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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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序章 手を取り合って
  第4話 夜天の書、大地に立つ

 
前書き
序章はこの話で最後になります。
今回も、説明回になります、ちょっとくどいかも。 

 
『天が夜空で満ちるとき
 地は雲で覆われ
 人中に担い手立たん』


    (とあるベルカの「預言者の著書」より――第一の預言)


 これから語る話は、直向きに平穏な日常を願う少女と家族たちの物語。


 ――――それは、夜天の王「八神はやて」と家族たちの奮闘記。





「ただいま」

「お帰りなさいマスター」


 学校から帰宅すると、リインフォースが出迎えてくれた。
 エプロン姿の彼女からは、お母さんオーラが噴出している。
 父子家庭だったボクにとって、リインフォースは本当のお母さんみたいな存在だ。
 恥ずかしいから、面と向かっては言えないけどね。


「シグナムとシャマルは遅くなるってさ、ヴィータ姉は?」

「鉄槌の騎士なら、近所のゲートボール大会に参加しています」

「あはは、ヴィータ姉はおじいちゃんたちのアイドルだもんね」


 シグナムとシャマルは、ボクの通う学校である駒王学園に勤務している。
 シグナムは剣道部の臨時顧問。
 シャマルは臨時保健医。
 とてもはまり役である。
 この配置は、この領地の主グレモリー家には知らせてある。
 というか、彼らの手配によって、学校に潜入できた。


 ヴィータは少し前までは、一緒に通学していた。
 同じ中学校に通っていたのだ。
 もっとも長く接していた家族は、ヴィータだろう。
 現在は、無職だが。
 うん、なんというか、高校生は無理だった――だって、ロリだし。


 ザフィーラ?彼には、自宅警備員として家を守ってもらっている。
 前に冗談で、自宅警備員みたいだね、と、言ったところ響きを気に入ったらしい。
 それ以後は、わたしは自宅警備員だ、と誇らしげに言うようになった。
 聞くたびに思わず吹き出しそうになるのを堪えるのが大変である。
 いまのところ、本当の意味を知っているのはボクだけだから、仕方ないね。


(サーゼクス・ルシファーには感謝しないとね。今の生活は彼のお蔭のようなものだし。ま、好きにはなれないけど)


 リインフォースと会話しつつ、つらつらと考えごとをする。
 マルチタスクはマジ便利である。
 ボクは、サーゼクス・ルシファーとの初邂逅を思い出していた。





 誕生日に夜天の書が起動し、はぐれ悪魔を倒した後、間をおかずに空から侵入者が現れた。
 守護騎士たちがボクを庇うように警戒する中、その姿に思い当たる。
 空から現れた威圧感を纏う青年の名前を、サーゼクス・ルシファーという。
 ハイスクールD×Dのヒロイン、リアス・グレモリーの兄にして、4大魔王の一柱である。


 あまりの急展開に慌てずについていけたのは、前世の記憶があるからだろうか。
 ひとまず、サーゼクス・ルシファーと相対してすぐ、互いに自己紹介をし、敵意がないことをアピールする。
 守護騎士たちにも、控えるように伝えた。


 はぐれ悪魔について謝罪を受けた後、現状について説明を求められた。 
 夜天の書についても、当然追求された。
 素直に「分からない」とだけ、答えておいた。
 まあ、ボク自身なぜ手元にロストロギアがあるのか、全くわからないのだから、嘘ではないはずだ。
 転生しました、と正直に答えても、可哀想な子扱いされるだけだろう。
 それに、本当に転生かどうかもまだ分からない。


 ――――問題は、どうやって「夜天の書」を説明するかである。


 なぜなら、ここは、ロストロギアという概念すら存在しない世界だからだ。
 「異世界から来た」なんて、馬鹿正直に答えても――言動の真偽に関わらず――ボクたちの状況は、悪化したに違いない。
 強力な力を有しているのならば、なおさらである。
 うかつに情報を公開するべきではない。


