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Element Magic Trinity

作者:緋色の空
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BEST FRIEND


週刊ソーサラー。毎週水曜日発売。

新しい魔法商品やホットなギルドの紹介、美人魔導士のグラビアなどで人気を博する魔法専門誌だ。

妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士からも、美人だと評判の看板娘ミラや、その恋人であり「彼氏にしたい魔導士ランキング」上位ランカーのアルカが何回かモデルを務めた事がある。

今回は妖精の尻尾(フェアリーテイル)の大特集という事で、その週刊ソーサラーがギルドに取材に来るのだ。

そして・・・誰よりも張り切っている者が1人。

「ばっちりエビ!」
「ヤバい・・・今日のあたし、ちょっとかわいいかも」

ルーシィである。
ただでさえ露出の多い格好をしているというのに、今日はキャミソールにショートパンツ、髪もアップにしていた。

「あたしの存在を大陸中にアピールするのよ!」
「有名になってどうするエビ?」

――――ルーシィが家で浮かれている間は、まだ知らなかった。

まさか・・・あんな惨劇が起こるとは・・・。






ギルドは騒がしかった。
否、過去形ではなく、現在進行形で、騒がしい。
昨日3時間を超えるティアの説教の後に綺麗に片付けたギルドは、いつもの様にごちゃごちゃしていた。

「うわー、ありえないくらいゴチャゴチャしてんじゃん・・・」
「せっかくの取材日なんだし・・・ここっていろいろ問題起こすから問題視されてるし、ここらで評判あげておきたいよね」

いつもと変わらないギルドの様子にルーシィが呆れ、ルーが笑う。
―――自分がギルドの10本の指に入る問題児だという事は綺麗に忘れているが。

「まぁ、この方が妖精の尻尾(フェアリーテイル)らしくていいんじゃないか?」

そんな2人にエルザがそう言うと、ルーシィは嬉しそうに笑い、ルーはクスクスと微笑んだ。

「エルザ、変わったね」
「そうか?」
「うん。楽園の塔の一件があってから変わったよ。だって今までなら・・・」

そう言って、2人は『今までのエルザならどんな図か』を想像する。

『片付けー!汚いぞー!仕事行けー!』

思い浮かんだのは、だらけているメンバーに喝を飛ばしまくるエルザだった。

「今は新装パーティのようなものだろう?少しくらいハメを外すのも若者の特権だ」
「少し、ねぇ?」
「全然少しじゃない気もするけど・・・」

そんな会話をしていると、ルーがとある事に気づいた。

「そういえばエルザ、鎧新しくしたの?」

そう。
エルザの普段着である鎧が新調されているのだ。

「うん・・・やはりこの方が落ち着くんだ。ハートクロイツ製の新しいモデルだ」

胸の辺りにギルドの紋章が描かれた新しい鎧について、エルザが少し得意げに話していると―――

「Ohー!ティターニア!」

3人の背後、ギルドの入り口辺りから、この騒ぎようのメンバーにも負けない程にテンションの高い声が響いてきた。

「クールCOOLクゥール!本物のエルザじゃん!クゥゥゥール!」

その声の主は、声同様にテンションが高かった。
アンテナのように髪を立て、首からカメラを下げ、グッズショップで売られているものであろうギルドのロゴ入りTシャツを着た男性『ジェイソン』。
彼こそが今回ギルドに取材に来た週刊ソーサラーの記者である。

「週ソラの人?テンション高っ!」
「アルカに比べたら大した事ないよう」
「もう来ていたのか」

嬉しそうに両腕を天に突き上げ叫ぶジェイソン。

「申し訳ないな、こんな見苦しい所を」
「ノープログレム!こーゆー自然体を期待してたんですヨ!」

記者が来たからには、自分の存在をアピールしたいルーシィのする事はただ1つ。

「あたしルーシィって言いまーす♪エルザちゃんとはお友達でぇー」

そう。売り込みだ。

「よかったら二、三質問に答えてくれないかい?」
「構わないが・・・」

だが、見事に無視された。
ジェイソンはメモ帳とペンを手に、エルザに質問しようとしている。

「ルーシィ・・・」
「何よ」
「今の、固定客を作るキャバ嬢みたいだったよ。またキャバ嬢って呼ばれちゃうからやめた方がいいと思う」
「呼ばれちゃうって、呼んでたのアンタだけだから!」
「てへっ」

