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人形の姫と高校生の鬼

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今ある日常-2-

「彼女・・・・・・ねぇ」

帰宅した俺は制服を脱ぎ、鞄を部屋の隅に頬リ投げて、愛着しているジャージに着替えベッドに倒れこんだ。別に欲しくないと思う訳じゃない、極論的に言えば欲しいとは思う。ただ

「彼女作って・・・・・・何になるんだ?別に居なくても困らないよなぁ」

必要性がわからない。皆、何のために恋人とやらを作るのだ?別に恋人がテストの点数を上げてくれる訳でも無いし、遊びに行くなら友達でも良いし、今の関係を1ランク上に上げたからといって何になると言うんだ?

「別にどうにもならないけど、何かが変わらない訳じゃないわよ?」

「そういうもん・・・・・・かぁ・・・・・・!?」

何だ!?今誰かの声が!?

「確かに居なくて困る事は無いけれど、もし居るのであればそれはアナタにとって何より大切な物になるのよ。物理的にも精神的にも、ね」

ずぞぞぞ、とベッドの下から何かが出てきた。怖すぎる!!それは服に付いた埃をポンポンと叩き落としながら立ち上がった。

「エッチな本は無し・・・・・・と、アンタも良い年齢なんだからそういうの一冊くらい持ってた方が良いんじゃないの?友達の輪に入れてもらえないわよ?」

「余計な心配だ!!というか、母さん何で俺の部屋に居るんだよ!しかもベッドの下に!」

「宝探し・・・・・・かな?」

口元に手をあてどこぞの探偵の様に呟く我が母親様である。探偵というよりは明らかに泥棒としか思えない。

「ま、ウチがこんなんだから実感とか湧かないのかもしれないけどさ。でも自分の相手が居るって言うのはとても恵まれた状態なのよ。・・・・・・下へ来なさい、ご飯の準備手伝って頂戴」

「へいへい」

母さんが部屋の外に出て階段を降りて行くのを確認し俺も自室から出た。

「ベッドの下は危険・・・・・・いや今日チェックが入ったから逆に安全か?」

一度油断すれば、それは一瞬にして(社会的な)死へ向かう。改めて今自分がいる家庭と言う場所の恐怖を理解した俺であった。


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ウチは母子家庭であり、俺の母さんは一般的にシングルマザーと言われる部類に入る。ただ、別に離婚しただとか父親側が逃げたと言う訳では無い。・・・・・・俺が生まれた直後から行方不明なのだ。母さんはあまり話したがらないが、どうやら仕事中に何らかの事故に巻き込まれたとかで父さんの他に数名、同じ様に行方不明になった人がいるそうだ。俺が生まれて間もなかった為、家族全員で取った写真は無く、生まれた直後の俺を抱く母さん、そして別の写真に写った父さんの写真が貼り付けられた継ぎはぎだらけの「アート」の様な物がウチの唯一の集合写真だ。

「あ、母さん、明日ちょっと仕事関係で遅くなるから先にご飯食べててね。私は多分会社の付き合いで食事になると思うから」

「了解」

母さんはとある建築会社で事務をしている。大体定時で上がってくるのだが取引先との話し合いとかでたまに帰りが遅くなる事があった。色々負担はあるが、そこは児童扶養手当とか色々駆使しているらしい。

「あ、それと」

「うん?」

「最近、ここら辺で事故・・・・・・いや喧嘩かな?なんかパトカーのサイレンがよく聞こえるんだけど学校で何か聞かない?」

「喧嘩・・・・・・喧嘩が好きそうな教師なら居るけど」

「もうっ、そういう事言わないの。お世話になってるんでしょう?」

うへぇ、なんか数時間前に同じ事誰かに言われた気がするぜ。

「大丈夫だとは思うけど、危ない事だけは止めてね?アナタ結構喧嘩っ早いんだから」

「わかってるよ」

夕飯に出てきた味噌汁を啜りながらそんな会話をしていると

ファンファンファンファン!!とパトカーのサイレンが聞こえてきた。

「あら・・・・・・随分近いわね」

「物騒な世の中になったもんだね」

「・・・・・・そうだ。はい、一鬼これあげる」

母さんは自分の横に置いてあった自分の鞄から何かを取り出し俺に放って寄こした。どうやらキーホルダー・・・・・・というよりストラップ的な物の様だ。白い糸が編みこまれ輪となり金色の鈴が付いている。

「同僚から貰ったの。それ持ってると運が良くなるんだって。なんか良い事起きるかもよ?」

「ふぅん?まぁ貰っておくよ。ただその同僚さんは変な通信販売とかにはまってる訳じゃないよね?」

大体にして運気を上げる~~系は眉唾モノが殆どだしこれも布教活動の一部!とか言う人の物だったら速攻捨ててやる。

「多分・・・・・・大丈夫じゃないかしら。まぁ物は試しよ、少し持ってて見なさいな」

ご馳走様、と自分の食器を片付けて台所に持っていく母さんを見ながら

「良い事ねぇ・・・・・・一体何が起こるのやら」

その言葉に応えた様に、ストラップの鈴がチリンと鳴った。

 
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