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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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ALO
~妖精郷と魔法の歌劇~
  蠢く闇 the road of future

埼玉県所沢市────その郊外に立つ最新鋭の総合病院。小日向蓮という少年と、結城明日奈という少女が静かに眠っている病院だった。

陽がとっくに落ち、屋上のヘリパッドに設置された蒼い誘導燈が、黒々とした暗黒の城を彩る鬼火のように明滅している。

一際高い門柱に守られた正面ゲートは、高度医療専門の機関ゆえに、この時間ではすでに硬く閉ざされ、ガードマンの詰めるボックスも無人だ。

駐車場には黒色のワゴン一台しか停まっていない。ただただ、一定の間隔を開けて配置されているナトリウム灯が、天から降り注ぐ大粒の雪をオレンジ色に染め上げる。

それを見上げる一人の男と、一人の女性が駐車場に立っていた。

男の方は闇の中に溶け込めるほどに漆黒の白衣を着ていて、その周囲の時間が止まっているような、不思議な空気を辺りに放出していた。眺めの前髪の奥に伏せられた顔立ちは、見ようによっては少年にも青年にも見えた。

女性の方はライトブラウンの厚いダッフルコートを着込み、肩まで垂らされた黒髪とワインレッドの眼鏡も相まって、知性的な雰囲気を漂わせている。街中ですれ違ったら、普通の女子大生という印象しか受けないだろう。しかし、レンズの向こうにある切れ長の瞳は、殺気だったと言えるほどに鋭かった。

その二人は夜の駐車場という、下手をすれば不審者扱いになる状況下でも、隠れるという素振りをまるで見せていなかった。

まるで最初から、ここに警備員が来ないことが分かっているような。否、確信しているようなほどの冷静さだった。

と、唐突に女性が右手を上げ、耳元の辺りを押さえた。

切れ長の瞳が、スッと細められる。

「………………来たぞ。予定通りだ」

その言葉が言い終わるかといった時、沈黙が支配していた駐車場内にギャギャギャギャ!!という不協和音が割り込んだ。

背の高い濃い色のバンが、高い鉄柵に車体を擦らせながら乱暴に入場してくる。

それは、駐車場での停め方とは何ですか?という風に、白線を全て無視して停車した。薄く積もっていたシャーベット状の雪が乱暴に宙に撒き散らされる。

やがて、バンのドアが開き、そこから一人の人影が吐き出された。

それは男だった。

元は丁寧に撫で付けられていただろう髪は激しく乱れ、尖った顎には髭の翳が浮き、ダークグレーのスーツから覗くネクタイはほとんど解けて首にぶら下がっているだけだ。

そして────メタルフレームの眼鏡の奥から漏れる、異様な視線。

左右の瞳はまるで見当違いの場所を別々に向き、瞳孔も細かく震えて全く安定していない。あれでは、ろくにモノも見えないだろう。

震える口元からは、絶えず軋る声が漏れていた。

『ぁ……ダ」メ…クソ「が………なン「で」こんな…コトに」ィ……クソ…クソがァ────!』

意味を成さない言葉の羅列。

どう控えめに見ても、正常な状態であるとはとても思い難かった。

それを二人の人影は静かに見、顔を見合わせて頷いた。

女性が再度右耳を押さえ、短い言葉を放つ。

狛狗(こまいぬ)1から狛狗4、目標を確保せよ」

次の瞬間、男の周りに四人の男が出現していた。

瞬間移動というわけではない。その四人は、ナトリウム灯の支柱の影からゴーストのように現れ、音もなく男を取り囲んだだけなのだ。

しかし、その動きがあまりに洗練され過ぎていて、呼吸が合わされ過ぎていて、人の感覚器官で捕らえられる速度域内での知覚ができなかったのだ。

出現した男達の格好は、一言で表すとどこかの特殊部隊のようだった。漆黒の装甲服に、頭をスッポリと覆う同色のマスク。スキーヤーのような分厚いゴーグルで目元まで完璧に隠した徹底ぶりを見せている。

