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渦巻く滄海 紅き空 【上】

作者:日月
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六十五 待ち人

 
前書き
捏造多数です!ご注意ください!!
また、間違っている箇所が多数あると思いますが、ご容赦ください(汗)お願いします!

 

 
さらさらと流れゆく。耳に心地よいせせらぎは、深閑たる森と同じく癒しを齎す。

澄んだ青空の下、陽光が澄み切った水面に降り注ぐ。空を閉じ込めたかのように光る水鏡。反映した木立までもが陽射しによって、眩いばかりに輝いている。
空が天と地にあるかのような錯覚に陥るその場で、彼は煌めく淵を覗き込んだ。

澄んだ水際にて、仕掛けておいた網を手繰り寄せる。ぴちぴちと跳ねる魚が水飛沫を上げた。
鱗が反射して、眩しさに目を細める。岸辺の合歓木の幹に結わえていた網を今一度引っ張っていると、不意に頭上へ影が差した。

見上げると、一羽の小鳥がこちらに向かって飛んでくる。掲げた人差し指の上へ降り立った小鳥は、彼の耳元で何事か囀った。

途端、ハッと顔を上げる。

視線の先。数人の忍びを引き連れた少年の姿に息を呑む。今まで煌めいていた陽光も水面も、その存在の前には全てが色褪せた。

「久しぶり」
にこやかに微笑まれる。瞬間、彼は網をかなぐり捨てた。



「ナルトさんナルトさんナルトさんナルトさん――――――っ!!」
「…ちょ、ちょっと落ち着こうか、重吾」

勢いよく突進してきた、自身より遙かに大柄な体に抱きつかれる。思いっきり抱き締められ、ナルトは踏鞴を踏んだ。小鳥が慌てて空へ舞い上がる。
倒れるところをなんとか耐えるが、押し潰す勢いは一向に削げない。むしろ益々強まる腕の強さにナルトの身体が悲鳴を上げた。

「ナルトくんから離れてください!!」
「ダーリンに何しやがる!!」
間髪容れず白と香燐が同時に叫んだ。思いっきり尻尾を振る大型犬の如くナルトに圧し掛かったまま、重吾は二人の非難を聞き流す。気色ばんだ白と香燐がすぐさま重吾を引っぺがそうとした。

正面から重吾、両腕を白と香燐に引っ張られる。遠い眼をして後ろを振り返ったナルトから、他の面々は皆一斉に顔を逸らした。みしみしと骨が軋む音に、彼らが青褪めているのは言うまでもない。

「白と君麻呂ばっかりナルトさんと会ってるんだから、偶にはいいだろう!?」
「君の場合、骨折どころじゃ済まないんですよ!!毎回ナルトくんに飛びつくの止めてください!!」
「この木偶の坊!ダーリンが潰れるだろーが!!さっさと手ぇ離せ!!」

三竦み。ぎゃあぎゃあと三者三様に言い合うその様は、母親を取り合う子ども達のようだ。
「人気者は辛いなぁ」とニヤニヤ笑っていた再不斬だったが、ナルトの無言の訴えを受け、うっと言葉に詰まった。渋々ごほんっと咳払いする。

「あ――…お前ら、いい加減に…」
「うるさい!口を挟むな!!」
「すみません、再不斬さん。少し黙っててください」
「すっこんでろ!!」
「……お前ら……」

だが、逆に口々と言いやられ、徐々に再不斬は顔に青筋を立て始めた。一層悪くなる場の空気を感じ取って、ナルトがはあ…と溜息をつく。
「重吾、とにかくお前の家で話そう」

鶴の一声。
途端、重吾の顔が輝き、ナルトから手を離した。白と香燐も不満げな顔はそのままだが、ぴたりと言い争いを止める。

不毛な争いにあっさり終止符を打ったナルトを恨めしそうに横目で見ながら「最初から、てめえでやれよ」と再不斬は小さく悪態を吐き捨てた。未だ気絶中の水月を肩に担ぎ直し、唖然とするドスとキンを顎で促す。


