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蘇生してチート手に入れたのに執事になりました

作者:風林火山
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引き篭もり

「なんなんですか!アイツはッ!」

宏助の叫びが狭いホテルの一室に響き渡る。

先程のビーチを後にし、宏助たちはホテルにチェックインした。

その一部始終、明は宏助と目をあわせず、ずっと俯いていた。

そして、部屋に案内されるや否や自室に飛び込んで、そのまま引き篭もってしまった。

まるで、宏助を避けているように。

宏助としては全くの理解不能である。

いきなり現れた美男は、明の許婚で、もうすぐ結婚式があるという。

その男に会ってから明の様子はなにかおかしい。

麗たちも普段はなだめるところを、今回はただ同情するような目線を明に向けているだけだ。

宏助だけが、どうすればいいのか分からない。

明の前での説明は出来ない、ということだったのでホテルまで我慢していたのだが、もう限界だ。

早く説明してもらわないと困る。

そんなことから宏助が、この重苦しい沈黙を打ち破るべく、声をあげたのだが。

「・・・まぁ、まて宏助。とりあえず落ち着け」

真までこの調子で、誰も宏助のように乱れていない。

「宏助さん、これから話すことは明様に口止めされていたことです。

だから、明様がこのことを言いたくなかった、ということを理解しておいて下さい」

麗がようやく説明を始める。が、前置きがなにやら面倒臭そうだ。

「いいぞ。このままじゃ、俺も引くにひけねぇ」

それから語られたのは、明の身分を考えれば、当然の話だった。

ただひとつ当然でなかったのは、明らしさがその話に出ていることだろうか。

神条家は、女性を代々中心として、その存在を強固なものにしてきた。

神条家に絶対に1人しか生まれず、絶対に1人生まれる過大な霊能力を所持した女性。

しかし、時代と共に、神条家は考えを変化させてきた。

神条家が出した結論は、こうだ。

女性では神条家を治められない。

つまり、婿が必要だと。

当然、神条家の娘ともなれば、相手も相当大物でなければならない。

それはともかく、つまり神条家に生まれた娘には必ず大物の許婚がいる。

先程の美男が、明さんの許婚と言うことだ。

彼の名は、宋王(そうおう) (あん)

神条財閥と同程度の財力を蓄えた化け物一家の宋王グループ。その総帥の一人息子だ。

毎回神条家の許婚として選出される男性は違うそうだが、今回は宋王グループから選出された。

この名前も、結婚することが前提だからこそ、明に対してつけられた名だそうだ。

明と必ず離れない暗。明あるところに暗あり。

たいしたネーミングセンスだ、と宏助は内心でせせら笑う。

あのスタイルの良さに品格。一人息子ということだから、宋王グループを継ぐことも確実。

財力も、権力も全てを兼ね備えた完璧なその男性を。

明は避けていた。

聞けば明には見えていたらしい。

暗が、明をただの輝かしい未来を得るための手段としてしか見ていないことが。

だから明はなるべく彼とは接しないようにして、出来るだけ避けてきた。

しかし、それにどちらかの総帥、もしくは両方が痺れを切らしたのだろう。

強制的な早期結婚を企てたらしい。

それがさっきの話という訳だ。

聞いた宏助の反応は至極あっさりしていた。

「なんだそれ。別に隠す話でもないだろ」

『・・・・・!』

一同に衝撃が入るが、宏助は気にしない。

だって本気でそう思っているから。

別に有り得ないことではない。明はあの神条財閥の一人娘だ。許婚位いて当然だろう。

そんなこと位話してくれても良かった。隠さなくても良かった。

こんなこと良くある話だ。強制結婚と言うのは少し可哀想だが、いずれ起こることが前倒しになっただけだろう。

まぁ、明さんが少しばかり聡明すぎたことが引き起こした事態だ。

しかし。周りの反応はそうはいかなかった。

「・・・お前・・・それはどういうことだッ!」

突然真に胸倉を掴まれ、壁に押し付けられる。

それを周りに止めるものはいない。麗でさえも、怒りで手を震わせている。

「明さんはお前を思ってッ・・・!」

真の怒りが、震えが直に感じられる。しかし、宏助の態度は変わらない。

「だから、こんなの良くある話しで、別に隠すようなことじゃ・・・」

ドカァン!

