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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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狂おしき者と大罪

†††SideリインフォースⅡ†††

――5月13日、部隊の正式稼動後、初の緊急任務がありました。
密輸ルートで運び込まれたロストロギア・“レリック”をガジェットが発見。ソレを輸送している最中のリニアレールを襲撃しました。わたしたち機動六課に、ガジェットの“レリック”強奪を阻止すること、“レリックを回収するという任務が渡されました。
順調に進んでいた任務でしたが、そこで予想外のことが起こりましたです。新たなガジェットと一緒に、人の眼のようなアンノウンが現れました。スターズ分隊の隊長のなのはさんと、ライトニング分隊の隊長のフェイトさんが交戦するも、能力が不明なそれに防戦一方となってしまったです――

(気味が悪かったですね、レーガートゥスと言うのは)

――ですがその窮地を救ったのが、2年前に管理局を辞めたはやてちゃん達のお友達、シャルさんとルシルさんだったのです。そしてそのお2人と六課のメンバーの活躍もあって任務は無事に終了したです。そのあと六課に案内されたシャルさんとルシルさんからあの眼、レーガートゥスと呼ばれるモノの説明を受けました。
魔導師では倒せないと知ったはやてちゃん達は、シャルさんとルシルさんに協力を要請。その日の内にシャルさんとルシルさんは機動六課の協力者となりました、と――

「ふぅ」

キーボードを打つ指を止めて一息つくです。

「リイン曹長」「リイン」

「あ、シャーリー、シャルさん、おつかれさまですー♪」

そんな時に声を掛けられたので顔を上げてみると、そこにはシャーリーとシャルさんが一緒にいました。

「どうしたのリイン、こんなところで仕事?」

「お仕事半分、休憩半分。個人日誌をつけてたですよー!」

シャルさんにそう答えて、ソファからシャルさんの前へと飛ぶと、シャルさんはリインを肩に乗せてくれたです。シャルさんがとても嬉しそう顔をして「癒される、癒されるよー♪」って言ってくれたので、リインもなんだか嬉しくなりました。でもなんだかずいぶんとお疲れのようですねー? 何かあったのでしょうか?

「シャーリーとシャルさんはどうしたですか?」

「私は新しいデバイス達の調子を見に、訓練場の方に行ってました」

まずはシャーリーが答えてくれた。フォワードのみんなの使うデバイスの設計主任はシャーリーですから、それに責任を持っているのです。まるでデバイスのお母さんみたいな存在ですねー。

「そうですかー! みなさん元気でしたー?」

「はい! フォワード陣もデバイス達も、もう絶好調っ!」

シャーリーが満足そうに答えてくれたです。ですけど、シャルさんからは相変わらず何か沈んだものが・・・。

「私は・・・一生懸命逃走中。シグナムが模擬戦ってしつこくて。確かに私だってシグナムと戦うのは好きだけど、だからと言ってこうしつこいと・・・ウザいかも」

「そ、そうなのですかー。大変ですねーシャルさん・・・」

道理で疲れた顔をしていると思ったです。シグナムはシャルさんと純粋な剣の腕をいつも競いたがってます。それに付き合わされるシャルさんのことも考えてほしいですねー。シャルさん。うちのシグナムが大変ご迷惑をおかけしてますです、ごめんなさいです。

「でもルシルの槍の腕前を教えたうえで、ルシルの方にも模擬戦を申し込んでくれるようシグナムに頼んだから、少しは私に来る回数が減るはず・・・よかったよかった」

シャルさんのその言葉に数秒間の沈黙が流れたです。そしてその沈黙を破ったのはシャーリー。

「・・・シャルさん、ルシリオンさんを売ったんですね」

「・・・テヘッ♪」

「ルシルさんも、大変ですねー」

シャマルに頼んで胃薬を用意してもらうです。

†††SideリインフォースⅡ⇒ルシリオン†††

私は大してやることもなく、訓練場の見える岸へと来た。ここでの私の仕事は、医療班の班長で主任医務官であるシャマルの補佐と遊撃戦力だ。しかし今はどちらからも必要とされているいうわけじゃない。だから、たまにこうして訓練場の見える場所へと赴いている。