男達は、たちまちのうちにその異常な男の腕を捩じ上げ、地に伏せさせた。

冷たくなったアスファルトに顔をこすり付けているスーツ姿の男は、もはや理解不能な言語をつばとともにわめき散らす。完全に錯乱状態だ。

ソレに静かに歩み寄った男は、傍らの女性にアイコンタクトを送る。

頷いた女性は、静かに言う。

「狛狗5、HLO366、TRW543を注入」

それに応えたのは、いつの間にか出現していた五人目の黒づくめだった。

装甲服の懐から出した二つの試験管の中身の液体を、注射を使って吸い取る。そして、地に伏せる男の首元に容赦なく突き刺した。

薬液が完全に注入されるとほぼ同時、ガクン、と男の首から力が抜けた。

数秒後、首を振りながら眼を覚ました男の口調からは、狂気の色合いが失われていた。

軽く周囲を見回し、自分を見下ろす二人組────正しくは男の方を見、顔面一杯に驚愕の表情を浮かべた。

「お前…は、小日向……相馬………?なぜ……こんなところに………」

「何故かと問われれば、それはアナタのためですよ。須郷伸之」

「僕の……ため?」

困惑そうに眉根を寄せる須郷伸之と呼ばれた男に、小日向相馬と呼ばれた男ははい、とにこやかに答えた。

しかし、その笑顔を須郷伸之という男は素直に恐い、と思った。

恐くて怖い。

そう、思った。

「要するに、アナタは《世界の闇》に入り込み過ぎたという事です」

「世界の………闇?」

「えぇ、この世界の裏社会、とでも言うのでしょうか。まぁともかく、アナタのしている研究(こと)をよく思わない人達がいるということですよ」

「な………」

絶句した。

世界の闇、というその言葉にも大いに興味を引かれたのだがそれより、そんなことで今こうして自分が地べたに這いつくばっているという事そのものが信じられなかった。

「そんなことのために。僕の………研究は────」

「僕の研究とは言いますが、それこそそれは俺に言わせれば滑稽そのものなんですよねー」

「どういう……ことだ」

精一杯睨みを利かせたのだが、見上げているのでどうしても迫力が出ない。

結果的にそれは、絶望しきった弱者が圧倒的強者に弄ばれているような、玩具にされているようでしかなかった。

そんな中で、男は言う。

小日向相馬は言う。

圧倒的な強者は、言う。



「アナタの研究、『仮想世界下における人の感情誘導及び操作実験』。そんな物は、とうの昔に完成された研究なんですよ」



一瞬、何を言われたのか全く解らなかった。

否、脳がその言葉の意味を理解することを拒否したのかもしれない。

そんな自分は、一体どれほどに間の抜けた表情を浮かべていたことだろう。小日向相馬は、男の顔を面映そうに見ながら、言葉を続ける。

「もう、三年前にもなりますかねぇ。まだ第二世代機であるナーヴギアが発売されていない、第一世代さえもがまだ実験途上の中にあった頃です。俺が計画を立案し、EUのお偉方と協力してやりました。大体二ヶ月ちょいで終わりましたけどねー」

ははは、と小日向相馬は何が面白いのか笑った。

人はそれを、悪魔の笑みというのかもしれない。

「そう思ったらほら、これほど滑稽なことがありますか?アナタは、既に出尽くされた、完璧に紐解かれた方程式を一から解いて喜んでいたにすぎないんですよ」

ガツン、と後頭部をぶん殴られたような言葉。

狂い切っていた頭が、強制的に冷え切らされていく。今まで自分が信じていた世界が、強制的に歪められていく。

バサリ、と顔の真横に物体が落下した。

首を巡らせると、シャーベット状の雪の上にあったのは数十枚の紙束だった。A4コピー紙のそれらには、びっしりと文字の羅列が記されているのが一目見ただけで分かる。

常人には一欠片も解かる事のできない専門用語だけで構成されたそれは、しかし須郷伸之にとっては悪趣味な方程式のようにすらすらと簡単に解けた。

「こ………これは……」

「アナタが必死こいて探していた命題、課題、問題点。全ての答えがそこに書いてありますよ。まぁもっとも、最終目標にされていた兵器転用は難しいという結論に、俺とクライアントも至っちゃいましたがね」

結局、アナタは神にはなれないんですよ、と小日向相馬は言った。

《鬼才》は吐き捨てるように、言った。

次いで、用は終わったとばかりに己の隣にいた女性を振り向き、口を開く。

史羽(あやは)

