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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~

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第1章 『ネコの手も』
  第3話 『課長と課長とネコ』





 六課配属2日目、八神はやては昨日ヘリの中で目に付いたのもあって、デバイスの整備・作成を担当としているシャリオ・フィニーノ一等陸士の(もと)にコタロウ・カギネ三等陸士をつけることにした。しかし、彼の年齢による経験と資格から、随時他の調整作業も依頼しようかと内心検討している。


「コタロウ・カギネ三等陸士です。どうぞよろしくお願いします」


 彼女シャリオ・フィニーノ一等陸士が彼の第一印象として感じたのは、ぼやっとした目と左腰に下げている『傘』くらいで、それ以外は特に意識することは無く、


「シャリオ・フィニーノ一等陸士です。コタロウ君でいいかな?」


 簡単な挨拶ですます。彼女ははやてから『コタロウさんはひとまずシャーリーの下につけるけど、臨機応変に動いてもらう予定やから、よろしくな?』と伝えられていた。


「はい。呼び方は御自由にしていただいて構いません。フィニーノ一等陸士」
「あ。皆、私のことはシャーリーって呼ぶから、よかったらそう呼んでね?」


 はやてが彼のことをさん付けで呼んでいたことで、年上かなと思ったが、見た目からそのような雰囲気は(うかが)えなかったため、彼女はきっと気を使っていたのだろうと思い、シャリオはこちらから歩み寄る。


「いえ、これは一種の癖のようなものなので……」


 が、彼は頭を掻きながらやんわりとシャリオのお願いを断った。
(全然かまわないのに。緊張しているのかな?)
 不満顔をちょっぴり(のぞ)かせるだけにする。


「しかし、このような早朝から、何かの朝練ですか?」


 現在、2人は隊舎をでて、海に向かって歩いている。周りは早朝特有の静かな空間で、聞こえるのは鳥の鳴き声くらいである。


「そう。新人たちの訓練を見にいきます。コタロウ君には私が訓練を見に行けない時、訓練中のデータを収集して欲しいの」


 新人たちのデバイスにもデータ収集機能は付いているんだけど、やっぱり人が採ったデータのほうが、ね。と、続ける。やはり、データは一度人に触れたほうがものの方が、扱いやすく、解析しやすいのだろう。おかしな視点があれば、元のデータをみればそれだけで済む。シャリオはその方がより効率的であることを知っていた。


「そうですね。そのほうが効率はいいと思います」
「へぇ、わかってるねぇ、コタロウ君」
「ありがとうございます」


 昨日とは違い、コタロウのメカニックスーツは新調されている。これは昨日、はやてに『やっぱり、新設した部署やから、しばらく新調品を使用してください』と、(かしこ)まれてしまった為である。コタロウは考えるにそのとおりで、ヴァイス・グランセニックにはああ言ったが、新設部署なのだから、当たり前か。と、納得し、時期をみてまた着ればよいと考え、今の服装でいる。

「ところで、その腰の傘は……」
「はい。私のストレージデバイスです」


 それはどうみても傘にしか見えない。目立つものがあるとすれば、柄が曲がっていないことと、生地が少し厚いくらいである。


「自作、だよね」
「はい。作成は2年くらいで、その後、少しずつ調整をしています」
「時間があったらじっくりみたいけど、今は新人たちのがあるしなぁ」


 独り言らしいが、そうは聞こえなかった。
 そんなことを話している間に、集合場所にたどり着く。


「おはよう、みんな」
『おはようございます』


 丁度、高町なのは一等空尉、新人たちも集まったようである。


「おはよう」
「おはようございます」


 シャリオ、コタロウも挨拶をする。


「えと、では始めに、一日遅れだけど私と同じくメカニックを1人紹介します」


 彼はぴしりと敬礼をとり、


「コタロウ・カギネ三等陸士です。至らぬ点があるか思いますが、どうぞよろしくお願いします」


 彼の挨拶の後、これから生活の一部になるであろう早朝訓練を始めるために訓練場へと足を運ぶ
 彼女スバル・ナカジマは訓練場に向かう間に自分も自己紹介しなければと思い口を開く。


