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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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彼女の選ぶ道

――第三管理世界ヴァイゼン

深い森林の中、唯一開けた場所である平野に、陽光とは違う光があった。かつて、そこは許されざる怠惰たるベルフェゴールが紋様を刻んでいた場所だった。彼女によって刻まれ、そして消えていた紋様が再びその姿を現し、白い輝きを放っている。
その紋様に興味がある動物と、それに警戒する動物が次第に周辺へと集まっていく。そして一際強く輝いた紋様。その閃光が治まると、そこには人影が1つ。動物たちはその紋様から距離を取り、離れた木々の中からその人影を見つめている。

「・・・生まれてすぐに守護神と戦闘とは。・・・あぁこれは主のイジメでしょうか?」

輝きを失った紋様の中心に立っている男から言葉が紡がれる。その男は神父の着る黒のキャソック姿に、背には鎖で縛られている十字架が描かれていた。髪は金色のソフトモヒカン、瞳は灰色。整った顔立ちで、10人中10人の女性が振り向くような美男子だ。

「それにしてもこの空腹感は・・・いけないですね。あぁ、いけない・・・」

男は周囲を見渡し、付近に居る動物たちをその灰色の双眸で確認した。そして胸の辺りで十字を切り、今度はその十字を否定するかように×十字を切る。

「あぁ、我らが主は仰り、罪深き我らへその言葉を与えた・・・。そう、空腹は最良の料理人である、と。・・・では、いただきます」

それは一瞬の暴風。それだけで森が1つ消えた。そして更地となったその場所で佇む男。男の名は許されざる暴食ベルゼブブ。“大罪ペッカートゥム”、最後の罪・“暴食”が今この地に降り立った。

「ふむふむ・・・致命に足るクソ不味さ。ごちそうさまでした。しかし、いくら空腹であろうとも不味いものは不味いのですね。あぁ、1つ経験しました」

腹部を擦りつつ何度も頷くベルゼブブ。彼の浮かべている表情には、まだまだ足りないとハッキリと現れていた。

「あぁ、それでは行きましょうか。守護神と愚か者(ルシファー)の居るミッドチルダとやらへ。あぁ、そこには僕の空腹を満たしてくれる方々がいれば良いのですが・・・」

こうして最強最悪の罪であるベルゼブブは、彼の食事場となるミッドチルダへと向かった。

†††Sideシャルロッテ†††

向こうの戦力はスカリエッティの体を乗っ取ったアスモデウス。そしてこの場で一番厄介と思うレヴィヤタンの2体。もしかするとさらに“レーガートゥス”が現れる可能性あり。それに対してこちらは私とフェイトとシスター、そして戦闘機人3機の計6人。
だけど実際の戦力としては私とフェイトにシスターの3人。戦闘機人は人間には強いというのは判るけど、相手が“ペッカートゥム”ならその強さは無意味だ。まぁ、協力するか否かの返答はまだ聞いてないけど・・・。

「さぁ、どうする? きっちり考えたうえで答えて。
1、手伝ってくれるならスカリエッティを無傷とはいかないけど救う。
2、手伝わないのならとっとと白旗振って逮捕されること。ハッキリ言って邪魔になる。
3、この場に第三勢力として戦う。その場合は瞬殺するから覚悟しておくこと」

わざわざこちらが動くのを待っていてくれているアスモデウスとレヴィヤタンだ。ならこの時間を有用に使わせてもらおう。1の協力してくれるなら、コイツらの持つ能力を聞き出して適材適所で使用。2の協力しないのなら、瞬殺でも何でもして他の突入部隊に引き渡す。3の第三勢力としての参戦。それはまずないと言える・・・はず。私たちが来るまでどんな戦いをしていたか知らないけど、それなりにダメージを負っている。そんな状況で私たちやアスモデウスと敵対すればどうなるか判らないわけじゃないはず。

「返答は如何に・・・?」

“トロイメライ”を握る左拳に力を入れる。2か3を選んだ場合に備えて、だ。戦闘機人がそのどっちかを選んだ瞬間、左の“トロイメライ”を叩きつける。3機同時撃破とはいかなくても、おそらくリーダー格と思うトーレは確実に倒せる。

「・・・悩む必要はないと思うわ。この体が死んでもスカリエッティは再び現れるのだから」

スカリエッティの顔でアスモデウスの声と口調・・・ハッキリ言ってキショすぎる。待った、違う。そんなことはどうでもいい。アスモデウスは今なんて言った・・・?

