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魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~

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第1章 『ネコの手も』
  第1話 『少女の机』






 時空管理局陸上電磁算気器子部工機課課長ドグハイク・ラジコフに1本の通信が入った。


「あぁ? 用件はなんだ、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐?」
「おいおい、会話の始めがその対応は、如何なもんだ、ドグハイク・ラジコフ三等陸佐?」


 2人の関係は決して親しくはない。実際にこうして話すのも、どれくらい振りか覚えていないほどだ。しかし、お互いこの管理局に勤めている年数は短くはなく、どういう性格かはお互い理解していた。


「ん、こんな課に連絡をくれるのは大体決まった連中だからな。すまんすまん。それで、どんな御用で、ゲンヤ・ナカジマ三等陸佐?」


 普通ならば、相手の方から「今大丈夫か?」や、「最近どうだ?」という会話から始めるが、ドグハイクはこの課にはそんな社交辞令は必要なく、相手に用件だけを聞き出す様、通信開始直後からこのように切り出すことにしている。
(なにもかわってないじゃねぇか)

 そんなことは口には出さず、ゲンヤは用件を述べることにする。


「実はな、今度うちの知り合いが4月から新しい課を設立することになったんだが――」
「人貸しか?」


 いや、もうすこしオブラートに包んだ言い方はないのか? と、(ひる)むが、


「まぁ、そういうことだ。新しい課を設けるが、設備まで新しいわけではないからな。 出向で3ヶ月くらい人が欲しい」
「それは構わんが。今、うちから出せるのは1人しかいない。他のやつらはみんな案件を抱えてるんでなぁ。どちらかといわなくてもうちの方も欲しいくらいだ。電磁算気器子部工機課に」


 時空管理局陸上電磁算気器子部工機課という、いやに長ったらしいが、何をするのかはなんとなく分かってしまうこの部は、時空管理局陸上における、電磁、電算、電気、電器、電子部品を担う部であり、工機課はさらに工業生産部品、主に管理世界に存在する質量兵器の調査、検証を行う課である。しかし、実質はまず、電磁算気器子部に所属する課は工機課しかなく、質量兵器の調査、検証もごくたまにで、実際は電磁、電算、電気、電器、電子部品の修理を主な作業としている。

 通称“局の修理屋”である。だが、この工機課は局内で知名度が低く、通称も通っていないため、配属の割り当てが非常に少なく、現在は課長合わせて5人しかいない。普通、組織であれば均等を保つように人員が配分されるはずだが、この課はある資格――先に述べた電云々の各資格――を保有していなければ、配属されることはなく、さらに言うとその資格でさえも人気が少ないため、配属されることがまずない課なのである。


「1人で十分なんだが。というより、課に2人もいれば手にはあまるだろうが」


 そう、しかし逆を言えばこの課は何でもそつなく修理してしまうため、隊、部あるいは課に1人いれば他に専門メカニックは要らないと言われたりもする。


「いや、ここ10年で随分質が落ちたし、局員も増えたろう? 昔とは何もかもちげぇよ」


 そういう時もあったぐらいに留めておいてくれよ。と付けたす。


「だが、1人しかいないんだろう? 結果は変わらん」
「結果1人というのが変わらんのは間違いないが、こいつはなかなかできるやつだぞ。俺の足元にも及ばんがな。っと、久し振りに話を逸らした。で、用件はその1人の出向させるということでいいのか、期限は3ヶ月で?」
「あぁ、書類と場所、日程は後で送る。期限は状況によって延ばすことも可能か?」


 問題ない。と頷く。


「詳細の契約はそい、ん? 直接の契約はだれになるんだ?」


 ゲンヤは片眉をつりあげて、あぁ、と息を漏らす。


「わるいわるい。言ってなかったな。契約者は古代遺物管理部機動六課課長八神はやて」
「ヤガミ・ハヤテ? ニュアンスがにているな、アンタに」
「ん、そういう意味で言うと、ハヤテ・ヤガミ、だな」
「どっちでも構いやしねぇよ。じゃあ、書類は送っておいてくれ」
「了解」


