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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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六 胡蝶の夢

軒並み背が高い木立。

その中でも一際巨大な木の根元で、桃色の髪の少女が三人の少年少女に追い詰められていた。辺りは土が掘り返され、激しい戦闘があったことが窺える。
おかっぱの少年が草の上で倒れており、少女の背後にある巨木の洞では金髪の少女と黒髪の少年が横たわっていた。
そんな彼らを庇うように、音忍の少年少女とただひとり対峙する少女。彼女の長かったはずの髪は無造作に短くなっており、桃糸が空を舞っていた。

顔面を血濡れにしながらも凛として佇んでいる少女は木ノ葉の忍び――春野サクラ。


同じ班である黒髪の少年―うちはサスケと金髪の少女―波風ナルの両者は、大蛇丸と名乗る人物に襲われて以来目が覚めない。
倒れた仲間を守ろうと一人決意を固めるサクラ。その矢先に彼女はドス・ザク・キンという音忍に襲われる。
防戦一方だったサクラの窮地を救ったのは、中忍試験前に告白してきたおかっぱの少年―ロック・リー。体術が普通の比でない彼はかなり接戦したが、ドスの音による攻撃により耳をやられ、振り出しに戻ってしまう。

けれど体を張って助けに来てくれたリーを、そして勿論サスケとナルを、サクラは守らねばと傷だらけで立ち上がった。
あれだけサスケのためにと伸ばしていた髪を自ら切って、少女は闘う。

恋焦がれる少年のため、友達である少女のため、自分を好きだと言ってくれた仲間のため―――大切な人を守るために。



我武者羅にサクラはザクの手に噛みつく。ひとえに彼女は倒れている仲間を守ろうという思いだけで闘っていた。
「このガキィ!」
手を噛みつかれたザクがサクラを殴り飛ばす。そのまま攻撃しようとした彼の眼前に、茂みから飛び出した一つの影が立ちはだかった。

「いの……」
「別にアンタを助けにきたわけじゃないけどね~、サスケ君とナルが倒れてるもんだから」
言い訳染みた言葉をサクラに言い放つのは、同じ木ノ葉の忍び――山中いの。彼女はサクラを庇いながら猶も言い募った。
「それに倒れてるナルを見たシカマルが煩かったからね」
「うっせ~よ、いの!………とにかく息はしてるみてえだな」
いのの言葉に、何時の間にか巨木の洞でナルとサスケの無事を確認した少年――奈良シカマルが眉根を寄せながら答える。
そして二人に引き摺られるようにして茂みから飛び出してきたぽっちゃりした少年――秋道チョウジ。

最初は渋っていたがザクの[デブ]という一言で怒りだした彼に続いて、いの・シカマル、木ノ葉の下忍第十班と音忍達の戦闘が切って落とされた。









「ご苦労様。白、再不斬…」

人目につかないだろう薄暗い木陰で、突然声を掛けられた白と再不斬は内心飛び上がった。
「ナ、ナルト君。不意を突かないで下さいよ。ただでさえ気配が薄いのに本気で気配を消されたら全く気づけないじゃないですか」
少々批難の声を上げながら振り向いた白の眼前には、何時の間にかナルトが静かに佇んでいた。
「いや…ちょっと厄介な奴に会ってな…」
白の言葉に、ナルトは珍しく言葉を濁す。彼が気配を消していた理由はつい先ほどまである人物に追い駆けられていたからである。