「どういうこと?」

「プロジェクトF、だったかしら。それを利用したらしいのだけどね。この男は上位4機の戦闘機人の体内に自らのコピーを仕込んだ、ということよ。つまりオリジナルであるこの体が死んでも、復活して、1ヵ月もすればこの男と同じ記憶を持ったクローンが生まれる、というわけ。・・・愚かな。やはり人間は愚かな存在ね」

プロジェクトF、か。面倒なことを・・・いや、おかしい。アスモデウスの話が本当ならスカリエッティは確かに死んでも復活するんだろう。だけどその体を乗っ取っているアスモデウスはどうなる? いくらアスモデウスもそれと一緒に復活するなんてことは出来ないはずだ。
私の推測だけど、アスモデウスがスカリエッティの体を乗っ取った理由はおそらく“界律”対策。すでに“界律”に認められている存在の中に入ることで、“界律”の抑止や修正から外れようとしているんだろう。なのに、わざわざそんなことまでしておいてここで死んでもいい? その矛盾が引っかかる。

「さっき、全てはルシファーの目的のため、って言ったよね。ルシファーはもういないんじゃないの・・・?」

ルシファーは、あの白髪の女に取り込まれたと私は睨んでいる。そこまでの経緯は知らないけど、それが正しい答えであるようにしか思えない。

「・・・話すのも飽きたわ。もうそろそろ始めてもいいわよね・・・?」

私の疑問に対する返答の代わりに殺気をお見舞いしてきた。私の背後でフェイトとシスターが身構えるのが判る。レヴィヤタンもやる気を見せているし、仕方がない。

「戦闘機人! どうする!?」

「・・・トーレ姉」

「・・・我々は・・・」

「トーレ」

「ドクター!?」

トーレが決断を下せずに悩んでいたところに、アスモデウスの声ではなくスカリエッティの声がした。もちろん声の出所はスカリエッティの体から。目の色も真紅から元の金色へと戻っている。

「トーレ、セッテ、セイン。私と共に戦ってくれないかね? 我々の夢のために・・・共に戦って、目の前にいる偽善者たちを葬ろうではないか」

「「はい!!」」

「・・・・」

トーレと、桃色の髪をしたおそらくセッテ・・・? その2機がスカリエッティの言葉に嬉々として賛同、側へ行こうとする。残りの水色の髪をした、セイン?・・・で本当に良いのかな? その子は無言。完全に迷っている節がある。ともかくトーレとセッテ? の非協力は決定。すぐさま戦闘不能にするために左手の“トロイメライ”を振り切ろうとしたけど・・・

「ライドインパルス!」

避けられた。この速さはたぶんあの時、ヴィヴィオを保護した時の戦いでメガネ女と砲撃女をなのはとフェイトの挟撃から助けたやつ。

――Mors certa/死は確実――

「シャル!」

フェイトの声で、私に迫るレヴィヤタンの砲撃に気付いた。すぐさま離脱と思ったけど、近くにフェイトとシスターが居る。なら回避じゃなくて迎撃に移る。レヴィヤタンの砲撃は魔力じゃなく神秘。ならば“キルシュブリューテ”の保有する神秘で・・・断つ。

「はあああああっ!」

“トロイメライ”を振った遠心力を利用した“キルシュブリューテ”の打ち下ろしによる一閃。すみれ色の砲撃は左右に裂かれて遥か後方に飛んでいった。

「大丈夫、シャル・・・?」

フェイトの心配に頷くことで応える。それに問題があるのは私じゃなくて、あの戦闘機人2機だ。人間に分類される存在であるスカリエッティの意志がアスモデウスに勝るわけがない。なら、さっきの声は間違いなくアスモデウスの“演技”だ。あんな演技くらい簡単に見抜けないなんて、それほど敬愛しているということか・・・?