 通信はきれ、デスクの上にある、ブザーを押すと、相手が返事をする。


「はい。こちら――」
「出向だ。書類はついたらすぐに送る。準備しておけよ」

 相手の反応を窺わず、用件だけ伝えて通信を切った。






魔法少女リリカルなのはStrikerS ~困った時の機械ネコ~
第1話 『少女の机』






 4月中頃に、彼は新しく設立された課、古代遺物管理部機動六課、通称“機動六課”のある機動六課隊舎に訪れていた。


「えーと、ロビーはどこかな、と」


 むむぅ。と、目を細めて地図とにらめっこをするが、なんてことはなく、すぐに見つけることができた。彼は初めて行く場所は必ずといっていいほど、迷う人間なので、迷わずに行けたことを喜び、周囲に分からないように、右手をきゅっと握り締めて、ちいさくガッツポーズをとる。

 ロビーに着くと、やはり早過ぎたのかだれもいなかった。


「さすがに2時間は早すぎたなぁ」


 小腹も空いていないし、時間つぶしできるものはないかなぁ、と周りを見渡すと、整理しきれていないところがあるのだろうか、『リサイクル品 御自由にどうぞ』と書かれている貼り紙が貼られているアルミ板と木板を見つけた。



▽△▽△▽△▽△



「ふぅ。無かったですぅ。今日が初日なのにぃ」
「しょうがないやん、リイン。時間が空いた時にでも、また探しにいこ?」
「だって、はやてちゃぁん。デスクもイスも無いなんて、締まらないですぅ!」


 ぷぅと頬を膨らませたり、両肩をがくんと下げたりと、素直に感情を身体で表している一人の女性の横を飛んでいる少女、リインフォース・ツヴァイは不満を漏らしていた。

 そんな小さな仕草の一挙一動が可愛いと思いながらも、言葉には出さずリインの隣を歩いている女性、機動六課課長八神はやては苦笑する。


「ほらほら。リインの行ったとおり今日は初日なんやから、ピシッとしよう?」
「むぅ。むぅです……ぅ?」


 ふと、通り道であるロビーの横を通り過ぎるとき、リインの視界に何か入った。


「どないしたんや、リイン?」


 彼女は一旦軌道を逸れ、視界に入った対象物の近くによる。


「はやてちゃん、はやてちゃん。これ、これ!」
「これって言われても……んぅ?」


 リインが飛んでいる下に目をやると、そこには一般人より1回りも2周りも、いや、どれくらい周りも小さいデスクがぽつんと置いてあった。キャスター付きのイスまである。リインはすとんと座ってみるとイスの背は皮製であることがわかり、使い古されているが、それがむしろ座りやすい。スプリングも丁度良い感じだ。そして、そのほぼ新品同様のデスクには『リサイクル品 御自由にどうぞ』という貼り紙がしてある。


「誰のリサイクル品?」
「誰のでも構わないです。これ、欲しいですぅ」


 はやては、いくらなんでも、無断で持って行くのは。と考えたが、張り紙のこともあり、リインにせっつかれたのもあったりで、すぐにその考えは消え、持って行くことにした。



▽△▽△▽△



「……あれ?」


 作成後、余った物を片付け、戻りがてらお手洗いに行った後、ロビーに戻ると、デスクとイスが消えていた。


「えぇっと。……あれ?」
(作った後、動かしたっけ? いや、動かしたってどこに?)


 自問自答が自問自問になり、自答が出てこなかった。



▽△▽△▽△



 部隊長オフィスでの彼女はかなり上機嫌だった。イスをクルクルまわしながらハミングを奏でるほどである。


「それにしても、リインのデスクも丁度いいのが見つかってよかったなぁ。そのイスなんて私が欲しいくらいや」
「へへー。リインにぴったりサイズですぅ」


 リインはよほど嬉しかったのだろう。机に指を走らせて、ピカピカであることを何度も確かめていた。
 そこでブザーが鳴り、はやては入室を受け入れた。


「失礼します」


 2人の女性が声を揃えて同時に入ってくると、彼女は顔を綻ばせて彼女たちに近寄った。


「お着替え終了やな」
「おふたりとも素敵です」


 リインの賛辞に2人の女性ははにかみながら、
「ありがとう、リイン」と、笑顔で応えた。
「3人で同じ制服なんて、中学生のとき以来やね。なんや、懐かしい」


 3人はそれぞれ元々所属している部署が違うため、これから先同じ制服を着ることは少なくなるなるかもしれないが、それでも今日同じ制服を着ていることは嬉しいことに変わりは無かった。