「ん? 今日は先客がいるようだな」

そこにはすでに先客2人が居て、フォワード陣の訓練模様をモニターで見ていた。

「シグナム、ヴァイス、君たちも暇そうだな」

「お、ルシルじゃねぇか。つか暇ってなんだよ。俺だって忙しいっつうの」

「暇をしているのではない。こうして訓練を見守るのも仕事のうちだ」

シグナムの返答には納得だが、ヴァイスに関してはまず暇をしているのは間違いない。まぁヘリのパイロットなんて出撃以外はほとんど待機状態だ。忙しそうにしろ、というのもかえって酷なことか。

「フォワード陣の訓練の様子、か」

私も合い席させてもらい、あの子たちの訓練様子をモニター越しで眺める。映っているのはヴィータの一撃を受けながらもバリアを破壊されなかったスバル。しかし踏ん張りが足りなかったのか弾き飛ばされている。足腰を鍛える必要あり、だな。
そしてフェイトの教導による回避訓練を行っているエリオとキャロ。まずは基礎を重点的に教え込んでいるようだ。まだ幼い2人だから当然のことか。そしてなのはとティアナの精密射撃の訓練。狙いや動きはまだまだ甘いが、それでもなかなかの腕をしている。しかしこうして訓練の様子を見ていると、人間だった頃を思い出してしまうな。

「どうしたセインテスト、そんな難しい顔をして」

「いや、何でもない」

シグナムにかぶりを振ってそう答え、ゆっくりと自分の両手を見る。私としてもああして誰かに教える立場になったことはある。だが、それはなのは達とは違い、教授していた技術はすべて完全に人を殺すためだけのものだった。

「それにしてもいいっすね。若い連中は・・・」

「若いだけあって成長も早い。そうは言ってもしばらくは危なっかしいだろうがな」

ヴァイスとシグナムの会話に現実へと引き戻される。最近はこんなことが多々ある。しばらく過去の記憶を遮断しておいた方がいいかもな。いや、それは逃げだ。私に、立ち止まる、振り返る、逃げる、という選択肢は無い。あってはならない。

「さて、話は変わるがセインテスト、暇なら私と少々付き合え」

「シ、シグナム姐さん・・・?」

シグナムの言葉にヴァイスが目を見開き、だらしなく口を開けている。おそらく、付き合え、という言葉に反応したんだろうが、絶対にそういう意味じゃない。

「仕事か何かか? 私に許されている限りでの――」

「模擬戦だ」

「はい?」

いつの間にやら“レヴァンティン”を手にシグナムが私を見据えている。ヴァイスは笑いを堪えながら手を振っている。さよならお達者で、と言いたいのかこの野郎。

「すでに主はやてには模擬戦の許可は取ってある。昼休憩までの残り1時間、私と模擬戦をしてもらおう」

「いや、少し待ってくれ。訓練を見守るのも仕事と言ったよな。だったらこのまま――」

「模擬戦は大切なことだ。何せ私が出撃()ることはなかなかないからな。腕を鈍らせないようにするには、それ相応の相手と競わねばなるまい?」

“レヴァンティン”の切っ先を私に向けながら微笑みを浮かべるシグナム。なるまい?じゃないぞ、おい。相応の相手って、シャルがいるだろうに・・・。

「それならシャルの方がいいんじゃないのか? 私のような砲撃支援タイプではつまらない戦いになると思うが・・・」

「それなら問題ない。お前が槍の使い手としてかなりの腕を持っていることは聞いている」

槍の腕前を聞いているって、そんなこと知っているのはシャルだけのはず・・・。そこまで考えてようやく理解した。

「私を売りやがったなシャルロッテぇぇぇーーーーーーッッ!!」

シャルはシグナムに模擬戦をするように言い寄られていた。それはシャルの剣の実力をシグナムが高く買っているからだ。当然だ。シャルは生前、我が義姉である風迅王イヴィリシリアと並ぶ最強とされた剣士だ。当時の体型に戻ったシャルの今の剣士としての腕は、現代の次元世界においてはおそらく最強だ。
まぁそれは置いといて、そんなシグナムから解放されるにはどうすればいいか。決まっている、身代わりを用意すればいいだけのことだ。しかもそれが自分に匹敵する実力者と言えば、シグナムも乗ってくるだろう。それで白羽の矢が立ったのが私、というわけだ。やってくれるあの女。

「おいおいルシル、そんなことを言うもんじゃないぜ。きっとこれはシャルさんの心遣いだよ。羨ましいね、シグナム姐さんと模擬戦なんてよ」

口を押さえながらヴァイスがそう言うが、どんな心遣いだよ!?というか、そんなに今の状況に陥っている私がそんなに可笑しいのか!? なんなら代わってやっても良いんだぞ。

