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ソードアート・オンライン~剣の世界の魔法使い~

作者:神話巡り
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第Ⅰ章:剣の世界の魔法使い
  ヒースクリフ(前編)

 軍の精鋭部隊が半壊した、ということは聞いていた。

 《軍》……《アインクラッド解放軍》、というのは、第一層《はじまりの町》主街区に本拠地を置く巨大ギルドの呼称だ。最初はただの事前企業のような感じだったのに、リーダーが代わってから独裁政治に様な感じになり、プレイヤー達からの評価は比較的良くない。しかしアインクラッドのプレイヤーの安全にもっとも気を配っているギルドでもあり、悪い奴ら、と言い切ることもできないのだが。

 アインクラッドで《最》がつく有名ギルドは四つ。

 《最強》がギルド《血盟騎士団(Knigh to fBlood)》。団長(ギルドマスター)《神聖剣》ヒースクリフと副団長(サブリーダー)《閃光》アスナをはじめとする精鋭ぞろいのギルドだ。人数は三十人ちょいと、少し少な目ではあるが先日のクラディールのようなキリでもそれなりな実力はあるように見えた。実際、シェリーナは武装が強く、レベルがいくつか上だっただけであって、基本的な性能は大して変わらないように見えた。あの両手剣も少々脆そうではあったが、そこまで弱い武器ではなさそうだった。

 《最大》がギルド《MMOトゥディ》こと《アインクラッド解放軍》。リーダーはシンカーという、VR関係の報道社を経営していた男だ。最近はキバオウという関西弁の男が台頭し、すこし無理やりな感じになってしまったが、もともとは経験値やアイテムを分け合うことを目的としたきちんとしたギルドだった。

 《最高》がギルド《聖竜連合》。最前線で戦う攻略組としては規模は最大であり、軍に次いで構成人数が多い巨大ギルドである。しかしやり方は少々乱暴で、目的達成のために手段を択ばないなどの行動が少し目立つ。しかしMMOを楽しむ《ゲーマー》としての質は彼らが最高である、とはキリトの言葉。

 そしてこれらとはまた違った意味で《最大》なのが、ギルド《グランディオーソ商会》だ。アインクラッドの商人や情報屋など、非戦闘系の人員を統括する巨大組織で、ギルドというよりはサークルか何かに近いかもしれない。エギルやリズベットもこのギルドの加護を受けており、加入はしていなくても「非戦闘系ならだれでも仲間」が信条である。情報屋や質屋などの紹介もしてくれるため、戦闘職のプレイヤーにも無くてはならない存在となっている。

 
 さて、今回の攻略は、大体的な攻略部隊が参加する前に、『我々の力を見せつける』とでも言った名目で《軍》が抜け駆けをしようとしたことから始まったらしい。キリトから聞いたところによると、無理やりに近い形でキリトからマップデータを(聞こえは悪いが)巻き上げると、そのままボス攻略に向かったらしい。

 ボスは《輝く目(ザ・グリームアイズ)》という名の悪魔型モンスターだった。人型形に鬼のようなモンスターはいたが、西洋の獣頭の悪魔などのモンスターはいまだ現れていなかった。今後、このような悪魔系モンスターが増えると予測されるらしい。

 そのグリームアイズに、《軍》はたった12人で、しかも疲弊し切った状態で、ろくな休憩も戦法も取らないで挑みかかったらしい。結果は隊長を含める三人が死亡。ボス攻略で死者が出るのは六十二層以来だった。ほぼ壊滅状態の軍をすくうため、キリトはずっと隠し続けてきた《二刀流》の枷をといたという。

 そこからはほとんどキリトの独断場。《二刀流》の驚異的なスピードで、たった一人でボスを打ち倒したという。キリトも危うく死にかけたらしいが……。

 次の朝目覚めると、どうやって知ったのかキリトの家の前には情報屋たちが詰めかけていたらしい。《転移結晶》で辛くも脱出し、キリトはいま、シェリーナと共にここ、《エギルの雑貨屋》二階客間でくつろいでいた。

「大変でしたね……」
「いや~ほんとマジで死ぬかと思ったぜ」

 ため息をつくキリトに、エギルがにやにや笑いかける。

「これでおまえも有名人だな」
「ったく……そうならない様にして来たってのに……」
「私たちだけの内緒だったのに、バラしてしまったからきっと天罰が下ったんですよ」

 ふふん、と嗤いながらも、シェリーナは内心で落ち込んでいた。

 これで、『アスナも知らないキリトの事』がまた一つ減ってしまった……。アスナがほとんどストーカーに近い形でキリトの事を調べ上げているのをシェリーナは知っていた。ただでさえ攻略組のアスナの方がキリトと一緒にいる時間が長いというのに……。