そして一行はナルトと重吾の後に続いた。ナルトに懐く重吾を睨みつける白と香燐の視線の鋭さには気づかない振りをして。
空を旋回する小鳥が、重吾の家へ向かう彼らの背中を見送っていた。















同じ空の下。

華やかな街並みを愉しげに駆ける。一見無邪気な子どもにしか見えない二人は、祭りの店の合間を縫うように走っていた。

「そういや、ナルはどうしてこの街に来たんだ?」
一通り遊んだ後、思い立ったように訊ねる。アマルの問いに、ナルは綿飴を頬張るのを止めた。

「…もしかして、この祭り目当てか?」
「ち、違うってばよぉ!ここへは人捜しに来たんだってば」
慌てて否定するナルの言葉を聞いたアマルは目を瞬かせた。やにわに俯く。ナル同様に食べていた綿飴をじっと見つめ、「そっかぁ…」とアマルは頷いた。

「オレと同じだな」
「?アマルも誰か、人を捜してんのか?」

不思議そうに首を傾げるナルに、アマルはうっすらと微笑した。寂しげな笑みを浮かべ、「恩人なんだ」と小さく呟く。
その声音は狂おしいほど切なげなものだった。

直後、顔を上げる。寸前とは一転した明るい声で、「それで捜してる最中に、今の先生に弟子入りしたんだ」とアマルは誇らしげに答えた。

「オレもオレも!ここへはエロ仙人と来たんだってば!!」
「エロ仙人?」
「オレの師匠だってばよ!」
はいはいっと手を上げるナルを見て、アマルは満面の笑みを浮かべた。

「なんか、似た者同士だな、オレ達!」
「そうだってばね!」
にこにこと笑顔で綿飴を頬張る二人の子ども。微笑ましい光景だが、次第に彼女達は自身の師匠について愚痴を言い始めた。


「でもさ~。エロ仙人ってば、すっげ~女好きで…」
「オレの先生も賭博が好きで、困ってるんだよな…」
「今捜してる人もすっごい美人だからとか…でもエロ仙人と同い年だからなぁ~」
「美人なのは美人なんだけど、毎回容姿を変えるんだよ。おかげで偶にわからなくなる」
「あと『イチャイチャパラダイス』ってよくわかんない小説書いてるんだけど、その取材の為に覗きするのはおかしいと思うってばよ」
「借金取りから逃げる為に姿を変えるってのは、ちょっとな~。というか、賭け事の才能無いんだから、止めたらいいのに」
「仙人みたいに強いらしいけど、やっぱエロ仙人はエロ仙人だってば!」
「もう既に多くの賭場で目をつけられちゃって…カモはカモでも『伝説のカモ』だぜ!どんだけ弱いんだよ!!」

「「ん?」」
そこではたと気づく。どこかで聞いた事のあるような…。


お互いに顔を見合わせていたナルとアマルの前で、ひゅんっと一人の男が吹き飛んでいった。しかも回転しながら飛んでゆくその様に、思わず目を見張る。

何事かと飛んできた方角を見ると、白髪の大柄な男――自来也が身体についた埃を叩いていた。
「…ったく。いい気分で姉ちゃんと酒を呑んでいたのに、台無しじゃわい」

居酒屋からのっそり現れる。男にイチャモンをつけられ、女性との楽しい会話を邪魔された自来也が、仕返しとばかりに相手を吹き飛ばしたようだ。
店の中を覗いたナルが「あっ」と声を上げる。パンパンに入っていた自身の蛙財布がぺちゃんこになっているのを見て、彼女は顔を引き攣らせた。