「私、スバル・ナカジマ二等陸士。よろしくね、コタロウ」
「エリオ・モンディアル三等陸士です。よろしくお願いします、コタロウさん」
「キャロ・ル・ルシエ三等陸士です。よろしくお願いします」
「んで、あっちの――」
「ティアナ・ランスターよ」


 新人たちはスバルの挨拶を皮切りにそれぞれ一様に挨拶をする。全員、どうやら昨日初日の訓練の疲れは残ってはいないようで、どちらかというと、『今日も頑張るぞ』という気力に満ちていた。


「はい。よろしくお願いします」


 これはこの課の特性なのか、それともその様な気質の持ち主が多いのかはわからないが、『自分のことは名前で呼んでも構わない』と言う――ティアナを除く――人が多い。現に、もうコタロウを呼ぶ時はファースト・ネームで呼んでいる。


「コタロウのその腰に下げている傘はデバイスなのかな」


 なのはもそれに準じている――これはティアナも含む。


「はい。高町一等空尉とは違い、ストレージデバイスです」
「へぇ」


 しかし、コタロウ自身は相手のことをファースト・ネームでは呼ばず、階級呼称を付与して呼んだ。これには皆、先ほどのシャリオ同様、多少不満顔――ティアナを除く――で、スバルは一番に「スバルで構わない」と、再度念を押すが、彼は「これは癖や習慣と同じ様に染み付いているものなので、(かど)が取れてくれば、自然とそう呼ぶようになるかと思います。それまでは」と、ヴァイスの時と同様に断った。
 そんなことを話している間に、訓練場にたどり着く。


「それじゃあ、今日の早朝訓練、実践型模擬戦やって行こうか」
『はい!』


 なのはの挑戦的な笑顔に新人たちは負けじと威勢のいい返事で応えてみせた。





魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
第3話 『課長と課長とネコ』







「以上、今日は私が収集したけど、午前、午後の訓練のデータ収集をお願いできる?」
「はい。問題ありません」


 なのはが新人たちに対して、朝練での良いところ、悪いところ、考えなければならないところを教えている間、データを取るためのインタフェースの使用方法を再度コタロウに確認をとる。
 シャリオが彼に教えて素直に感心したのはなかなか物覚えが良いところであった。きちんと自分が説明した内容を把握している。


「それじゃ、今日の早朝練習はこれまで」
『はい! ありがとうございました!』


 練習が終わると、糸が切れたように息切れを始め、その辛さを物語っていた。


「それじゃあ、シャワーでも浴びて朝食にしようか」
『はい!』


 シャワーを浴びるため、新人たちは宿舎へ足を進めていく。


「それじゃ、なのはさん。私は先にデータだけ置いてきちゃいますね?」
「うん」
「では、食堂で。あ、コタロウ君は皆と一緒にね? 少しでも親睦を深めておいたほうが良いでしょう?」


 シャリオは手を振りながら隊舎へと小走りで戻っていった。


「高町一等空尉はどうされるのですか?」


 コタロウは彼女の言葉に2つ返事をした後、なのはの方を向く。


「ん? 私も、今取ったデータを私なりにまとめておくよ。午前の練習は朝練の成果を反映させてやりたいからね。コタロウはシャーリーの言ったとおりみんなについていかなくていいの?」
「いえ。フィニーノ一等陸士に『はい』とは答えたものの、私はそもそも汗をかいていませんので」 
 ああ、それもそうだね。と、なのはは端末を操作しながら返事をする。
「なので、外で待っていようかと思います。しばらく、その操作を見ていても構いませんか?」