真顔でそう言うルーにルーシィはツッコみを入れる。
―――ルーの口癖を久々に聞いた気がした。

「換装できる鎧は全部でいくつあるんです?」
「100種類以上だ」
「COOL!」

ピーン、とジェイソンのアンテナ髪型が立つ。

「1番お気に入りは?」
「バニーガールだな」
「バ・・・バニー!?」
「あの耳が可愛いんだ」
「COOOOOOOOOOOOOL!」

エルザの言葉に驚きながらも更にテンションを上げるジェイソン。

「好きな食べ物は?」
「チーズケーキとスフレは外せないな」
「エルザって、意外に甘い物とか可愛いもの好きだよね」

質問の答えを聞いていたルーが、先ほど注文した焼き魚の身をほぐしながら呟く。
エルザに質問を終えたジェイソンが続いて目を付けたのは―――

「Oh!ルーレギオス・シュトラスキー!」
「僕?」
「君にも少し質問をしていいかい?」
「いいよ~」

普段と変わらず呑気にへらへらと笑うルー。

「君は海の閃光(ルス・メーア)のティアが大好きだって聞いたけど、どういうところが好きなの?」
「えっとねー・・・まず強いトコでしょ。それから仕事には一切私情を挿まないトコ。それと相手に対して感情を持たないトコもだし、あとはキッチリ悪人を裁く(半殺しにする)トコ!他にもいっぱーいあるけど、長くなっちゃうからここまでね」
「COOL!」

セットで頼んだご飯に焼き魚を乗せ、はむはむと頬張る。
呑み込んだと同時に、ジェイソンは次の質問をした。

「そういえばこれは噂なんだけど、君は銃を持つと人格が変わるって本当かい?」
「らしいねー」
「その人格を見せてくれよー!」
「やだ」

即答。

「僕が銃を抜くのは、大好きな人が危険に陥って、まともに攻撃も出来ない僕がその大好きな人を守る時だけだよ。魔法じゃティアとかアルカみたいに相手を倒すの難しいから、その為の最終手段なんだ」
「・・・」
「だからゴメンね・・・気分悪くしちゃった?」

