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遊戯王GX ~水と氷の交響曲~

作者:久本誠一
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ターン33 冥府の姫と『白き龍』

 
前書き
新年一発目、このヒトも何かしら複雑なワケがあるようです、な回。
今年も拙作をよろしくお願いします。 

 
『もうやめてくれ。君は悪くないのはわかってる、これは俺の、大人のわがままだ。それもわかってる。だけど頼む、もうやめてくれ』

 どうして、そんなに苦しそうな顔をするのって。

『君は絶対に悪くない。ただ……ただ、俺が弱いんだ。俺はこれ以上、君の視線に耐えられない』

 ねえ、待ってよ。お願いだから返事をして、だって。

『なあ兄さん、俺が一体何をしたっていうんだ。俺はちっぽけな、薄汚れた大人の一人だ。どうして、どうして兄さんはこの子を遺して逝っちまったりしたんだ』

 なんで、泣いてるの?なんでそんなに、助けてほしそうな顔をしてるの?ねえ、もしかして私が邪魔なの?だったらごめんなさい、おじさんに迷惑かけるなら私、この家にいたくないよ、なんだって。

『…………ごめんな、ごめんな。おじさんが駄目な大人のせいで、君みたいな小さな子に心配かけて気を遣わせて。大丈夫だよ、君は何も悪くないんだ。悪いのは俺だ、君のまっすぐな目を見ることのできない俺なんだ』

 いったいどうしたの、おじさん。ねえってば。

『…………そ、そうだよな。ごめんな、変なこと言って。それですまないけど、お使いを頼まれてくれるかい?この手紙を三丁目のおばさんちまで届けてほしいんだ。場所はわかるよね?』

 うん!私できるよ。でもおじさん、ほんとうにだいじょうぶ?

『ああ。それじゃあ、いってらっしゃい。車に気を付けてな』

 はーい。じゃあ、あとでねー!

『……よし、しばらくは戻ってこないだろう。ごめんな兄さん、俺は地獄に堕ちるべきだと思うよ。俺みたいに出来の悪い弟、卑怯者の屑にあの子は眩しすぎる。こんなわがままで最後まであの子には迷惑かけたなあ…………夢想』

 ……

 ………

 …………

 ただいまおじさん!お手紙渡そうと思ったけどおばさんいなかったから、ポストの中に入れてきたよ。あれ、おじさんなんで机の上で寝てるの?だらしないなあ、風邪ひいちゃうよ?テーブルの上におくすり散らかして……おじさん?ねえおじさん、起きてよおじさん!





「……嫌な夢。だって」

 そう言ってむくりとベッドから起き上がり、顔にかかった青い髪を軽く払いのけて洗面台へ向かう彼女の名は河風夢想。これは、ちょうど隼人がクロノス教諭と推薦を賭けたデュエルを行う日の裏で起きていた話。
 さっきまで見ていたあの夢を見るのは、ずいぶんと久しぶりだ。二度と思い出したくない記憶の一部。もう忘れよう、そう呟いて軽くあくびをした彼女は、自分が空腹なことに気が付いた。朝食というにはいささか遅い時間だが、ブランチと洒落込むことにしよう。それから、今日は確かレッド寮の清明の友達がクロノス教諭とデュエルをする日だったはずだ。食べたらそれも見学しに行こう。そこまで考えたところで、足元に封筒が落ちているのに気が付いた。

「………?」

 差出人も書いてない、真っ白な封筒。何気なく拾い上げて封を切ると、中には一枚の手紙とデュエルモンスターズのカードが入っていた。裏向きになっていたので何のカードかはわからなかったが、まず先に手紙から取り出してみる。自分の部屋に落ちているカードということはきっと拾ってもいいはずだ、思わぬ状況で手に入ったカードを知る楽しみは後にとっておこう。

《今日の昼12時、灯台まで来い。なおその際、同封したカードをエクストラデッキに入れることを望む―――――×××××(名前を消した跡がある。なんて書いてあったのかは読めない)》