 とりあえず、有無を言わさずに、その場では、守護騎士たちに、記憶喪失を装ってもらった。
 サーゼクス・ルシファーが現れてから、自己紹介までの前の短い時間で、頼めたのは、本当に幸運だったと思う。
 というのも、リインフォース――――名前がないと申告されたので、後で原作通りに名付けた――――に尋ねたところ、転生機能によって、見知らぬ次元世界へ転移してきただけだ。と、彼女たちは、認識していたからである。
 

 したがって、話をややこしくする前に、ボクに話を合わせるように、念話で頼んだ。
 そう。都合のいいことに、念話は、すぐに使えるようになったのだ。
 リアルタイムで、堂々とバレずに打ち合わせができたのは、僥倖だった。
 どうにか、平静と取り繕うことができたおかげで、その場での追及は、避けられたようだ。
 もちろん、不審な点は多かっただろうが、疑問を後まわしにしてくれた。


 ――――おかげで、カバーストーリーをでっちあげる時間を得られた。


 本当に運が良かったと思う。当時のボクを賞賛してやりたい。
 ボクの機転は、結果的に大正解だった。
 魔王たちは、夜天の書を、「いままで確認されていなかった珍しい神器」であり、「少々強力な力」をもっている。
 と、誤解してくれたからだ。


 むろん、怪しい点は大量にあった。


 未知の神器。
 規格外の力。
 神器にもかかわらず感じる魔力。
 強力な魔力を有する稀有な人間などなど。


 どうやら、親が悪魔に殺された幼い少女ということで、見逃してくれたようだった。
 敵対する可能性が低かったのも一因としてあるだろう。
 悪魔陣営の領地に住む以上、監視をかねて保護ができる。
 と、同時に恩を売ることもできて、一石二鳥だ、と考えたのかもしれない。
 異世界――夜天の書にとって――で活動する基盤を、手に入れた瞬間だった。
 いろいろと設定を煮詰めることで、ボクたちは「家族」になり、新たな門出を迎えたのである。





 ぼんやりと、守護騎士たちとの出会いを回想しながら、リインフォースと一緒に夕飯を作る。
 「ヴィータお姉ちゃん」とよんだときの、ヴィータの喜びようは、今でも鮮明に思い出せる。
 お姉さんとして振る舞う姿は、微笑ましい。
 と、同時に、確かに、ボクの姉だと強く認識することができる。
 いろいろと辛酸も舐めてきたが、シグナム、ヴィータ、ザフィーラ、シャマル、そしてリインフォースの5人は、いつもボクの傍にいてくれた。


 ――――ああ、間違いなくボクは幸せ者だ。





 聖書の神とともに旧魔王たちが倒れ、なし崩し的に私は魔王になってしまった。
 旧魔王を信奉し、私を認めない者たちがいた。
 自らが魔王たらんとし、打倒サーゼクス――私のことだ――を掲げる者たちもいた。
 おかげで、悪魔社会は混乱の最中にあり、同時に、天使や堕天使連中を牽制し、少子化問題など山のように仕事が舞い込んできた。
 

 すっかり疲労した私は、生き抜きを兼ねた視察と称して、かわいい妹のリアス・グレモリーが将来領有することになる駒王町の視察にきていた。
 幸か不幸か、視察を終え帰る間際に、はぐれ悪魔の出現情報が舞い込んできた。
 ちょうどよいから、側近には止められたが、見回りと称してこの町を練り歩きながら、はぐれ悪魔を捜索することにした。


 都合のよいことに、真夜中の少し前――人間に姿を目撃されづらい、悪魔の活動時間である――だった。 頭上の満月が美しかった、と、記憶している。
 探し始めて、数分いや十数分過ぎた頃だろうか。
 突如、悲鳴が鳴り響き、発生源から、はぐれ悪魔の気配を感知した。
 急行する途中、悲鳴が途切れ、


(間に合わなかった)


 と、自責の念にとらわれた瞬間。
 はぐれ悪魔の気配がする一軒家から、強い力の波動が溢れだし、唐突にはぐれ悪魔の気配が消えた。 とりあえず確認した時間は――――午前0時。


