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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
麻帆良編
  導入編 第6-M話 刹那

私達はマクダゥエル邸を辞した後、幾つか買い物をすませ、帰寮した。
結局あの後、さらに一時間ほど雑談をしていた為、麻帆良の案内は龍宮神社(マナの家)だけにしてもらった。

「ただいま」
いるかはわからないが、入居は済んでいる筈の同居人に帰宅を告げる。

危うく靴を履いたまま部屋に入りそうになるがマナの指摘でそれを回避する。

マナがついてきたのはどうせなら三人で夕食にしようと言う事らしい。

「お帰りなさい、長谷川さん…と龍宮さん?」

リビングに進むとそこには少女が立っていた。
人種はモンゴロイド、身長は私達より若干小柄(まあ、互いに成長期故に先は知らんが)、肌は白く、その黒髪はサイドテールに纏められていた。
野太刀らしきものを背負っている。
武装自体は私達もしているが…その眼と気配は刃や銃口に似ていて、臨戦態勢に近い。
私ならこのレベルで警戒を示すという時は既に敵対を覚悟している事を示す威嚇の段階まで達している。
こちらを見極めるためにわざとやっているのか…?

なら…
「わたしが長谷川千雨です。はじめまして、桜咲刹那さんですね、これから三年間よろしくお願いします、できる事ならばね。こっちはご察しの通り…」
「はじめまして、龍宮真名だ、よろしくたのむ。まあ、同じ大家の軒を借りるもの同士、うまくやって行けると思いたい」
私とマナは仕事用の顔(商人とガンマン)を作っていささか皮肉交じりに挨拶をした。

はじめての相手を警戒するのは当然にしても、ここまで露骨に探るにはこれからの私達の関係からすると良くない。
一応、この街を支配する関東魔法協会の決めたルームメイトなのだから、出会って早々こんな事で決定的に対立したら面子を汚すとまで行かなくても愉快ではないはずだが、だからと言って、降伏の類をするのもよくない。
よって私達はあえて露骨に仮面を分厚くし、皮肉交じりに対応した。

「あ…はじめまして、桜咲刹那ですよろしくお願いします。
いきなりルームメイトに向ける視線ではなかったですね、申しわけありません」
桜咲がはっとした様子でペコリとお辞儀をする…刀が鞘に収まった感じがするな…鯉口は切られたままだが。

うん、戦闘面はなかなかやりそうだが…性格は素直で対人関係は…経験が浅そうだ。



「まあ、一人しか帰ってくる筈が無いのに二人連れで帰宅すれば警戒させても仕方ないさ」
マナが肩を竦める
「お互いに礼を失しない程度に気軽に行こう、あ~桜咲…さん?」
表情を崩してそう言ってやる。

「名字にさん付けか呼び捨てが無難でしょうね、私はどちらでも良いですよ」
「なら、私は基本的に桜咲と呼ばせて貰う、私は龍宮でも、真名でも好きに呼んでくれ」
「私は多分桜咲と桜咲さんが混ざる事になる。呼び方は同じく長谷川でも千雨でも好きにしてくれていいよ」
「わかりました、長谷川さん、龍宮さん」
ま、そんなどころか、桜咲は真面目そうだし。

「ところで龍宮さんは何故此方に?入居予定は明日でしたよね」
まあ、それは聞くだろう
「ああ…実は千雨とは元々知り合いでな、三人で夕食でも食べに行かないかと思ってな、どうする?」
「なるほど…そうですね、お邪魔でないなら私もご一緒しましょう。
まだ夕食の支度にはかかって無いので問題ありません」
「え…夕食の支度?」
「…どうかしましたか?」
「いやだって…作るのか?」
「必要なければ明日の朝食にしようと一応二人分用意するつもりでしたが…?」
なんか桜咲と私の間に行き違いがある気がする。

「…ああ、こっちじゃ自宅で作る方が多いんだ、少なくとも学生寮にまともなキッチンがつく程度にはな」
「なるほど、桜咲さん混乱させたな。
あっちじゃ屋台なんかで外食か、出前か缶詰か冷凍食品あたりが当たり前だったんだ」

