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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 湖札とウロボロス、出会いの物語 ③

二人の戦いは、状況だけを見れば互角だった。
一撃一撃の威力を見れば殿下が勝っているのだが、戦闘経験という面において湖札が圧倒的に上だった。
実年齢三歳以下の殿下と三年間様々な国を回り、魔物との戦いを繰り返してきた湖札とでは、戦闘経験の有利不利ははっきりと現れる。

「該当存在、無し。検索失敗。」
「ん?オレの正体でも探っているのか?」

だが、それ以上に湖札にとって不利な点があった。
それは、殿下の存在を知ることが出来ないため、切り札である言霊の矢を使うことが出来ないのだ。

「・・・変更。樹軍進行を始めましょう」

なので、時間を稼ぐために天逆海の力を使って鬼を大量に召喚する。
記憶が戻ったことによるショックは湖札の自我を押し込め、ただひたすらに冷静な戦士としているのだ。

「へえ・・・鬼の群れか!やりがいがあるなあ!」
「・・・効果は薄いと判断」

だが、その鬼達は殿下の攻撃一撃一撃で大量に殺されていくため、湖札はさらに鬼を追加しつつ、別の奥義を使うことにした。

「さあ、百鬼夜行を始めましょう」
「たった一人でこれだけの戦力を持ってるのか!?なんでもありだな!」

湖札の体から白い霧が出てきて、霧が固まり、様々な妖怪、魔物の姿をとる。
その中には、青行燈の姿もあり、青行燈はすぐにヤマタノオロチへと姿を変えた。

「すごい大物だな!ますます欲しくなってきた!」
「検索実行。情報から外見に関する情報を除外。代わりに・・・特殊攻撃の破壊、身体の硬度を追加。検索・・・一件、ヒット。」

そして、闘っている殿下の様子を外側から観察し、試しに放ってみた風の砲弾が破壊されたこと、ヤマタノオロチの牙が利かなかったことから情報を追加し、検索して・・・ついに、その正体までたどりついた。

「情報整理・・・地球の半星霊の言霊を装填。発射。」
「これは・・・避けるのが得策か。」

殿下は有象無象の妖怪、魔物と戦っていたが、飛んできた矢の存在に気付くと体を捻ってそれをかわした。
が、矢は当然のようにホーミング機能がついており、湖札もいくらでも矢を放つことができるので避けるだけでは意味がなくなってくる。

「おいおい・・・ここまで何でもありか!」
「対象の戦闘能力に誤算あり。最大警戒に修正し、次の手段へと移行する。」

殿下はその矢を全て、魔物をぶつけることによって破壊し、妖怪も全滅させたので湖札へと攻撃を開始する。
湖札は殿下の攻撃を避けつつ、次の手を実行する。

「百の鬼よ、我が率いる異形の軍団よ。今この一時、我が砲弾となれ。汝らの持つ瘴気を、一つの塊とせん。」

湖札は思いっきり後ろに飛びながら言霊を唱え、檻に戻った妖怪、まだ外に出ている魔物から瘴気を集め、殿下へと放出する。

「効かないね、こんなもの!」

殿下はそれを殴って破壊し、霧散させる、が・・・

「瘴気に形は無く、命もない。ゆえに幾たび砕かれようと、それが消えることはなく、祓われるまではそのものに呪いをもたらさん。」
「な・・・!?」

瘴気というものは、その程度でなかったことに出来るわけがない。
瘴気は祓われるか対象の中に入り込むまでは、消えることなく、対象へと効果を表すのが、湖札が使った奥義『瘴気砲』と『怨恨縛鎖』のあわせ技である。
この奥義は何代も前の鬼道が、世界に絶望した際に作り出したものだ。なので、檻の中に大量の妖怪がいて霊獣、神すらいる一輝が使ったりしたら、世界を呪い尽くす勢いのものが出来るため、一輝は決して使うことがない。

「く・・・だが、耐えられないほどではない・・・か・・・なら!」

殿下は自分を包む瘴気に顔をしかめるが、耐えることが可能だとわかるや否や、湖札への特攻を再開する。
大本である湖札を倒せばこの瘴気も消える、そう考えたのだろう。

「対象の制圧、不可能だと断定。これ以上の抵抗手段、存在しません。」
「だったら、さっさとぶっ飛べ!」

湖札は大人しく殿下に殴り飛ばされ、気を失った。



           =================



「うん・・・ここは?」
「あ、起きた。殿下~!起きたよー!」

湖札が目を覚ますと、そこは湖札と殿下が戦ったところで、リンが顔を覗き込んでいた。

「お、起きたか。早速で悪いんだが、これをどうにかしてくれないか?さすがにきつくなってきてな・・・」
「それ、瘴気?なんでこんなもの・・・」
「いや、オマエがやったんだが?」
「え?」

