| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

IS インフィニット・ストラトス~普通と平和を目指した果てに…………~

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

number-10



私は、真っ白な世界の中にいた。右も左も真っ白で、上も下も真っ白だ。地面っていう概念がなさそうで、どうやって立っているのかが不思議でならない。
そんな真っ白な世界に立っているのは、私だけではなかった。視線を前に向ければ、二つの人影が見える。二つのうちの一つは、一体誰なのか分からない。黒で覆われていて、まるでまだ見てはいけないとかそういうことを訴えているような、……よく分からないけど、そんな感じ。もう一つは、見慣れた人だった。


私が愛してやまない人。愛しくて愛しくて、少しでも離れてしまうと切なささえ感じてしまうほどに愛おしい人。御袰衣蓮。それが私の大好きな人。幼いころから好きだった。でも、束さんには勝てないと思ってた。だったら私は、二番目でもよかった。私を見てくれたらよかった。更識家第十八代目当主、更識楯無として見られるのではなく、一人の女の子として。更識刀奈、私を私として見てくれればいい。


でも、私の目の前で蓮と黒いものは銃を向け合っている。
その途端、真っ白な世界に変化が訪れた。上下左右白で埋め尽くされていたのに、やたらと見覚えのある風景に移り変わった。――――すぐに分かった。IS学園ということを。でも、それは私の知るIS学園ではなかった。
辺り一面、瓦礫の山。校舎もほとんど壊れていて、壊れていないところを探す方が難しいぐらいだった。全壊。それが今見ている風景を言葉で表すのに一番だった。どうして私がこんなものを見ているかは分からない。だっていきなりこんな風景になったのだから。


きょろきょろと辺りを見渡していたが、それもとりあえず終わらせて、二人の方に顔を向けた。最初は、二人が何をしていたかなんて理解できなかった。銃を向け合っている。そう思っていたが、あの黒いものが蓮に向けているだけでない。あのボロボロになった校舎から僅かに見えたが、金髪が風に流れてスコープ越しに蓮を見ている少女。セシリア・オルコット。彼女の右手人差し指は、引き金に掛けられていた。


その瞬間、私の背中を何か得体のしれないものがゾワリと駆け巡った。悪寒がする。認めたくない。そんな事実を、目の前で起こっていることを。――――認めたくないっ!!


「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええっっっっっっっっっ!!!!!!!!」


自分でも驚くぐらいの叫びが私の口から出てきた。でも、目の前の二人は特に反応を示さなかった。聞こえていて無視するのではなくて、もともと私の声なんて聞こえていないかのように二人は引き金に指をかけた。


――ダァァン! ダァン!


………………………………………………………………。
銃声は二回聞こえた。私の目には、ゆっくりと時間が動いている様にしか感じられなかった。音が無くなって、時間という概念が薄れて、ただゆっくりに一秒一秒がまるで惜しむように、悔いるように進んでいく。そして、そう感じられる私の目には、いやというほど克明に目に焼き付いていく。


でも。でも……。――――私は見たくなかった。何があっても、あれだけは見たくなかった。絶対に見たくなかった。というより、誰があれを見たいと思う者がいるのだろうか。…………自分の愛する人が、体を折り曲げて、宙に浮いて、地に伏せる姿など。
胸から血を流している。勢いが強すぎて噴き出しているように見えるぐらいだ。


だけど、蓮は銃口を黒いものに向けていなかった。左利きであるから左に銃を持ってい構えていたのだが、撃つ瞬間に左に銃口を向けていた。
それは有り得ないことと私は思う。けれども、もしかしたらと左側――――IS学園の方を見た。より正確にいうのであらば、狙撃手であるセシリア・オルコットがライフルを構えて狙っていた位置を。肉眼では見えないので、ISのハイパーセンサーで倍率を上げてみる。
そこには信じられないといった表情で目を見開いて額から血を流しているセシリアが後ろに倒れていくところだった。金髪が風に靡いている。


蓮は、一瞬にしてセシリアに狙いをつけて銃――――ハンドガンの限界射程距離ギリギリにいるセシリアの急所を撃ち抜いた。
近くにいる黒いものよりも、遠くにいる狙撃手を排除した。しかし、どちらを選んで撃ってもどちらかに撃たれるのだ。


私は血だまりに伏す蓮のもとに駆け寄った。それにしても私が誰にも見えないというのは本当らしい。私の体をすり抜けるように後ろから束さんが駆け寄っていったのだから。
幽霊? 思念体? そんなこと、今となってはどうでもよかった。今一番大事なことは蓮が撃たれたということだ。


私は蓮を撃った黒いものを睨みつけるようにして顔を向けた。
すると、黒いものが、その存在を隠す様に姿かたちを隠していた闇のような黒が、無くなっていく。まるで、影が太陽に照らされて無くなっていくような感じで。そしてそのおかげで蓮の撃ったやつの正体が分かる。
でも私は、心の中のどこかで分かっていたのかもしれない。ある程度予想をつけていたのかもしれない。驚きはなかった。やっぱりという方が圧倒的に大きかった。