言葉が途中で途切れ、宏助が思い切り、床に叩きつけられる。

・・・一階でなければ、底が抜けていた。

「真・・・流石にやり過ぎよッ!」

「麗。これはコイツがわるい。明様がこれを何故言わなかったか。分かるまでコイツを殴り続けてやる」

流石の麗も止めに入ろうとするが、真の怒りがそれを静止させる。

そして、再び真が拳を握り、倒れた宏助に叩きつけようとしたとき、

グワン!

バシィッ!

「・・・・・!」

空気との摩擦で音をたてた拳は、いつの間にか宏助に掴まれていた。

真が怪訝に眉を寄せるが、宏助はその拳を離さない。

「・・・お前は考えたことがあるのかよ・・・」

「・・・・?」

「俺が気付いてねぇ訳ねぇだろッ!許婚、ってことは分からなくても!いくら鈍感な俺にだって分かる!

いつも明さんは俺といるとき、時々、何か自分に静止をかけるような悲しい目をするッ!

これ以上してはいけない、これ以上触れてはいけない、そんな風に自分を戒めるような・・・!

それに気付いていた俺がッ!お前にとやかく言われたかねぇんだよッ!」

「・・・・・!」

流石の真も、その後ろの麗も、周りのSPも、皆が静止する。

そう、宏助は気付いていた。

明の気持ちも。明が、あと一歩ということで自分を避けることも。

だから何か隠し事があるとは分かっていた。

だけど、宏助はそれについて追求するようなことは無かった。

明も、何もそれについて言わなかった。

多分、お互いそれ以上踏み込んだら、何かが崩れてしまうような気がしたんだろう。

「・・・明さんは言えたのに言わなかったんじゃねぇ。

俺のためでもあったけど、その行為は明さん自身のための行為でもあった。

それ以上踏み込んだら、何かが崩れてしまう気がするから・・・!

だから、ずっと隠してたんだよ!俺だって追及することはなかった。

ずっと避けてきたことに今、無理やり直面させられただけだ。

俺はこのことを知って、別に隠すようなことじゃないと思った。

だって、そんなことを知って俺は明さんのことを避けるほどアホでもない。

半年だぜ・・。もう少し信じて欲しいもんだ。俺がまだ気付いてないと思ってたらしいけどな。

でもまぁ、それはお互いさまだ。俺だって怖かった。一歩踏み込むのが。

だから、これからその一歩を踏み出してくるよ。もう遅いかもしれないけどな」

ここまでしゃべって俺はようやく言葉を切る。

もう、真も麗も、誰も何も言わない。

最後に真を見て、俺は一言だけ告げる。

「・・・・・まだ俺を殴りたいなら殴れよ。

でも、俺はお前が俺を殴る権利なんて・・・・持ち合わせちゃいないと思うぞ」

「・・・・・・ッ!」

「じゃあな」

そういって、宏助はそのホテルの一室を出て行った。

閉まったドアの音がやたらと大きく響く。

「・・・やられたわね、真」

「・・・・・何がだ・・・」

「何って・・・。ま、私たちが考える以上に宏助くんも色々考えていたのよ」

「・・・・」

「さーて!みんなー!準備するわよ~!」

『・・・・・?』

「・・・なんの準備だ?」

一同が疑問符を浮かべ、真が麗に質問すると、

「何って、宏助くんの援護射撃に決まってるでしょ。彼一人だけじゃ、多分無理よ」

ニコッと笑みを浮かべて、そう答えた。









「失礼しま~す」

ドカッ!バキッ!

「・・・・・!」

なんと明が引き篭もってた部屋のドアノブをぶち壊して宏助が入ってきたのだ。

布団を被って、ベットに寝ていた明は、布団の中で大きく目を見開く。

いつもならそこで飛び起きるところだが、今回はそのまま布団を被って寝ているだけだった。

「・・・・・・」

宏助はそれを見て、静かにベットに腰を掛ける。

「・・・・!」

宏助が来たのを、ベットの軋む音で感じたが、まだ布団を明は被ったままだ。

宏助はそれを気にせず、腰掛けたまま話はじめる。

「やっぱり、少し悲しいですね。正直いうと」

「・・・・・」

帰ってくるのは、ただの沈黙。だけど聞いてることは分かってる。

「どんなことがあっても・・・、って覚悟してたけど、やっぱり悔しいし、悲しい。

許婚なんて聞きたくなかった。だから明さんは話さなくて正しかったかも知れない」

「・・・・」

「でも、別の悲しさもある。

明さんは、そんなことを言われただけで、俺が明さんを避けると思っていたんでしょう?

