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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
麻帆良編
  導入編 第7-M話 麻帆良という街

「「いただきます」」
卓上には刹那が作ってくれた日本風の朝食が乗っている。

昨日の晩は刹那につい余計な本音を言って泣かせてしまった。
その結果、なぜか刹那は私を千雨さんと呼ぶようになったので私も刹那と呼ぶことにした。

「千雨さん。昨日はありがとうございました、おかげで前に進めそうです」

本当に刹那のように人を殺す事をあそこまで悩める感性というものがうらやましい。
それは私があの街で生まれなおした時に粉々に砕いて捨て去ってしまった物だから。

「それはよかった。だがな、私はお前が殺したっていう外道に近い生き方をしてきた、だから私を目標にはするなよ」

私の言葉によって『ではなく』、抱えていたものを吐き出してしまったことによって、刹那は前に進み、人を殺した事と向き合って前に進んでいくだろう。
その結果、どこにたどり着くか、私は知らない。ルームメイトになった相手にちょっとした助言を与えただけだ。
そしてそれは気まぐれの親切心…でもあるが、それだけではない。

「それは…はい、人を殺すことが草むしりと大差がないとおっしゃる以上、きっとそうなんでしょうね。
それでも、私は貴方のおかげで悩みを抱えたままでも、前に進むことを選べたと思います。だから、ありがとうと言わせてください」
本当に、『殺すことに慣れる必要すらなかった』からな、私の場合は。

「そうか…なら、『私の世界』で言われる言葉を贈らせてくれ」
『The gunman who can't select snuffing from calculation is buggered.(『計算に基づいて殺す事を選択する事』ができないガンマンはオカマ野郎だ。)

However, the person shoot on feeling is just heller.(しかし、気分で撃つ奴はただの厄介者だ。)』
「まあ、意訳するなら…感情で殺すな、でも殺すべき時には殺せ。って所かな」
大分マイルドなニュアンスで訳してあるが、言いたいことは伝わるだろう。

悩みを抱えて鉄火場に立ち、とっさに刃先が鈍って刹那を死なせる結果となられると目覚めが悪い、と言うのもある。
この言葉を飲み込むか、参考にだけするか、無視するかは刹那が決める事だ。
ただ、感情のままに殺してしまったと言う刹那にはきつい言葉かもしれない…わざとだが。

「感情で殺してはいけない…」
案の定、落ち込んだ顔をしている。

「組織にとって、戦闘員の存在価値は戦う事だ。
ゆえに、戦うべき時に戦う事、そしてその結果として殺す事ができないなら意味はない。でも、好き勝手に戦われちゃあそれは厄介者でしかない、って意味なんだ。
だから、刹那がした事は客観的に見て戦いの延長だから責めるに値しないと思う。
ただ、刹那の主観として余裕をもって捕縛できるのにあえて殺した、っていうなら、万一逃亡される事を考えたとか、奥の手を警戒して、って事じゃないんなら良い事じゃあないかもな。
間違ったと思うなら改めればいい、誰だって間違う事はある。過去は消せないが今と未来はこれから選べる。
それに悩んでもいい、それは自然な事だ。でも、それで刃を鈍らせるべきでもない、前を見るべきだ、やらないといけない事があるならなおさらな」
「はい、ありがとうございます、千雨さん」
刹那がすごく私を尊敬を含んだ眼差しでみつめてくる…
これ、ごくごく初歩的な人心掌握術というか洗脳術なんだが…見事に引っかかってないか?

…私は外道に近い生き方をしてきたといったよな?刹那さん。





朝食を済ませた私達はお互いにする事があるから、とそれぞれ麻帆良の街に繰り出していった。
予定では夕方に合流し、今日もマナと刹那と三人で夕食にする予定だ。

服装は私服、ジーンズに薄紅色のパーカー、それにショルダーバック。今日も目的は私というアンブレラの窓口ができた事を客となる魔法関係者に知らせる事と探索だ。
この都市の支配者から公認をもらっているとはいえ、まさか露店や屋台を出して武器を売るわけにはいかない…カバー店を出せる身分でもない限り。
挨拶周りとか営業がなかったとは言わないが、普段は好きに過ごせていたのって本当に恵まれていたと感じる。