「なんでオレの金、全部使い切ってんだよ!?このエロ仙人―――っ!!」
「え!?エロ仙人!?この人が!?」
驚くアマルを尻目に、ナルは自来也に掴みかかる。怒る彼女の金髪頭をぽんぽんと叩いて「お、ナル!ちょうどいい。今からお前に術を見せてやるからのお。よ~く見とけ」と自来也が悪びれも無く言い放った。

見渡すと、何時の間にか柄の悪そうな男がもう一人、自来也の前に立ちはだかっている。どうやら自来也が吹き飛ばした男の仲間のようだ。

おもむろに自来也がすっと手を掲げる。拳上で風が渦を巻いたかと思うと、次の瞬間、男は先ほど自来也が吹き飛ばした男の二の舞になっていた。


吹っ飛んだ男が祭りの店にぶつかる。倒壊した店から飛んできた水風船を受け止め、自来也はどこか企むように含み笑った。
「今のが【螺旋丸】!お前に教える超高等忍術だ!!」

自信満々にナルを振り仰いだ自来也は、そこでようやくアマルの存在に気づいた。目を丸くする。
「…誰かいのぉ?」


祭囃子が鳴り響く短冊街。
はからずも捜し人の弟子と出会った自来也は、水風船を片手に首を傾げたのだった。

















波の国。
忍びの隠れ里を持たぬ、小さな島国。
つい最近までは海運会社のガトーに乗っ取られ、大名ですら金を持っていないほど貧しかった小国だ。悪徳組織の長でもあったガトーに海運を独占されていた波の国民達は、遮断されている物流を活発化させる為、橋の建設を試みた。

波風ナルの活躍によって、ガトーから自らの国を取り戻した島民は、今現在島と大陸を結ぶ橋の開通を目指し、活気付き始めている。
徐々にだが、ようやく立ち直りつつある、豊富な水と緑に恵まれた国である。

重吾の家は、その波の国にあった。


人目を避けるように、森の深奥部にある家屋。四方は林に囲まれ、聞こえてくるのは鳥や動物の鳴き声、それに川のせせらぎの音だけだ。
日当たりの良いのどかな場所。ナルトの指示で白と再不斬がガトーに雇われていた際、白が薬草を摘んでいたあの森である。

家屋の横には薪置き場があり、聊か離れた場所には魚獲り用の網を仕掛けてある川が流れている。鬱蒼と生い茂る広大な森の中でひっそり佇んでいるものの、存外住み心地が良さそうな家だ。
その家の主人たる重吾はナルトの傍から一向に離れようとしない為、誰が主なのか少々解り兼ねるが。



「てめえ、いい加減離れやがれ!ウチのダーリンにべったりくっつきやがって!!」
「いや、違うだろ」
業を煮やした香燐が怒鳴る。それをげんなりした顔で再不斬がツッコんだ。ナルトに至っては反論する気力もないようだ。心なしか、疲れて見える。

「そうですよ!ナルトくんは皆のお母さんみたいな存在なんですから!独り占めは許しませんよ!!」
「…それも違うだろ、白…」
とんでもない事を言う白に、再不斬は眉間を押さえた。まともな発言を期待していただけに、頭が痛い。付き合い切れねぇ…と呟き、囲炉端の前でごろんと横になる。
不貞寝する再不斬に苦笑を零したナルトがようやく口を開いた。

「重吾、暫く来られなくてすまなかったな。発作は抑えられているか」
「大丈夫。ナルトさんのおかげだ」
気遣わしげなナルトの問いに、晴れやかな面立ちで重吾は答えた。


元来おとなしい性格の重吾だが、時折殺人衝動が湧き起こる事がある。
その衝動を抑える事が出来る唯一の人物がナルトだ。また、重吾の異常な性質を更生させる為に、波の国に住むよう勧めたのもナルトである。

その理由が波の国に群生する植物だ。この森に生えている薬草で調合した薬のみが重吾を落ち着かせ、精神を安定させる効能を持つ。

以前波風ナルと偶然出会った白が摘んでいた薬草は、畑カカシとの闘いにより傷を負った再不斬の治癒及び重吾の薬に用いるモノだったのだ。薬を開発したナルトと当事者である重吾は勿論、その薬の調合法を白も知っているからである。