「・・・ありがとう、トーレ、セッテ。・・・本当に・・・・馬鹿ね・・・」

目の色が金から真紅へ。声が男のものから女のものへ。案の定だった。こっちに残ったセインは迷いのおかげで助かった。

「「っ!?」」

「トーレ姉! セッテ!」

再びアスモデウスとなったスカリエッティの両手がトーレとセッテの頭を鷲掴み。ミシミシ、という嫌な音がハッキリと私たちの耳に届く。そのまま両手に光が生まれて、戦闘機人の全身を包み込んでいく。

「フェイト! シスター!」

あの2機は敵だ。だからと言ってアスモデウスの勝手で殺させるわけにはいかない。本来なら、この世界の歴史にとって間違いなくイレギュラーである守護神(わたしたち)絶対殲滅対象(ヤツら)
その勝手な戦いに犠牲者だけは出したくない。それに、ムカつくけどスカリエッティも同様。瞬時にアスモデウスとの距離を詰めるフェイトとシスター。私は動こうとしたレヴィヤタンへ一直線に走る。二人の邪魔をさせないために。

「バルディッシュ!」

≪Jet Zamber≫

「ヴィンデルシャフト!!」

レヴィヤタンの真ん前に立って、“キルシュブリューテ”と“トロイメライ”の同時斬撃を放った時に、2人の気合の声が聞こえた。そして私の二刀は空を切る。レヴィヤタンは移動・・・じゃなかった。あれは転移だった。速さの正体はノーモーションによる転移。まるで守護神(わたしたち)が使う位相空間転移のそれだった。少し考えれば分かる仕掛けだった。けど、たぶん認めなかった。番外位である大罪の“ペッカートゥム”。その分裂体の中でもさらに下の嫉妬がそんな術を使うなんて、と。

「フェイト、シスター・・・!」

私はフェイト達へと振り向く。向こうの方は何とかなっていた。フェイトとシスターの神秘の無い一撃を受けて片膝をつくアスモデウス。頭を鷲掴みにされていたトーレとセッテはシスターが抱えていて、力なく倒れているその2機は完全に意識が落ちているみたい。
フェイトのザンバーはアスモデウスの首に当てられている状態。そしてレヴィヤタンはそんなアスモデウスをただ見ているだけ。助けようともしていない。随分と非協力的というか仲間意識が小さいというか。

「(まあいいや)これで解った? お前が犯したミスがなんなのか。それは神秘でなくともダメージを受ける人間の体、スカリエッティに乗り移ったこと。全てにおいて本末転倒というわけ」

アスモデウスは“界律”を誤魔化すためにスカリエッティを乗っ取った。だけどその反面、神秘のない単なる魔力攻撃にもダメージを受けてしまうようになった。つまり、アスモデウスを斃せるのは、私だけじゃなくて神秘のない魔法を使う魔導師もってことになる。なら、ここからは他の犯罪者たちと同じにすればいい。魔力ダメージによるスカリエッティの昏倒。

(アスモデウスが出てきたところを私が完全に討ち斃す・・・!)

レヴィヤタンの戦闘意思は萎えていないけど、それでもさっきとは比べるまでもなく弱い。私がレヴィヤタンを斃すまでの間、フェイトとシスターにはアスモデウスと戦って時間を稼いでもらう。そして私がレヴィヤタンを撃破、フェイト達に合流して一気にチェックをかける。

「さぁ、どうする? そこの2人は強いよ?」

「なるほど。確かに魔法で傷をつけられるのは問題だわ。けど、そこの魔導師2人に遅れをとるほどに私が弱いと思っているのかしら? そこの2人がAMFと呼ばれるこの中で、十全の力が発揮できないのは分かっているのよ?」

そう言ってアスモデウスは一度口を閉じた。するとスカリエッティの目と口から勢いよく真紅の髪が溢れ出して、その体を包み込んだ。それを見たフェイトとシスター、残りの戦闘機人セインは何度目かの絶句。すぐに髪の毛の塊と化したスカリエッティからフェイトは離れて、“バルディッシュ”を構え直す。スカリエッティの体を包み込んでいた髪がバラけて、その中からアスモデウスの肢体が見えた。 
  
