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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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動き出す使者 ~前編~

†††Sideはやて†††

ようやく強制着せ替え(コスプレとも言うなぁ)タイムも終わって、ゆっくり出来ると思ったのも束の間、キャロからの全体通信による緊急連絡が部隊長室内に響き渡る。

『こちらライトニング4。緊急事態につき現場から状況を報告します。サードアベニュF23区画にて、レリックと思しきケースを発見しましたっ。それと、ケースを所持していた女の子がひとり・・・、意識を失っていますっ』

ソファにぐったりと腰掛けてたみんなに緊張感が漂う。みんなは一斉に立ち上がって、いつでも行動に移れるようにしとる。その少女を抱きかかえたエリオと、少女の様子を診てるキャロがモニターに映った。背格好から見て5~6歳くらいで、普段なら綺麗なはずの金の髪も服をボロボロ。かなり酷い状況の中を歩いて来たんやろね。

『指示をお願いします!』

「判った。救急の手配はこっちでするから、エリオとキャロはその子に応急処置、そしてその子ともどもケースを保護ね」

エリオとキャロの隊長であるフェイトちゃんの指示が飛ぶ。なのはちゃんはスバルとティアナに、エリオ達と合流するように指示を出した。

「全員待機態勢。各員は急いで配置に戻ってなっ。安全確実に保護するよ。レリックもその女の子もやっ」

「「「了解!」」」

なのはちゃん、フェイトちゃん、そしてリインが私の指示に応える。それを確認した後、シャルちゃんとルシル君への方へと振り返ると、2人はキリッとした面持ちで整列した。

「シャルちゃんは隊舎で待機。でもいつでも出れるようにしておいてな」

「ん、了解」

「ルシル君は隊長たちと一緒に行ってほしいんやけど、ええか?」

「ああ。ここに帰って来てからはシャルばかりが出ているからな。私としてもそろそろ動きたかったところだ」

協力者であるシャルちゃんとルシル君の2人にも指示を出す。でもシャルちゃんはちょっと不満そうやな。でも明らかに疲れとる顔やし気遣いやで、これは。その反面、ルシル君は完璧に仕事顔。さっきまでの疲れてた(精神的に)顔がウソのようや。

「それじゃあ機動六課、出動やっ」

†††Sideはやて⇒ルシリオン†††

ヴァイスの駆るヘリに乗り、フェイト達と共に現場へと着いた。そしてシャマルがすぐさま少女の診察を開始。その結果は、「・・・うん、バイタル安定。危険な反応はないし。大丈夫よ、心配ないわ」異常なし、ということだった。
キャロからこの子は地下水路をかなり歩いたらしいと聞いた。それが原因の衰弱といったところだろう。何にしても大丈夫ということなら良かった。キャロとスバルはシャマルの診察結果に「よかったぁー」と安堵の声を上げた。他のみんなも声には出さないが、表情には安堵がハッキリと出ている。

「ごめんね、みんな。折角のお休みの最中だったのに・・・」

「いえ、仕事の方が大事ですから」

「わたしも平気ですっ」

フェイトに応えるエリオとキャロの2人。スバルとティアナもそれに続いて頷いて応えた。この4人にはもっと楽しい時間を過ごさせてあげたかったが仕方ない。次こそはちゃんとした休日を過ごさせてあげたいものだな。そのためには早々にこの事件を解決しなければ。

「ケースと女の子はこのままヘリで搬送するから、みんなはこっちで現場調査ね」

「「「「はい!」」」」

「それじゃセインテスト君、この子のこと、ヘリまでお願い出来る?」

シャマルが医療道具も片付けて、私に少女をヘリへと運ぶよう頼んできた。小さいとはいえ、気を失い、力の入っていない子供はそれなりの重さがある。なら女の子であるフェイトやなのはに運ばせるわけにはいかない。「ああ」と少女を抱きかかえて、シャマルと共にヘリに乗り込もうとしたところでガジェット襲来の報が届いた。