 時計を見ると、もうすでに11時40分。お昼も食べたいし、そもそも昼からはクロノス教諭のデュエルがあるし、今回は相手には悪いけどご遠慮しようかな。そう思いつつ、とりあえず同封のカードを見るため表にしてみる。

「このカード……」

 見たことのないカードだったが、なぜかそのカードを見た瞬間に心がざわついた。その理由が知りたい、という欲求が抑えきれなくなる。よし、予定は全部変更しよう。一日くらい断食しても倒れたりはしないだろうし。まあ多少栄養バランスが崩れて太りやすくなるかもしれないが。

「………やっぱり行くのやめようかな、なんて」

 割と本気でそう呟きながらも、手早く制服に着替えデュエルディスクにデッキをセットする彼女であった。





「あれ?」

 灯台下にやって来た夢想。てっきり手紙を出した『誰か』がいると思ったのだが、そこには誰もおらずただ波の音がのんびりと聞こえるのみだった。あるいは、その時点ですでにおかしかったのかもしれない。いくら見るべきものがなく暇つぶしの役にも立たない灯台とはいえ、休日の昼間から近くに誰ひとりいないという状況はありえないはずなのだ。それなのに、生徒はおろか清掃員の姿さえない。しょっちゅうデュエルアカデミア近くを飛び回りこの辺りにも巣を作っているカモメの姿すらない。この場にいるのが河風夢想ただ一人という時点で、何か違和感を感じるべきだった。もっとも、普段この辺りに近づかない彼女にそれを求めるのも酷な話なのだが。
 とにかく、彼女がそれに気づいた時にはもう手遅れだった。

「……来たな」

 後ろからかけられる声。それを聞いて何となく、以前清明が『最近後ろをとられることが多い』とぼやいていたのを思い出した。最近ではそのパターンが多すぎて別に驚きもせずにああまたか、なんて思いながら振り向くようになったらしい。それもそれでおかしいのではないか、などと思いながら聞いていた記憶がある。

「誰かな?だってさ」
「俺だよ」
「詐欺の方なら間に合ってますので、って」

 そう返しながら振り向くと、そこにいたのは予想していたアカデミアの学生服姿ではなく、ごくごく一般的な服を着た30代中盤ごろの背の高い男。渋く笑ってこそいるものの、まるで笑っていないその眼を見て素早く距離をとる。

「おいおい、別に知らない仲じゃないだろうにつれねえなぁ………ま、いいさ。俺が聞きたいのは挨拶なんかじゃねえ。なあ、なーんでまたお前がここにいるんだ?さっさとあのガキだけ叩きのめして帰ってくりゃいいだろ、何があったかしらねーけどかれこれ10年以上も姿くらましやがってよ、もしウチの今はもういないクソガキ2号が見つけてなけりゃマジの行方不明者だったんだぞ?」
「知らない仲でもない?10年以上……?」

 何一つ聞き覚えのない単語と、会ったこともない人間の話。そもそも今年で17になる彼女にとって、そんなに前のことなど知ったことではない。だが、そう言い返せないような何かが彼女の中にあった。確かに私は、この男を知っている………という気がする。
 幸いにも、今回は向こうが勝手に話を進めてくれた。

「ん、もしかしてお前、覚えてないのか!?ちっ、めんどくさいことになってやがる。ま、今回は俺もあんま深入りする気はねえし簡単なテストだけで終わらせますかね。ほれ、構えろよ。先行は譲ってやるからさ」
「え、えっと……?」
「デュエルだよ、デューエール。常識だろ?」

 なるほど、それもその通りである。慌てて自分のデュエルディスクを起動させる。だからあのカードをエクストラに入れるよう指定したのか、とも理解した。そして、もう一つ大事なことがある。

