアのトリスティン魔法学校にいるはずのルイズが地球の東京にいるのか…秋晴が出張って来ている時点で100%オリ主のせいである。
 今回のオリ主は、本来召喚されるはずだった平賀サイトの代わりに、ルイズの使い魔として召喚されたのだが…そのオリ主がいきなりやらかした。
 オリ主はルイズの言うとおり、第一声で使い魔になることを拒否した…これだけなら秋晴の介入はなかったが、その直後、件のオリ主はその場にいたルイズを含めた“メイジすべて”を邪魔だと言って地球に送りやがったのだ。

「世界を渡る?何それふざけてるの!!何系統の魔法ならできるって言うのよ!!」
「魔法の話じゃないからな~」

 使い魔予定のオリ主がルイズをこの世界に送ったのだと言った瞬間にルイズが叫んだ。
 こちらの正気を疑われても無理はない。
 そもそも彼女は本来の主人公であるサイトをなかなか信じなかったし…自分の中にある理屈にそわない物を理解しようとするなら時間がかかるのも仕方がない。

「え、ちょっと待ってよ…」
「ん?」

 さてそろそろ本気でどうしたものかなと秋晴が考えていると、何かに気づいて顔を真っ青にしたルイズが恐ろしい物を見た…でも確かめない訳にはいられないと言う感じで声を掛けて来た。

「あんた今…あの使い魔候補はあの場所にいた“メイジ全員”をここに送ったって言わなかった?」
「言った」
「ここにいるのは私だけじゃないの!?あそこにはキュルケやコルベール先生もいたのよ!!」

 クラスメイトや教師の事を思い出したルイズが詰め寄ってくる。
 おそらく自分のような事になっていると思ったのだろうが…。

「もう全員回収したよ。君が最後の一人」
「ほ、本当?」
「なんなら君達に倣ってブリミル様に誓ってもいい」
「よ、よかった…」

 この世界に来て、近い人間から救出して行ったため、最後となったルイズはあんなにぎりぎりのタイミングになったのだ。
 秋晴の言葉を聞いたルイズがほっとする。
 言動や態度は大きいが、基本的に彼女はやさしい人間なのだ。
 いくら日ごろ自分をバカにしている相手であっても心配するくらいには…教師より先に犬猿の仲であるはずの赤髪な彼女の名前が出た事にはあえて触れないでおく…おそらく無意識だろうから。

「わ、わかった。とりあえずアンタの言う事を信じるわ、ここはハルキゲニアではなく地球、世界を渡るって言うのも…そういう物って考えればいいのね?」
「冷静になって状況を素直に受け入れてくれて本当に助かるよ」

 やはり、実際見た事もない建造物や物が目の前にあると違う。
明確な証拠を自分の目で聞いてしまえば、そう言う物だと考えるしかないだろう。
中にはこれは夢だと究極で無理やりなこじつけをする人間もいるのだから、そう言う意味では彼女は賢い。
 そういえば、彼女は魔法を使えない…と本人が思っているだけ…とはいえ、座学の成績は良かった事を思い出す。

「でも…そのオリ主って奴は何故この世界に私達を送り込んだの?邪魔って何?あいつは私の使い魔になるために現れたんじゃないの?」
「まあそれは…」

 矢継ぎ早に出てくる疑問の答えは、結局の所で問題のオリ主が“バカ”だったと言う事で話が終わってしまう。
 秋晴もそのアホさにいささかうんざりだ。

「何と言うか、短絡的な話なんだが…貴族がいなければ身分による格差がなくなってハルキゲニアが平和になると思っていたらしい」
「…………………………は?」

 衝撃の真実…別の意味で…を聞いたルイズが目を丸くする。
 彼女も貴族の端くれだ。
 自分達がいなくなれば世の中が良くなると言われれば、その反応は無理もない。

「き、聞き間違いかしら?…貴族を無くせばハルキゲニアが平和になるって…何よそれ!!」
「時間差で怒り出すのは御尤もだと思う…俺も理解に苦しむ」

 ハルキゲニアの人間社会の根幹をなす貴族階層を無くしただけで世の中が良くなるわけがない。
 むしろ魔法と言う力を無くしたトリスティンは周りの国に滅ぼされる。
 周りの国の貴族をまとめて消しても、平民にも魔法使いがいるし…魔法その物を無くそうとしたら、魔法に依存して発展してきた人間社会は崩壊するだろう。
 長く続いてきたものには、長く続いてきただけの理由が存在するのだ。