†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††

私ははやてについて司令部へと来ている。そう言えば、ここに来るのって初めてだなぁ。はやての座る部隊長席の右側に立ってモニターを眺めていると、ルシル達が出動して間もなく、レリックを狙ったガジェットが現れたシーンが表示された。なのは達の居る海上と、フォワードの居る地下の2ヵ所に。

「多いなぁ・・・」

ガジェットの数の多さに苦い顔をしているはやて。本来のなのは達なら問題ないけど、今はリミッターが掛けられてる。ルシルもまた市街地戦ということで魔力を制限することになるはずだ。だからこそあの数を相手にするのは結構骨が折れることになる。

「どうするのはやて。私も援軍に行こうか?」

慣れていない複製術式の乱用で結構魔力を消費しているけど、ガジェット相手なら余裕だ。はやては仕方ないといった感じで「そやなぁ・・・・」って唸る。必死に良い手を考えているみたいだ。とそこに、『ロングアーチ、こちらスターズ2』と通信が入る。
遅れてモニターに映ったのは、海上を飛んでいるヴィータの姿。海上で演習中のところにガジェット襲撃の報せを受けて、演習先の部隊の部隊長ナカジマ三佐(スバルのお父さんだって)から許可が出て、ああして現場へ急行中とのこと。ナイスタイミング。ヴィータ1人来るだけでもかなり違ってくるはずだ。これなら私は出撃する必要はなさそう。

『それからもう一人、助っ人を連れてきた・・・!』

『108部隊、ギンガ・ナカジマです』

「「っ!」」

はやてとグリフィスの表情に驚愕の色が現れる。えっと、確かギンガはスバルの姉で、シューティングアーツの師でもあるという話・・・だっけか。戦力としては申し分ない。ギンガは別の事件の捜査をしていたらしく、その事件がどうやら私たち“機動六課”が担当している案件と関係があるとのこと。

『――そういう事ですので、私も参加させてもらってもよろしいでしょうか?』

「うん、もちろんっ。こちらからお願いや。ほんならヴィータはリインと合流してな。2人協力して海上の南西方向を制圧」

『南西方向、了解ですっ!』

「なのは隊長とフェイト隊長は北西部から」

『『了解』』

「ルシル君は、ヴィータやリインと一緒に南西制圧」

『了解した』

「ヘリの方は、ヴァイス君とシャマルに任せることになるんやけど、ええか?」

『どんとお任せあれっ。ケースも女の子も安全無事に送り届けますっ』

『はいっ、しっかり守りますから、大船に乗ったつもりで待っていてください』

矢継ぎ早に指示を出していくはやて。さすが部隊長といったところだ。

「ギンガは、地下のスバル達フォワード陣と合流な。別件の事は道すがら聞かせてな」

『はいっ、了解です!』

全ての指示を終えたはやては椅子に深く座り直した。それじゃ私はゆっくりと見学でもさせてもらおうかな。

・―・―・―・―・

廃棄都市区画の遥か上空。5つの人影が、離れたビルの屋上にある1機のヘリを見据えている。その者たちの瞳に見られているのはルシリオン。しかし彼はこの5人に見られているのに気付いていない。何故なら気配を遮断しているからだ。人間では不可能なほどに。そう。彼らは人間ではない。彼らは“絶対殲滅対象アポリュオン”。その番外位である“大罪ペッカートゥム”のうちの5体だ。

本来、すでに時を持たない“絶対殲滅対象アポリュオン”に成長はない。しかし“大罪ペッカートゥム”は例外となる。代替わりをすればするほど、先代たちの記録を、力を引き継いでいく。そのため、己の神秘を感知されないよう隠匿する術を、今代は全て手にしている。ゆえに“界律の守護神テスタメント”であるルシリオンとシャルロッテの索敵能力の範囲外に身を置け、そのうえ“界律”の対異物探査の網からも逃れることが出来ていた。