「あなたが誰かは知らないけど、私も今日は予定があって、それをちょっと楽しみにしてたの。だから手加減なんてなしの、本気で行くから覚悟してね?だってさ」
「おおー、怖えぇ怖えぇ。ちっこくなっても迫力は変わんねえなあ。にしてもお前、そのヘンテコな語尾はどうしちまったんだ?前はそんな癖ついてなかったろ。ま、それもどうでもいいっちゃその通りなんだがな」

「「デュエル!」」

 本来はランダムで決まる先行も、今回は相手がわざわざ指定してきたためスムーズに決まる。先行だと正直ちょっと困るバイス・ドラゴンなどがデッキに入っているわけではないのでありがたく頂戴してカードを引いた。

「私のターン、まずはワイト夫人を守備表示で召喚。さらにカードを1枚セットして永続魔法、漆黒のトバリを発動。ターンエンドだってさ」

 ワイト夫人 守2200

「相変わらず骸骨好きだねえ。行くぜ俺のターン!まずはカードをセットして、青き眼の乙女を攻撃表示っとくらぁ」

 古めかしい椅子に座る喪服を着た骸骨の女王(たぶん)と、腰まで伸びた長い銀髪に青い目の女性が対峙する。そのどちらも攻撃力は0なのだが、ワイト夫人がその守備力を生かすべく守備表示で召喚されたのとは対照的に乙女は攻撃力0をさらしだしている。

「ん、ターンエンドだぜー。ほれ、逃げも隠れもしないからさっさとかかってこいよ」

 夢想 LP4000 手札:4
          モンスター:ワイト夫人(守)
          魔法・罠:漆黒のトバリ
               1(伏せ)

 男 LP4000 手札:4
         モンスター:青き眼の乙女(攻)
         魔法・罠:1(伏せ)

「私のターン!」

 夢想は考える。あのモンスターの効果は知らないが、攻撃力0を伏せカードもなしで立たせるということは何か裏があるに違いないと。ならばどうするか?よろしい、今この手札で出せる限りの最大火力で立ち向かい、中途半端な策なら力技で押し切れるくらいの攻撃力をぶつけてみよう。

「ドローフェイズ、漆黒のトバリの効果を発動。ドローカードが闇属性だった場合にそのカードを墓地に送ることで、さらにカードをドローできるんだって。私の引いたカードは闇属性、ワイトだから墓地に送ってもう1枚。次に引いたのはまたワイトメア、これも墓地に送ってもう1枚。次は竜骨鬼、これも墓地に送ってドロー。次はまたワイト、墓地に送ってドロー。次は……まあいいや、これでドローフェイズは終わり。メインフェイズまで移って魔法カード、死者蘇生を発動。墓地に送った竜骨鬼を蘇生するみたい」

 地面から骨の腕がにょきっと生えてきて、地面を押さえつけるようにして体が出てくる。大きく裂けた口に胸の中心の赤く光るコアがトレードマークの夢想のメインアタッカーの1体、竜骨鬼である。

 竜骨鬼 攻2400

「さらにワイトキングを召喚、この子の攻撃力は墓地のワイトの数によって1000ポイントずつアップするから、今の攻撃力は3000ね」

 ワイトキング 攻3000

「ったく、エクストラなしでもほんっとよく回るよなぁ……いやになっちまう」
「バトル!まずは竜骨鬼で攻撃!」

 攻撃の指令を受けた竜骨鬼が、口から火の玉を吹き出す。このモンスターはバトルした相手が戦士または魔法使い族だった時にその結果がどうあれ破壊することのできる能力を持っている。乙女がもし戦闘耐性のようなものを持っていても、効果破壊がそのあとに待ち構えているというわけだ。だが、そんな計算は大きく狂うことになる。迫る火の玉に対して乙女が天に祈りをささげると、上空から1体のドラゴンが急降下してきたのだ。

