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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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『強欲のヴァイオリニスト』編
  歌い手、森に向かう

 今、僕とラッテンさんは白夜叉さんに呼ばれて“サウザンドアイズ”に来ています。
 ここに来る前、“ノーネーム”の問題児たちが何か悪巧みをするような顔をしてたんだけど・・・黒ウサギさん、大丈夫かな・・・

「うむ、よく来たな二人とも」
「あ、おはようございます白夜叉さん」
「おはよう、白夜叉」

 まあ、白夜叉さんも来たことだし気にしないようにしよう。
 よくよく考えてみれば春日部さんが街のほうに行きたいとか言ってたけど、それも気にすることはないはずだ、うん。

「で、今日はどういったご用件で?またどこかのコミュニティから演奏の依頼ですか?」
「いや、依頼ではあるのだが・・・演奏の依頼ではないし、私・・・東側の階層支配者としての依頼だ」

 スケールが今までにないレベルで大きい・・・常々言ってるけど、僕は歌い手だよ?

「一階層支配者が自分の仕事を他の人に任せる気かしら?責任問題とかにはならないの?」
「まあ、それを言われるとふがいなくて穴があったら入りたいくらいなのだが・・・この件については、私には解決することが出来ん」
「そんなことが僕たちに解決できるはずがないですよ・・・せめて、逆廻君か黒ウサギさん辺りでないと・・・」

 逆廻君は規格外の何でもありだし、黒ウサギさんなら魔王が相手でも“審判権限”を使うことが出来る。
 間違いなく、僕たちなんかよりも適役だろう。

「いや、私の知り合いの中では奏とラッテンが適役だ。他にも解決できそうな心当たりはあるが、契約を交わしている二人のほうがいいだろう」
「契約・・・ああ、そう言うことね。なら確かに、私達が適役だわ」
「ラッテンさん、何か分かったなら教えてください。いや、本当に」

 この場で理解できていないのが僕だけになってしまった。

「そうですね・・・ご主人様、私達二人に共通していることはなんですか?」

 最近ではもう慣れてきてしまったラッテンさんの喋り方に、しかしまだ戸惑いながらも僕は答える。

「僕とラッテンさんの・・・“音楽シリーズ”ですか?」
「ええ、そうです。当たりでしょう、白夜叉?」

 ラッテンさんもこの切り替えに慣れてきたのか、僕から白夜叉さんに話し相手が代わる際に一切のよどみがなかった。

「うむ、その通りだ。事の発端は、先日私の元に来た報告なのだが・・・」

 そう言って、白夜叉さんはそのときの話を始めた。



♪♪♪



「なに?森を目指したものが帰ってきていない?」
「ええ、ギフトの材料などを取りに行ったメンバーが、誰一人帰ってきていません」

 おかしい・・・メンバーの中には相当な実力者もいたのだぞ。それが一人も帰ってきていないなど・・・

「そこで少し気になって調べてみたのですが、どうやら他のコミュニティからも森を目指したもの、そのメンバーを探しに行ったものなどが帰ってきていないんだそうです」
「森に入ったものが例外なく帰ってきていない・・・そう言うことでいいのだな?」
「ええ、その通りです」

 このまま静観しておるわけにはいかんな。
 それに、誰も例外なく巻き込むことの出来るやり方など、私は“主催者権限”しか知らぬ。

「分かった。私自ら出向き、原因を叩き潰して来よう」
「ええ、よろしくお願いします」

 そして、私は問題の場所に出向き、森の中で多くの人間が倒れている場所にたどり着いた。

「これほどの数が、同じ場所で・・・」

 倒れている一人の下にしゃがみ、手をとると・・・間違いなく、脈はあった。
 気絶・・・いや、これは・・・・

「寝ている・・・のか?」

 そう、一人残らず眠っていた。
 もし、これが“主催者権限”によるものなら、この場に立ち入った時点で私にも影響があるはず。だが、そんな様子はない。
 となれば、これは魔王によるものではない可能性が出てくる。