「そういうわけだ。場所も確保してある」

「そういうわけってどういうわけだ!?」

最早聞く耳持たずといった感じでシグナムが私の襟首を掴む。

「なにすぐだ。少し相手をしてくれるだけでいい」

「そんじゃなー!」

くそっ、良い顔で手を振りやがって。覚えていろヴァイス・グランセニック。
このあと私は、模擬戦という名のイジメを受けた。あそこまで全力で襲いかかってくるとは。なるほど。シャルが逃げたくなる気持ちも解る。模擬戦好きでも毎度ああも本気で来られると、少し引きたくなるよな。

†††Sideルシリオン⇒はやて†††

「何やお疲れのようやなぁルシル君」

108部隊の隊舎へと出掛けようと準備し始めたところで、隊舎の出入り口から戻ってきたシグナムとルシル君とバッタリ会う。シグナムの方は何や満足そうな顔しとるけど、ルシル君の方はえらい疲れようや。ルシル君は「まぁ、ちょっとな」って首をコキコキ鳴らす。

「主はやて、外回りですか?」

「え、うん、そうや。108部隊にちょっとな。それにしてもシグナムとルシル君の2ショットって珍しいけど、何しとったん?」

なんとなくやけど予想は出来る。模擬戦の相手がシャルちゃんやなくてルシル君やったってことや。そういえばシャルちゃん、隊舎内をコソコソしとったけど、こういうことやったんやね。ルシル君を売っちゃったんやなぁ~。ご愁傷さまや、ルシル君。あと、うちのシグナムがご迷惑をかけしております。

「フライハイトに代わりセインテストに模擬戦の相手になってもらいました。セインテストはフライハイトの言っていたとおりの実に腕のいい槍の使い手でした」

「シグナムがそこまで褒めるなんて珍しいですねー。ルシルさんって、そんなに槍を使うと強いのですかー?」

リインが首を傾げながらそう訊いてる。それは私も気になるなぁ。ルシル君が“グングニル”を実際に使って戦っとるとこは見たことない。

「ああ、強い。何故今まで槍を使わなかったのか信じられないほどにな。あの戦いの最中にセインテスト本来の射砲撃戦法が加わると、おそらく近接戦でも私は苦戦しそうだ」

私たちの視線を受けて、ルシル君がようやく反応。虚ろやけど、ほんまに大丈夫やろか? うつ病とか発症したりせぇへんよな?

「アレは――グングニルはデバイスではなく、正真正銘の生命を傷つけるための武器だ。だからそう易々と使ってはいけない。今回のシグナムの模擬戦でも使うつもりはなかったが、どうしてもって頼まれたから魔力で刃をコーティングして、殺傷性を限りなく少なくしてから使わせてもらった」

「そのおかげで私は大きな傷を付けられることがなかったが・・・。しかし勿体ないな。あれほどの槍術が常に使えないのは・・・」

シグナムは模擬戦のことでも思い出しとるんか腕を組んで「むぅ」と唸る。ルシル君たちの使う神器とゆうのは、どれも質量兵器に抵触してしまう代物や。だからこそ、そんな容易く公に出せるものものやないし、それに能力からして下手するとロストロギアに認定されてしまうかもしれへん。

「それ以前に私はどちらかと言えばなのはと同じ砲撃戦タイプだ。グングニルの使用はまずない。だからデバイスは必要ない。それに、シグナムのそれは単に私と模擬戦したいだけからだろ?」

ルシル君はそう言って、やれやれといった感じで肩を竦めて首を横に振った。

「む、確かにそれもあるが、槍のデバイスを持つエリオに何かしら教授できることがあるかもしれんだろう?」
 
「あぁ確かにそうやなぁ。同じ槍使いなら通じるものもあるやろし。ほんならルシル君には、シャマルの補佐の他にエリオの教導にも参加してもらおか」

ルシル君はかつて本局の医療局で、シャマルの補佐として働いとった時期もあった。だからこの六課でもシャマルの補佐として動いてもらってる。そこにエリオの教導を追加。以前の部署兼任してたルシル君からすれば大して問題にはならんやろ。