「へへっ、乙女の効果発動……っとくらあ。このカードが攻撃対象になったときに攻撃を無効にして表示形式を変更、さらにデッキか手札、あるいは墓地からコイツを特殊召喚だ。来な、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイトドラゴン)!!」
「ブ、ブルーアイズ!?」

 青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)。どんなデュエリストだって知っている超有名カードであり世界にたった4枚、今は実質3枚しか存在しないはずの伝説のレアカードである。そして、その3枚を保有しているのはかの有名な海馬コーポレーションの若き社長、海馬瀬戸のはずだ。精霊世界においてカイバーマンの精霊も平気な顔してデッキに3積みしていたりもするのだが、あいにく夢想はそのことを知らない。だからとっさのことに気の利いた返しができるわけでもなく、ただ目を白黒させるばかりであった。

「マジで驚いてんな……本っ気でなーんも覚えてないのか。まあいいさ、かかってきな」

 だが、彼女もまた強さを求めるデュエリストの一員である。最強のバニラモンスターである青眼の入ったデッキを相手にする。その興奮に、彼女の中にあった相手に対する不信や警戒は吹っ飛んだ。あるのはただ、デュエリストの闘争本能からくるワクワク感のみ。かかってきな、などとは言われるまでもない。

「ワイトキング、ブルーアイズに攻撃!必殺、螺旋怪談!」

 主の思いに応えるように、ジャンプしたワイトキングがブルーアイズの後ろに素早く回り込んでその首をギリギリと絞めつける。ブルーアイズが苦し紛れに放った尾の一撃がワイトキングの骨格をバラバラにするのと締め付けに限界を迎えたブルーアイズが倒れるのはほぼ同時だった。だが、地に堕ちたドラゴンの横に散らばるワイトキングの体の骨にワイト夫人がそっと手を差し伸べると、愛する妻の願いを受けたワイトキングが寄り集まってくっつき元に戻る。最初からこれを狙っていたからこそ、今後の戦線維持のため乙女ではなく青眼を狙わせたのだ。

 ワイトキング 攻3000→青眼の白龍 攻3000(破壊)

「ワイト夫人が場にいる限り、レベル3以下のアンデットは戦闘で破壊されないしカード効果も受けないよ。私はこれでターンエンド、だって」
「俺のターン!永続魔法、ポジションチェンジを発動!このカードは1ターンに1度、俺のモンスターを隣のモンスターゾーンに移動させることができる………んだが、ここで再び乙女の効果だ!このカードの効果で乙女を対象にしたことで、デッキから2体目のブルーアイズを特殊召喚!」

 再び乙女が天に祈りをささげ、2体目のドラゴンが急降下して乙女のそばに寄り添う。

「さあ、バトルを始めようぜ!ブルーアイズでワイト夫人に攻撃、滅びのバースト・ストリーム!」

 青眼の白龍 攻3000→ワイト夫人 守2200(破壊)

「だけど、ワイト夫人は墓地でワイト扱いになるモンスター!ワイトキングの攻撃力はこれで4000!」

 ワイトキング 攻3000→4000

「それがどうしたぁ!トラップ発動、破壊神の系譜!俺の場にいるレベル8モンスターが守備モンスターを戦闘破壊した時、もう一度だけ追加攻撃をさせることができる!次の相手は竜骨鬼、てめえだ!ダブル・バースト・ストリーム!」

 一度攻撃したはずのブルーアイズの翼が再び広げられ、ふわりと宙に舞いあがると太陽を背にして2度目のブレスを打ち出す。竜骨鬼の効果はあくまで戦士と魔法使いにのみ効力のある限定的なもの、ドラゴン族にとっては何の意味もない。

 青眼の白龍 攻3000→竜骨鬼 攻2400(破壊)
 夢想 LP4000→3600

「メイン2、乙女を攻撃表示に変更。カードを伏せて、ターン終了だ」

 夢想 LP3600 手札:3
          モンスター:ワイトキング(攻)
          魔法・罠:漆黒のトバリ
               1(伏せ)