許されざる嫉妬(レヴィヤタン)、今んところはルーテシア(ソレ)についてけ」

『それ・・・じゃない・・・ルーテシア。次は・・・間違えないで、許されざる憤怒(サタン)

「どっちでもいいだろ? 最終的にこの世界は滅びるんだからよ。人間共の事なんて憶える必要はないんだよ」

レヴィヤタンの反論にそう答えるサタンはつまらなさそうに鼻を鳴らす。オールバックにしたその漆黒の髪は、まるで馬の鬣のようになっている。燕尾服に袖なしのインバネスコートを着た彼は、どこか品格のある存在だ。その灰色の瞳はレヴィヤタンのいる方へと向いている。

「――で、三番は居ないようだし、どうするの?」

ガジェットの掃討を始めたルシリオン達を見ながら、一番やる気のなさそうな少女がそう口にする。髪は橙色でセミロング。瞳は透き通った桃色で、優しい目付きをしている。服はセーター、ズボン姿のどこにでもいるような少女だ。

欠陥品(よんばん)だけでも先に潰しとく?」

その少女は遠く離れたルシリオンの姿をハッキリと捉えながら首を鳴らす。見た目に反して戦闘志向が強いらしい。

「あ? 大罪(オレら)の役目はあくまで“標”だろ? なぁリーダー?」

「私がリーダーになった覚えはないんだけど・・・」

サタンは背後に佇む存在へと問いかける。そこに居るのは、燃えるような真紅の髪を両サイドで細い鎖で纏め団子にし、そして同じ燃えるような真紅の瞳を有す、真紅のチャイナドレスを着た20代前半と思しき女。髪も瞳も纏う服すらも真紅一色という目に優しくない存在だ。

許されざる暴食(ベルゼブブ)の席が空いている今は君がリーダーだ、許されざる色欲(アスモデウス)

この場に居る最後の1人、白のスーツ姿の許されざる傲慢ルシファーがそう告げる。それを聞いたアスモデウスは短く溜息を吐いたあと・・・

「斃せるうちに斃しておいても別に構わないわ。欠陥品は地下で始末をつける。空より陸の方が斃しやすいって話だしね。けど制限は20分・・・いいわね?」

アスモデウスは戦闘にかける時間を最大20分と設定する。いくら分裂することで“界律”を誤魔化していても、やはり人類の天敵・“アポリュオン。過ぎた行動は“界律”に危険存在として認知されてしまうことを知っている。

「まずは地下に罪眼(レーガートゥス)を放って欠陥品を誘き出さないといけないわね。それから私と・・・マモン、あなたもついて来て」

これで地下に3体の“ペッカートゥム”が揃うことになる。レヴィヤタン、そしてアスモデウスにマモン。

「ルシファーとサタンはここで待機。もし3番が出てきたら相手をしてやって」

「「判った」」

アスモデウスの指示に素直に従うルシファーとサタン。

「レヴィヤタン、悪いけどルーテシアと別れて私たちと合流して」

『・・・判った・・・でも第四の力(くろいろ)・・・斃したら、すぐ戻る・・・』

レヴィヤタンはアスモデウスの指示に渋々従うようにそう告げた。そしてアスモデウスとマモンの姿が消える。残されたルシファーとサタンは再度海上で繰り広げられるガジェット殲滅戦へと視線を移した。

†††Sideルシリオン†††

『セインテスト、そっち頼んだ』

「『了解した』・・・蹂躙粛清(ジャッジメント)

――殲滅せよ(コード)汝の軍勢(カマエル)――

ヴィータからの念話に応え、ガジェット十数機を40の槍群で撃ち落す。

「それにしても多いな」

ガジェットの数の多さに改めて舌を巻く。一体何機作っているのか。それ以前に犯罪者であるスカリエッティには金銭的な問題はないのだろうか。そもそもスカリエッティには謎が多すぎる。通信映像や音声のデータがあるのに、一度も逮捕歴がないというのもおかしい。何か大きな後ろ盾でもあるのか? それが“アポリュオン”と繋がっている・・・? くそっ、人間に干渉して、一体何を企んでいるんだヤツらは・・・。