湖札はそこで自分が何をやっていたのかを思い出し、慌てて瘴気を消し去るために、言霊を唱える。

「我らが一族の放ちし瘴気、今我らが檻へと戻らん。そして、汝らが主のもとへと帰り行け」

湖札がそう言霊を唱えると、殿下を覆っていた瘴気が全て湖札の折に吸い込まれ、もととなる妖怪の元に返った。

ちなみに、こちらの奥義は絶望した鬼道の息子が瘴気を止めるために父親を殺すがとめることができず、止める力を強く願った際に編み出されたものだ。

「ほんっとうにごめんなさい・・・ちょっと錯乱しちゃっいまして・・・」
「まあ、それについては戦ってて分かった。で、何で錯乱してたんだ?」
「ちょっと殿下!そんなことを女の子にはっきりと聞くなんて、デリカシーに欠けてるよ!」
「アハハ・・・別に気にしなくていいよ。それに、今回迷惑をかけちゃったのは私だし・・・その辺りの説明はしないといけないって思ってるから。」

湖札はそう言うと、記憶が戻り、その内容に混乱してああなった、と説明をした。

「記憶の封印、ですか・・・というか、その言い方だと、まるで貴女が人間である、みたいに感じるんですけど・・・」
「人間ですよ?ちょっと生まれとかが普通じゃなかったりはしますけど、血はほぼ純粋な人間です。」

湖札の言葉に、二人は目を見開いた。

「あの・・・どうしたの、二人とも?」
「いや、どうしたというか・・・オレたちは天逆海を召喚して、その位置にオマエがいたから・・・」
「てっきり、貴女が天逆海だと・・・もしかして、召喚に失敗した?」

二人が少し慌てるのを見て、湖札はその辺りの説明も始める。

「あ、いえ・・・召喚には成功してますよ?ただ、私が天逆海についてきただけで・・・」
「ついてきた?なら、本物の天逆海は?」
「・・・私が、殺しました。」
「「!?」」

湖札がそう言うと、二人は今までで一番大きな驚きを見せた。

「神霊を、人間が殺した!?」
「そんなことが出来るのか?オマエ。」
「う~ん・・・出来たから、出来るみたい。もう何度も驚かれるのも大変だから一気に説明しちゃうけど、その天逆海の魂は私の中に封印されてるし、混乱して君と戦ってるときには私が天逆海になってた。」
「「・・・・・・」」

もはや、二人は絶句し・・・

「アハハハハハハ!面白いな、オマエ!」
「その反応は予想外だったかな・・・じゃあ、次はこっちから質問してもいい?」
「あ、はい。どうぞ。」

とても楽しそうに笑っている殿下を放置して、女子二人は会話を再開した。

「まず、私が矢で撃っちゃったあのグリフォンさん・・・大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。ギリギリ自分の存在を書きかえれたおかげで、傷さえふさがれば大丈夫そう、だそうです。」
「そっか・・・よかった・・・」

湖札は自分の矢で貫いてしまったためにもう手遅れだと思っていたが、問題がなかったと聞いて心から安心する。

「じゃあ、次に・・・ここって、どこですか?召喚って言ってましたけど・・・」
「ああ、貴女は外から来たんですよね?ここは、箱庭の世界。ギフトを持つ修羅神仏が面白おかしく暮らす世界です!」
「・・・なんでもありの世界、と言う認識でいいですか?」
「まあ、大体そんな感じです!」

湖札はその認識で納得した。
流石は一輝の妹、といったところだろうか。

「そっか・・・異世界・・・じゃあ、もとの世界には帰れる?」
「・・・スイマセン、多分無理です。」
「そっか・・・じゃあ、お兄ちゃんに会うのは無理、かな・・・」

湖札は残念そうに、そうつぶやいた。

「あの、少し質問してもいいですか?」
「何についてでしょうか?」
「ちょっと、あなたのお兄さんについて。」

リンは一つの可能性に気付き、湖札にたずねた。

「私に答えれることでいいなら、いいよ?」
「じゃあ・・・お兄さんって、“陰陽術”以外にも何かギフトって持ってました?」
「・・・うん、二つ。一つは私も持ってる・・・こんなのなんだけど。」