「了解した、八神部隊長」

「ん。それじゃ私とリインは出掛けてくるな。あ、そやそやルシル君、ナカジマ三佐のトコやけど、何か伝言とかあるか?」

数日前にルシル君がナカジマ三佐たちと知り合いやって初めて知った。だから何か伝言あるか聞いてみたんやけど・・・

「ん~、元気にやってますっと伝えてくれ」

「そんなんでええんか?」

あまりに質素すぎな伝言に私は聞き返した。ルシル君は「下手な言い回しよりかはマシ」って言うて笑った。

「まぁそれでええんならそう伝えとくわ」

私もルシル君に笑みを返して、その場を後にした。

†††Sideはやて⇒シャルロッテ†††

シグナムから散々逃げ回ってお昼となった頃、私は訓練を終えて食堂へとやって来たフォワードのみんな、そしてシャーリーと一緒に昼食を摂っていた。

「そういえば気になってたんだけど、スバルの名前の響きからして、もしかして日本・・・地球の島国なんだけど、何か関係とかあるの?」

「あ、はい。ウチのお父さんのご先祖さまがいた世界みたいなんです」

「へぇ~、なるほどね」

世界って思っていたより結構狭いのね。それにしてもなのはといい、はやてといい、地球にはやっぱり何かあるのかも?

「そう言えば、エリオの出身ってどこだっけ?」

「僕は本局育ちなんで・・・」

「管理局本局? 住宅エリアってこと?」

スバルの何気ない質問が空気を一変させた。唯一その空気に気づいていないスバルは会話を続ける。

「本局の、特別保護施設育ちなんです」

すべては後の祭り、スバルの顔が“しまった”というものに変わった。それを察知したのか、エリオが必死にスバルのフォローに入る。私はそれを聞きながら山盛りのスパゲッティを頬張っていると、私の――守護神としての感覚器が六課隊舎付近に招かれざる訪問者を捉えた。

「っ!」

魔力云々の存在感ではなく、概念や神秘といったモノに近い存在感だ。どうやら罪眼レーガートゥスではなく、“ヤツ”自ら来てくれたようだ。わざわざ消されに来たのかしら。

「あの、シャルさん?」

シャーリーが私の様子に気づいたのか声を掛けてきてくれたけど、今の私には届いていなかった。スパゲッティを無理やり水で胃に流し込みながら「ごめん、やること出来たから先に失礼させてもらうね」席を立つ。

「あ、はい」

みんなからの戸惑いの視線を背に受けながら、私はルシルとリンクで連絡を取る。

『ルシル、今どこ!?』

『シャル!? 君が私を売ったから、私がシグナムの標的にされただろうが!』

『バカっ! 気づかないの!? 周囲探査!』

今はそんな話をしている時間はない。だから怒鳴るようにしてルシルに六課隊舎の周囲を確認させる。

『これは・・・了解した。昼休憩終了まで残り20分、か。それまでに終わらせる』
 
ようやくルシルも気づいたのか、意識を戦闘モードに移行したのがリンクを通じて判る。私も意識を全て“ヤツ”へと集中させて、六課隊舎から人知れずに出撃する。なのは達に連絡はしない。連絡して仮に出撃させたとしても人間では勝てないからだ。私は“ヤツ”と戦うために“界律の守護神テスタメント”の能力・“干渉”を使おうとして・・・・気づく。

「え? あれ? うそ・・・干渉が・・・使えない?」

それだけじゃなくて、このミッドチルダの“界律”からも何も言ってこない。今更そんなことに気づくなんて私もどうかしている。なのは達との再会に浮かれ過ぎてた。それにこれじゃまるで“界律”が“ヤツ”の存在を認可しているみたいだ。

「シャル!」

「ルシル・・・干渉が使えないし契約要請も来ない」

私の元へと走ってきたルシルに振り返った。私の言葉を聞いたルシルは、今更か?みたいな顔をして溜息を吐いた。

「おそらく今の“ヤツ”が体を分けた状態になっているからだと私は推測している。それゆえに界律は“ヤツ”を危険な存在だと認識していないのだろう。まぁ、ミッドの界律も“ヤツ”を危険と判断したら、私たちに契約を求めてくるはずだ。そうなったら干渉を使って、分裂体を残らず消滅させてやればいい。それでクリアだ」

そういうことか。認めているんじゃなくて、まだ危険と判断していないわけね。というかよく“界律”に引っかかることなく次元世界に来れたものだ。始めっから分身体で訪れたのかもしれないな。