『ルシルさんっ、増援ですっ!』

リインから念話が届く。リインとヴィータの見ている方に視線を移すと、さらに何十機ものガジェットが見えた。

「確認した。第四波(フォースバレル)・・・装填(セット)

市街地戦ということで使用する魔力をAAA+に設定している。それでもガジェットを破壊するだけならお釣りが来るから気にならない。「離れてくれヴィータ、リイン」と告げ、射線上から2人が退いたことを確認。

蹂躙粛清(ジャッジメント)

号令を下し40の槍の軍勢を、増援として現れたガジェットへと放つ。ヒットまで4・・・3・・・2・・・1・・・ん? 槍がいくつかのガジェットをすり抜けた・・・?

「あれは・・実機と幻影による混成編隊・・・か。面倒な能力を持つ奴がいるな。フェイト、なのは。増援のガジェットの中に幻影が混じっている」

北西を担当する2人に念話で報告しておく。

『うん、こっちでも確認できたよ。防衛ラインを割られない自信はあるけど、ちょっと数が多いかな』

『でも、これはこれで良い知らせだよ。ここまで派手な引き付けをするんだから、海上(ここ)のガジェットは全て囮だと思うんだ』

「ああ、そう考えるのが妥当だな。本命はヘリか地下・・・か。あるいは両方か」

――第五波(フィフスバレル)装填(セット)蹂躙粛清(ジャッジメント)――

念話の間でも間髪入れずにカマエルを放ち続ける。だが実機を破壊する数より、幻影にミスする数が多くなってきた。

『こちらスターズ4! ルシルさん、今よろしいですか!?』

ティアナからの通信モニターが私の前に展開される。ティアナの表情は焦りと疑惑に満ちたものとなっていた。

「どうした?」

『地下水路D26区画でレーガートゥスと思われるものがいます! ですがあたし達を見ても何の動きも見せようとしないので・・・指示をお願いします!』

レーガートゥスが地下に? この付近一帯が様々な魔力で満ちている所為で気付かなかった。

『ルシル君、行って。ここは私たちで何とかするから』

『それにどの道、地下に誰か行かないといけなかったから。ルシル、新人たちの方をお願い』

なのはとフェイトから地下へ行くように念話が届く。確かに地下に主力が向かう可能性があるという話をたった今していた。ならば、「・・・ヴィータ、リイン、ここを頼めるか?」行くしかないだろう。

『誰に言ってんだよ。あたしとリインに落とせねぇものはねぇっ!』

『はいっ、その通りですっ! ですから行ってください、ルシルさん』

ヴィータは即答だった。リインもヴィータに同意し、抜けることを許してくれた。まったく、本当に頼りになる仲間だ。最後に「ロングアーチ・はやて」本部に繋ぐ。『聞いてたよ、ルシル君。急いで向かって!』と指示が出る。そうと決まれば全力で空を翔けよう。

「ティアナ、今からそちらに向かう。それはおそらく君たちを狙うことはしないはずだ。警戒しつつもケース捜索に移ってくれ」

『り、了解ですっ!』

ティアナにそう指示して、私は全力で地下へと向かった。“レーガートゥス”はケースを回収しに来たティアナ達を見ても行動に移らなかった。つまり用があるのはレリックではなく彼女たちでもなく・・・、私か・・・?