俯いて無言になってしまったジェイソンにルーが不安そうに声を掛ける、が。

「クゥゥゥゥーーーーーール!カッケェェェェェェェエ!」
「うわっ!?」

そのテンションは全く下がっていなかった。
突然顔を上げて叫んだジェイソンにルーは驚いたようにぴょんと跳ねる。

「で!その大好きな人って誰なんだい?」
「内緒。もちろんティアとアルカは大好きだけど、あとの1人は秘密だよ」

普段とは違う、どこか大人びた悪戯っぽい微笑みを浮かべ、再びご飯を頬張る。
そんなルーを、ルーシィは若干悔しそうな目で見ていた。

「くぅぅ・・・あたしの知名度ってやっぱこんなモンか」
「ぷ」
「アンタに笑われたくないわ!」

バカにしたように笑うハッピーに怒鳴るルーシィ。

「オー!ハッピー!君はなぜ青いんだい?」
「ネコだからです」
「負けた!」

まさかの自分より先にハッピーが取材を受け、ルーシィは思わずズッコケる。

「!」

ハッピーへの取材を終えたジェイソンの目が、ルーシィに向いた。
それを見たルーシィは少し顔をひきつらせながらも、にこぉっと笑う。

「グレイだー!本物のグレイがいるー!」
「ん?」

が、その視線の先にいたのはルーシィではなく、その少し後ろのテーブルにいたグレイだった。
ルーシィを突き飛ばし、グレイに向かって走っていく。

「何だお前?」
「ホラ・・・昨日マスターが言ってた雑誌の記者ですよ」
「もしかして君ジュビア!?COOL!」

ジェイソンを見て首を傾げるグレイに、相席していたジュビアが説明する。

「なぜ君はすぐ服を脱ぐんだい?」
「脱がねぇよ!人を変態みてーに!」

まさかの変態扱いに思わず怒鳴るグレイ。
すると、そこを通りかかったアルカが足を止める。

「グレイ、下」
「ん?・・・おわっ!?」

アルカに言われてようやく気付く。
まぁこれでは、変態のように言われても仕方ないっちゃ仕方ないだろう。

「おー!アルカンジュ!君にも質問を―――――」

雑誌でモデルを務めるアルカに質問をしようとするジェイソンだが――――

「悪いな、俺今ミラ探してんだ!ミラが見つかったら質問に答えてやんよ!とうっ!」

現在恋人であるミラを探すアルカは質問どころではなく、グレイとジュビアのいるテーブルを器用に乗り越え、走り去って行った。

「なんかあつーい。あたしも脱いじゃおっカナー」

笑顔がダメなら色仕掛け、という事で、ルーシィは手で顔を扇ぎながら、キャミソールの肩ひもを下げていく。

「だーーーーーー」

―――なのだが。

「らぁーーーーーーーーーっ!」

その近くのテーブルをひっくり返す男が1人。

「記者ってのはどいつだーーーー!」
「きゃあ!」

言うまでもなく、テーブルを引っくり返すなんていう荒業をするのは『娘は渡さん!』などのセリフを言った後の父親か、このナツくらいだ。
ルーシィも巻き込まれ、ひっくり返る。
まるで敵の本拠地に乗り込んで来たかのように、鋭い目で辺りを見回す。

「ナツ!火竜(サラマンダー)のナツ!俺が1番会いたかったまどうひびがぼぁクォール!」
「コーフンしすぎ」

もう最後の方は何を言っているかさえ分からない。
ジェイソンを見つけたナツは詰め寄る。

「やいやい!いっつも俺の事悪く書きやがって!」
「YES!」
「俺が何か壊したとか壊したとか壊したとか!」
「COOLCOOLCOOL!」

ナツの文句―――まぁ、本当の事なのだが―――に対し、何故かテンションを上げるジェイソン。

「ヤッベ・・・本物だ・・・!超カッケェ!あ、握手してください!」

1番会いたかった相手を前にし、ジェイソンは更に興奮しながら握手を求める・・・が。

「うっせぇ!」

思いっきり殴り飛ばされてしまった。

「ヤッベ!かっこよすぎ!さすがヒーロー!『こんなCOOLな握手は初めて』・・・と」
「プロね・・・」

それでもジェイソンはテンションを全く下げず、それどころかナツのパンチをとてつもなく前向きなものとして解釈していた。
すると、ギルド入り口付近で青い閃光が舞い―――――

「こっの・・・バカナツがーーーーーーーーーーー!」
「うごあっ!」

一瞬にしてナツに飛び蹴りを炸裂させた。
言うまでもなく、ティアである。

「アンタね・・・何正論述べてる相手を殴り飛ばしてるのよ!ソーサラーに書かれているのは全て事実じゃないの!アンタばっかじゃないの!?何度でも言うわ。アンタ本当に、完璧な、正真正銘のバカよバカナツ!」
「んだとコラー!」

バカと連発されて、ナツだって黙ってはいられない。
飛び蹴りのダメージから復活し、ティアを睨みつける。

「んな事言ったらテメェっ!ティアも悪く書かれてんじゃねーか!半殺しにしたとか何か壊したとか冷淡機関銃攻撃お見舞いしたとか!」
「えぇそうよ、悪く書かれているわよ!でも事実だから認めるしかないじゃない!私はね、アンタみたいに事実相手にバカな行動起こさないだけよ!」

ぎゃあぎゃあと口論を始めるナツとティア。

「Oh!海の閃光(ルス・メーア)!いや、氷の女王(アイスクイーン)!それとも闇狩りの戦乙女(ダークハント・ヴァルキリー)!?まぁいいや!ティア=T=カトレーン!」

