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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百三十八話:ひとときの平和な風景

『ドーラちゃーん!かまど、こんな感じでいいー?』
「ありがとう、モモ!すごいね、器用だね!大体、そんな感じで大丈夫!あと細かいところは、こっちでやるから!」

 巨大なテーブルマウンテンを北から迂回して西に進み、さらに南下して、ルラムーン草があると思われる大陸の南西の端に着いて、まだ明るいうちにと野営の準備を始めて。

 薪を拾いに行ったピエール、スラリン、コドランに同行しようとしたモモを、学習したとは言え不埒な野良キラーパンサーがうろつくこの辺りを、私から離れて行動させるわけにはいかないと引き留めたところ。
 モモがかまどの作成を買って出て、食材の下拵えをしながら見守る私とヘンリーの横で器用に石を積み上げて、かまどを作り上げてくれました。

 字も書けるようになったって言うし、モモの賢さ可愛さ器用さは、留まるところを知らないね!
 さすが、私のモモ!

 水場を探す手間を考えて今回は水も十分に持ってきたので、後は薪収集班を待ちながら下拵えを終えて、手が空いたらかまどの隙間を埋めて。

 と、この後の作業の手順を考え始めたところで、三人が薪を抱えて戻ってきます。

「只今戻り申した。薪はこの程度で……ふむ、かまどにござりますか。これは、モモ殿が?獣の身では指も使えぬでしょうに、器用であられますな。なれば、仕上げは拙者が」
「あれ?ピエール、そんなこともできるの?」

 お茶は入れられなそうだったから、なんとなく料理絡みなこんなこともできない気がしてたけど。

「スライムナイトたるもの、野営に必要な一通りの知識や技術は、当然に身に付けてござります。ただ、調理に関しましては、如何せん……武骨なスライムナイトのすることにござりますゆえ。獲物の解体等の作業であれば難もありませぬが、味付けや諸々の加減については、食えぬことは無いというような有り様で。面目次第もありませぬ」

 万能に見えたピエールさんにも、意外な弱点が。

 でもまあ、美味しくないって自覚があって、その上で食べられないことは無いって言うんだから、本人の生存の上でも仲間としてパーティを組む上でも、困るほどのことでも無いよね。
 スライムナイトという種族全体で料理下手なんだったら、それは辛そうだが。

 そんな他種族の食事事情の心配は、今はいいとして。

「大丈夫。その辺は、私とヘンリーでするから。作業を手伝ってもらえるだけで、助かるよ。かまどの仕上げ、よろしくね」
「はっ。お任せを」
「なになに?スキマを埋めればいーわけ?そんなら、おいらもやるー」
「壊すで無いぞ、コドランよ」
「だいじょーぶだって!んな、モモちゃんの苦労を台無しにするよーなことしねーって!」

 和気あいあいと作業を始めた二人の横で、体を揺らして私を見上げる、もう一人。

「……ピキー?」
「うーん……スラリンは……。そうだ、モモと一緒にいてあげて!もう大丈夫だと思うけど、油断はできないからね!私も料理に集中したら、気付かないかもしれないし。モモを、よろしくね!」
「ピキー!」

 キリッと表情を引き締めて、スラリンが請け合ってくれます。

『ドーラちゃんがちゃんとしてくれたから、あたしももう大丈夫だと思うけど。でもよろしくね、スラリンくん!』
「ピキー!」

 モモも、嬉しそうですね!
 野良キラーパンサーは私が教育済みだし、ヘンリーがトヘロスを使ったから他の魔物ですら今は寄って来ないんですけれども。
 気持ちの問題はまた別だし、不安な時に誰かが一緒にいてくれるっていうのは、やっぱり心強いものだからね!

 私がそんなことを話している間にもヘンリーは手際良く作業を進め、串に刺した肉や野菜に各種香草や調味料を手早く振りかけています。
 手際が良すぎて何をどんな順番でどのくらいの量振りかけてるのかさっぱりわかりませんけれども、これは。

「ヘンリー、それって。ポートセルミの屋台の?」
「ああ。モモが食べたがってたからな。他にも、いつものヤツも作るから」
「うん!私も、すぐやるね!」

 いつものヤツで出てくる料理に心当たりが多すぎるんですが、ヘンリーが作るのならどれでも美味しいからね!
 本当に久しぶりだし、これは楽しみだね!