「あぁ、分かった」

その問答に、須郷伸之は言いようのない不安を掻き立てられる。

口許が、どうしようもなく震えた。

「な、何をする気だ………」

その言葉に答えたのは、女性ではなく小日向相馬だった。

「何もしないですよ。人格面はともかく、アナタの頭脳は貴重な物ですしね。このままアメリカにでも飛んで貰いましょうか」

「そんなこと────ッッ!!」

激昂しかけた須郷の声に被せるように、《鬼才》は言葉を発する。

「拒否権があるとお思いで?それとも、脳ミソだけでフライトツアーをしたいんですか?」

「……………………………………ッッッ!!!」

小日向相馬は言っている。

今すぐ殺してもいいんだぞ、と。

そうして、《鬼才》は傍らの女性に頷いた。

それに頷きを返した女性は、凛と張った声を夜の駐車場に響かせた。

「連れて行け」

途端。

バヂィッ、というささやかな音とともに須郷伸之の意識は綺麗に刈り取られた。

ガクリと力が抜けた成人男性の体を、『狛狗5』と呼ばれた黒づくめが重さなど感じていないような軽快さで抱え上げる。そしてそのまま、近くにあった黒のワゴンのスライドドアをこじ上げた。

その中に須郷を放り込むと、総勢五人の黒づくめは揃ってぞろぞろと乗り込み始めた。

と、その中の一人。

『狛狗1』と呼ばれた黒づくめに、小日向相馬に史羽と呼ばれた女性は声を掛ける。

「後始末は《野良狗(のらいぬ)》に任せ、お前達は目標をGルートで輸送後、待機している《山狗(やまいぬ)》に引き渡せ。その後、予定通りのサーバに《種》をばら撒け」

「了解」

短いその返答と同時、ドアが硬く閉じられる。

軽い排気音を残しつつ発進するワゴンを見つつ、女性は《鬼才》の方に向き直った。

小日向相馬は、ワゴンのことなど見ていなかった。いや、気にも留めてはいないだろう。

彼はただ、少し右上を見上げていた。

つられたように女性がその視線を追っていくと、彼が見ているのは入院棟の方角だということに気が付く。

「……お前に”心配をする”という感情があることに驚きだな」

そう言ってやると、《鬼才》は一瞬何を言われたのか分からない的な表情をし、次いで大いに苦笑した。その口調は、先程までの慣れていない丁寧口調ではなく、いつも通りの砕けた話し言葉だ。

「そりゃまぁ、《弟》だからな」

「感動の再開を見たいのは山々だが、生憎そんな時間はないらしい」

ん?という顔でこちらを見てくる男の顔を見つつ、女性は今無線を通じて入ってきた情報を脳内で整理しつつ告げる。

「《(わし)》と《(たか)》が動き出した。ここは退くぞ」

その二つの単語は、《鬼才》の眉丘にシワを寄せるには容易だった。

してやったり、とは手放しにも喜べずに女性は滅多に見ない男の表情を観察する。

「…………黒峰(くろみね)重國(しげくに)の私設部隊か。ハッ、《世界の闇》に片足を突っ込んでいるだけの老害がイキがりやがって……」

吐き捨てるように言う男に、どこか慰めるような口調で女性は口を開く。

「アレもお前の脚本(シナリオ)のうちだ。そうだろう?」

フン、と小日向相馬は音高く鼻を鳴らす。その様子が、まるで拗ねた子供のようだったので笑いを堪えるのに必死になってしまった。

それを悟られないよう、ぷいっとそっぽを向くその姿もまた笑いを誘う。

「《天才》は大変だな」

「《鬼才》が言うな、バカ」

そんな軽口の応酬とともに、男────《鬼才》小日向相馬は漆黒の白衣の裾を翻す。

その後を小走りで追いかけながら、桑原(くわばら)史羽(あやは)────ALOで、《幾何学存在(ジオメトリー)》の異名を持つ最古参プレイヤーは、クスリと笑った。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!!」
レン「桜散ったなぁ……」
なべさん「花見もできなかったよ、まったく」
レン「と、それはさておいて、何よ今回」
なべさん「うん、いい加減お兄様出したくなったw」
レン「特殊部隊の隊長みたいになってんじゃん。怖いよそんな兄」
なべさん「テーマはひ〇らしのなく頃に!」
レン「テーマとか言うな!」
なべさん「さ、もう少しでALO編も終了!あとに続くコラボ編は誰が出てくるのか!こうご期待ください!」
レン「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください」
──To be continued── 
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