 当然このような蛮行が第参条の例外に該当するわけがなく、ルイズや主要キャラまで地球に送ってしまったため、第壱条にも抵触する二重の禁則事項違反と言うわけだ。

「な、なんて事を…国家転覆どころじゃないわよ!!そいつバカなの!?」
「はっきり言ってその通りだ。他に言い様もない」
「そんな危険人物が野放しになっているなんて!!」
「なってないなってない。そこの所は俺が断言するから安心してくれていい」
「え?」
「あいつはとっくに“潰して”来たから」

 秋晴は事が起こった後、真っ先にオリ主の下に向かった。
ルイズ達を回収しに行く前に、オリ主を先に始末しなければイタチごっこで次から次へと貴族連中を送り込んでくるのが目に見えている。
真っ先に元凶を黙らせるのは当然だ。
方法としては、いきなり件のオリ主の目の前に現れると殴って殴って殴って蹴ってまた殴って蹴って蹴って蹴って蹴って殴ってからまた蹴ってと…遠慮や手心など欠片も掛けていないので、最終的にはそれをやった秋晴でさえ、これなら死んだ方が楽だろうにと言う有様になっていた…所で、第参条の違反と言うのは他の違反に比べて実働である秋晴の負担が大きい。
 知らない世界に放り込まれた一人一人を回収していかなければならない手間がかかる上、遅れれば先ほどのルイズのようになるのは火を見るより明らかなのだ。

 ゼロの使い魔の貴族は自称や物語後半のサイトのような特別な場合を除いてほぼメイジである。
 そして原作でも述べられているように、魔法は危険な物だ。
 錬度や才能に左右されるとはいえ、おそらく個人で持てる戦力としては破格な物があるだろう。

 それをよりによって非武装が基本の日本に送り込むなど…ルイズのように言葉が通じず、見たことの無い場所に放り出され、回りは見たことのない建物と見知らぬ人間達…そんな彼ら、彼女達が唯一縋れる自分の持つ魔法を頼りにした所で誰が責められるだろうか?

 もし、秋晴がもう少しでも遅れていて、あの場にいた者達が怪我をしたり死人が出たらそれはオリ主のせいである。
 そんな想像力さえ持ち合わせていない愚か者など、せいぜい輪廻に放り込まれるまで苦しめばいいとすら思う。
 
「な、何とか理解したわ…」
「うん、お疲れ様?」

 疑問形になってしまったが、納得してくれてほっとした。
 これで癇癪でも起こされていたら、強制的に夢の国に旅立ってもらい、寝ている間にハルキゲニアに送り返すという荒っぽい事をしなければならなかったところだ。

「さて、では納得した所で元の世界に帰ってもらおうか?」

 そう言って、秋晴が取り出したのは毎度おなじみリモコン携帯、先ほどの交差点で地面の破壊を巻き戻したのもこいつのおかげと言う本当に使えるアイテムだ。
 流石に、あの場にいる全員の記憶を操作する事は出来なかったし、すでに逃げていた人間もいたのでなかった事にまでは出来なかったが、記憶をぼかすくらいはできたはずだ。

「悪いけど記憶は消させてもらうよ。ここでの記憶なんてない方が良い」

 話…原作が壊れると言う意味でだ。
 リモコン携帯のおかげで、他の面子はすでに記憶を書き換え、数分間時間を戻して一時停止(ポーズ)しているトリスティン学園のグラウンドに送ってある。
 後はルイズの記憶を操作して放り込み、停止を解けば使い魔召喚の偽の途中に元通りだ。

「ま、待って…」
「は?」

 まさにルイズにリモコン携帯を向けようとした所で、ルイズ本人が秋晴の手ごとリモコン携帯を掴んだ。

「…何これ?」
「だから待って、もうちょっとだけ」
「え?」

 …ルイズの行動が理解できない。
 記憶を改ざんされるとは言え、この世界いた短時間の事だし…何より自分の世界に帰れると言うのに…まさかここで抵抗されるとは思わなかった。

「一応規則でもあるから、ここでの記憶を消さないと…帰せないんだけど?」
「だからもうちょっと待ちなさいって言ってるでしょう!!」
「ちょっとって…何時まで?」
「もう少しだけでいいから、この世界を見たいの!!」