「…そうか。ガトーが滞在している間は大変だっただろう。お前の体質は周りの空気にあてられて変化するからな」


重吾の体質は自然エネルギーをその身に取り込み、それ故に【仙術】に由来する術が多彩に扱える。ナルトの来訪を告げた小鳥の言葉が解ったのもその力によるものだ。

しかしながら自然エネルギーは周囲の空気が大いに影響する。例えば平穏な国ならば重吾も落ち着きを保っていられるが、戦が絶えない国ならば常に殺人衝動が抑えられない状況に陥る。だからこそ重吾は、薬調合に必要な薬草があり、尚且つ比較的平和なこの波の国に住んでいるのである。

だが一時期ガトーの存在が波の国の空気を不穏にし、重吾の精神をも脅かしていた。
特異体質により小動物と意思疎通出来る重吾は、動物から得た情報をナルトへ流す役割も担っている。体質故、国内の険悪な空気を逸早く感じ取った重吾はすぐさまナルトに助けを求めた。

以上の事から、ナルトが波の国の内情に精通していたのは重吾によるものが大きい。もっとも、橋の建設に力を入れていたタズナが木ノ葉の忍びに依頼するという事柄は、ナルトの推測だ。
重吾から得た情報を基に先を予測した彼は、白と再不斬に波の国へ赴くよう要請した。木ノ葉の忍びである波風ナルの力量の確認もあるが、重吾が気掛かりだったからだ。

いくら薬で精神を安定させても、ガトーの影響で不穏な空気が漂う国内では、いつ殺人衝動が起こるか分からない。だからこそナルトは薬の調合法を知る白と、重吾を抑えられる可能性を持つ再不斬を波の国へ派遣させたのだ。



「今はこの国の景気も回復しつつあるから、発作も無い。それにナルトさんの手を煩わせるわけにはいかない」
ナルトの懸念を払拭させるべく、重吾はわざと明るい声を上げた。ナルトが物言う間もなく、断固として告げる。
「ナルトさんがいなければ、俺は人間でいられなかった。『鬼』のままだった」


心優しき心と殺人鬼の心を抱く重吾。いつどちらに転ぶかわからない『天秤の重吾』――『鬼』と呼ばれた少年。
二重人格の如く豹変する体質は自分ではどうしようもなかった。自らを檻に閉じ込めても、その檻すら破壊する凶悪な力を抑制する事は叶わなかった。

でも今や、波の国で穏やかに過ごしている。この夢のような現実を叶えてくれたナルトの存在は、重吾にとって『神』同然だった。


「ナルトさんが俺を『人間』にしてくれたんだ」


重吾は敬愛の眼差しでナルトを見つめる。白や君麻呂同様、己を崇拝する重吾にナルトは苦笑した。
白も君麻呂も重吾も、幼くして両親を亡くしている。本来親へ捧げられるべき親愛の情が自身に向かっているのだろうと、ナルトは聊か寂寥感に苛まれた。



重吾の話を不貞寝しつつも聞いていた再不斬が欠伸した。瞑目したまま、首切り包丁に手を伸ばす。
「おっと」

何時の間に、目を覚ましたのか。忍び足で家の戸口に向かおうとした水月の行く手を首切り包丁で阻む。気づかれていないと思っていた水月が、逃げ道を遮られて冷や汗を掻いた。

寝そべり、瞳を閉ざした状態で水月の逃亡を食い止めた再不斬。その口許だけが静かに弧を描く。
「何処へ行くつもりだ?」
愉快げに笑う再不斬の顔は、『鬼』と『人間』のさなか――『鬼人』と呼ぶに相応しい顔だった。


「話の途中で席を立つなんざ、感心しねぇな――――何が目的だ?」
 
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