木の枝から落ち掛けていた赤髪の少女をナルトは助けた。
おそらく巻物を手に入れようとして白か再不斬のどちらかが彼女を昏睡させたのだろう。けれどどうやら彼女の同班の二人は既に巻物を開いてしまったらしく何れも意識を失っているようだ。
規則に反し巻物の中身を見てしまった受験者は、巻物に書かれた口寄せの術式により現れた中忍によって気絶させられる仕組みになっている。
故に白もしくは再不斬は、開けられてしまった巻物を手に入れる事を諦め、少女を木の枝上に置いたまま去ったのではないかとナルトは推測した。
そこでナルトは、第二試験終了時刻まで気絶させられた彼らの傍にいても意味がないだろうと、彼女を『死の森』の入り口付近まで送り届けようとした。
すると気絶するふりをしていた少女がいきなり目を覚まし、ナルトに詰め寄ってきたのである。自分を香燐と名乗り、名前を教えろだのどこに住んでるのかだのと突然聞いてきた彼女にナルトはたじろいだ。
なぜ急にそんな事を聞いてくるのかナルトには解らない。だがあまりにもしつこかったので名前だけ思わず教えてしまった。
それでも勢いよく質問してくる彼女の意図が読めず、逃走を図るナルト。しかしながら感知タイプなのか、通常の者ならば読み取れないナルトの希薄な気配を少女は確実に把握して追い駆けてきた。
そのためやむを得ず、こうして気配を消して振り切って来たのだ。



(なんだったんだ、一体……)
はあと内心溜息をついたナルトは、気持ちを入れ替えるように頭を振った。
「それで巻物は?」
「ああ。これだ」
その言葉に、再不斬が束にした『地の書』を投げて寄越した。同様に白も『天の書』をナルトに手渡す。
「悪いな」
ナルトは受け取った巻物の内から必要な分だけをするりと懐に納めた。
「それでこれからどうする?」
「…二人には木ノ葉の里の宿で待機しておいてほしい。この中忍試験には大蛇丸も参加しているんだ」
「な!?まさか三忍の一人…」
「そう、大蛇丸。あいつにはお前達の存在を知られたくないんだ。だから宿でも接触を避けるためになるべく変化しといてくれ。木ノ葉には前に再不斬が闘った畑カカシもいるからな…」
「カカシか…。もう一度勝負してえが…仕方ねえな」
次は負けねえと意気込む再不斬の様子に白は苦笑する。そして彼はナルトに一礼した。
「承知しました。もし何かお手伝い出来る事があればご連絡ください」

その言葉を最後に再不斬と白、両者の姿は即座に掻き消えた。




彼らの気配が『死の森』から遠退いたのを確認したナルトは、余った束の巻物を口寄せ用の巻物一本の中に納める。すると一抱えもあった『天』と『地』の巻物が瞬く間に一本の巻物に代わった。
それもまた懐に納めると、ナルトは再び気配を消して走りだした。













連携技でなかなかの奮闘を見せた『いのシカチョウ』。そしてリーの同班である日向ネジとテンテンもリーを探しに来たらしく、倒れている彼を見て戦闘に加わろうとした。
ちょうどその時―――。

「サクラ……お前をそんなにした奴は、誰だ?」

下忍とは思えないほどの殺気と禍々しい斑点のようなものを身に纏い、倒れていた少年がゆらりと立ち上がった。
「サ、サスケ…くん…?」
ゆったりとした緩慢な動きでサクラのほうを見た少年――サスケは笑う。待ちに待った恋焦がれる彼が目覚めたというのに、サクラは震えが止まらなかった。
サスケの首筋から伸びる斑模様が、まるで蛇のように彼の半身を覆い尽くしている。
サクラの短くなった髪を見て一瞬目を見開いたサスケはじろりと三人の音忍を睨みつけた。彼の瞳には、うちは一族の証拠である車輪の紋様が浮かび上がっている。

「誰だ?」
「俺だよ!」
サスケの尋常ではない殺気に気づいていないのか、音忍の一人―ザクが嘲笑いながら答えた。途端、射抜くような鋭い視線を向けるサスケ。
ありえないほど膨れ上がったサスケのチャクラに、思わず後ずさるドス。
相手の力量を測れる彼に対し、気づいていないザクが声を張り上げた。
「ドス!こんな死にぞこないにビビるこたぁねえっ!一気に片付けてやるっ」
「よせ、ザク!わからないのか!?」
ドスの制止の声を振り切り、ザクは自身の持つ技の最大級の一撃を放つ。しかし限界までチャクラの込められたその攻撃はあっさりかわされ、何時の間にか背後に回り込められたサスケにザクは吹き飛ばされた。