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

ルシル君が地下に向かってくれたことで心配の種が1つ減った。あとはヘリの護衛だけど・・・。

「私が残ってここをヴィータ達と一緒に抑えるから、なのはがヘリの護衛に向かって」

「フェイトちゃん!?」

フェイトちゃんのいきなりの提案に驚きを隠せない。いくらなんでもこの数をフェイトちゃんとヴィータちゃんとリインの3人で抑えるには辛すぎる。

「いくら私となのはのコンビでも、普通に空戦していたんじゃタイムロスが大きい。はやてに頼んでリミッターを限定解除してもらえれば、あとは広域殲滅でまとめて落とせる」

確かにそれなら出来ないことはないだろうけど。フェイトちゃんは「なんだか嫌な予感がするんだ」って小さく唸った。こういう時のフェイトちゃんの勘はよく当たるし、だったらここはフェイトちゃんの言うとおりに・・・。

『割り込み失礼するよ』

そう思ったところで、私とフェイトちゃんの間にモニターが現れる。映っているのははやてちゃん・・・なんだけど・・・

『ロングアーチ00からライトニング1へ。部隊長権限でライトニング1の案を却下します』

「え、あれっ? はやてっ、どうしてここにっ?」

「それもそうだけどはやてちゃん、何で騎士甲冑!?」

はやてちゃんは局の制服じゃなくて騎士甲冑を身に纏っていた。

『嫌な予感は私も同じでな、クロノ君から私の限定解除をもらうことにした。そやから空の掃除は私に任せて、なのはちゃんとフェイトちゃんは地上に降りてヘリの護衛に行って。ヴィータとリインも地下に行ってケースの確保を手伝ってな。以上、部隊長からのお願いや』

『『了解!』』

ルシル君に続いてヴィータちゃん達も地下に行くならケースの確保は決まったも同然。それなら私とフェイトちゃんも安心してヘリの護衛に専念できる。だから私とフェイトちゃんは「了解ですっ」ってモニターに映るはやてちゃんに敬礼する。

†††Sideなのは⇒ルシリオン†††

ティアナから受けた報告で聞いたD26区画へと着き、“レーガートゥス”の殲滅を開始した。

「さぁ、撃ち貫かれたい奴から前に出ろっ!」

しかし、こうも狭い場所では神器・“星填銃”が役に立つ。概念兵装でありながら神造兵装の20位並の神秘の弾丸を放てるのだから。自作の神器でありながら本当に素晴らしい出来だと、かつての私を褒めたくなってくる。
接敵から数秒で殲滅を終えたところで、フォワードの子たちと合流するために走る。すでにあの子たちの魔力波形は覚えているため、簡単に魔力探査(サーチ)することが出来た。そして大きく開けた空間でガジェットを殲滅しているフォワード、そしてギンガと合流した。

「「「「ルシルさんっ!!」」」」

ここに来るまでにガジェットの残骸の山を見てきたが、4人とも大して疲れていないようだ。順調に成長していっている証拠だ。なのは達の教導がちゃんと活きている。

「みんなお疲れ様だ。そしてギンガ、久しぶりだな。元気なようで嬉しいよ」

「はい。ルシルさんもお元気そうでなによりです」

ギンガは律儀に頭を下げて挨拶をしてくれた。最後に会ったのは局を辞める際の挨拶回りだったから、スバルと同じ2年前くらいか。

「ああ。っと世間話はこの件が終わってからということで、な」

「あ、はいっ。そうですね」

今は“レリック”のケース確保が最優先だ。このメンバーなら道すがら世間話も出来るだろうが、さすがにそれは不謹慎だ。

「それではティアナ。私もこれから君の指揮下に入る。好きなだけ使ってくれ」

「えっ!? あぁその・・・でも、あたしが・・・ルシルさんを・・・」

何だ? 急によそよそしくなったが、何か変なことを言ってしまったか?

「えっと、今は局員じゃないとしてもルシルさんを・・・その・・・」

ここで昔の話を持ってきたティアナ。今のティアナの階級は二等陸士。そして私が元一等空佐・・・む、確かに少し躊躇うか。

「そんなことは気にしなくてもいいと思うが。それに私は今の君の指揮能力を買っている。だから自信を持て、ティアナ」

「あ・・・はいっ。よろしくお願いしま――」

「「ようやく来たわね、欠陥品」

「・・・え?」

この開けた空間に響き渡る第三者の声。全員が警戒に移る中、ゆっくりと靴音を響かせ、暗がりから現れたのは2つの人影。

「・・・レヴィヤタン。それに・・・貴様も新入りか」

1体はホテル・アグスタでシャルを苦戦させたという最速の嫉妬、レヴィヤタン。そしてもう1体は全てが真紅という女で、自分の身長を超える大鎌を手にしている。その女を見て思い出すのは、あの小さな少女が言っていた“赤いお姉ちゃん”という言葉。スカリエッティからの受信専用の通信機を少女に渡したのはこの女だろう。