 ほどなくして、現場につくと、はぐれ悪魔は既に討伐されていた。
 なぜならば、妹のリアスと同世代だろう幼い少女が、両親と思われる遺体に泣きながらすがりつき、 その傍らには、無造作にはぐれ悪魔の残骸が放置されていたのだから。
 これで、懸念の一つが解消されたわけだが、いままさに、別の問題、しかも、はぐれ悪魔とは比べ物にならないほどに、厄介な代物に直面している。


 ――すすり泣く幼い少女

 ――彼女を守るように傍に控える4人の人物

 ――浮遊する本


 目の前には、とても奇妙な光景が広がっていた。
 しかしながら、少女を含む全員から、強い力を感じるため、警戒を怠らない。
 感じる力は、悪魔が使う魔法の力に近く、人間のもつ神器とは異なる点が不可解だった。
 一切の油断は許されないと、私は緊張とともに、敵意がないことを示しながら、彼女たちの前に降り立った。
 近くで観察してみると、少女からは、強い力を感じるものの、泣きじゃくる様は演技ではないようにみえた。
 おそらく、力を持つだけの、一般人だろう。
 しかしながら、傍の4人と本――魔道書の類だろう――は、別格だ。


 ――仮にも魔王たる私が、気押されるほどの力を放っていたのだから。


 とりあえず、簡単な自己紹介のあと、少女――八神はやての両親の亡骸とはぐれ悪魔の残骸の後処理を提案。
 私が、魔王だと名乗ると、一気に場が緊張した。
 が、すぐに、涙をふいた少女のとりなしで、その場を収めることに成功した。


 はやて嬢が、主導して、そばに控える4人――――八神はやてに仕える守護騎士「ヴォルケンリッター」と名乗り、私への警戒を怠る様子はない――――も協力することになった。
 ただし、魔道書――――夜天の書という名前らしい――――は、はやて嬢を守るように彼女の周囲を浮遊していたが。
 あわただしく、遺体をグレモリー家の息のかかった病院へと運び込み、家の片づけをした後。
 一息ついたところで、本格的な話し合いに入ることになった。
 はやて嬢は、眠そうにしていていたが、強く希望し、同席していた。


 話し合いの結果、悪魔側の管理不行届きが事件の原因だと私が認めることで、はやて嬢への支援と後見人となることを約束した。
 ただし、基本的に金銭支援のみにとどめ、生活は守護騎士たちとともに送ることを約束させられた。
 もちろん、守護騎士たちの戸籍も、こちらで用意することになる。


 庇護するためと言い張り、はやて嬢と魔道書、守護騎士たちの強力な力を、あわよくば悪魔陣営へ引き込みたかったが、断固として拒否された。
「強すぎる力は災いを招きかねない」と諭したものの、父を殺した悪魔に傅くことは許容できない、と、見た目からは想像もつかないほどの、強い口調で拒否された。
 さすがの私も、彼女たちを悪魔陣営に引き込むことは、諦めるしかなかった。
 妥協案として、駒王町に居る限りグレモリー家の客人として庇護を受け、対価として、拒否権つきの依頼をこなしてもらうことになった。


 ――夜天の王「八神はやて」

 ――雲の騎士「ヴォルケンリッター」

 ――魔道書がもつ意思の具現、管制人格「リインフォース」


 これが、将来世界を震撼させる彼女たちとの、出会い。
 終りの始まりの日。
 私も、誰にも気づかれず、ゆっくりと運命の歯車は、狂い出すのだった。

 
 

 
後書き
・「預言者の著書」は、カリム・グラシアのレアスキルです。Strikersに登場する人物で、不定期にビビッと預言を受信します。
・ヴィータといったらゲートボールですよね。ゲボ子。
・ザフィーラは自宅警備員にジョブチェンジしました。それでいいのか盾の守護獣。
・サーゼクス・ルシファーは四大魔王の一角であり、リアス・グレモリーの兄になります。結構キーになる人物です。 
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