更に一瞬でザクの両腕を掴んだサスケは、まるでちょっとしたお遊戯を楽しんでいるかのように歪な笑みを浮かべる。
「両腕が自慢らしいな、お前……」
ぐっと尋常ではない強さで腕を引っ張るサスケ。抗うザク。いよいよ腕をへし折ろうとサスケが力を込めたその時。



「ウチもまぜろよ、うちはサスケ」
赤い髪を棚引かせて降りて来た少女がサスケの脇腹を蹴り上げた。







突然の事にサスケの力が緩む。その隙にザクはわたわたとドスの許へ向かった。

「誰だ」
「一応コイツらと同じ音忍。つーかザク!てめえ相手の力も分かんねえのに喧嘩売ってんじゃねえよ、馬鹿」
ザク達を心底呆れたといった目で見遣る赤髪の少女―多由也は、サスケに向き直る。サスケの体を覆い尽くす斑模様に彼女は一瞬眉を顰めた。
「た、多由也…!?いつから…」
愕然とした風情で問い掛けるドスを無視して、多由也はぐっと腰を屈める。
こちらの手の内を見せるわけにはいかないため笛は使わない。
体術で十分だ、と戦闘体勢に入った多由也に、標的を定めたサスケがくくっと喉で笑う。
「ふん。コイツらよりは楽しめそうだな」
(器候補の力、見せてもらうぜ)
サスケの見下したような笑みに対し、思わずむっとする多由也。


ダンッと踏み込んだかと思うと、ドス達とは比べものにならない速度で多由也はサスケの懐に潜り込む。そのまま振るわれた彼女の拳をかろうじて避けたサスケは、起爆札つきクナイを投げつけた。そのクナイを軽く避けた多由也はサスケの顔面目掛けて回し蹴りを繰り出す。
サスケの投げたクナイは木の幹に突き刺さり、木片があたりに飛び散った。
回し蹴りをかわしたサスケは蹴ろうとしていた彼女の左足を逆に掴む。だが多由也は空中で反転し今度は右足でサスケの額を蹴りつけた。腕から逃れた左足でそのままサスケの足を払い、転倒し掛ける彼に向かって数枚の手裏剣を投げつける。足を崩しながらも【火遁・業火球の術】の印を結ぶサスケ。炎の球により手裏剣がパラパラ消炭となって落ちていく―――。


一歩下がった場所でドス・ザク・キンは多由也とサスケの闘いを呆然と眺めていた。速度も力も自分達とは違い過ぎる。同じくサスケの後方でもサクラ達がはらはらと二人の闘いを見ていた。
(互角か……いや、)
巻き添えを食らうまいと木の洞へ避難したシカマルは、倒れているナルの傍で冷静に状況を判断する。


先ほどサスケが投げた起爆札つきクナイで粉々に散らばった木片に、多由也が足をとられる。その機を逃さず、にやりと歪んだ笑みを浮かべたサスケは今までとは比べものにならない渾身の蹴りを放つ。
「くッ」
回避出来ないと悟った多由也は両腕を交差させ、防御の構えをとった。



その瞬間――――。




多由也とサスケの間にひとつの人影が突如割り込んだ。速度も加わりキレのいい蹴りを見せるはずだったサスケの足は、その第三者にあっさりと掴まれている。
突然現れたその人物を視界に入れ、多由也は防御の構えをとったまま驚愕の表情を浮かべた。

「ナ、ナルト…」
「多由也、ご苦労様。でも木ノ葉には手を出さないでくれって言ったはずだったけど…?」
にこりと口許に笑みを浮かべる金髪の少年―ナルト。しかし彼の眼が笑っていない事に慌てた多由也はすぐさま「わ、悪い…っ」と謝った。その間、足を掴むナルトの手を外そうと躍起になるサスケ。しかしながら、女のように細いナルトの手はサスケがいくら暴れても微塵も動かない。