それを見たジェイソンはナツと会った事で上がったテンションをさらに上げる。

「ティア!質問に答えてくれよ!」
「はぁ!?」

顔に苛立ちを浮かべながら、ティアが振り返る。
そんな彼女を更に苛立たせる質問を、ジェイソンはしてしまった。

「リオン・バスティアとはどんな関係なんだい?」

ピシ、と。
静かに空気が凍りついた。
ギルド内の温度が一気に下がったような錯覚を覚え、それと同時に肌に感じる殺気にメンバーは理解する。

「リオン?何でアイツの名前がこんなトコに出てくんだ?」

突然出てきた兄弟子の名前にグレイが首を傾げる。
が、近くに立つティアを見て、その疑問すらも消え失せた。

「リオン・・・ですって・・・?」

ジェイソンは、とんでもない失敗を犯してしまった。
それは、言うまでもなく――――

「私の前でアイツの名前を・・・出すなあああああああっ!」

ティアを本気で怒らせた事だ。
本気でキレたティアに敵はいない。
容赦なくジェイソンに膝蹴りを決め、苛立ちを現すかのように、近くのコップを握り潰した。
「どんだけイラついてんだコイツは・・・」とメンバーが思ったのは言うまでもない。

「ティア、お前リオンと知り合いだったか?」

疑問が復活したグレイが声を掛ける。
が、直後に「ヤベッ・・・」と気づいた。

「だから・・・っ」

ギッとグレイを睨みつけるティア。
それを見たグレイは自分の身を守る為――――――

「こっち来い!ナツ!」
「んあ?」

先ほどまでティアと口論していたナツを自分の立っていた位置に立たせた。
グレイは素早く距離をとる。

「アイツの名前を・・・」

突然の事にナツは理解できていない。
そして―――――

「出すなって言ってるでしょうがあああああああああああっ!」
「何でぇぇぇぇぇ!?」

ティアの鋭い蹴りが、ナツに決まった。
そのままナツはギルド入り口付近までぶっ飛ぶ。

「全く・・・どいつもコイツも・・・」

苛立たしげに呟くティアは、グレイと間違えてナツを蹴り飛ばした事に気づいていない。
誰もがジェイソンの質問の答えに興味を持ったが、今聞いたら間違いなくいつも以上の力で蹴り飛ばされると考え、止めた。
が、懲りない男が1人。

「どういう関係で?」
「君さぁ、空気読んだ方がいいよ」
「ルーに言われてる・・・」

KY過ぎる発言に、ギルド1の空気クラッシャールーが呟く。
自分がジェイソンの更に上を行くKYだという事は忘れている以前に、気づいていない。
昨日と今日、苛立ちが消えてもすぐに現れるティアは、怒りで小さく震えながら、ジェイソンに指を突き付け叫んだ。

「アイツは悪魔よ!鬼よ!バカよ!私が知る人間の中で1番口が悪いわ!そして私が1番口喧嘩したくない相手よ!だって私の皮肉が通じないんだもの!ああいう上から目線の俺様タイプ、目的の為なら手段を択ばない奴は大っ嫌い!今どこで何をしてるか知らないし興味もないけどね!とにかく私とは関わらないでもらいたいわ!」

ネコを思わせるつり目を更につり上げて早口で捲くし立てると、ティアは不機嫌そうにギルドに新しく出来たミニ図書館へと入っていく。
残されたジェイソンはというと――――――

「クォール!さすが氷の女王(アイスクイーン)!COOLCOOLCOOL!クゥゥゥォォォーーール!」

テンションをさらに上げていた。
ティアの早口を1つも残さずメモし終え、次の取材相手を探し始める。

「あ、あの・・・記者さん・・・」

それをチャンスと見てルーシィが声を掛ける。

「Ohー!クロスとそのチームメイト!COOL!」

が、その後ろにいたクロス達に気づいたジェイソンは、ルーシィの横を通り抜けそっちに行ってしまった。

「あ、週ソラの記者さん。取材ですか?」
「YES!」

風詠みの眼鏡をかけて「魔導士育成大学院魔法学専門教授、ソフィア・ガディス。魔法学について語る」という本を読んでいたサルディアが顔を上げる。

「サルディア!今度魔法学のコーナーに出てよー」
「わ、私でよければ!」

緊張したように答えるサルディア。
その横からスバル、ヒルダ、ライアー、クロスが顔を出す。

「スヴァル!雑誌の紹介文のキャッチコピーを1つ!」
「とにかく俺と勝負しろーーーー!」
「ヒルダ!裏の名前が魔王だって本当?」
「・・・認めたくないがな」
「ライアー!君の恋は進展あるかい?」
「な、なぜお前まで知っているんだ!?」