「あっち?長谷川さんはどこに住んでいたんですか?」
脊髄反射の様に、不快感、軽い威嚇でそれを表現する。

返って来たのは桜咲の困惑まじりの殺気に…マナのあきれ声
『これくらいは向こうで、仕事用前に手札を一枚は見せろ、と言うのと同じ事だ。今は堅気の時間だ、抑えろレイン』
「oh…すまない、桜咲さん、こう言う会話に慣れていませんもので。真名もありがとう」

そう言う事なら私のミスだが…加減がわからない。

「あ、いえ…先ほどの件とお互い様と言う事で…」
「すまんな、桜咲。千雨はこういう表の常識に疎い所があってな…
食事中にしようかと思っていたが念のために出かける前に少し自己紹介しようか…
まずはカバー、表向きの立場で一巡してから、明かせる範囲で所属とジョブを。
それでかまわないかい、桜咲さん、千雨」
「あ、はい。問題ありません」
「了解、だが加減がわからないから最後にしてもらって良いか?」

「うむ、ならば私から入学式後の自己紹介のつもりで行こうか。
龍宮真名だ、見ての通り、ハーフって奴だな。好きな食べ物は餡蜜、嫌いな食べ物はエビとオクラだ。
麻帆良に家はあるが、保護者の仕事の関係でここの小学校には通っていなかった。三年間よろしく頼む」
そう言ってマナは表向きの笑顔を作った。
「次は私ですね。京都から来ました、桜咲刹那です。剣道部に入ろうかと思っています。三年間よろしくお願いします」
桜咲はどこか突き放す様な口調と表情でそう言った。
「ん…タイのロアナプラから来ました長谷川千雨です。好きな飲食物はミードです。
部活動はどうするかまだ決めていません。三年間よろしくお願いします。…こんな感じか?」

桜咲は普通、マナは…あ、不味い。

「…2つ問題点が、いや良くない点と見逃せない点があったな」
「…ロアナプラとミードかな。タイで暮らしてた、甘い物が好き、位にした方が良いか?」
「うん、気付いてくれて嬉しい。さもなくば、ぶん殴りたくなっただろうからな」
マナが拳を握りながら言う。

「あの、ろあなぷらは地名の様ですが、そんなに問題なのですか?
あと、ミードとはどの様な食べ物なのでしょう?」
桜咲がおずおずと質問する

「ああ…私がいた街、ロアナプラは…まあ、簡単に言えばものすごく治安の悪い場所だよ」
警察までグルで、もはや外部からは実情を知ることすらできない程に…
まあ、私達住民に言わせれば絶妙なバランスで秩序は保たれているのだが。

「なるほど、確かに言わない方が良いですね。それでミードとは?」
「ん…まあ蜂蜜から作ったヨーロッパの飲み物だよ」
「…それが好きな事がなぜ問題なのでしょうか」
桜咲が不思議そうな顔をする。

「まあ…その…」
この真面目そうなルームメイトにばらすと十中八九めんどくさい事になるが…
誤魔化したところで、後でよりめんどくさい事になるのが目に見えてるので言うしかないか。

「ミードは蜂蜜を発酵させて作った酒の事だ、ハニーワインとも言う」
「お酒が好きって…確かに未成年が公言して良いことじゃないですね」

…あれ、未成年が飲酒なんてとんでもないと怒るかと思ったんだが。

「こちらでは本当に必要な場合を除いて避けて下さいね、魔法様式や宗教の儀式ですら噛みつかれると聞いていますので」

…そういやキリスト教系の魔法にパンとワインを使う儀式魔法があるらしいな、私のは純然たる嗜好品だが。

「…桜咲の使う術式に含まれるのか?」
「まあ、まて。そこまで話すなら先に裏向きの自己紹介だ」
マナが割って入る。

「龍宮真名だ、マナ・アルカナとも名乗っている。
私自身は無所属だが、主従契約の主人兼保護者が四音階の組み鈴に所属している。
職業は…傭兵と言うべきかな。
主人の活動の手伝いや討伐依頼をこなしたり、繋がりのある組織の作戦に金で雇われたりしていた。
節度を守りつつ、報酬次第で退魔の仕事も受けていこうと思っている。
後は…銃器を使用した戦闘全般が得意だな。
ナイフも扱えるが…本職の剣士やナイフ使い相手には分が悪いかな、以上だ」
…まあ、ナイフを使うところまで追い込めれば、な。
マナは瞬動術を用いた機動射撃戦闘を基本としているので、持ち換えはあるにせよ、あらゆる距離で銃器を用いるのが基本だ。