「・・・まあいい。この先に進めば真相はわかる」

 そして、私はこの先・・・より倒れているものの多いほうに進んでいった。



♫♫♫



「と、私が話せるのはここまでだ」
「あの・・・結局原因はなんなんですか?それに、進んだ先には何が?」

 僕がそう聞くと、白夜叉さんは少しばつが悪そうにして・・・

「悪いが、私には分からん・・・進んだ先で私も眠気に襲われてしまい、情けないことに引き返してきてしまってな・・・」
「・・・階層支配者が何をしてるのよ・・・」
「・・・・・・ぐうの音も出ん・・・」

 本当にすまなさそうにしている辺り、この人、根はしっかりとした人なんだと思う。
 普段のセクハラ発言、行動はかなりの問題児的行動だけど・・・箱庭三大問題児と言われるほどではない気が・・・

「で、話を戻しますけど・・・そんな案件を、何で僕たち二人に頼むんですか?言っちゃうと、僕たちただ珍しいギフトを持ってるだけの二人組みですよ?」
「いや、まあ確かにそうなのだが・・・私が眠気に襲われる寸前、確かに聞いたのだ。ヴァイオリンの音(・・・・・・・・)を」

 何でこのタイミングで楽器の音が・・・?

「やっぱり、そう言うことね」
「あの・・・そろそろ本当に説明をお願いしたいのですが・・・」
「ご主人様?まさかとは思いますけど、まだ分からないのですか・・・?」

 始めて見た気がするなぁ、ラッテンさんが本気で呆れた顔。
 今までにも何度か情けない姿を見せたことはあるんだけど、そのときは弄るネタを見つけて楽しそうにしてたんだよね・・・それどころじゃないくらい、分からない僕が情けないのかな?

「では、もう少しヒントを。ヒント1。今回の件の犯人は、白夜叉クラス・・・最強種にすら影響を及ぼすことの出来るギフトを所持している」

 まあ、これについては白夜叉さんが眠気に襲われたことからも間違いない。

「まだ分かりませんか?では、ヒント2。そのギフトは不特定多数に対して影響を及ぼすことが出来、“主催者権限”ではない」

 “主催者権限”か否かは白夜叉さんの推測だけど、信憑性は高いと思う。

「これ以上のヒントは答えになってしまうので、最後のヒントです。ヒント3。以上の情報から、今回の件の犯人は、相手の格に関わらず使うことの出来る、“主催者権限”ではないギフトを所持している」

 ふむ・・・なんだか・・・

「すっごく身近に、そんなギフトがある気がするのですが・・・」
「ようやく分かりましたか、おバカなご主人様♪」

 甘んじて受け入れましょう・・・

「まあ、そう言うわけだ。すまんが、私の代わりに解決に向かってはくれんかの?」

 確かに、最強種にすら影響を出す“音楽シリーズ”のギフトは、同じ“音楽シリーズ”のギフトを持つ僕やラッテンさんには直接的(・・・)には効かない。

「私は、ご主人様さえよければ構いませんよ?」
「・・・では、僕も問題ありません。ただ、いくつかお願いしてもいいですか?」
「もちろんだとも。報酬は十分に出すし、何か必要なものがあれば準備する」
「いえ、必要なものとかはないんですけど・・・今回の件がしっかりと解決して、その人も合意したらでいいんですけど・・・そのヴァイオリニスト、僕たちで引きとってもいいですか?」

 出来ることなら、同じシリーズのギフトを持ってる人とは仲良くなりたい。
 そう思って、少し恥ずかしいけど白夜叉さんに言ったら・・・優しい視線を送ってくれた。

「うむ、もちろんだとも。事情によっては多少不自由をしくことになるかもしれんが、引き取ることに問題はない。むしろ、おんしらのように、そやつのギフトが効かぬものが引き取ってくれたほうが、安心できるしのう」
「・・・ありがとうございます」

 僕は素直に頭を下げ、それから立ち上がった。

「では、確かに今回の件、僕たちが引き受けました」
「うむ、頼んだぞ」
 
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