スバルは|妖精戦闘狂(バトルマニア)の名を持つ者らしい答えをし、ヒルダは苦々しく答え、ライアーは慌てふためいたように頬を赤く染める。

「クロス!君の姉はCOOLな美人だな!」
「そうだろう?あんな姉を持てた俺は幸せだと思うさ。魔法の腕も一流、頭もよくて全てを完璧にこなす。俺は誰よりも姉さんを尊敬しているんだ」

ティアの事を嬉しそうに目を輝かせて語るクロス。

「それと、君はシスコンだって噂があるけど本当かい?」
「シスコンだと?変わらず失礼な事を言う輩がいるんだな。俺はただ姉さんを大切にしているだけだ。姉さんを姉として愛しているし、その姉さんに近づき姉さんを困惑させる輩は潰す。それのどこがシスコンなどという言葉で一括りにされる?」
「COOL!姉もCOOLなら弟もCOOLだ!」

そう言いながらメモを取るジェイソン。
そんな中、クロスは1人目を閉じて心の中で呟く。

(・・・俺はただ、姉さんにこれ以上の辛い思いをしてほしくないだけだ。俺さえ生まれてこなければ、姉さんは幸せに生きていけたのだから・・・)

ぎゅっと唇を噛みしめる。

(俺の存在が姉さんに辛い道を歩ませてしまった。俺が姉さんの心を壊し、俺が姉さんから感情を奪い、俺が――――――――!)

顔を歪め、俯く。
拳を痛い程に握りしめ、ぎゅっと唇を噛みしめ、きつく目を閉じた。

「!」

その握りしめた拳に、ふわりと冷たいものが触れた。
ゆっくりと目を開くと、クロスの手に雪のように白く細い手が触れている。
体温があるはずなのに氷のように冷たく、それでいてどこか温かい手。

「・・・姉さん」

それは、ティアの手だった。
変わらない無表情でクロスの手に触れると、その顔を覗き込む。

「来なさい、クロス。アンタ、古代文字とか詳しいでしょ?」

詳しいから何なのか。普通なら疑問に思う事。
だが、この双子には最低限の言葉しか必要ない。

「・・・ああ。今行くよ、姉さん」

そう言って立ち上がりながらも、クロスは気づいていた。
自分の姉は全てを完璧にこなす超絶完璧主義の為―――古代文字すらも読める事を。
だから、クロスを呼ぶ必要なんて本当はない。

(・・・だから好きなんだよ、姉さん。やっぱり愛しい・・・)

器用であり不器用な姉なりの配慮に、クロスは微笑んだ。






―――――なーんて、微シリアスにしている場合じゃない。







「あ・・・あの・・・記者さん?あたしに質問とか・・・」
「エルフマンだー!COOL!」
「ああん」

ギルドの一部で双子がシリアスな空気になっている間にも、ルーシィは取材をされずにいた。

「あなたにとって漢とは?」
「漢だな」
「そんなくだらない質問と答えよりあたしは下なの!?」

質問も質問だが答えも答えになっていない。

「カナー!今度グラビア出てよー」
「いいからここ座って呑め!」

取材にも拘らず、カナはいつも通り飲んでいる。

「チームシャドウ・ギア!三角関係って本当!?」
「「ノーコメントだっ!」」
「?」

ジェットとドロイが声を揃え、レビィは不思議そうな顔をする。

「マスター!新しいギルドの抱負を」
「あ、えーと・・・愛と正義を胸に日々精進」
「うそくさっ!」

緊張しているマカロフは明らかに普段のギルドとはかけ離れた抱負を口にする。

「うわーん!全然あたしになんか構ってくれない~」

自分を相手にするどころか視線すらも合わせてくれないジェイソンに、遂にルーシィは泣きだした。

「やるしかない!恥ずかしいけど、アレやるしかない!」

そう言いながら、ギルド裏方の着替え室に入っていくルーシィ。
そして数分後―――――――

「みんなー注目~♪あたし歌いまーす!」

ギルドのステージ上に、バニーガール姿のルーシィがいた。

「ルーシィ!?」
「ええ!?」
「バニーちゃん!?」

突然の登場に驚きを隠せないギルドメンバー達。

(バニーちゃん萌えなのは調査済みよ、フフフ。てか似合っちゃうのよね、あたし・・・)