 男 LP4000 手札:3
         モンスター:青き眼の乙女(攻)
               青眼の白龍(攻)
         魔法・罠:ポジションチェンジ
              1(伏せ)

「私のターン!」

 ドローしたカードをちらりと見るが、どうやらワイトモンスターではなかったらしく漆黒のトバリの効果を使うことはなかった。だが、十分に満足のいくカードを引いたらしい。

「マッド・デーモンを召喚してワイトキングで乙女に攻撃、螺旋怪談!」

 紳士は淑女に手を上げない。だが、別に蹴ってはいかんという法はない。物言わぬ骸骨が回し蹴りを放つものの、その攻撃はまたもや祈りに応え上空から急降下してきた青いドラゴンに阻まれる。

「乙女の効果発動!その攻撃を無効にして乙女を守備表示に変更、デッキからブルーアイズを呼び出す!」
「関係ないよ、マッド・デーモンでもう一度乙女に攻撃!ボーン・スプラッシュ!」

 ワイトキングの攻撃を止めてもらいほっと一息つく乙女の背後から、噛み砕かれた無数の骨のかけらが吹き付けられる。2体のドラゴンもワイトキングに注意をそらされていたため、乙女をかばいに行くことができなかった。

 マッド・デーモン 攻1800→青き眼の乙女 守0(破壊)
 男 LP4000→2200

「ぐうっ!そーいやマッド・デーモン、貫通能力なんてもってやがったっけか。マイナーなカードだからすっかり忘れてたぜ」
「私にとっては頼りになるアタッカーだけどね、だって……」

 そこで一度、言葉を切る。別にためを作ってから言いきろうとしたわけではない。

『だって』

 その次に何を言おうとしていたのか、自分でもわからなかったからだ。確かにこのカードは、彼女のデッキを初期からずっと支え続けてくれたカードの1枚だ。物心ついて初めて組んだデッキに入っていたカード。だけど、それは一体いつのこと?普通に考えれば彼女の年齢を考慮して10年前くらいだろう。本当にそうだろうか。わからない。

「ん?おいおい、せっかくこっちがノッてきたってのにサレンダーでもする気か?そりゃないぜ」
「………ううん、とんでもない。カードをセットして、これでターンエンドだよ」

 だがその疑問は、ひとまず脇に置いておく。今自分のすべきことは、この男をデュエルで倒すこと。そう言い聞かせる。なぜか、そうした方がいいような気がしてならなかったのだ。

「そうか、ならおれのターンだな。魔法発動、実力伯仲!俺の場にいるブルーアイズ1体とお前のワイトキングを選択して発動し、お互いの効果を無効にする。そして、そのモンスターは攻撃も表示形式の変更もできなくなる代わりに戦闘で破壊されず、あらゆるカード効果も受け付けねえ!」
「………っ!ワイトキング!」

 ワイトキング 攻4000→0

「効果無効になったワイトキングなんざぁただの的だ!さらに青き眼の乙女を攻撃表示で召喚、ポジションチェンジの効果を使ってモンスターゾーンの位置を変えつつデッキから3体目のブルーアイズを召喚!」
「これで、3体……」

 青眼の白龍 攻3000

「さあ、俺の知ってるお前ならまさかこれだけじゃあやられねえとは思うが……ブルーアイズ、攻撃!」
「トラップ発動、闇霊術-「欲」!自分の場の闇属性、ワイトキングをリリースすることでカードを2枚引くけど、相手は手札の魔法カードを見せてこのカードを無効にできる!」
「ならこの速攻魔法、おろかな転生を見せることで無効だ!」

 ワイトキングをリリースして発動された伏せカード、闇霊術。その効果こそ無効になってしまったものの、もとより手札が2枚ある相手にこのカードが通るなどとは最初からあまり期待していない。重要なのはその結果、ワイトキングをフィールドから引きはがすことに成功したという1点だ。