「これで少しは戦いやすくなったわ」

この目で実際に見るのは初めてなアスモデウスの姿。上から下まで全てが真紅とは・・・なんか目が痛い。

「・・・ドクター・・・?」

セインが覚束ない足取りでアスモデウスへと近付こうとする。もちろんそんなことはさせない。私はセインの肩を掴んで止める。

「セイン。AMFを解除するにはどうすればいいの?」

私は気にならないけど、フェイトとシスターにとってここのAMFはかなりキツい。アスモデウスの言うとおり、2人は強いけど十全に力が発揮できないならまずい。ならここのAMFを制御している場所を先に叩く必要がある。

「教えて。あなた達のためにも、スカリエッティのためにも・・・」

「・・・ウーノ、あたし達ナンバーズの一番。そのウー姉を止めれば・・・たぶん・・・」

「ありがとう、セイン。シスター、この子と一緒にウーノのところへお願いします」

敵でもある私にちゃんと答えてくれたセインに感謝を告げる。

「え、しかし・・・」

シスターは私やフェイト、セイン、そしてアスモデウスとレヴィヤタンを見回す。シスターの心配はもっともだけど、AMFがある状況じゃ私の考えは上手くいかないと思う。なら戦力を削ってでもAMFをどうにかする必要がある。

「シャル。アコース査察官に任せられないかな・・・?」

アコース査察官か。それも1つの手だけど、戦えるのかなぁ・・・? あの猟犬たちにも戦闘能力はあるとは聞いているけど・・・。

「ロッサならきちんと戦えますよ。無限の猟犬の戦闘能力はかなり高いですから」

私の考えていることが解ったのか、シスターが私の心配を晴らした。

「本当にそれでいいのかしら? ウーノは私の支配を受けているわよ。あの緑色をした半透明な獣だけで勝てるわけないわ」

せっかく晴れた心配がさっきより遥かに強くなる。シスターもその言葉を聞いて「ロッサ」と心配している。

「シスターとセインはウーノのところへ。アコース査察官を手伝ってください。それでいい、セイン?」

「・・・うん」

セインは迷いに迷ってその答えを出してくれた。シスターとセインは、このアジトを管理しているウーノのところへ。倒れたトーレとセッテは、セインの能力で一緒に連れて行かれた。

「ごめん、フェイト。2人だけになっちゃった」

「ううん。大丈夫」

アスモデウスとレヴィヤタン。私とフェイト。合計戦力としては向こうが若干上といったところかも。まぁ、アスモデウスの姿をしていてもスカリエッティの体には変わりない。それなら変わらずにフェイトの攻撃は有効だ。でもフェイトが全力を出すためには邪魔なAMFが解除されるまではまだ時間がある。それもウーノとかいう戦闘機人の戦闘能力によって変わってくるはずだ。

(アスモデウスの支配。どういう力かは知らないけど嫌な響きよね・・・)

そして最大の問題、レヴィヤタン。高速移動じゃなくて位相転移を持つ“ペッカートゥム”。おそらく真技じゃないと勝てない。転移前に潰すか転移直後に潰すかの二択。空間干渉の術式があればもっと簡単だろうけど、生憎と私はそんな反則は使えない。

「考えれば考えるほど泥沼に嵌る、か。仕方ない」

もうごちゃごちゃ考えるのも面倒。こうなったら私の体が動くままに、だ。

『フェイト。私がアスモデウスとレヴィヤタンを同時に相手する。離れたところからでいいから、アスモデウスへの牽制をお願い』

『ちょっ、シャル!? いくらシャルでもそれは・・・!』

『大丈夫。アスモデウスへの魔力攻撃は通じる。牽制だけでも十分に効果は望める。だから後方支援をお願いするの。AMFが解除されたら、もちろんフェイトにもアスモデウスと真っ向から戦ってもらうからそのつもりでよろしく』

AMFが解除されたあとのフェイトならアスモデウスとも渡り合えるはず。それが概念存在であれば不可能だけど今は違うからだ。アスモデウスは自ら首を絞めることばかりをしている。バーカ、間抜け。