 二言、三言、会話と楽しむと入室した女性の1人がもう1人に目配せする。


「さて、それでは」
「うん」


 彼女達2人は課長八神はやてに向き直り、敬礼をして足を揃えた。


「本日只今より、高町なのは一等空尉――」
「フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官」
「両名共、機動六課へ出向となります」
「どうぞ、よろしくお願いします」


 敬礼をしたときの髪のなびきで、2人が長髪であることは十分確認はできたが、彼女たちの特徴は長髪というだけでは述べ難かった。

 八神はやてから見て右に位置する女性高町なのはは、赤みがかった茶髪の持ち主で、髪を左側サイドに留めていた。髪を根元の方で留めている分、頭が大きく見られるかと思うが、そのようなことは決してなく、小顔であることは、むしろ周知の事実であった。瞳はブルーで、一等空尉という階級であること、航空戦技教導官であることからか真っ直ぐな目の持ち主である。しかし、男勝りなところは無く、言葉の間々からポロリとこぼれる少女っぽい口調は、彼女のスタイルも加わって、可愛く見せていた。彼女はその容姿と生まれ持った魔法力、戦技教導隊での実直な姿勢から『航空戦技教導隊の若手ナンバーワン』、『不屈のエースオブエース』等、局内での評判が大変良く、他に、雑誌に掲載されたりと、局外でも色々をささやかれている女性である。

 対して、八神はやてから見て左に位置する女性フェイト・テスタロッサ・ハラオウンは、流れるような金髪の持ち主で、後ろ髪の先の方でリボンを蝶々結びにして、大きくなびかない様にしている。瞳はレッド、管理局において執務官という立場にいるのか、それとも彼女の現在まで成長してきた環境なのかは分からないが、物静かな落ち着いた目の持ち主である。しかし、だからと言って、何事においても冷静且つ沈着な行動をとるかというと、こと家族、友人など親近者に対しては感情的になる事が多いため、それは必ずしも当てはまらなかった。彼女は若くして執務官という官職に就いただけに、頭の回転は早く、容姿端麗も相まって、男性を振り向かせる美しさを無自覚ながら身に付けていた。


「はい。よろしくおねがいします」


 (かね)てより2人と友情を育んでいたはやては、親友たちの畏まった態度を素直に受け入れ、もう(かしこ)まらなくてもええよと微笑む。

 2人も応じて、微笑んだ。

 また、入室のブザーが鳴る。


「どうぞ」


 ドアが開き、男性が目を瞑り、かるく頭を垂れながら一言断って入室してきた。

 頭を上げて目を開くと、見知った2人が部隊長オフィスにいることに驚き、慣習により敬礼する。


「高町一等空尉、テスタロッサ・ハラオウン執務官。ご無沙汰しております」


 しかし、2人は自分より身長の高いこの男性をすぐには思い出せず、一拍小首と(かた)げるが、なのはは気付いたようで、名前を告げる。


「もしかして、グリフィス君?」
「はい。グリフィス・ロウランです」


 あぁ、とフェイトも気付く。


「うわぁ、久し振り、ていうかすごい、すごい成長してる」
「うん。前見たときはこんなに小さかったのに」


 なのはに同意して、フェイトはたしかこれくらいだったと胸元に手のひらを置いて示してみせた。


「そ、その節は、色々お世話になりました」


 その頃の自分の幼さに恥ずかしがりながらも、なんとか態度を崩さずにできた。


「グリフィスもここの部隊員なの?」
「はい」
「私の副官で、交代部隊の責任者や」
「運営関係も色々手伝ってもらってるです」


 六課での立場を聞いて、立派に仕事しているんだと思いながら、ふと思いついたように、


「レティ提督は元気?」
「はい。おかげさまで」


 元気にしています。と答えそうになるが、すぐに報告事項を思い出し、グリフィスははやてに向き直った。


「報告してもよろしいでしょうか?」
「はい。どうぞ」


 グリフィスが言うには、フォワード4名を加え機動六課部隊員とスタッフ全員揃いました。現在はロビーに集合、待機させています。との事だった。


「そうかぁ、結構早かったなぁ。ほんなら、なのはちゃん、フェイトちゃん、まずは部隊のみんなに挨拶や」


 2人は揃えて頷く。


(そういえば、ナカジマ三佐が1人メカニックが参画してると言うてたなぁ。見知った人が多い中、浮かんように今日できたら挨拶できたらええなぁ)
 そう思いながら、はやてたちはロビーに足を運んでいった。





 
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