「これで私の場にはマッド・デーモン1体だけ。このまま攻撃するの?だって」
「ちっ、うまくかわしたか。そう来なくっちゃな、まずはマッド・デーモンに攻撃!」
「マッド・デーモンもう一つの効果発動、攻撃対象になった場合このカードを守備表示にする!」

 青眼の白龍 攻3000→マッド・デーモン 攻1800→守0(破壊)

「まだあと2体!そのままブルーアイズで連続攻撃だ!」
「そうはさせないよ、ヒーロー見参を発動!あなたが私の手札2枚の中から1枚を選んで、それがモンスターカードなら私の場に特殊召喚するよ、って」
「なら俺はその、俺から見て右のカードを選ぶ!」
「こっち?なら……」

 そう言って、そのカードをゆっくりと表向きにする。そのカードの種類は、モンスターカード。

「手札のスカル・マイスターを守備表示で特殊召喚するんだって」
「ちっ!構わねえ、やっちまえ!」

 青眼の白龍 攻3000→スカル・マイスター 守400(破壊)
 青眼の白龍 攻3000→夢想(直接攻撃)
 夢想 LP3600→600

「どうだ、俺のブルーアイズの味はよお?なかなか効くだろ、こいつらの一撃は」
「う、うん………まあね、だってさ。でも、まだまだ!」
「そーかいそーかい。さて、俺の読みが正しけりゃお前はそろそろ次辺りで決めてくるな。ま、俺も一応あがけるだけあがいてみるがね。っつーわけで手札を全部伏せてターンエンドだ」

 夢想 LP600 手札:1
          モンスター:なし
          魔法・罠:漆黒のトバリ
               1(伏せ)

 男 LP2200 手札:0
         モンスター:青眼の白龍(攻)
               青眼の白龍(攻)
         魔法・罠:ポジションチェンジ
              3(伏せ)

 妙だ。夢想でなくてもそう思うだろう。フィールドは、圧倒的に男の方が有利だ。伏せカードの数も多く、手札も大した差があるわけでもない。だが、男は言い切ったのだ。彼女が次辺りで決めてくる、と。自分が勝つのを諦めているという風ではなく、まるでそれが当然であり、そうでない方がおかしいのだ、といわんばかりの自信を持って。
 だが、どんなに怪しいと思っても彼女には進む以外の選択肢がないのもまた事実である。そしてやはりというべきか、ずば抜けた彼女の運命力はこの場面でも確かに彼女に手を貸した。男の予言通り本当に引いたのだ、この状況を打開して男のライフを一気に0にできる可能性を持つカードを。

「今引いた魔法発動、龍の鏡(ドラゴンズ・ミラー)……!このカードは自分の場か墓地から融合素材になるモンスターを除外することで、融合モンスターを融合召喚することができる!私がゲームから除外するのは、アンデット族の竜骨鬼とワイトキング!」

「おっと待ちな。そこでリバースカード、おろかな転生を発動!この速攻魔法は相手の墓地のカード1枚を選択して持ち主のデッキに戻す………俺はこれでワイトキングをデッキに戻させるぜ!」
「その発動にチェーンしてリバースカード、マジック・ディフレクター!このカードは魔法版のトラップ・スタン、通常魔法以外のあらゆる魔法カードを無効にするんだって」
「こっちは何もねえ、龍の鏡は通すぜ。ちっくしょ、せっかく伏せた月の書までお亡くなりになりやがったか」
「なら続けるよ、だって。アンデット族モンスター2体で融合!冥府の扉を破りし者よ、其には死すらも生温(なまぬる)い!融合召喚、冥界龍 ドラゴネクロ!」

 夢想のバックに幻魔の扉並みに大きな怪しい門が浮かび上がり、その扉がゆっくりと開くと中の地獄のような闇からデーモンの召喚と神炎皇ウリアを足して2で割ったようなドラゴンがヌルリ、と飛んでくる。見ているだけで子供が泣き出しそうなそんな風景を、男はクックックと笑いながら見ていた。