「すいません、少し聞きたい事があるんだけど、いいかな?」
そんな具合で商店街を歩いているとなかなかに油断できない雰囲気を纏った黒人男性に声をかけられた…客だとは思うが…
武力衝突と武器は何が何でもいけない、と言うガチガチの平和主義者の魔法使いにはうちの組織は受けが悪いからなぁ…
「はい、なんでしょうか」
「贈り物に日傘を探しているんだけど、良い店を知らないかな?」
「いくつか尋ねる価値のありそうな店を見かけましたよ、どういう日傘をお探しですか?」
「そうだね、刺繍の入った日傘、たとえば犬とか猫とか…狼とかの動物の刺繍がしてあるような物とかを」
少なくとも、私が何なのかは知っているのは間違いない。
「なら、思い当たる店があるので案内しますよ、ついてきてください」
「ああ、よろしく頼む」
案内と称して人通りの少ない道に入り、認識阻害を張る。秘密保持ならもう少し路地裏に入るべきだが、何かあった時に一般人を巻き込まないという魔法使いの最低限のルールとやらを利用する頼るためだ。

「さて、何をご所望でしょうか」
「ああ、9mmパラベラム弾規格の弾丸をいくつか買いたいんだけど、取り扱ってるかい?」
「ええ、魔法式の物に限れば問題ありません、基本的な物に関しては本日中にご用意できます。
銃関係の商品の販売にあたっては関東魔法協会との協定により身分証と許可証の提示をお願いしているのですが、よろしいでしょうか」
ここで提示できないなら注文の方向性だけ聞いて協定の範囲外で活動するエージェントに取り次ぐしかない。

「そうだったね、ほら」
そういって彼が提示した身分証明は職員証だった、許可証も問題ない。
「関東魔法協会所属のガンドルフィーニ先生ですね、失礼します…はい、確認しました、ご注文を」
むしろ、ちゃんと規則を守ってるかという査察の可能性があるな、こりゃ。

「では、9mmパラベラム規格の第1級通常弾を500発、電撃麻痺弾を100発もらえるかな」
「了解しました、第一級通常弾が100発入りケース5つで2万5千円、電撃麻痺弾が100発入りケース1つで1万5千円、合計4万円です。
引き渡し方法はどういたしましょうか、今すぐにでもお渡しできますが」
「そうだね、ならば今すぐうけとろう」
「では…そうそう、許可証はご覧になりますか?」

そういいながら、ショルダーバックに手を突っ込んで小さめの紙袋を取り出す。

「いや、いいよ。まあ、そのうちちゃんと携帯しているかの確認で見せるように言うかもしれないけどね」
「はは…気を付けます…では」

紙袋を広げ、右手を突っ込むとつぶやくように詠唱する

『サリッサ・フラメア・ハルバード
わが右腕の前に開け、扉よ。識別名『販売用魔法式弾薬庫』』

紙袋の中(正確には右手の前)に魔法陣が浮かぶ。

手をその魔法陣に突っ込むと中のイメージが脳に送られてくる…さらに詠唱を続ける。

『来たれ、9mmパラベラム規格第1級通常弾5ケース、電撃麻痺弾1ケース』

手にこつんと物が当たる感覚…手を引き出すと紙袋の中に6つの弾薬ケースが落ちた。
それが確かに目的の物である事を確認する…間違いない。

『扉よ、閉じよ』

魔法陣を閉じてガンドルフィーニ先生に紙袋を差し出す。

「お待たせしました、ガンドルフィーニ先生、ご注文の品です、ご確認を」
「うん、代金だよ、確認してくれるかな」
商品と代金を交換してお互いに目視で正しい事を確認する。

「うん、確かに注文通りだ」
「はい、こちらも代金を確認しました、またよろしくお願いします」
そういって軽く会釈する。

「そうだね、また何か買うとおもう…それと」

彼は真面目な顔と声色で話し始めた。

「私は正義の名の元に行われる事の全てが本当に正しい、とは思っていない。
全体的に見て、最も合理的に悲劇を軽減する方法が必ずしも正義ではない事も知っている。

君が暮らしてきた『あの街』の事も、君達がそれをよしとする『名目』も承知してる。
当然、君たちの掲げる『理念』の価値も理解している…方法論には賛同できないがね。

だが皆がそうではない、どんなに役に立とうとも『あんな街』は消してしまうべきだし、
どんな理由があろうと武器の密売など言語道断だ、と言う考えの方があの街の存在を知る者の中でも一般的だ。

魔法の秘匿と言う大原則がなければ、いったいどれだけの魔法使いが君達の牽制を無視してあの背徳の街に殺到するか分かったものじゃないし、君達を潰したくてしようがないという連中も掃いて捨てるほどいる」