そこまでして自分の存在をアピールしたかったのか。
・・・それを見ていたルーが頬を赤く染めて「似合うなぁ・・・」と小さく呟いたのは余談だ。
そしてルーシィがいざ歌おうとした瞬間。

「!」

ギルド全体の照明が落ちた。
それと同時に、ステージの垂れ幕が下りる。

「何?何ー!?」

突然の事にルーシィは動揺を隠せない。

「ミラちゃんだ!」
「ミラちゃんの歌が始まるぞ!」

ギルドメンバー全員の目がステージに向かう。
そしてそこにいたのは――――――――

「ガジルーーーーーーーーーー!?」
「ええーーーーーーーー!?」
「シュランちゃんまで・・・何やってるのあの2人!?」

白い帽子に白スーツ、ギターを構えたガジル。
その傍らには、キーボードの前に座るシュランの姿もあった。

「・・・何アレ」
「レッドフォックスとセルピエンテ?」

ティアとクロスも首を傾げる。
予想外の登場人物たちにナツとハッピーは飲んでいた飲み物を噴き出し、エルザは持っていた皿を落とした。
何故この2人がこんな事をしているかというと、今から3時間前の事・・・

『ガジル君、シュランちゃん。もっと皆と仲良くしなきゃいけないと思う』
『・・・どういたしましょう?ガジル様』
『・・・』

ジュビアに言われ、ガジルなりに考えた結果・・・こうなった。
何かいろいろ間違った方向に進んでいる気もしなくもないが。

「♪俺を雇ってくれるギルドは数少ねぇ」
「うわ!何か語り出したぞ!」

突然弾き語りが始まる。

「♪飢えた狼だって拾われたらなつくモンだぜ」

ステージに立つバニールーシィも突然の事に震える。

「♪たとえかつての敵だとしても、友と思い歌って見せよう」
「ギターへたいけど何気にいい事言ってるじゃねーか」
「頑張れガジル君、シュランちゃん」

ズボンは穿いたが上半身裸のグレイが呟き、ジュビアが笑顔で応援する。
ボギョーン、とギターが鳴った。

「俺が作った曲だ。『BEST FRIEND』聴いてくれ」

そう前置きをすると、ガジルは歌い始める。

「♪カラフル カラフル シュビドゥバー
  恋の旋律~ 鉄色メタリック~」

その瞬間、ギルドが凍りついた。
ティアが殺気を放出した時とは違う意味で。

「♪トゥットゥットゥッ シャララ~
  シュビドゥバ~ シャララ~」
「つーか何言ってんだオメェ!」

意味不明な歌詞に声が飛ぶ。

「♪ガジッと噛んだら 甘い蜜~」

そこまで歌うと、ガジルは隣に突っ立っていたルーシィに小声で声を掛ける。

「おい、踊れよ。踊り子」
「踊り子ォ!?」

突然「踊れ」と言われ、驚くルーシィ。

「踊れ」
「ガジル様直々の御命令です。従いなさい」
「はい・・・」

断ろうとしたが、ガジルのサングラス越しの鋭い睨みとシュランの冷たい声に断れず、ルーシィは泣きながら踊り始めた。

「♪シャララララララ~」
「うう・・・」

仕方なく、メロディに合わせて即興のダンスをするルーシィ。

「オイオイ・・・楽しそーだなガジルのヤロー。ま、側近とはいえシュランはそういうの苦手そうだよな・・・」

呟きながらスバルがシュランに目を向ける、が。

「・・・♪」
「・・・アイツも楽しそーだなオイ」

シュランはどこか楽しそうにキーボードを弾いていた。

「COOOOOL!不条理な詩にスキャットが響く!今年最大のヒットソングだ!」
「アンタ大丈夫か?」

そして何故かガジルの歌に興奮して涙を流すジェイソン。

「♪シュビドゥバー♪2人ともハモれ」
「シュビドゥバー」
「シュビドゥバーなのです♪」
「シュビドゥバーじゃねぇ!」
「誰かアイツらやめさせろーーーー!」

ステージにコップや丸めた紙、紙飛行機(なぜ?)が飛んでくる。

「サイコーだ!フェアリーテイルー!」

そんな空気の中、ジェイソンのテンションの高い声が響いた。