『・・・判った。でもシャルが危ないと判断したら私も動くからね!』

『まぁその時はお願い』

フェイトは私たちから10mくらいにまで距離を開けた。私の側に居るのはアスモデウスとレヴィヤタンの2体。“トロイメライ”でアスモデウスを、“キルシュブリューテ”でレヴィヤタンを討つ。

「シャルロッテ・フライハイト・・・参ります!!」

――閃駆――

閃駆を使って先手をとる。まずは一番近いアスモデウスから。振るうのは“トロイメライ”。使用魔法は・・・

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

閃光系の魔力を刀身に纏わせた一撃。

「正面から、しかも1人で私たちと戦うと? そこのクローンと一緒でなくていいのかしら?」

「クロ――っ、うるさい! そんなの関係ない! フェイトは私たちの親友だ!」

フェイトに向けて、こいつは禁句を口にした。私は友達を傷つける奴だけは絶対に許さない。跳躍して私の一撃を回避したそんなアスモデウスに・・・

≪Plasma lancer≫

フェイトから放たれたプラズマランサーが12。アスモデウスは空中で大鎌を振り上げて、そのまま斬り払おうとする。

(ナイスだよ、フェイト!)

私はそれを横目にレヴィヤタンへと突撃をかける。“キルシュブリューテ”に魔力を込めて、その能力を瞬間解放する。レヴィヤタンと“キルシュブリューテ”における神秘の差はあまりない。前回のように逃がさない。必ず致命傷を与えて終わらせてみせる。

「目醒めよ、キルシュブリューテ!!」

解放時間は3秒。限定解放はまだ使わない。下手に解放して決まらなかったらこっちが終わる。瞬時に間合いを詰めて、一気に下から斜め右上に振り切る。案の定レヴィヤタンは転移、私の頭上に現れたのを知覚で捉える。“キルシュブリューテ”の剣先は上を向いた状態。その先いるのは砲撃準備を終えたレヴィヤタン。どっちが先に発動して討ち滅ぼすか・・・。

「勝負!」

――光牙閃衝刃(シュトラール・ランツェ)・伍連――

――Mors certa/死は確実――

同時。私とレヴィヤタンの間に莫大な神秘の奔流が生まれる。全てを押し流そうとする力の中、一瞬だけ視線をフェイトの方へと向ける。フェイトがアスモデウスへ向けて、プラズマランサーを撃ち続けているのが見えた。奔流も止んで体が自由になったところで、レヴィヤタンが私から大きく距離を取っているのが判った。それなら・・・

「トロイメライ!」

≪Glanz Vogel≫

「 いっけぇぇぇぇっ!!」

“トロイメライ”を振るって発動したのは砲撃魔法グランツ・フォーゲル。フェイトのプラズマランサー群と私のグランツ・フォーゲルでアスモデウスを挟撃。アスモデウスもそれに気付いて、その体の周辺に本のページのような紙片で防いだ。紙片の防御陣と私の砲撃が衝突して爆発が起こる。

「シャル・・・!」

「私は大丈夫。フェイトは?」

「私も大丈夫。ちょっとAMFが辛いけど・・・」

フェイトの側へと跳躍して並び立った。お互いの心配に対して強く頷くことで問題なしと教え合う。煙が晴れていってその姿を現すアスモデウスとレヴィヤタン。

「もう一度仕掛ける。フェイト、援護射撃お願い。でも無茶はしないで。危険と思ったらすぐに離脱してくれていいから。それじゃ・・・いくよ!!」

再度、閃駆を使って接近。アスモデウスはそれに気付いていても体がついてきていない。これはもしかするとAMFが解除されるまでにアスモデウスをどうにか出来るかもしれない。

「そう甘くはないとは思うけど・・・ね!」

――炎牙崩爆刃(フェアブレンネン)――

アスモデウスを横切る瞬間に、“トロイメライ”で炎熱系の一撃を放つ。真紅の炎を纏った刀身から放たれる爆発力の高い炎刃による斬撃一閃。咄嗟にページによる防御をしたように見えたけど、あれくらいじゃ防ぎきれないはず。