それもやっぱり悲しい。確かに、今まで通りとはいかないけれど。

それでも、そんなことは俺が明さんを避ける訳ない。

もう少し俺を信じて欲しかった」

「・・・・怖かった・・・」

「・・・・!」

やっと明さんから返事が返ってくる。勿論布団の中からだが。

「・・・怖かったんです。自分から言い出すのは。

だってそうでしょう?このことを言ったら何が起こるのか分からない。

宏助さんと自分のこの関係が永遠には続かない。

でも、その『終わり』が早まってしまう気がして。

だから・・・・言わなかった・・・」

「・・・・・」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・ごめんなさい」

繰り返される謝罪の言葉。自戒の言葉。

それを聞いて宏助が思うのは。ただ一つ。

「くだらないですね」

「・・・!」

布団を被った体がビクンと震える。

宏助はそのまま、その布団を引き剥がした。

バッ!

「あっ・・・!」

布団を引き剥がしたときに一緒に布団にくっついてきた明はそのまま身体を起こした状態になる。

そして、宏助は、顔を濡らした明の肩を思い切り掴む。

「んんっ・・・・!」

明が驚いて、また身体全体を震わせるが、気にしない。

そして宏助は、

ギュッ!

「・・・・・・!」

思い切り明を抱き寄せた。

明は驚いて、呆然としている。

「信じてくださいよ、俺をッ!こんなことで謝られたって俺は悲しいだけですよ!

こんなことで俺が明さんを避ける訳ないでしょうがッ!

たとえ、明さんにもう相手がいても・・・・!俺の明さんに対する気持ちは変わらない!

俺は明さんをそれ位大事に思ってるんですよッ!」

「・・・・!」

明はそのままその宏助の唐突な告白にビックリする・・・

ギュッ

「・・・・!」

・・・・だけではなかった。

今度は宏助が驚く番だった。

明が宏助を抱き返してきたのだった。

「・・・・ありがとう・・・ございます・・・ッ」

明はそのまま、更に顔を濡らして、そのまま宏助の胸に顔をうずめる。

「・・・・・結局・・泣いてるじゃないですか・・」

「・・・・宏助さんが泣かせたんですよ」

「俺のせいですか!それッ!」

「そうですよ!宏助さんは、いつもそうやって・・・、いつも私に何かをくれる」

「・・・・俺だって色々もらってるんですよ・・・」

「そうでしょうか」

「そうなんですよ」

そんなどうでもいい会話の返しに明がついに吹き出す。

「フフッ」

「今明さん笑ったでしょう!」

「だって・・・宏助さんが可笑しくて・・」

「畜生~!俺今いいこと言ったのに~!」

「ありがとうございます」

「・・・・・!」

更に明が俺を抱きしめてくれて。

胸に顔をうずめるのはそろそろやめてもらえないだろうかとか。色々当たっているんだとか。

色々苦情はあるんだけれど、宏助は、それを飲み込んで、顔を少し赤くしながら当然のように明を抱き返す。

気がつくと明の顔は紅く染まっていて、代わりにもう、涙は流れていなかった。

そのまま宏助と明はしばらくそのままだった。










「あらら、こりゃ入れないわ」

遠くから望遠鏡で部屋の様子を見ていた麗は、ため息をつく。

宏助が上手くまとめられないようなら、サプライズとしてSP全員でなだれ込み、そのまま飲み会のような雰囲気に持っていくつもりだったが・・・

「宏助は上手くやったみたいだな」

真が微笑んだまま、麗に話しかける。

「まさか宏助くんがここまでやるとは思っていなかったわ。

おかげで、用意した酒や料理がパーよ」

麗が酒や料理を一生懸命用意しているSPたちを溜め息をつきながら見つめる。

「ま、あとで二人でここにくると思うから、そのときまでに用意しとけばいいんじゃないか」

そういいながら、SP全員にその旨を伝える。

皆も、ニッコリ微笑んで、その伝令に頷きそのまま部屋をパーティー会場へと変化させていく。

従業員に無理を言って宴会場をまるごとかりて、パーティー用にリメイクしているのだ。

その後は一度も、皆の笑顔が絶えることはなかった。 
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