(な…なんだ、コイツ…どこにこんな力が…)
内心驚愕するサスケの焦りを感づいたのか、「ああ、すまない」とナルトがぱっと彼の足から手を放す。足の自由を取り戻したサスケは一端距離をとるためナルトから離れた。


「多由也。ドス達を連れて下がって」
「わかったよ」
そう言われた多由也はナルトの前でのしおらしい態度とは一転して、「クソヤロ―ども、行くぞ!」とドス達を茂みまで引き摺って行く。
「行かせるかよっ!」
その四人目掛けてサスケが再び印を結ぶ。体を這う斑模様が濃くなるのと相俟って彼のチャクラが膨れ上がった。

「【火遁・業火球の術】!!」
かなりのチャクラを練り込んだ火球は等身大の大きさにまで巨大化する。ザクや多由也に放った時とは大きさも威力も桁違いの炎の球。それは確実に多由也達へ命中するはずだった。






しかし、火球はふっと掻き消える。何時の間にか多由也達の前に立っていたナルトによって。


「なッ!!??」


まるで蠅を払いのけるような仕草で、人ひとり呑み込むほどの巨大な火球は消されてしまった。その際空間が若干歪んだが、ほんの一瞬の事だったので誰も気に留めなかった。
不可解なその出来事に、サスケは愕然とする。サスケと同じく、シカマル達木ノ葉の忍び・ドス達でさえも今の謎の現象に動揺していた。
人…いや大人ひとり優に包み込めるほどの巨大な火球をか細い腕一本で払いのけ、同時に掻き消したのだ。この目の前の少年は。


「……てめえ、何者だ?」
「紹介しなかったか?一次試験の前に」
こてりと首を傾げるナルトに対して、サスケは引き攣った表情を浮かべる。
「ふざけるな!!」
「よせ、サスケ!」
シカマルの諫める声を無視し、サスケは凄まじい速度で駆け出す。そして思い切りナルトに向かって拳を振るった。



パンッ


何かが弾けるような音がその場に響く。そしてその音と共に一瞬でサスケの体は吹き飛ばされた。
「ガハッ」
吹き飛ばされ、背中を巨木の幹にてしこたま打った彼は意識を失う。一瞬の出来事に、その場の面々は皆言葉が出なかった。




何が起こったのか全くわからなかった。ナルトはただ静かに立っているだけで何もしていない様子だ。それにも拘らずサスケは吹き飛ばされた。
唯一冷静にその戦闘を眺めていたネジが、ピキキ…と白眼を見開く。百m先を見通し、体内のチャクラでさえも見切るその特殊な眼を持つ彼はナルトを凝視した。
(なんだ、アレは…)
白眼はチャクラの流れる経絡系や点穴をも見抜ける瞳術である。しかしその眼を持ってしてもナルトがサスケを吹き飛ばした原因を探る事は出来なかった。

敵の攻撃を弾くには日向宗家に伝わる【八卦掌回天】くらいしか思いつかない。だがその術を使うには全身からチャクラを出しながら、自ら回転しなければならない。だがナルトはただ立っているだけで何かした気配すら感じなかった。
(一体…何かカラクリでもあるのか…?)
白眼を未だ使い続けたまま、ネジは目前の少年を注視する。ネジ含む木ノ葉の忍びの視線を一身に受けているナルトは、多由也に何かを渡しているようだった。受け取った多由也は、未だ呆けているドス達の頭を引っ叩いて茂みの向こう側へと去って行った。