「ルシルさん・・・」

ヤツらを見て怯え始めたフリードを抱きかかえながら、キャロが私の名前を呟く。キャロも震えている。そして他の子たちを同様。おそらく本能――魂が危険だと告げているんだろう。

『君たちは先に行ってケースの確保を優先してくれ』

『『『『・・・はいっ』』』』

『そんなっ! あの2人は明らかに危険です! 私たちも・・・!』
 
私の念話に唯一反論したのはギンガ。そうか、ギンガは“ペッカートゥム”や“レーガートゥス”のことは知らなかったか。

『ギン姉、魔導師(あたし)達じゃあいつらは倒せない。ううん、傷つけることだって出来ないんだ』

『え? どういうこと・・・?』

『詳しい説明はあとだギンガ。君たちは一刻も早くケースのある場所を目指せ』

レヴィヤタン達から庇うようにして前に出る。ギンガは躊躇っているようだが、スバル達との念話で説得されたのか渋々従った。

「そんな窮屈な肉体(うつわ)に入れられて大変そうね、欠陥品」

真紅の女が私をまじまじと見て面白そうに笑った。欠陥品。不完全な“界律の守護神テスタメント”である私とマリアを指す蔑称だ。

「いやいや、人間(これ)人間(これ)で楽しいんだよ、二級品」

こちらも“絶対殲滅対象アポリョオン”の番外位であるヤツらの蔑称である二級品で応戦。レヴィヤタンの表情は変わらないが、真紅の女は笑みを浮かべたまま止まっている。そして真紅の女の姿が掻き消え、一瞬で私の背後に回ってきた。が、シャルより――それにフェイトよりはるかに遅い。神器・“星填銃”に魔力を流して神秘の弾丸を生成、振り向きざまに至近距離からの特大砲撃をお見舞いしてやる。

「いっっっっけぇぇぇぇっ!!」

魔力ではなく純粋な神秘の一撃。完全体である“ペッカートゥム”状態ならいざ知らず、分裂体である今なら、概念兵装の一撃でも十分ダメージを与えられる。閃光が途切れ、視界がクリアになる。

「なるほど・・・確かに速い、な。レヴィヤタン・・・」

かなり離れたところに真紅の女の襟を掴んでいるレヴィヤタンが居た。“星填銃”の砲撃が真紅の女に届くより先に移動、そして真紅の女と共に射線上より離脱。確かに陸戦機動力ならシャル以上であるのは間違いなさそうだ。だが、その速さに対処するための・・・複製スキルが私にはある。

「我が手に携えしは確かなる幻想・・・!」

――未来よ、過去なる我が眼に来たれ――

第四の力(くろいろ)・・・」

レヴィヤタンがそう呟き、コツコツと靴を鳴らして歩く。視線は私へ。歩く方向は私に対して平行に。そして、「早く・・・消えて・・・」と呟いた。私は一切レヴィヤタンから視線を逸らさなかった。なのに「っ!? 速――」レヴィヤタンの姿を見失った。驚いたことにレヴィヤタンは90m近くあった距離をノーモーションで一瞬に詰め、私の真横へと現れた。用意しておいた“極近未来視”のスキルですら追いきれない。それどころか目にも映らない。

「チッ、捕らえよ、ドローミ、レーディング!!」

レヴィヤタンを覆うように奴の周囲から大小様々な鎖を出現させる。2つの捕縛神器による全方位からの襲撃。レヴィヤタンが回避行動に入り、目で追いきれないほどの速さで離れていく。だが捕縛神器の波状襲撃によって次第に追い込まれていく。