 メインの肉料理はヘンリーに任せて、私も途中だったスープやサラダの作業に戻ります。
 何も難しいことも無く極端な手間ひまもかからない、いかにも家庭料理的なシロモノですけれども。
 野菜の面取りとか下処理は丁寧にしたし、味噌が無いから味噌汁は無理でも出汁はちゃんと取って、和風の味付けにするつもりだけれどもね!
 サンチョの味もいいんだけど、モモとヘンリーに私が作る折角の機会だからね!
 ヘンリーとモモ以外の三人の舌に合うかどうかという不安はあるが、毎日食べるわけでもないし。
 奴隷仲間のみなさんにも好評だったし、たまに食べるくらいならまあ大丈夫だろう。

 概ね下拵えが済んだところで、かまどの仕上げを済ませて火も起こしてくれたピエールが声をかけてきます。

「ドーラ様。かまどの準備は出来てござるゆえ、いつでも」
「ありがとう、ピエール、コドラン!それじゃ、早速」



 そんなこんなで、調理を済ませ。

 お昼というにはかなり遅く、まだ明るいので夕飯にはずいぶん早いんですが。
 暗くなったらすぐにもルラムーン草の捜索を開始したいので、さっさと食事を済ませることにします。

 奴隷労働よろしく適当な岩を運んできて、板を渡してテーブルにして。
 少し低めの岩を並べて、椅子代わりにして。
 作ったテーブルの上に、料理と食器を並べます。


『もう、いいの?それじゃ、いただきまーす!あっ!これ、あのときの!』
「うん、モモのためにヘンリーが作ってくれたんだよ!良かったね、モモ!」
『うん!嬉しい!ありがとう、ヘンリーさん!』
「ヘンリー、ありがとうって」
「ああ。味見はしたから、大丈夫だとは思うんだが」
『うん!とってもおいしい!あのとき食べた味とおんなじで、でももっとおいしいみたい!』
「あのときより美味しいって」

 ヘンリーが屋台の味を再現した串焼きを食べて、モモが喉を鳴らして感動していますが。

 再現するどころか上位互換に仕上げてくるとは、どこまで素人離れしてるんだこのイケメンは。

 そんなことを思いつつ、もう一つの肉料理を運んできて切り分けるヘンリーの手元に目をやって、思わず声を上げます。

「あっ、それ!私の好きなヤツ!」

 ヘンリーが作るもので好きじゃないヤツとかむしろ無いんですが、中でも特に気に入ってる一品が!
 鶏に炒めた野菜やキノコなんかの詰め物をして、表面はパリパリに、中はふっくらと焼き上げて、切り分けた後に特製のソースをかけていただくアレが!
 お肉の焼き加減が絶妙で、色んな味がするのに口の中で全てが調和する、絶品ローストチキンが!!
 こんな野外でお目にかかれるとは!!

 がっつり食い付いた私に、ヘンリーが微笑んで答えます。

「久しぶりだからな。お前が好きなのにした。勝手が違うから、上手くいったかな」

 なんということだ、ガッチリ胃袋を掴まれている!
 そんなこと言いながらきっちり仕上げてきてるに決まってるんだ、このイケメンは!

 でもいいや、美味しいは正義です!!

「ありがとう、ヘンリー!今日のも、すごく美味しそう!」

 完全に思うツボに嵌まって満面の笑みで喜びを表す私に、またヘンリーも嬉しそうに微笑み返しながら、切り分けた料理を渡してくれます。

 全員に行き渡るのを待って、一口分に手元でさらに切り分けて。
 口に運ぶと、広がる肉や野菜の芳醇な薫り。
 噛み締めると、さらに広がるジューシーな肉汁と、食材の織り成す調和(ハーモニー)

 ああ、口の中が幸せ……!!

 物理的にも精神的にも幸せを噛み締めてニヤける私に、またヘンリーが声をかけてきます。

「ドーラのスープも、久しぶりだな。これは自分じゃ出来ないんだよな、何故か」
「またまたー。上手いんだからー」

 幸せな気分のままに、軽く返しますが。

 この玄人はだしなヘンリーが、やってできないことは無いと思うんですけれども。
 でもまあ、これだけ手の込んだ美味しいものが作れるなら、無理にこっち側に手を出す必要も無いだろう。