ネジ以外の唖然としていた面々は、サクラの悲痛な声ではっと我に返った。
「サスケくん!」
ずるずると幹に体を横たえるサスケの許にサクラが一目散に駆けて行く。
「心配ない、気絶してるだけだ」
ナルトの一言で木ノ葉の忍びは皆ビクリと肩を震わせた。その様子に苦笑しながら彼はサクラのほうへ視線を向ける。
「そこの、桃色の髪の子」
「えっ、あ…」
当惑するサクラを安心させようと、ナルトは人の良さそうな笑みを浮かべた。
「今気を失っちゃった黒髪の子に伝えてくれるか?その“呪印”は使わないほうがいいって」
「じゅ、呪印?」
「さっき彼の体に纏わりついてた斑模様の事だ。今は意識がないから引いてるけど。呪印は、力を与えてくれるけどそのぶん体はボロボロになって下手したら……死ぬよ?」
「…っ」
にこにこと笑顔で[死ぬ]という単語を口にするナルト。その様は酷くアンバランスで、彼の笑顔をサクラは恐ろしく感じた。
口を噤んでしまったサクラに代わって、いのが問い掛ける。
「なんでそんなこと教えるのよ~。大体あんた、さっきの音忍の仲間でしょ」
「………」
答えの代わりに肩を竦めたナルトは辺りを見渡した。そして倒れているリーの姿に眉を顰めた彼は、おもむろにリーの耳元で手を翳す。
「リーに何を…っ」
リーを庇うため慌てて飛び出したネジとテンテンは目を見張った。満身創痍だったリーが急にガバリと身を起こしたからだ。
「あれ?」
「耳、聞こえるか?」
「は、はい!聞こえます」
こくこくと頷くリーを確認し立ち上がったナルトは、警戒するネジとテンテンに笑顔を向ける。あまりにも邪気の無い笑顔に、彼らは毒気を抜かれた。

すいっとナルトの瞳がある一点を見据える。そこには未だ倒れているナルと庇うようにして傍にいるシカマルの姿。
次にサスケとサクラに視線を向け、ふっと笑ったナルトは一本の巻物を取り出した。
(なんだ…?)
ナルトの行動を不審に思う木ノ葉の忍び達。彼は取り出した巻物をサッと広げ、瞬時になんらかの印を結ぶ。途端、その巻物からどさどさと数本の巻物が白煙と共に落ちてきた。
訝しげな表情でそれを見ていたサクラ達は息を呑む。落ちて来た数本の巻物は、今正に自分達が求めている『天』と『地』の書だったのだから。それもこの場にいるチーム全員が合格出来るほどの数。

「あげる」

次いでそう口にしたナルトの一言に、サクラ達木ノ葉の忍びはますます動転する。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どういうことぉ?」
チョウジまでもが驚いて声を荒げるが、ナルトは涼しげな顔で「俺達のチームの分は持ってるから」と答えた。
「そうじゃなくて!」
見当違いの答えを返すナルトに、いのが発狂したように髪を掻き毟りながら怒鳴る。何れも呆気にとられる木ノ葉の忍びの中で、ただ一人沈黙していたシカマルが呟いた。
「なにか…目的があるのか?」
独り言のようなその小声はナルトの耳にしっかり届いたらしく、彼は一瞬目を細める。
「……目的は君達に勝ち進んでもらう事かな」
「はあ?」
不可解な答えに再び困惑するサクラ達をよそに、シカマルは探るような目でナルトをじっと見つめていた。
「まあ、さっきの仲間を見逃してくれた手打ち料だと思ってくれ」
そう言ってナルトはくるりと背中を向ける。

忍びは易々と敵に背中を向けてはならない。にも拘らずこんな簡単に背中を見せるという事は、襲われないと確信しているからかそれとも絶対的な自信故か。
ナルトと対話したのは僅かな時間だったが既にその場の面々は、無防備に見える彼の背中に襲い掛かれば逆に襲ったほうの命が危ないだろうと満場一致の結論を内心出していた。


踵を返し掛けたナルトは何かを思い出したように一度足を止める。そして肩越しに振り返ると、「シカマル。ナルに頑張ってと伝えておいて」と名指しで声を掛けた。
いきなり自分の名前を呼ばれたシカマルが声を発する間も無く、「じゃあね」と一言残しナルトの姿は一瞬にして掻き消える。





夢か現かわからぬまま、木ノ葉の忍び達は無造作に散らばった数本の巻物を見つめた。その巻物のみが金髪の不思議な少年――ナルトが今まで存在していた証拠であった。
 
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