 うん。大丈夫だよ。と、返事をしながら、端末を操作していく。
 なのはは先ほどの練習をもう一度、ダイジェストの感覚で動画データを各角度から眺め、そこで新人たちに話した考えるべき場面について自分なりの教導内容をその動画の横にコメントをしていった。時々レイジング・ハートに話しかけ、午前のトレーニング内容を何度か確認する。
 教導官は普段であればこのような個々に応じたトレーニングの組み立ては行わない。それはやはり人数の多さであろう。なのははまだはやてのこの機動六課の真意を教えてもらってはいないが、周到に教導を行うに間違いはないと考えていた。
 そんなことを思いながら、キーをたたき構成を組む。


「……もしかして、ずっと見てたの?」
「はい」


 彼女は端末を閉じて視線を上げると、ぽつんと正面にコタロウがいる。


「ご、ごめんね。夢中になってて気がつかなかったよ」
「いえ。私もデバイス作成を手伝う身ですから、見ているだけで十分勉強になります」
「そう? それならいいけど」


 じゃあ、みんなもそろそろ集まるころだし行こうか。と、隊舎へ向かうことにした。


「そういえば、デバイスを所持しているってことは、武装局員資格持ってるの?」
「え、う、はい。持ってはいますが、このデバイスは自作でして、そのテスト用に登録してあるだけなのです。正確にはデバイス調整補助動作確認兼試験運転限定付武装局員資格です」
「う。す、すごい資格だね」
 にゃははと苦笑う。
「そうですね。限定付武装局員資格で構わないと思います」
「ふぅん。シャーリーもその資格……あ、もってないか」


 シャリオは魔力を有してはいないのだ。


「はい。それに魔力所持者は大抵武装局員資格を取得した後、それぞれ進路を選びますから。私の場合は入局が少し特殊でしたので」
「特殊?」


 そこでなのははコタロウの方を向くが、目深(まぶか)に被っているメカニック帽のせいで表情は見えない。身長がなのはよりも若干低いのも強調している。


「私は――」
「なのはさん、コタロウさん。おはようございます」


 向こうからヴァイス・グランセニックが歩いてくるのが見えた。


「おはよう、ヴァイス君」
「おはようございます、グランセニック陸曹」
「ヴァイス君も、今からご飯?」
「はい。昨日は初日だけあって、色々なんやらで忙しくかったんですが、今日はゆっくりでさぁ」


 まぁ、午後からはまた忙しくなりそうなんですがね。と、言葉を漏らす。ヴァイスが言うに、午前も午後も忙しいことには変わりないらしいが、ばたばたを移動が多い忙しさではなく、一ヶ所での作業の忙しさであるらしい。午後は移動を繰り返さなくてはならないので、忙しいということだ。
 食堂へ向かう間、しばらくヴァイスとなのはとの会話が続く、その途中、コタロウへも話題が振られるが、「はい」や「ええ」といった片言の返事のみで返すものばかりであった。
 その間、なのはの違和感がどんどん強まっていった。彼に話題を振るのはヴァイスばかりで、常に敬語で訊ねているからである。ヴァイスは年下や勤務年数が下の者に対して敬語は使わない。使うことがあっても、それはお互いの自己紹介の後だ。ヴァイスはシャリオと同じく人見知りをするような性格ではない。違うのは、相手の持つ雰囲気を読むのがうまいことだ。それにより相手に対する態度を的確に判断することが彼の美徳の一つである。そのヴァイスがコタロウに対して敬語を使用していることになのはは違和感を覚えていた。


(んと、あれ?)


 そこで十字路に差し掛かり、正面から八神はやて、フェイト・テスタロッサ、シャマル、シグナム、ヴィータ、そして青い獣、左からはシャリオ、アルト・クラエッタが、そして後ろからは


「なのはさーん」
 新人たちが追い付く。
「あれ、おかしな偶然もあるもんやねぇ。皆、ご飯?」


 ほな、一緒にいこか? そうして、隊長陣およびヴォルケンリッター――シャマル、シグナム、ヴィータ、青い獣のザフィーラの総称――を先頭に、最後尾に新人たちがつく。ヴァイスやシャリオたちは真中に位置する形になる。コタロウはシャリオの丁度真後ろを歩いている。