湖札はそう言って、空間に穴を開けた。

「もう一つは?」
「もう一つは、形の無いものを何でも操れる能力・・・ギフトなんだけど、私が一緒に暮らしてたころは、全然使えてなかった。」
「そのギフト、どうして宿ってるのかって分かりますか?」
「全然分からない。戻った記憶の感じだと、いつ手に入れたのかは分かるんだけど・・・何から与えられた力なのかまでは・・・」

リンはそこで少し考え・・・湖札にいった。

「なら、もしかすると・・・お兄さん、この世界に来てるかもしれませんよ?」
「本当!?」
「わっ!」

湖札はリンの言葉に、ものすごい勢いで反応した。

「ねえ、それ、本当なの!?」
「か、確定ではないですけど、可能性は高いと思います!今回私達が使った召喚は同じ時間に行われた召喚と同じ時間に、同じ世界に対して行われたものに便乗していますから・・・強力なギフトを持った人は、その召喚の候補になるんです・・・」
「確かに、あのギフトなら使いこなせるようになればかなり強いし・・・記憶にあったあれが本領なら・・・」

湖札は考えに考え、かなり可能性が高いことに気付く。
一輝は日本の第三席に入っているし、それも奥義に覚醒していない状態で、だ。
奥義に覚醒せずにその座に入っているのなら“無形物を統べるもの”は使えているはずだし、自分の言霊の矢と同じように封印がかけられていると考えていい。
なら、自分の兄は人類最高クラスのギフト保持者なのではないか?

「・・・ねえ、その辺りの情報って、貴女たちのところで集めれたり・・・」
「できます、けど・・・」
「タダで集める、ってわけにはいかねえな。」

ようやく話に入れた殿下が、湖札にそういった。

「なら、どうしたら?」
「オレたちは、魔王連盟、ウロボロスってところに所属してるんだ。で・・・オマエも入らないか?」
「・・・入ったら、お兄ちゃんの情報、集めてくれるの?」
「ああ。名前、ギフト、特徴、辺りを教えてくれれば、こちらで調べよう。」
「うん、入る!」
「即断即決過ぎません!?」

湖札の即断に、リンが突っ込んだ。

「あ、私、湖札って言います!これから、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしく。俺のことは殿下と呼んでくれ。」
「あ、私はリンです!」

ここでようやく三人は自己紹介をした。

「あ、これ。お兄ちゃんの名前と持ってるギフト、性格の特徴。陰陽術のほうは正確なものだけど、もう一つのほうは私の想像だから、一部一部違うかも。」
「書上げまでの時間、短すぎません!?」

湖札からしてみればずっと覚えていたことなので、思い出す必要すらなかったのだ。

「よし、あまり表立っては動けないが、調べておこう。リン、他の二人・・・いや、三人も呼んできてくれ。」
「あ、うん。」

リンはギフトを使って残りの三人を呼びに行った。

「あ、そうだ。これ、あったほうが便利なギフトカードだ。」
「ありがとう、殿下。」

湖札がギフトカードを受け取ると、湖札のギフトが表示された。

 湖札・ギフトネーム“言霊の矢”“外道・陰陽術”“空間倉庫”