「・・・捕まった・・・」

ようやくレヴィヤタンのその幼い体に何重もの鎖が巻かれ、その周囲も“ドローミとレーディング”で覆われている。私はトドメを刺すために、表層世界最高の神秘を持つ“神槍グングニル”を左手に具現させる。

「私がいるってことを忘れてるんじゃないの!」

真紅の女がそんな当たり前なことを言いながら攻撃を仕掛けてくる。右手に持つ“星填銃”の銃口を向けてさっきと同じ砲撃を放つ。

「同じ手は通用しないってことを教えてあげる!」

真紅の女は大鎌を前面で回すようにして砲撃を防いだ。私としてもそう簡単に斃れてくれるとは考えていない。

「・・・神槍(グングニル)!!」

能力を解放せずとも内包している神秘は絶大。分裂体を消滅させるには十分すぎるほどにだ。最強最高の“グングニル”を、未だに砲撃に対処している真紅の女へと投げ放つ。

「まず1体目。そして・・・お前もこれで終わりだ、レヴィヤタン」

右手の“星填銃”の銃口を今度はレヴィヤタンに向けて・・・砲撃を放つ。これでまずは2体の消滅、となるはずだった。

「・・・甘い」

「全然ダメ」

「なにっ!?」

これもまた油断だったのだろう。真紅の女は左手に持つ大鎌で、“グングニル”を砲撃同様弾き返した。あの大鎌も結構な神秘を保有しているようだ。“グングニル”程の神器を弾き返せる武器など、まず存在しえないのだから。

「欠陥品はどこまで私たちを甘く見ればいいのかしら?」

手元に戻ってきた“グングニル”を掴み取る。真紅の女が笑みを浮かべる。それにしても“アポリュオン”が神器と同じような神秘を持つ武器を持つとは・・・。

「・・・このくらいの神秘じゃ・・・わたしは斃せない・・・」

2つの捕縛神器を引き千切り、なおかつ持っていたクジラのぬいぐるみで砲撃を防いだレヴィヤタン。悪用されてはまずいため、神器を一度魔力に戻す。まったく、今代の分裂体は悉くこちらの予想を上回る。

「・・・仕方ない・・・か」

クロノやはやて達には悪いが、神秘にSSSランクの魔力を上乗せさせてもらおう。魔力と神器の両方の神秘を相乗させればもう防げまい。

「第三級断罪執行権限・・・かい―――がっ!?」

SSSランクの魔力を使用するための執行権限(リミッター)を解放しようとしたところで、いきなり背後から首を掴まれ、仰向けになるようにして地面に叩きつけられた。叩きつけられた衝撃の後、浮遊感がこの身を襲う。どうやらあまりの威力だったためにバウンドして空中に跳ね上げられたようだ。

「っうぐ、がはっ・・・まだ・・・いたのか・・・?」

――傷つきし者に(コード)汝の癒しを(ラファエル)――

宙で体勢を整え、地面に着地して治癒魔術を発動。今負ったダメージを瞬時に回復させる。

「もう面倒だから出てきたけど別にいいよね、アスモデウス?」

私を地面に叩きつけた少女が、真紅の女のことをアスモデウスと呼んだ。許されざる色欲アスモデウスは、“大罪ペッカートゥム”の内、2番目に重い罪とされる存在だ。もちろんその実力も2番目となる。

「まぁいいわ。フフ、どう、界律の守護神(おまえたち)が最弱と勝手に決めつけた私たち大罪(ペッカートゥム)の強さは? 守護神状態ならいざ知らず、今の人間(おまえ)に遅れを取るような大罪(わたし)たちじゃないわ」