「コタロウさん、おはようございますです!」
 はやての隣を飛んでいたリインフォース・ツヴァイがコタロウの横に付き挨拶をすると、
「おはようございます。リインフォース・ツヴァイ曹長」
「おはようございます。リイン曹長」
 コタロウに合わせて隣を歩いていたヴァイスも挨拶をする。
「自分でいうのもなんですが、言いにくくありませんか? リインで構わないですよ?」
「いえいえ。私はこれが普通なのです」


 そうですかぁ。 と、すこし、肩を落として、そのままふよふよとコタロウの隣につく。


「珍しいな。リインって少し人見知りする方じゃなかったっけ?」
「そうね。まぁ、初めのうちだけなんだけど、 面識があるのかしら?」
「ふむ。(あるじ)?」


 ヴィータとシャマルの言うことも最もで、少し考えシグナムは主はやてに問う。


「ん、あー。オフィスにリインのデスクがあったやろ? あれを作ったのがあの人なんよ」


 彼女たちはそういえば、昨日の夕食の間、デスクのことをことさらに自慢していたのを思い出した。そのとき確かにコタロウという名前が出てきたのを覚えている。


「へぇ。あいつが」


 ヴィータが思うのが正しいのかどうかは分からないが、小さいヤツというのが正直な感想であった。
 シグナムも思うところは同じらしく、年は15、6くらいだろうかと第一印象から判断していた。
 戦闘においての判断力は彼女たちはずば抜けていたが、人に対する判断力はヴァイスの方がずば抜けていた。


「そういえば、シャーリーの下につくことになったんすよね?」
「はい。フィニーノ一等陸士の補佐として、新人の皆さんのデータの収集することになりました」
「というと、朝練にも付き合うんで?」
 はい。と、二つ返事で答える。
「どうですかい、新人たちは?」
「どう、といいますと?」
「そりゃあ、話してみてですとか。練習をみての動きですとか。使用しているデバイスですとか。まぁ、思った感想ですかね?」


 ふむ。と、コタロウは右手を顎にあてるがすぐに離して、ヴァイスの方を向く。


「それは教導官高町一等空尉、デバイスマイスターフィニーノ一等陸士、そして新人のみなさんの前で申し上げてもよろしいことなのでしょうか?」


 彼の方を向いたコタロウは寝ぼけ眼をほそくして眉根を寄せていた。


[ねぇねぇ、ティア。ヴァイス陸曹どうして、コタロウに敬語なのかな?]
[わ、私に聞かないでよ]
[ティア? 顔色悪いけど、大丈夫?]


 確かに、今の彼女は少し血の気を失った顔をしている。


[大丈夫よ。すぐにアンタも一気に顔色変わるから]


 ティアナ・ランスターは練習前の自分の突き放したような態度に激しく後悔していた。彼女はどうやら、彼らの会話のやり取りで気づいたようだ。


(なんで、私たち新人たちにあんな態度なのよ、コタロウさんは!)


 ヴァイスの性格上、敬語を使う時がどんな場合かは2言3言話した時に把握していた。。


[私、なのはさんたちやアンタに便乗するから]
[……? どゆこと?]


 彼はなのはの感じた違和感や、ティアナの態度の理由を次の言葉で解消した。


「なぁに言ってるんですかい。コタロウさんはシャーリーが生まれた年に入局してるんですから、そんなこと気にしないでいいんっすよ! なのはさんだって、意も言わさず許してくれますって」


 解消はされたが、一気に空気が凍りつく(特にシャリオの)。


「そういうものなのでしょ――っタ!」


 その空気に気が付かないコタロウは突然立ち止まったシャリオの後頭部に鼻っ柱をぶつけてしまった。帽子はツバが先にあたり、足元にぽとりと落ちている。


「いふぁい(痛い)。えと、食堂に着いたのですか?」


 彼は、ゆっくりとしゃがんで帽子を拾いかぶりなおして、周りを見るが、まだ廊下であった。
 はやてとフェイトはコタロウの叫びで立ち止まり、後ろを振り向くと全員の視線が一点に集まっていた。