驚いた、この街にここまで言う人がいるとは。

「君達アンブレラは、特に直接武器を売るエージェントはこの街では良い目で見られない。

よく覚えておくといい、この街には君たちの味方はほとんど居ないと言う事を」

「…貴方はどうなんです?Mr. ガンドルフィーニ」

あえて高笑いするという選択が頭をよぎったが、一応心配してくれているらしい相手にそれはない。

「さあね、私は君の事を資料以上に知らない、故にそれを断言する事ができないよ。
ただ、私は教師だ、君の味方でいることができるならそうしたいと思っているよ」

私が何も言わないのを確認するとガンドルフィーニ先生はまた最初のような表情に戻っていった。

「またね、長谷川君。次も友好的に会えることを祈っているよ」

そう言ってガンドルフィーニ先生は去って行った。

「…一度帰るか」



昼食用にパンとパックジュースを買って部屋に戻るとまだマナは来ておらず、刹那も戻ってきていなかった。
自分の個室に入ると鍵を閉めると、内部から追加で防音・認識阻害結界を張る。
そしてコンピュータの画面を付けて、そこそこ長いパスワードを打ち込む。

すると、ごく一般的なOSのデスクトップが現れる。

そこからいくつかのプログラムを起動させた後、チャット画面を開いた。

そしてそこに『不思議の国のアリスへ(For Alice in Wonderland.)』と打ち込んだ。
すると画面に『お帰り、レイン。出てもいい?』という文字列が現れる。

『ああ、出て来い』

パソコンに向かってそう言うと画面から一匹のネズミが現れる。

『改めてお帰り、レイン。
あと3時間ほどで昨日の21時53分に晩指示された仕事は終わる予定だよ。
アンブレラから特に重要な情報や仕事は降りてきてないよ』

こいつは電子精霊のアリス、アンブレラ社との通信や情報収集、拠点の防諜をさせている。
常時私の携帯にアクセスさせており、色々とさせていたりもする。
今も、それを利用して帰宅途中にアンブレラとの連絡を済ませておいた。

『で、Mr.ガンドルフィーニの情報はあったか?』
『うん、ディスプレイに表示するね』

唐突にPCのディスプレイにガンドルフィーニ先生の情報が書かれた文書ファイルが開く。

『端的にいうと、特に問題のない常連さんらしいよ』
『…そのようだな、良くも悪くも少し優秀な魔法銃士って所か…
高等部の教員…あれ、確かアイシャとエヴァさんの通ってたのって…』
『検索する?』
『頼む、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの情報を再掲示…』

情報を比べると、アイシャ達が高校在学中に同じ高校に赴任して来ている…知り合いなのかも知れない。

『やっぱり…昔、何かあったのかもしれないな…大丈夫だと思うが念のため、アイシャに問い合わせておこうか』

まあ、もっと深度の深い情報を引き出せばいいのだが…まあ、あまりみだりに顧客を疑うと上から怒られる。

『メールソフト起動したよ』

さて、着任報告も兼ねてメールを送ろう。


 
 

 
後書き
前半部のレインと刹那のやり取りですが、一度否定してから気遣いながら肯定するっていう洗脳に近い人心掌握術です。
そして、さりげなく次、同じ事をしてしまった時の免罪符になる『殺す理由』を与えてます。
そうすることで、自分達のような考え方を否定しにくくしているわけです。
もちろん、ルームメイトになった人間が自分の言った事が原因で死んでしまえば目覚めが悪い、と言う親切心(?)もありますが。

ガンドルフィーニ先生は頭がガチガチとか言う意見もありますが、良くも悪くも普通の人なんじゃないかな~と私は思っています。
いやね?学園祭編で超の罠に嵌められたネギ君の主張に耳を貸さなかったとか言いますが、信じる方がおかしいんです、普通。

読者視点では、事実を信じない頭の固い人間に映るかもしれませんが、大失敗(記憶消去に反対し、超を野放しにしたのはネギ、しかも武道大会関係でも…)を犯して行方不明になっていた同僚(後輩?)が、不可能だとされている(初回使用時の刹那の発言)時間逆行ができる、それで万事解決とか言い出したら、自分の責任に悩みすぎで頭がおかしくなったとみなす方が普通でしょう。

エヴァへの評価にしたって、本人も自衛以外にも悪い事したって言ってますし、親しくなければ英雄ナギが麻帆良に封印した元高額賞金首(=凶悪犯)って認識しか持って無いんでしょう。

逆に、それなりに付き合えば(やっぱり悪にしろ)人間性の欠片もないような存在ではない事はわかるかと。

なので、うちのガンドルフィーニ先生はそんなにガチガチの人間ではないです。 
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