「・・・干渉能力の戦いなら・・・わたし達は・・・確かに弱い。だけど・・・干渉がお互い使えないなら・・・第四の力(くろいろ)にだって・・・勝てる」

「そういうわけだからさ、さっさと逝っちゃってよ欠陥品」

色欲アスモデウスに嫉妬レヴィヤタン。そして新手の少女が私を中心として三角形の陣形を取る。確かにヤツらの言い分は尤もだが、解っていないのはお前たちも同様。分裂体もまた私たちと同様その身の霊格が落ちることになる。だからこそ干渉能力だけでなく神器程度の神秘でダメージを負うことになっている。それゆえに・・・今の私とシャルでも貴様たちに勝てるんだよ。それを思い知れっ。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

いつでも複製武装や術式を取り出せるようにしておく。

――目醒めよ、我が(うち)なる世界が一つ――

“闇の書事件”の際に発動した“聖天の極壁ヒミンビョルグ”とは違い、完成品である“神々の宝庫ブレイザブリク”や“英雄の居館ヴァルハラ”の2つには詠唱が必要となる。それが展開する場合でも取り込む場合でも、だ。
今回は展開ではなく取り込む方にする。展開すれば地上に居るみんな、下手をすれば地上本部に気付かれる。普通ではない魔力反応を。現象を。私を。そうなれば“機動六課”に多大な迷惑が掛かる。最悪、今まで私たちと関わっていたクロノやリンディ統括官にも、だ。それだけは避けたい。

――其は美しき黄金に輝きたる館――

「無駄なあがきは止しなさい」

アスモデウスが大鎌を振り、神秘の衝撃波を放ってくる。

――五百四十の扉、槍の壁、楯の屋根、鎧に覆われた長椅子、彷徨いたるは狼に鷲――

その次の行動は魔眼で判明しているため、回避ではなく“星填銃”の弾丸で迎撃する。

――館に住まうは我が(うち)に在りし神秘の幾多の主――

そうとは知らず突っ込んできたアスモデウスの眉間に銃口を押し付ける。だが、「させないっつうの」3体目の“ペッカートゥム”が腕を払い、巨大な斬撃を撃ちだす。未来視のスキルがこの少女の次の動きを見せてくれる。今度はそれを回避して、カウンター気味に再度具現させた“グングニル”で斬りつける。

――契約の下、出でよ英雄の軍勢――

少女は前髪を少し切られるほどのところで後ろに跳躍、難を逃れた。アスモデウスもまた銃口から逃れて私から大きく離れた。やはりレヴィヤタンだけが異常な速さを持っているようだ。これなら何とかなる。

「・・・一気に・・・決める・・・」

レヴィヤタンのその一言に背筋が凍る。本能が、今から放たれる一撃を避けろと全力で告げてくる。魔眼が次に起こる災厄を映し出す。

(冗談だろ・・・これが、最弱の有する神秘なのか・・・?)

「・・・deus caedere・・・」

レヴィヤタンから紡がれた言葉は「・・・神殺し、だと・・・?」という意味だった。この空間一帯を照らし出すようにすみれ色の閃光が爆ぜる。私はスキルのおかげで、ギリギリ有効範囲外にまで退避できた。

「ぐっ・・・もう時間が・・・」

スキルの使用限界時間となり、強制的にスキルが解除された。

――拒みし者を蹂躙せよ、罪ある者を断罪せよ、助け求める者を救済せよ――

だが詠唱も間もなく終える。未だに3体とも私の居場所に気付いていない。これで私の勝ちだよ、“ペッカートゥム”。

「そうでもないんじゃない?」

「チッ」

背後に現れたのはレヴィヤタンとアスモデウスの2体。すぐさまその場から離脱して、“星填銃”2挺の銃口を向ける。だが2人は何のアクションも起こそうとしない。それだけじゃない。アスモデウスが手にしていた大鎌が今は無い。

「いらっしゃい」

離脱後の場所には、私を待ち構えていたかのように少女が大鎌を構えていた。そして間髪いれずに横一線にその大鎌を振るった。目に映るのは私の首を狙った必殺の凶器。













――許されざる強欲たるマモンの振るった大鎌によってその場に銀髪が舞い、そしてルシリオンの首が飛んだ。
 
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