[はやて、昨日の私とヴァイスもあんな感じだった?]
[そやね。はたから見ると面白くてしゃあないわ]
 はやては書類で見ているため、昨日も動じていない。
[な、なのはも固まってるんだけど]
[シャマルたちも目を見開いて固まっとるなぁ]


 彼女たちは次に他の皆がどう反応するかは、わかりすぎるほどわかっていた。


「あの、皆さん。どうかなさいました?」


 昨日よりもたっぷり沈黙を使い、ヴァイスがにんまりと声に出して笑う前に、


『えーーーーーーーーーーっ!』


 という、驚嘆の声(なのは、シャリオ、スバルが特に大きい)が廊下に木霊(こだま)した。リインが既に耳を押さえていたのは余談である。






△▽△▽△▽△▽






 食堂へ向かうまでの間、なのは、シャリオ、スバル、ティアナの4人それぞれの謝罪があったが、コタロウは何をそんなに謝っているのだろうかと疑問に思って仕方がなかった。その疑問にはヴァイスが応えるが、


「お好きなように呼んでいただいて構わないと申し上げたはずなのですが」
「……いや、若い分、そういうのには敏感なんでさぁ。自己紹介に年齢も付け加えてはいかがですかい?」
「検討しておきます」


 4人はなんとか罪悪感と自己嫌悪を軽減させることができ、現在は食卓に取ってきた料理をおいて席についている状態だ。帽子は邪魔にならないようにおいている。
 はやて、フェイトもまた、別の席についていた。はやてはヴォルケンリッターと一緒に、なのははフェイトやシャリオたちと一緒に、新人たちは新人たちで席につく。
 コタロウはヴァイスと2人で席についている。
 彼の左では、


「ティア、いつから知ってたのぉ?」


 という声が聞こえ、彼の右では、


「それじゃあ、はやてさんもフェイトさんも知ってたんですか?」
「なんで教えてくれなかったの? うぅ、フェイトちゃんもはやてちゃんもひどいよぉ」


 と、お互いぼそぼそと言い合っているのが聞こえていた。
 コタロウとヴァイスが座っているのは丁度、食堂中央のテレヴィジョンモニタ正面席である。


「んで、さっきの話ですが」
「感想、ですか?」


 そっす。と頷く。ふむと考えコタロウは皿上のハムを刺してリスのように口いっぱいに運び飲み込む。


「性格を答えるならば、皆さん良い方々としか言いようがありません」


 飲み込んで答えるとまた食べ物を口へ運んで行く。どうやら彼は食べながらしゃべるということはしないようだ。


「社交辞令みたいな答えっすねぇ」
「私は機械に触れることが多いですから、人間について述べるのは(むつか)しいです。機械的見地なら、もうすこし話すことが出来ますが」
「機械的な見地っすか?」


 また、彼は口いっぱいに料理を運び、コクリと頷く。ヴァイスは例えば? と、質問した。


「例えば……ふむ。例えば、ナカジマ二等陸士のローラーですが、それほど長くは持たないでしょう。よくて一ヶ月くらいで、壊れますね」


 きょとんと、スバルがその言葉に反応して、コタロウの方へ向く。他の新人たちも彼女に合わせて彼のほうを向いた。なのはやシャリオも彼の発言に興味がわき視線を向ける。


「なぜですか?」
「耐久率の問題ですね。ナカジマ二等陸士は攻撃時は前傾姿勢、防御時は後屈姿勢、走行時は平行姿勢と、立ち方をそれぞれ変えています。あれでは間接部の衝撃はかなりのものでしょう。もっとも、壊れるのはそこからではなく、その箇所の磨耗によって全体のバランスが崩れ、全体の耐久率の低下に伴う故障になるかと思いますが」