「いいねえいいねえ、やっぱりやってくれる女だぜ。だけど、そいつだけじゃあ効果込みでも力不足だな。最後のトラップ、ダメージ・ダイエット発動!これで俺の受けるダメージはこのターン半分になる」

 そしてそんな男を、冷めた目で見つめる夢想。もしもこの場に普段の彼女をよく知る者が居合わせたら、そのあまりの雰囲気の違いに双子の姉妹かと思うほどだろう。それほど別人めいていたのだが、男にとってはむしろそれが狙いだったのかもしれない。事実、彼はそこでなお笑って見せた。

「ああ、やっぱりな。お前は……」
「最後の手札、ワイトメアの効果発動。このカードを墓地に送って、除外されたワイトキングを特殊召喚する。この時、このワイトキングの攻撃力は5000………バトル!ドラゴネクロ、ブルーアイズに攻撃!ソウル・クランチ!」

 ドラゴネクロがズイッと迫り、ブルーアイズの体を掴んで至近距離から喰らいつこうとするが、その時の一瞬の隙をブルーアイズは見逃さなかった。それよりも一瞬早く放たれたバースト・ストリームが、ドラゴネクロの上半身を吹き飛ばす。

 冥界龍 ドラゴネクロ 攻3000(破壊)→青眼の白龍 攻3000

「本当なら相打ちだけど、ドラゴネクロが戦う相手モンスターはその戦闘で死ぬことは許されない。ただし、その魂は私のもの」

 そう言った瞬間、勝ったはずのブルーアイズがガクンと急に力が抜けたように頭を垂れた。その口から白い霧のようなものが飛び出してきて、それがみるみるうちに黒く染まりながらブルーアイズの姿をとって夢想の場に降り立つ。黒いブルーアイズが、翼を広げた。

「ブルーアイズの攻撃力は0になり、私の場にはその攻撃力とレベルをコピーした魂の成れの果て、ダークソウル・トークンが呼び出される」

 青眼の白龍 攻3000→0
 ダークソウル(青眼の白龍)・トークン 攻3000

「ワイトキングでその抜け殻を攻撃………螺旋怪談」

 ワイトキング 攻5000→青眼の白龍 攻0(破壊)
 男 LP2200→0





「かーっ、負けた負けたっと。んじゃな、あいにく俺もこの後2、3人狩っとかなきゃいかん奴らがいるからな、そろそろお暇するぜー。まあでも安心したわ、なんだかんだいってやっぱお前全然変わってねえし」
「え、あ、ちょっと待………って、だってのに」

 ライフが0になった瞬間言いたいことだけ言って、男の姿はすうっと消えた。まるで最初から誰もいなかったかのように。だけど、この出来事が夢ではない証拠にドラゴネクロのカードはまだ夢想が持っている。なにげなく墓地から取り出してみて、じっくりとイラストを眺める。一体なんだったんだろう、このカードを出した時の不思議な感じ、まるで自分じゃない誰かがデュエルしているのを眺めていたような感覚は。それに、今もまだこのカードを見ると胸がざわつく。何かがありそうな気もするのに、何一つ思い出せない。

「……帰ってお昼にしようかな、なんて」

 だけど、一人で悩んでいても何も始まらない。このどこか懐かしい気もするカードを使い続ければ、何かの拍子に見えてくるものもあるかもしれない。根が楽天的な彼女はそう結論付け、ひとり呟いて静かに女子寮へと戻るのであった。
 これは、ちょうど隼人がクロノス教諭と推薦を賭けたデュエルを行う日の裏で起きていた話。特に誰かに知られることなく起きた、世界の片隅でひっそりと行われた一回のデュエルの話。 
 

 
後書き
言い訳ってわけじゃないですけど、ちょっとした補足。
今回の男さん(仮名)、かなりあからさまに手抜いてます。あくまでも今回は様子見だけね。 
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