 その言葉に、秋晴が渋い顔をする。
 面倒だった今回の一件が、やっと終わりそうだと言う時に待ったをかけられて笑っていられるほど秋晴も人間が出来ていない。
 何より、この世界をルイズが見て回っても記憶を消す以上、それは無意味のはずなのだ。

「あのね…俺は君の記憶を消すんだよ?悪いけどこれは決定事項なんだ」
「それでも見たいの!!」
「だから…なんでさ?」
「この世界には魔法はないんでしょう?」
「そうだね…だから?」
「だから見たいのよ!!」
「……」
 
 実際問題として…多少の時間を作ることは可能だ。
移動する場所をこの周囲に限り、秋晴がついていれば問題もあるまい。
 だが秋晴にとってそれをやる理由がない。
 
「何、何をすればいいの!!私にできることなら…出来るだけのことをするから」
「う~ん、何をすればいいとかそういう問題じゃないんだが…」

 自分に詰め寄ってくるルイズに態度に、秋晴も困惑気味だ。
 何故、彼女はそうまでしてこの世界を見たいのだろうか?
その情熱と言うかこだわりは何処から来たのだろう?

「…そうだな、じゃあその手に持っている杖とマントを渡してもらおうか?」
「うっ!!つ、杖とマントですって!?あんたその意味を知ってて…!!」

 杖は言うまでもなくメイジの魔法を使う時には必須のアイテムだ。
 これがなければ魔法は使えない。
 杖を持っていなければ、少なくとも先ほどのような騒動にはなるまい。

 同時にマント…彼女の姿は異様に目立つ…秋葉原辺りに行けば話が違ってくるが、残念なことに現在地ではコスプレと言い切るのは困難だ。
 警官に職質を受けるのが目に見えているが、トリスティン魔法学校の制服はマントさえ付けていなければ私服か制服で通りそうなデザインをしているので誤魔化せない事もない。

…だが…ルイズはそれを秋晴に渡す事は出来まい。

 杖は言うまでもなくメイジの命…異郷である地球においては文字通りの意味を持ち、これを手放したルイズは小柄な十六歳の少女でしかない。
 マントはそれ自体がどうという物ではないが、貴族でありメイジである事を示す物だ。
 それにプライドを持っている彼女なら尚の事、それがこの世界で何の後ろ盾にもならない事を理解しても外す事は出来ないはずだ。

 その二つを同時に、しかも事情を知るとはいえ初対面の秋晴に差し出す事など出来るはずはないと、そう秋晴は考えたのだ。
 要するに、体の良い説得と言うか脅迫である。
 これでルイズも自分の世界に変えるための諦めがついた事だろう。

「分かったら早く…」
「…いいわ」
「え?」

 完全に意表を突かれた秋晴の目の前で、ルイズはさっさとマントを外し、杖を添えて秋晴に差し出してきた。
 あり得ないと思っていた状況を目の前にして、秋晴の思考が止まる。

「これで文句はないわよね、あんたが言い出した事なんだから」

 ニヤリとしてやったりな笑みを浮かべるルイズに、秋晴は自分の失敗を悟った。
 ルイズの言うとおり、条件を出したのが秋晴である以上、ルイズがそれを受けた時点で契約と言うかそう言う感じの物は成立した事になる。
 頭脳の勝利というか、その頭の良さを明らかに間違った遣い方をしているルイズに戦慄を覚えていると、ルイズが動いた。
 胸に押し付けられた事で、マントと杖をとっさに受け取ってしまった秋晴の横をすり抜け、さっさと大通りに出て行こうとする。

「ほら、何してんの、どんくさいわね行くわよ!!時間がないんだから愚図愚図しないでよね!!」

 この世界のガイド役兼護衛としてだろう…自分について来いと促すルイズと自分の手の中にある二つの重要アイテムを見比べる秋晴は、我を取り戻すのにしばらく時間がかかった。
 それだけの時間を掛けて秋晴は原作における彼女の性格を思い出したのだ。
 
 原作を知っているくせに…負けず嫌いで意地っ張り、一度決めたら自分を曲げない彼女の性格を計算に入れていなかったのが、この一件における秋晴の最大の誤算だ 
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