 一心にお肉に食い付いていたモモも、話を聞いてかスープに口を付け、また喉を鳴らしてくれます。

『あ、ほんと!ドーラちゃんのスープ、おいしい!すっごく……懐かしい、味がする……』

 嬉しそうに感想を述べていたモモが、不意に下を向きます。

「……モモ?……大丈夫?」

 すっかり大人しくなってしまったモモに手を伸ばし、優しく撫でながら問いかけます。

 ……懐かしくて、思い出してしまうのも、いいことばっかりじゃなかったよね。

 ……失敗だったかな。
 無難に、サンチョの味にしておけば良かったか。

 そんなことを考えながら撫で続けていると、モモがぐりぐりと頭を擦り寄せてきたので、受け止めて抱き締めます。

『……あたし。ドーラちゃんに会えて。ドーラちゃんがいてくれて、ほんとに、よかった』
「そっか」

 作って、良かったのか。
 なら、良かった。

『……ドーラちゃんの味。ちゃんと、覚えてるから。だから、また作ってね』
「うん。また、いつでも作ってあげるから。まだあるから、今もちゃんと食べてね」
『……うん!あたしお腹空いてたから!いっぱい、食べるね!』

 また元気になったモモが私から離れ、改めてスープに口を付けて食事を再開します。

 空気が緩んだのを見て取り、他の仲間たちもそれぞれに感想を述べてくれます。

「ドーラ様もヘンリー殿も、素晴らしい腕をお持ちですな。ドーラ様のスープ、このような味付けは初めて食しますが、実に味わい深い」
「ピキー!ピキー!」
「ドーラちゃんはともかく、なんでヘンリーが料理できんだよー。しかもウマいとか、いーんだけどびみょーなんだけど。気分的に。……あ、まってまって!ごめん、わるかった!わるかったから、返して!すげーウマいから、これ!」

 軽口を叩いて無言のヘンリーに皿を取り上げられたコドランが、すぐさま土下座する勢いで謝罪して笑いを取る等ということもありつつ。


 食事を済ませて、キレイキレイの便利さを噛み締めながら片付けも済ませ、暗くなるまで一休みすることにします。

『あたしは、薬草集めにはあんまり役に立たないと思うから。起きて見張ってるから、みんなは休んでて!ヘンリーさんがトヘロスかけ直してくれたし、みんなから離れるわけじゃないし!大丈夫だから、みんな休んで!』

 張り切って見張りを買って出てくれたモモに後を任せて、毛布にくるまって休むことにして。

 ……本当はモモに抱き付いて、モフモフを堪能しながら休みたかったけれども。
 起きて見張りをするモモにそんなことしたら、モモも眠気を誘われるし身動きし辛くなるしで迷惑だろうし。
 仕方ない、ここは諦めるか。


 馬車に入ってもいいんですが、季節もいいし天気も良くて、木陰で休んだほうが気持ち良さそうなので、毛布を持って木陰に移動して。

 毛布に包まると、同じことを考えたのか隣にヘンリーが陣取ってきます。

 魔物な三人は、そのまま日向ぼっこしながら寝るようですが。
 ピエールはどうか知らないが、スラリンとコドランとスラ風号に関しては、紫外線対策とか全く必要無さそうだもんね。
 ピエールにしても、「スライムナイトたるもの……」とかそんなこと言い出しそうだし。


 横になったからと言ってすぐ寝付けるわけでもないので、なんとなく隣のヘンリーに声をかけてみます。

「……ヘンリー。……なんか。……平和だね」
「……そうだな」

 だからどうということも無いけれども。
 平和に見えて実は決してそうでは無いなんてことも、勿論わかってるけれども。

 ……お腹がいっぱいなせいか、意外と眠くなってきた。

 眠気でぼんやりとしながら、なんとなく言葉を続けます。

「……ヘンリー。……お父さんの、剣。しっかり、使えてたね……」
「……そうか?」

 もう既に、手に馴染んでたというか。
 元の持ち主と基本の技術は共通してるせいか、誂えたみたいに似合ってた。

「……うん。なんか、ちょっと、……お父さんみたい、だった……」
「……そうか」
「…………ヘンリー。…………いつまで、こうやって…………」
「……ドーラ?……寝たのか?」

 幸せなような切ないような、ふわふわとした感覚に包まれて、何を言ったかも言われたかもよくわからないまま、いつの間にか眠りに落ちました。 
 

 
後書き
 書き上がりが投稿時間ギリギリだったので、公開後にタイトルを変えてしまいました。
 すみません。 
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