「京都神鳴流剣士、桜咲刹那です。
所属は関西呪術協会で、退魔師をしながら修行をしていました。
此度はお嬢様の護衛として派遣されました。お嬢様の敵には容赦しませんのでご理解を」
…神鳴流、たしか通常の射撃、投擲武器は切り払われるんだったか。
対策は…散弾や包囲による飽和攻撃か、切り払われる前提でダメージを与える(爆発、薬品等)、あるい武器破壊狙った(撤甲弾等の)特殊弾頭を用いる事だったかな。
そもそも、並みのガンナーは瞬動術で距離を詰められておしまいらしいが。

「関西呪術協会…お嬢様…ああ、近衛木乃香嬢か。余計な事は絶対にするな、と上からも言われてるよ」
正確には、
関東、関西の長クラスの血縁だから上手く接近しろ、但し謀略を用いたり、無理に近付く様な保護者を刺激する方法のは厳禁、成果が上がらなくてもかまわない。
だけどな

「…まあ、その通りです。
ご存知でしょうが関東魔法協会の理事にして麻帆良の長である学園長の孫でもあるのでそのつもりで。
そうそう、魔法についてもお嬢様には知らせていませんのでご配慮を」
冷たい眼でそう言った桜咲の纏う空気は、自重だけで肉に食い込んでいくような刃に似ていた。
…つまり、触れれば切られる様な恐ろしさと同時に、固い物と打ち合えば簡単に欠けてしまう脆弱性を感じた。

「…ま、あんたらの所のお嬢様に手を出す気はないよ」
そう言って溜め息を一つ。

「私は長谷川千雨、又の名をレイン、アンブレラ社のエージェントだ。
まあ、常識的な品なら用意できるよ、情報や技能なんかも含めてな。
珍しい品の売買も担当に取り次ぐから希望するなら言ってくれ」

「アンブレラ社…」

桜咲が訝しげな顔で呟く。まあ仕方ない、素直で世間様と正義を共有している様な人間が死の商人に向けるのはそんな感情だ。

「…えっと、それはどう言った組織なのでしょうか?」

脱力感に襲われる。

「…もしかして桜咲って戦闘関係品の調達や整備って自前か組織任せにしてたのか?」
「自分でするか、剣の師匠に紹介していただいた刀匠にお願いしていましたが…それがなにか?」
「あぁ~そうか、ならわからんでもないか。私達アンブレラはな、端的に言うなら武器商人だよ。
陰陽術関係を含んだ魔法符や魔法薬、武器…一部の高額商品以外は数打ちになるが日本の刀剣も扱ってる。
あと、技術指導や情報も売ってやれるよ、それ相応に値は張るけどな…念のため言っとくが関東魔法協会からは売買許可証もらってるからな?」

「武器商人…ならば私が知らなくて当然ですね」
桜咲は一応納得した様だ…一応、メセンブリーナ連合系魔法組織間の取引を別にすれば最大手なんだがな、うちの組織。

「まあ、お互い最低限のバックグラウンドは把握した事にして夕食にしようか」

時間は18時30分、悪くない

「私はかまわない」
「私も問題ありません」

「よし、行こうか」

私達は麻帆良の町に繰り出して行った。




 
 

 
後書き
今回は刹那との出会い編です。いまいち修学旅行編前の刹那のキャラがつかみかねているのでこんな感じにしてみました。

もし、この時点で刹那がアンブレラの(死の商人としての)事をよく知っていたらもっと険悪になってましたが、今はまだ武器商人としか知らないので。

2014 0108 1830 一部言い回しと誤字脱字を訂正しました。 
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