「まぁこうなっては干渉なしで戦闘するしかない」

「うん。ルシル、創世結界に取り込める?」

「・・・ああ、“ヤツ”を確認次第、英雄の居館(ヴァルハラ)に取り込む。そこで一気に決めるぞ、シャル」

「結界内部で異界英雄(エインヘリヤル)との共闘で瞬殺、今打てる最高の手はそれだね、了解だよ」

本当なら干渉を使って閉じ込めた領域で戦うのがベストだけど、使えないのならルシルの創世結界に取り込むしかない。私たちは“ヤツ”の反応が途切れない場所へと歩みを進めたんだけど、「ここ?」たどり着いたのは自然の多い公園。人も疎らに居て平和そのものといった感じだ。そして “ヤツ”の反応は未だにこの公園内にある。

「あの、お姉ちゃん、お兄ちゃん・・・」

「「っ!」」

振り返ってみると、そこいたのは幼い少女が1人。ルシルと一度顔を見合してから、その少女と視線を合わせるためにしゃがみ込む。そして気づいた。この子から“ヤツ”の神秘を感知できる。だけどこの子は人間だ。

「どうしたのかな? お姉ちゃん達に何か御用かな?」

女の子は、私とルシルの頭――正確には髪の毛を見て、「水色と銀色・・・うん、お姉ちゃん達のことだ」って勝手に納得。髪の色がどうかしたのかな? よく判らないけど、まずは話を聞かないとね。

「あのね、お姉ちゃん達が来たら、これを渡してほしいって赤いお姉ちゃんが言ってたの」

赤いお姉ちゃん、か。“ヤツ”の分裂体の中にはいなかったはずだ。おそらく私が知らないうちに代替わりした新入りだろう。まったく、どれだけ消滅させても次々と湧いて出てくる面倒な“ヤツ”だ。ゴキブ○かよ。

「ありがとう♪」

「うん!」

女の子は私の感謝に頷いて走り去っていった。あの女の子から受け取ったのは、小型の受信専用の通信機。

「どう思う、これ?」

「どうもこうもハッキリと“ヤツ”特有の神秘を感知できる。コールが来るまで待つしか・・・っと言ってる側から、か」

通信機から鳴り響く呼び出しコール。そのタイミングの良さから見られているんじゃないかってルシルが周囲を探査している。私はそれを横目にコールに応えて通信を繋ぐ。

『お初にお目に掛かる』

小型のモニターが現れて、1人の男がそう挨拶をしてきた。ルシルもモニターへと視線を移してその男の顔をじっくりと見る。この男は・・・違う。“ヤツ”でもなくその分裂体でもない単なる人間だ。だけど繋がりがあるのは間違いないはず。

「何者だ?」

『失礼。私の名は、ジェイル・スカリエッティ』

聞き覚えのない名前だけど・・・。私の隣でルシルが難しい顔をしてる。知っているけど思い出せないって風だ。

「・・・で? そのスパゲッティが何の用?」

「『・・・・・・』」

沈黙。しまった。素で間違えた。さっきまでスパゲッティを食べていたから、響きが似ているせいで本気で間違った。

「コホン――で? そのスカリエッティが何の用?」

さっきの事を無かったことにして言い直す。

『・・・いやね、君たちと一度話をしたいと思っていたのだよ。本当ならこちらに招いてゆっくりと時間をかけて話がしたかったんだが・・・』

スカリエッティは何も言わずに本題に入ってくれた。何気に良い奴なのかもしれない。で、スカリエッティの意識はしっかりしているみたいだ。どうやら操作されているというわけではなさそう。

「広域指名手配中の・・・一級捜索指定次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティ、だな?」

ルシルは確認するかのように告げた。広域指名手配、しかも一級捜索指定の次元犯罪者って・・一体何したのコイツ。

『私のような者を知っていてくれるとは嬉しい限りだよ、4th・テスタメント君』

確定。この男は“ヤツ”らの内の誰かと繋がっている。そして私たちのことを聞いているんだ。わざわざ自白するようなことを言って何を考えてるんだろうね、コイツ。

「ガジェットを製作して、レリックを集めているのも貴様だな?」

ルシルは“ヤツ”らの情報を引き出すんじゃなくて、敢えて“レリック”関連から攻めてく。ここはルシルに任せておこうかな。ジェイルとかいう男は『その通りだよ』ってアッサリと認めた。その表情と目からウソではないことは判る。もしこれが演技だとしたら大した役者だ。