 またまた、たっぷりと口に料理を運ぶ。


「……そこまでわかるものなんですか?」


 なのはとシャリオはぱちくりと瞬きするとお互いに目を合わせた。


「んくっ。まぁ、これでも人より機械の方と多く接してきましたから。機械稼動部から、その人を判断したにすぎません」
「いやぁ、結構的確に判断したみたいですよ?」


 何故ですか?と、問うコタロウにヴァイスは嗜好飲料を口にしながら、視線でコタロウの左後方へ視線を送る。彼が振り向いてスバルと目があるとコクコクと首を立てに振っていた。どうも、指摘されて初めて自覚したようである。


「なのはさんは気づいてました?」
「うん。一応。昨日の練習である程度、みんなのウィークポイントを抑えていたから。でも、デバイスにかかる負担率まではいれてないよ。シャーリーは?」
「私のほうは逆でデバイス各所の耐久比率は算出していましたが、新人たちの動きの詳細までは見ていませんでした」


 2人ともそれぞれの得意とする分野の判断は的確に抑えていたが、そこに至る過程がいくつか抜けていた。彼女達は静かに話していたため、コタロウたちや新人たちには聞こえてはおらず、彼らは話を続行する。


「するってぇと、他の新人たちもその、機械的見地からなにか判断できるんで?」


 コタロウはもしゃりと今度は野菜に手をつけている最中であった。


「ん。それは――」
「お? ネコじゃねェか」


 それは突然、会話の中に入ってきた。コタロウは知った声の向くと、そこにはエリオのそれよりのずっと黒い、臙脂(えんじ)色の髪の男が手を振って近づいてくる。


「あ、ジャン。どうしたの?」


 ヴァイスが聞く限り、初めてコタロウが敬語を抜いて話をする相手である。
 彼がジャンという男はヴァイスよりも大きな身長の持ち主で、瞳も髪と同じ色をしている。体格もしっかりしており、通り過ぎる人たちの進行方向を曲げさせる威圧感を持ち合わせていた。


「ん。お隣に挨拶にな。八神はやて二佐はここいるか?」
「八神二等陸佐ならあちらに、いるよ」


 ジャンという男の快活な声はよく通り、はやては自分が呼ばれたことにすぐに気が付いた。それは彼女の周りを囲むシグナムやシャマルたちも同様で、その男に警戒色を強める。


「なんだお前ェ」


 始めに敵意むき出しで立ち上がったのはヴィータだ。


「あんたが八神はやて二佐かい?」


 彼女の反抗的な視線には目もくれず、テーブルの間に挟む形で向かい合い、男ははやてに挑戦的な目を向ける。


「挨拶とは聞こえていたが、部隊長に何か用事でもあるのか?」


 ことりと食器を置くとシグナムも立ち上がり、相手を(にら)む。気が付けば、テーブルの下に居たザフィーラも顔を覗かせ、低い唸り声を上げていた。
 制服を着ていることから同じ局員であることは間違いないはずなのに、一触即発の空気がひしひしと食堂を侵食し、朝食のさわやかさがなくなっていく。
 時間にしては1分も満たない時間であったが、相対(あいたい)する沈黙が時を長引かせていた。


「失礼ですが、どちらさまやろか?」


 ヴァイスもコタロウに同じ質問する。するとその男はまるで拳銃を出すのかのような仕草でゆっくりと自分の胸に手をやり――ぐっとシグナム、ヴィータは身構える。


「……こういう者です」


 先ほどまで張っていた肩を丸めて威圧感をなくし、畏まりながらはやてに名刺を手渡した。あなた方たちもどうぞ。と、身構えている彼女達にも渡す。
 彼女達は視線を落としてゆっくりと黙読すると、はっと顔を上げて相手の顔を確認する。
 そこで男はまた威圧感と挑戦的な目を、今度は彼女たち3人にむけて、


「よろしく!」


 左手を軽く上げて挨拶をした。
 始めに動いたのは課長であるはやてだ。コタロウとは違いピシッとお手本のような敬礼をして、


「うちのものが失礼を。機動5課課長ジャニカ・トラガホルン二等陸佐」


 先ほどの2人と一匹の非礼を()びた。
 それはコタロウが「私の親友の1人です」と、言ったすぐ後のことであった。 
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