「プラズマランサー・・・ファイア!!」

未だに爆煙に包まれているアスモデウスに向けて放たれるプラズマランサーが10発。結構容赦ないフェイトの攻撃。もしこれがAMFのない状況なら決まっているかもしれない。フェイトからの容赦ない攻撃を受け続けるアスモデウスの横を通り抜け、目指すはレヴィヤタン。だけどその前にもう1発アスモデウスに魔法を食らわせる。本当に容赦ないと思うけど、スカリエッティには良い薬だ。意識があるかは知らないけど。

――雷牙閃衝刃(ブリッツ・ランツェ)――

“トロイメライ”の剣先から放たれた真紅の雷槍が、アスモデウスへ一直線に向かう。そのまま結果は見ずにレヴィヤタンへと肉薄。“キルシュブリューテ”の刺突を放つ。これもおそらく回避される。けど転移後を狙って強烈な一撃をぶちかます。

「っ・・・ルーテシア!?・・・ぅあっ!!」

「え・・・?」

レヴィヤタンは誰かの名前を叫び、そのまま私の“キルシュブリューテ”に貫かれた。どうして? 解らない。なんでこんなにも簡単にレヴィヤタンを貫けた? それに今、“ルーテシア”って叫んだ。誰かの名前なのは間違いない。だけど何故? レヴィヤタンが動きを止めてしまうほどに・・・大切な人?

「ぅ・・・っ・・・あああああああああ!!」

「ぅぐ!・・・うあっ!?」

レヴィヤタンから放たれる強烈な神秘の奔流。目が開けていられないほどで、仕方なく目を瞑った。私は少しの間だけどそれに耐えた。だけど、結局耐え切れずに吹き飛ばされてしまった。“キルシュブリューテ”がレヴィヤタンから抜けたのが手の先からの感覚で判る。

「シャル!」

「フェイト!」

フェイトが私を受け止めてくれた。抱きかかえられてよく見てみると、アスモデウスも同様に吹き飛ばされていた。レヴィヤタン。“ペッカートゥム”における七番目の罪・“嫉妬”の具現化した存在。そんな最弱とされていたレヴィヤタンがここまでの力を持っているなんて思いもしなかった。

「これは私の本来の力をフルに使わないとまずいかも・・・」

でも使えないのが現実だ。“界律”が現状私に許した能力は生前の大体6割。もう少し制限を緩めてもらわないと・・・負ける。

「くっ・・・許されざる嫉妬(レヴィヤタン)! 今すぐに力を抑えなさい! このままでは・・・界律が動き出して・・・うぐっ・・・三番と・・・欠陥品が・・・!」

微かに聞こえたアスモデウスの声。どうやら“界律”が動き出して、私やルシルが守護神として覚醒しないようにしたいらしい。それは間違いじゃない。私はともかくルシルが守護神として覚醒すれば、戦いは一瞬で終わる。そして1分とせずにこの事件は終息する。“ペッカートゥム”も速やかに殲滅し、ゆりかごも一撃の下、消滅するだろう。

許されざる嫉妬(レヴィヤタン)!!」

アスモデウスの叫びが一際強く聞こえた。すると奔流が止んで周囲が静まり返る。

「フェイト・・・大丈夫?」

「う、うん・・・大丈夫。・・・シャルは?」

「もちろん大丈夫。だけど・・・・」

私の視線の先、壁に叩きつけられていたアスモデウスが崩れ落ちる。そして奔流を生み出していた張本人レヴィヤタン。ヤツは・・・居た。大きく肩で息をして俯いているレヴィヤタン。胸に空いた孔も塞がっているというおまけ付き。でも殺るなら今しか、弱ってる今しか・・・ない。“トロイメライ”を床に突き刺し、“キルシュブリューテ”を今取り出した鞘に納める。使用魔術は真技“牢刃・弧舞八閃”。“キルシュブリューテ”の能力を限定解放。

「・・・やめて・・・今すぐやめて!! 許されざる怠惰(ベルフェゴール)!」

出鼻を挫かれた。レヴィヤタンの小さな体からは出ないような大声が周囲を響かせた。

『・・・やめて、とは?』

レヴィヤタンと私たちの間に浮かび上がるモニター。そこに映るのは白髪の女。どうやらヤツが怠惰のベルフェゴールらしい。残るは暴食のベルゼブブの一体のみなんだけど・・・未だに姿を現さない。どういうこと・・・?