これが・・・この日に起きた惨劇である。

そんなこんなで後日、雑誌が発売されたのだが、予想通り妖精の尻尾(フェアリーテイル)の名を更に悪名高くする結果となってしまった。


ちなみにこの日姿を現さなかったミラは猿轡をかまされた状態で動けなくなっており、1日中ミラを探していたアルカによって発見された。







ボロボロのフード付きマントを着た男性が、ゴミ箱のようになっている空の樽の中に入っていた週刊ソーサラーを拾い、ページを開く。
そこに映る、満面の笑顔を浮かべたルーシィを見つめた男性は―――――

「・・・ルーシィ」

ボロボロと、涙を流した。









「・・・ふぅん」

ペラペラと週刊ソーサラーを捲っていた女性が、手を止める。
そこには、慌てた様子の赤い髪の青年、アルカ。

「元気そうね・・・アルカンジュ」









そしてそれとは別の場所。
水色の髪の青年は週刊ソーサラーを見ながらコーヒーを飲んでいた。
その目には、自分を悪魔だの鬼だの言ったらしい少女の姿。

「変わらんな・・・あの口の悪さは」

コーヒーを啜り、苦笑する。
雑誌を閉じ、テーブルに置いたまま、外に出た。

「次に会えるのはいつになるんだろうな・・・まぁ、会った瞬間に喚かれるだろうが」

そう言って、再び苦笑する。
啜ったコーヒーは、入れたばかりだと言うのに、冷めていた。 
 

 
後書き
こんにちは、緋色の空です。
何故ティアへの質問でリオンを出したか・・・少し長くなりますが語ります。


ティアに、対等及び一枚上手の口喧嘩相手を作りたかったんです。
ナツとはよく喧嘩をしていますが、純粋に、100%喧嘩相手とは言い切れない存在というか・・・現在のティアにとって、中途半端な位置にいるんですよね。
ラクサスはほぼ対等に喧嘩していますが、破門になったら出来なくなるし、戻ってきた時には優しくなってたりするし・・・。

でも、毎日のように顔を合わせるメンバーが対等及び一枚上手じゃ、何か違うんですよね。
一言じゃ説明できないけど、何かこう・・・妄想癖が「違う」って言ってると言うか。
それで漫画を読んでた時に、ふと思いついたんです。

「そういや・・・ナツとグレイ、ナツとガジルって性格似てるな」と。

熱いナツとクールなグレイ、不器用というかなんと言うかなガジル。
バラバラなんですけど、目的を決めたらぶっ飛ばすトコが全員似てる気がして。
ルーシィとシェリーも仲悪いじゃないですか。あれはかつて敵対した、って事もあるけど、シェリーは愛を語るイタイ奴。ルーシィは『可愛すぎるのも困りものね』とか自分で言う自惚れというか自意識過剰キャラ。なんか似てる気がするんです。

そう考えると、ラクサスとティアが仲悪い理由も解って来て。
となれば、ティアに1番性格が近く、なかなか顔を合わせない奴がいいだろう、となり。

「そっか、リオンだ」となりました。

3人の共通点を上げていくと。

・とにかくクールというか、必要以上に人と関わりを持たない。

・目的に対して(ラクサスはマスターになる。リオンはウルを超える。ティアは前2人と比べると地味だけど仕事完遂)、達成する為なら手段を択ばない。

・素直じゃない。

・だけど、ここぞという時とかは素直だったりする。

・・・こんな感じでしょうか。
例えば、リオンは嫌いな物に『グレイ』を上げているけど、六魔将軍(オラシオンセイス)との戦いではグレイを庇ってレーサーを自分ごと突き落としたし、ティアは「熱血漢」を嫌いだと言っているけどナツには優しい面を見せたり・・・と。

だから喧嘩相手に最適かな、と思って、こうしました。
2人はニルヴァーナ編まで再会しません。
全ての理由を書くと長くなるので、一部だけ。

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