「シェリーナ?」
「っ!?は、はい……っ!?」
「いや。ボーっとしてたからさ」
「ご、ごめんなさい……!!」

 シェリーナは真っ赤になった顔を隠すように、不思議そうな顔をするキリトから目をそむけた。

「(私は何を考えているのか……恥ずかしい……)」
「それにしても遅いなぁ、アスナの奴……」

 キリトは昨日の攻略の時のアイテムの分配をすべく、アスナと待ち合わせをしていた。しかし約束の時間を過ぎても一向にアスナが現れないのだ。もうかれこれ二時間ほどキリトは待っていると言うが……。

「じゃぁ、そろそろ私は帰りますね」
「ああ、話し相手になってくれてありがとう、シェリーナ」
「今度は客で来てくれよな」
「意地汚いですよエギルさん」

 シェリーナはニコリとほほ笑むと、フードをかぶって部屋のドアを開けようとした。

 と、その時。


 バァン!!というすごい音と共に扉が開き、シェリーナは吹き飛ばされた。危うくとれるところだったフードをあわててかぶり直し、闖入者を見る。開け放たれたドアの向こうに立っていたのは、顔面蒼白になって目を見開いた、アスナだった。わなわなとアスナの唇が動き、やっと小さく言葉が絞り出される。

「どうしよう、キリト君……大変なことに、なっちゃった……」


 ***


 ギルド《血盟騎士団(Knight of Blood)》……通称KoB。アインクラッド最強のギルドであるこのギルドを最強たらしめているのが、かのSAO最強のプレイヤー、《聖騎士》ヒースクリフだ。ユニークスキル《神聖剣》の所有者で、《神聖十字剣(Holy Cross Sword)》《神聖十字盾(Holy Cross Shield)》という名称の一対の専用装備をふるい、最前線を支える鉄壁の《紅き聖騎士》。《最強》《伝説の男》など、片手の指では数えきれない数の異名を持つ彼のHPは、ボスモンスターの猛攻を十分間たった一人で防ぎきっても安全圏(グリーンゾーン)をきらないのだ。

 それは、アインクラッド第五十層攻略の折の事。多腕仏像型金属ボスモンスター《The-Astro-relief》との戦闘の時だ。もともと第二十五層のボスモンスターであった双頭の巨人、《The-doubleheaded-Auger》が二十五層攻略当時圧倒的な力をふるってプレイヤーを苦しめたため……《軍》が攻略組から抜けて戦力増強に走ったのも、この攻略で大打撃を受けたからである……25、50、75、100のクォーターポイントでは強大な力を持つフロアボスが出現するだろうと目されていた。しかし、この金属仏像はプレイヤーたちの想像の域をはるかに超えていた。千手観音を模したと思われる無数の腕からの多種多様な攻撃、目と口から放たれる怪光線、前座とは思えない守護モンスター、そして何より、恐ろしすぎる形相によってプレイヤーたちを殲滅していったのだ。ぎょろりとした目ににらまれ、ひるんで戦線を離脱する者が続出。このままでは全滅も免れない……。

 その時に、金属仏像の攻撃を受け止めたのがヒースクリフだった。彼は圧倒的な防御力で多椀の連続攻撃をさばき続けた。その隙にキリトが攻撃を叩き込み、二人が必死に稼いだ時間の間に援軍が到着、ボスモンスターを倒すことに成功した。

 あの時はまだシェリーナも攻略に参加していたため、絶望感と恐怖を覚えている。離脱していくプレイヤー達。減っていくHP。死ぬかもしれない。次の攻撃でみんな死んでしまうかもしれない。

『あきらめるな!!俺があいつを倒してみせる!!』

 そんな絶望の中で、キリトがかけてくれた言葉を覚えている。頼もしかった。その宣言通り、キリトは《The-Astro-relief》にラストアタックを決めた。キリトが今使っている黒い魔剣、《エリュシデータ》はその時手に入れたものだった。

 無数の犯罪者プレイヤーに囲まれたときも、希望を失わなかった。HPバーが残り一ドットになっても、生きることをあきらめなかった。どんなに絶望的な状況の中でも、最後まで抗って、そして勝利する。それが、キリトだった。

 だから――――

「だから、勝ってくれますよね」


 そう。たとえ最強の聖騎士と一対一で戦うことになったとしても。


 物語は昨日、アスナが駆け込んで(?)きた時に遡る――――― 
 

 
後書き
 正妻よりシェリーナの方がキリト君に近いという謎。 
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