「ん?オマエ、苗字はないのか?」
「そういえば、別にいいかな~ってつけてなかった・・・」

湖札は少し考えて、苗字を決めた。

「へえ・・・天野、か。」

殿下はギフトカードを覗き込み、そうつぶやいた。

「もう、テキトーでいいかなぁ、って思って。」
「まあ、あんまり考えても仕方ないからな。」
「殿下ー!つれてきたよー!」

そのタイミングでリンが帰ってきて、湖札はグライアに謝り、改めての自己紹介をした。



         ===================



私が殿下たちと一緒に行くことになったのは、そんなことがあったからだ。
いろいろなところを回っている間に、リンちゃんに言われて、呼び方を兄さんに変えることにした。そういったところが変わっているほうが印象を与えられる、といわれて納得したのだ。旅で自分の内面も成長したし、ちょうどいいと思ったのだ。
それに、私だけの奥義も出来た。ぬらりひょんは私の覚悟を聞いて、半分呆れながらも奥義を編み出させてくれた。
その後、ウロボロスが関わっていた魔王、ペストが倒された際に、大量の妖怪が召喚され、その妖怪が武器になったと聞いて、兄さんが来ているんじゃないか、と期待は大きくなった。
殿下たちに調べてもらって、その人が色んなところで人助けをしたり、面倒ごとだろうと自分から首を突っ込んだりしていたことを知り、ますます私の知っている兄さんと情報が一致してきた。
たった三人で魔王に挑み、その魔王を隷属させ、さらには魔剣まで口説いたと聞いたときには少しムカッとしたけど、それでも兄さんの面影と重なって、嬉しい気持ちのほうが大きかった。
リンちゃんがアンダーウッドでたたかった相手が寺西一輝を名乗り、もとは鬼道だったという話を聞いたときには、嬉しすぎて天に昇るかもと思った。
そして、我慢ができなくなって勝手に兄さんの顔を見に行ったときには殿下に怒られたけど、久しぶりに兄さんの顔が見れてうれしかった。
最後にあったときより成長して、男らしくなった兄さんはすごくかっこよかった。
ただ、昔はいっつも作ったような笑顔だったのが自然な笑顔になってたことには嫉妬したけど。

で、少ししてから煌焰の都で殿下をどうにかこうにか説得して、兄さんに会いに行くことを許してもらった。
魔王連盟だから、主催者権限を持ってる人を勧誘できる、というのは効果的過ぎるくらいの交渉のカードになってくれた。

ペンダントランプの上でお弁当を食べてるのを見つけたときは他の人がいたから近づけなかったけど、一人で行動する、って聞いてチャンスだと思った。
それで、亜龍から逃げる兄さんをどうにかこうにか追いかけて、やっと一人になったときには話しかけるタイミングを探っていた。
昔みたいに後ろから飛びつこうかとも思ったけど、そんなことをしたらせっかく大人っぽくしようとしてるのが無駄になる。

そんなこんなで話しかけることも出来ず、ただついていってたら、兄さんがキャンドルランプの周りにいる微精霊を見て、こうつぶやいた。

「もといた世界だと、あんな小さいのすら殺すやつらがいたからな~。ホント、見境がない、金の亡者だらけだよな。」

私の口は、無意識のうちに動いてた。

「うん、本当にそんな人ばっかりだったね、兄さん。」

振り返った兄さんの顔は驚きに染まっていて、自分もそうなってないかとても不安だった。
でも、どうにか口を動かして・・・話を続けた。

「でも、父さんもそうだったし、一族全体で見れば、私たちの家系も、金の亡者だと思うよ。ともあれ、久しぶり、兄さん。」

泣きそうになる自分を抑えて、私は兄さんと会話をした。

その後、兄さんと色んなところを回ったのは、もうどうしようもないくらいに楽しかった。
どうにかして勧誘しないと、とは思っても、そんなことは無駄だって分かりきってたから、この時間を楽しむことにした。

その後、もうバラすしかなくなったときにはこの時間も終わりかぁ、って悲しくなったけど、受け入れることにした。
ウロボロスに恩が有ることは事実だし、私は魔王。元々、兄さんと戦うことになるのも覚悟の上だった。

次に兄さんに会ったのはギフトゲームの最中で、私は“主催者権限”を使って兄さんにゲームを仕掛けた。
私が本気で戦っても、兄さんはそれを超えて私を倒してくれる、そんなことを望みながらのゲームだった。
だから兄さんをあおったし、本気でのぶつかり合いをした。
ゲームは途中で中断するしかなくなったけど、あのままいってたら、私は間違いなく負けてた。
放った鬼もメイドさんたちにあらかた倒されてたし、ゲームのクリア条件は完全クリア、となっていただろう。

でも、それどころじゃなくなった。
いま、兄さん達はアジ・ダカーハの分身体と戦っているはず。
さっき兄さんに動きがあったことは判りやすく確認できたし、これなら死なない可能性は高いけど・・・それでも、確認したいことはある。
それに・・・私が本当の妹じゃないって分かって、どうするのかも知りたい。

「湖札さん?ジン君が話を始めますよ?」
「うん・・・ゴメン、リンちゃん。今行く。」

でも、今はそのときじゃない。
いつかその時が来たら、またその時に聞けばいい。
私は、殿下たちが集まっているところまで、小走りで向かっていった。
 
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