「・・・ルーテシアを・・・苦しませてる・・・それをやめて・・・」

もうひとつ浮かび上がったモニターに映るのはエリオとキャロ。そして紫色をした髪に深紅の瞳の少女。苦しそうに叫びながら泣いている。

「エリオ! キャロ!」

私の後ろに居るフェイトが心配そうにエリオとキャロの名前を呼んだ。見れば2人とも煤けているし辛そうだ。

『何故? やめる必要性を感じない。好きにやらせておけばいい。それにルーテシアをあんなにした戦闘機人はもういない。どこかに吹き飛ばしてしまったしね」

「っ!」

フェイトが息を呑むのが判る。もうスカリエッティがどうとか戦闘機人がどうとかじゃなくなってる。完全にイレギュラーである“ペッカートゥム”がこの事件を掌握してしまっている。苦しんでるルーテシアという子を見、「・・・やめろ・・・」レヴィヤタンが再度呟いた。どうすればいいか迷う。今ならいける。けどもう1人の私が、見守れと告げてくる。本能と経験がせめぎ合ってる。行けという経験と見守れという本能が。

「・・・っつう・・・レヴィヤタン・・・あなた・・・!」

アスモデウスがゆっくりと体を起こして立ち上がった。この状況は下手に動くとまずい・・・のは確かかもしれない。私が選択したのは本能。今は事の成り行きを見守る。最悪な結果になったらフェイトだけでも無事に逃がす。

「・・・わたし・・・やめる。・・・わたしは・・・ルーテシアが大好き。・・・だから・・・ルーテシアの生きるこの世界・・・滅ぼさせない!」

耳を疑った。人類を滅ぼす“絶対殲滅対象アポリュオン。その1体である“ペッカートゥム”が世界を守る? しかも、その世界に生きる人のために? 信じられない。だけどレヴィヤタンから感じ取れる想いは本物なのは解る。

『フェイト、ここで待ってて』

『・・・うん』

念話でそう告げる。今フェイトが動くのはまずい気がした。だからこのまま待っててもらう。そして私はゆっくりと歩き出す。

「本気で言っているの? 大罪(わたしたち)の役目を放棄して、人間(ルーテシア)のために裏切ると?」

アスモデウスの殺気が膨れ上がるのが判る。レヴィヤタンの返答によっては殺す気だ。

「・・・許されざる色欲(アスモデウス)許されざる怠惰(ベルフェゴール)・・・・死ね」

レヴィヤタンが完全な決別の言葉を口にした。顔色が変わるアスモデウスとベルフェゴール。

『っ!・・・そう。・・・ならアスモデウス、レヴィヤタンを取り込め。必要のない“ソレの力”は、私が有効に使わせてもらう』

ベルフェゴールのモニターが消える。それと同時にアスモデウスがレヴィヤタンを殺すために、大鎌を振り上げながら突進した。

「おっと、そうはさせないから!」

「「っ!?」」

私はレヴィヤタンを庇うために躍り出た。“キルシュブリューテ”と大鎌がぶつかって火花を激しく散らす。

「はあああああッ!」

ファイトぉぉ・・・いっぱーつ! “キルシュブリューテ”に気合を乗せて思いっきりそのまま振り切る。するとガラスが割れたような音を発しながら、アスモデウスの大鎌が砕け散った。

「どういうつもり!? 許されざる嫉妬(それ)はお前の敵でしょう!?」

アスモデウスは驚愕しながらバックステップ。私から距離を取る。

「・・・なんで・・・?」

対するレヴィヤタンも驚愕。そしてすぐに戸惑いの色を見せる。アスモデウスの激しい疑問と、レヴィヤタンの静かな疑問。

「レヴィヤタンはこの世界を守るって言った。しかもルーテシアという子のために。正直、聞いた時は信じられなかったけど、その子が口にした、大好きって言葉は本物。そしてお前の言うとおり守護神(わたしたち)にとってレヴィヤタンは滅ぼすべき敵。だけどね・・・」