蓮を撃ったやつは、もう疲労困憊といった感じで、もう立っているのもやっとみたいな印象を与えられる。拳銃を握りしめている右手もカタカタを振るえて、まともに狙いを着けられなかった筈であるが、偶然かどうかは私には分からない。けれども、やつが放った銃弾は、寸分違わず蓮の胸に吸い込まれるように撃ち抜いた。
そいつの右手には、いまだ煙が立ち上る銃を握っていた。そして、血だまりに倒れ伏す蓮を見下していた。何かをトチ狂ったように呟いていたが、すぐに何も言わなくなった。その代わりに、感情のこもっていない視線が蓮を捉える。
こんな奴いなくなって当然だ。死んで当然だ。そんな感情が、あの瞳から読み取れる。私は、その瞳を見た瞬間、激しい憎悪を覚えた。


憎い、憎い、憎い。殺してやりたい。絶対に殺してやる。殺す……っ!!
そんな感情に私は囚われる。でも私は、今は無力だ。ISを持っていても使えたとしても、すり抜けるだけ。何かを持って殴りかかろうとしても殴りかかる前に何も持てない。悔しくて私は、膝から崩れ落ちるしかなかった。


悔しくて、目に涙が滲んできた。なんとなく蓮を見た。なんとなく……なのだろうか。誰かに言われて見たといった方が正しいのかもしれない。
でも、愛しい人のこんな姿は見たくなかった。もう意識も朦朧としていて、今すぐにも意識を失って消えてしまいそうだった。そんな彼が、誰にも見えない筈の私をしっかりと捉えていた。試しに私は、悪いと思いつつも、立ち上がって右に左に動いてみた。ついてくる彼の視線。
そして、掠れて声も出せない状態にあるのに口を開いて何かを呟くように言った。それは一番近くにいた束さんには聞こえなかったらしく、もう一度と懇願していた。


私は、何を言っているのか聞こえた気がする。そしてそれは、明らかに私に向けられた言葉であることが分かる。――――嬉しかった。


私は、もう一度蓮を撃ったやつを睨んだ。そいつは、なおも感情なく蓮を見つめていた。
そいつ――――モンド・グロッソ世界大会。第一回ブリュンヒルデ、織斑千冬の唯一の血縁者。織斑一夏は、私の愛おしい人の敵だ。


――ダァン!


そう思った時であった。今度は一回、銃声が辺りに響いたのは。
私は、音の鳴った方を反射的に見た。そこには、私がいた。自分の専用機をボロボロになっても纏ったままで、隣には食い下がるようにやめるように言っていたと思われる妹。その妹も悲痛な表情をしている。そしてもう一人の私の右手には、IS用の小型の銃、ハンドガンをモデルにして作られた銃が握られていた。撃った方を見ると、私の前に立っている織斑一夏が、血を口から吐いて倒れていくところだった。


      ◯


「――――はっ!」


ガバッと勢いよく体を起こした楯無。どうやら魘されていたようでいやな汗がべったりと体から吹き出ていた。下着と蓮のワイシャツを着て寝ていたため、ワイシャツは汗でぐっしょりとしていた。隣のベットを見ると、寝ている筈の蓮がいなくなっていた。


ベットから起きて洗面所へ行き、ぐっしょりとしてしまったワイシャツを脱いで洗濯かごに入れると、棚からタオルを取り出した後、上の下着も取り去り、その豊満な胸を隠そうともせずにタオルで汗を拭きとる。拭いていく過程で下の下着も脱いで一糸纏わぬ姿になると、不快感をなくそうとシャワーを浴びようとも考えたが、それすらも躊躇い、隠そうともせずに一度部屋に戻り、着替えを取り出してすぐに身に着けると制服を着る。


鍵を持って部屋から出て、鍵を閉めるとすぐに駆け出していく。
楯無にとって蓮の居場所を探すことは容易ではない。ただでさえ広い学園の敷地内、どこにいるかなんて分かる筈もなかったが、今回だけは、なんとなく分かった。
寮を音を立てないように走り、階段を駆け上って屋上に出る。――――いた。


まだ朝日は出ていなかったが、水平線の彼方から段々と明るくなっている。いずれここいら一帯も朝日に照らされ始める。
そんなまだ頭を出さない朝日の見つめるようにベンチに座る一人の青年。御袰衣蓮は、楯無に気付くと立ち上がって楯無の方を向いた。
蓮の姿を見た楯無は、自分の感情を抑えきれなくなって蓮に向かって駆け出して、抱き着いた。


「……どうした、楯無」
「……ダメ、楯無って呼ばないで。…………刀奈って、昔みたいに刀奈って呼んで」


そう抱き着いた状態から蓮の顔を見上げて、若干涙目であったが、それすらも気づかずに願う。
蓮に長としての名前でなく、一人の女の子の名前を呼ばせる。今だけは、更識家当主としてではなく、一人の女の子として見てほしかったのだ。


「……刀奈」


彼女の名前を読んだ蓮は、驚きこそしたが、楯無――――刀奈に手をまわして抱きしめる。そして、慰めるように頭をポンポンと撫で始めた。
刀奈は、声を殺して泣く。蓮は、その嗚咽だけが聞こえていた。


夜明け――――。
朝日が抱き合う二人を照らし始めた――――。






 
 

 
後書き

2月18日にタイトル変更いたしました。ようやく仮称が取れました。
それはさておき。もう10話と二桁行きましたが、まだ我らが主人公の乗るISの名称が出ていません。どうしましょう。いずれ出しますけど。……IS設定とか、見たいですか? 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