「意外と簡単に白状するんだな。自分の首を絞めるようなものだと思うが・・・」

『いやいや、そちらの執務官は優秀だからね。おそらく私の残した手掛かりを見つけ、今頃私が関与していることに気付いているかもしれないよ?』

手掛かりをわざと残したってわけか、随分と挑発的な行為ね。この男はよほど自己顕示欲が強いみたいだ。こういうタイプは自滅しやすい。私が思うにスカリエッティの側にいるのは、“許されざる傲慢ルシファー”か、もしくは“許されざる強欲マモン”のどちらかだろう。私がスカリエッティに抱いた印象からそう考える。

「そうか、ならその話はもういい。さて、これからが本題だジェイル・スカリエッティ。今すぐその場所を教えろ。すぐさま貴様の傍にいるであろう大罪――ペッカートゥムを消す」

“大罪ペッカートゥム”。それが罪眼レーガートゥスの主の名だ。ルシファーもマモンも、“ペッカートゥム”が7つに分裂した際に独立して活動する、概念存在の1体だ。

『それは困る。彼女たちの知識にはとても楽しませてもらっているからね。それに、協力関係である以上は私も彼女たちを守る義務があるのさ』

「協力だと? くく、はははは。何を馬鹿なことを。貴様は単に利用されているだけに過ぎない。後悔する前にペッカートゥムと手を切れ。そして大人しく投降しろ。これは貴様の為にも言っている」

モニター越しにでも判るだろう濃い殺気を放ちながら、そう警告するルシル。対するスカリエッティは動じることなく話を続ける。
 
『断る、と言ったら君たちはどうするんだい?』

「力尽くで見つけ出し、そのうえで力尽くで滅ぼさせてもらう」

『出来るのかい? 世界からの許可がないと、界律の守護神テスタメントとしての力が使えないのだろう? そんな状態で本当に勝てるのかい?』

まぁそれくらいのことは聞いているよね、やっぱり。だけど残念。勝てるんだなぁ、これが。分裂している今なら、私とルシルの持つ神器で対抗できる。それに本来の姿“ペッカートゥム”に戻ったりしたらミッドの“界律”から契約が来るだろう。この世界の敵、“ペッカートゥム”を今すぐに滅ぼせ、と。そうなったら“界律の守護神(わたしたち)”の干渉で容易く滅ぼされることになる。どちらにしても、分裂体であろうと真の姿であろうと私とルシルには敵わない、ということだ。

「どうだろうな。やってみないことには判らないが、たとえ勝てないとしても戦わないわけにはいかないだろう? それが界律の守護神(わたしたち)の役目なのだから」

敢えて勝敗が判らないと誤魔化すルシル。まぁご丁寧に教える必要もないか、“どちらにしても勝つのはこっちです”なんて。

『それは残念だ。なら・・・っともうこんな時間か。もっと有意義な話がしたかったのだがね。すまないね、今日はこのくらいにしておくよ。またこうして話し合える日を楽しみにしているよ、3rd・テスタメント君、4th・テスタメント君』

モニターが消え、私とルシルは一言も話さずにしばらくそのままでいる。おそらくこの通信機が繋がることはないだろうけど、一応はやて達に調べてもらおう。

「ルシル、ペッカートゥムを倒すことが本契約だと思う?」

自分で言っておいてそれはないな、とは思うけど一応確認。

「ヤツ一体だけなら私たち“テスタメント”の中でも最弱とされている第五の力(マリア)1人で十分だ。わざわざ第四の力(わたし)第三の力(シャル)が呼ばれることはないだろう」

「そっか、そうだよね」

大罪ペッカートゥム。“絶対殲滅対象アポリュオン”において最弱の番外位とされる概念存在。そんなヤツ相手に私は兎も角、最強のルシルが呼ばれるはずがない。ならやっぱり、本契約の内容は・・・・。

「とにかく今は帰ろう、シャル。昼休憩が終わるまでそう時間はない。遅刻でもしたらシグナムから何を言われ・・・もとい何をされるか判らない」

「お疲れ様、ルシル。大変だね~」

「よく言うよ。私を売ったことに対する罰は受けてもらうからな」

そして私とルシルは六課隊舎への帰路に歩を進めた。この夜、隊長陣の会議に参加させてもらい、この日起こったことを話した。まぁ守護神云々はもちろん黙っていたけど。
そしてスカリエッティの言っていた通り、フェイトはガジェットから手掛かりを発見、スカリエッティへと辿り着いていた。首謀者をジェイル・スカリエッティと断定して、今日の会議はお開きになった。
 
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