チラッとレヴィヤタンを見る。その目は私に対する警戒で染まっている。当然だけど。

「・・・ごめん、ルシル。行きなさい、レヴィヤタン。今はあなたを信じてあげる。だからルーテシアとかいう子を止めてあげなさい。でも私の友達に手を出したりしたら許さない。エリオ達を傷つけないで止めて。それを条件として行かせてあげる。・・・どう?」

ルーテシアという子を止めるのに、エリオとキャロが危険な目に遭うのだけはダメだ。それを先に言っておかないとレヴィヤタンが暴走しそうな気がする。

「そして、事件後のあなたの処遇は、ルシルに頼み込んでなんとかしてあげる。その代わり、あなた達ペッカートゥムの目的を全て聞かせてもらう」

「・・・何を馬鹿なことを言っているの?」

アスモデウスが笑みをつくりながら、殺気満載の視線を向けてきた。

「・・・ルーテシアと・・・一緒にいられるなら・・・なんでも・・・する」

強く頷いたレヴィヤタン。これで決まりだ。一番厄介なレヴィヤタンをどうにか出来た。

「この・・・・愚か者がぁぁぁぁーーーーーーッ!」

両手にルシファーの剣“ルートゥス”を持ち、怒声を上げながらアスモデウスが突撃してきた。真っ向から私に向かって来るなんて馬鹿なヤツ。魔法で迎撃して・・・あ、“トロイメライ”が・・・ない。

≪Plasma smasher≫

アスモデウスの真横から襲い掛かるフェイトが放ったプラズマ・スマッシャー。気付いた時にはすでに遅く、アスモデウスは黄金の雷光に飲まれて吹っ飛んだ。

「あの・・・第三の力(しろいろ)・・・ありがとう・・・」

そう言ってレヴィヤタンが位相空間転移で消えた。ありがとう、か。ルーテシアの居る場所に向かったんだろう。あの子を救うために。レヴィヤタンにとって、あのルーテシアという子こそ戦う理由であり存在する理由なんだね。心が無い、というのを訂正しておかないといけないなぁ、もちろんレヴィヤタン限定で。

「あ、AMFが・・・消えた・・・?」

そして今度はここのAMFが解除されたのが判った。どうやらシスター達が上手くやってくれたみたいだ。

「フェイト!」

「うん! いけるよ、シャル!」

「よくもまぁこんな・・・随分と馬鹿にしてくれたわね・・・」

倒れていたアスモデウスの今日何度目かの立ち上がりを見せる。

「ふふん、もうお前の敗北は決定している。AMFがなくなった以上、フェイトの戦力は私と同等。そんな私とフェイトを同時に相手して勝てると思ってる?」

「ふふふ・・・あははははは! 勝てる? その必要はないわ! お前をこの場に足止めできた時点で、許されざる傲慢(わたし)の目的は果たしているのだから!」

「あし・・・どめ・・・?」

(私を足止めすることで目的を達成? じゃあなに? ヤツらの目的は他の別にあるということ・・・?)

「お前を・・・って、シャルじゃなくて・・・ルシルの方・・・?」

横に並ぶフェイトがそう呟いたのが聞こえた。確かに私とルシルならお前たちと言うはず。それをアスモデウスは私独りを指して、お前、と言った。

「何を企んでいる!?」

「さぁ? 私と戦って勝てたら教えてあげてもいいわよ? でも全てが終わっていればそんなこと関係なくなるでしょうけど・・・」

嫌な笑みを浮かべて・・・ムカつく。

「急ごう、シャル!」

「ええ!」

さっさとヤツをどうにかしないと。お願いだから無事でいてよ。ルシル、なのは。
 
 

 
後書き
終盤も終盤で最後の罪、ベルゼブブ降臨。邪魔な存在だぁ・・・出しておいてなんですが。
そしてフェイト組。戦闘機人との共闘はボツ!!
フェイトとシャルの見せ場を減らす必要はない、と思ったためです。この二人の活躍こそ重大なのです・・・・と思います。
一応フェイト組&機人組の共闘によるアスモデウスとレヴィヤタン戦も書いたんですが、トーレとセッテ、ついでにシスターが邪魔すぎる!
セインはディープダイバーによる奇策で活躍、なんてものもあったのですがボツ!  
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