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さんねんななくみ当番日誌

作者:地球星太
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07/19 岡島龍






昼休みはバスケをやった。

空斗と、俺、玲也、悠次郎で1対3。

バスケで推薦もらってる空斗だから、こんくらいでフェア。

とか思ってたらフツーに負けた。

玲也は「んあー」みたいな変な叫びをあげながら駆け回り、

悠次郎は使えねーなおめーらはーとかいいながら走り回り、

空斗は超かっこよくシュートを決めちゃって、1年から声援うけちゃったり。

俺はいいトコなし、もうだめ。野球しか出来ない、

やっぱおもしろ担当になっちゃうんだよな。

チャイムなって、のろのろ歩いてた足をちょっとだけはやめる。

あーかっけぇー。バスケ出来たらモテるよなー。

野球とか汗くせえだけやもん。

え?ホモくせえの間違えじゃねーの?

うっせ、てか玲也も野球部やろが

てか龍がホモくせえんよなー

いやいや俺ホモちゃうし!

大声で笑いながら真面目な一組の横を通り過ぎる。




席について、下敷きをごちゃごちゃの机の中から取り出した。

ごちゃごちゃって、それはもうなんていうか、

手紙やら切れ端やら塾のハゲ先の似顔絵やら。

そんなものがつまった夢いっぱいの机。

いや、机の中に夢はないか。

考えながらノートを開き、また教科書を忘れたことに気づく。

あー。やっちまった。多分、4回連続や。

でも、持って来るんめんどいんよなぁ。

阪神の下敷きであおぎながら、俺はわざとらしく声をあげる。

「っあーやべ、」

案の定隣の席の女はこちらを睨んだ。

手を合わせ、お得意のスマイルで可愛く笑う。

「教科書忘れました」

「またかいな」

間髪いれずに小声で答える山田。

正直クラスで一番話す女。

と言っても最近よく話すというだけ。

まあ大体が貶し合いなので、会話は成立しないが。

可愛くはないので普通に会話は出来る。

「だぁから謝っとるやろが、見せたって」

「明日は持ってくるって言ったの誰やったっけ?」

意地悪そうなニヤけ顔を晒しつつ、笑う。

目の上ぎりぎりのぱっつんがうっとおしい。

女はぱっつんを可愛いと勘違いしている気がする。

ガッキーとかがやったら可愛いんやろうけど。

こいつはガッキーじゃないからな。





「知らんそれ俺やない」

目を泳がせておどける。

「あほか」

「お願い!山田!」

机をくっつけると、山田は無言で机の真ん中に教科書を置いた。

「さんきゅー」

小声で耳打ちするも反応なし。

あーつまんね。まあ俺だからってのもあんのか。

空斗とかがやったらやっぱり顔を真っ赤にして照れるのだろうか。

自分で考えといてなんだが、笑ってしまう。

山田が。ぷぷ、

声を押し殺しながら笑うと、やっぱり

隣の席の女はにらみながら教科書を自分の机に寄せた。

そして黒板を真面目な顔でみている。

黒いセミロングはさらさらと揺れてて。

頬杖をつきながら目を細めて。

あー、なんか、久々にこいつの顔凝視したかも。と思う。

俺もノートとろう。

目を黒板に移すと、ノートに理科センの字を写し始めることにした。













五限目が終わって、隣の席のヤツにも「ありがとな」と

一応お礼を言ってから席を立つ。

「ん」と素っ気ない返事をした後、

さらさらの髪をなびかせながら廊下に

ぱたぱたと走って行った。




「りゅーうー」

透き通った、アイツより幾分高い声。

ゆっくり振り返ると理沙がニコニコして立っていた。

「なーに?」

山田に見せた笑顔の3分の1くらいの笑みを作る。

理沙はキャメル色のカーディガンから細い指だけを出して、

やっぱり可愛く笑う。

「あんね、龍って彼女おん?」

「…なんで?」

「いや、なんとなくやけ、あんま気にせんで」

赤く頬を染めながら聞いてくるのは、少し可愛い。

「おらんけど」

「へーそうなん?」

「え、何?俺に気でもある?」

冗談めかして聞いてやると、さあーね、と笑った。

なるほど最近の女は妙に積極的だなと思う。

理沙は明るくて、顔も可愛くて、男子からの人気もある。

それでも理沙を好きになることはないだろう。

ちょっとだけ、昔付き合っていたヤツのことを思い浮かべたから。

そいつは俺をフった後も

教室の真ん中で一番目立つ女子のグループの中で、

キャメル色のカーディガンから指だけを覗かせて、

短いスカートの中から白い足を覗かせて、

綺麗な顔で大人しめに笑っている。

そういえば理沙もちょっと前まであのグループに居たのに、

今は山田と一緒に居ることが多い気はする。

まあ女子のいざこざに突っ込む気はないのだが。

「あんがとねー」

理沙は最後ににかっと笑うと、

栗色の長い髪を揺らしながら廊下へ駆けていった。

















「龍たーんお暇でーすか?」

次に後ろから飛びついてきたのは空斗だ。

とりあえず10分休みの孤独から逃れるため、

俺は作った笑みを貼り付けて空斗の頭を叩く。

「なーに東京弁つかっとんねん、気持ち悪ぅー」

「うっせ、お前の顔面の方がキモいわ」

空斗の言葉に返す言葉が見つからない。

ワックスで整えられた明るめの茶色の髪とか、

細い眉毛とか、ずらされた太めの学ランとか、

彼女とおそろいだという腕のミサンガとか。

全部俺にはないもので、全部空斗だから似合うもの。

「龍も鬼ごっこすっか?」

「はは、鬼ごっことか懐い」

「俺らのマイブームなんやけ」

空斗がふわっと俺の肩に触れる。

「タッチーィ」

「せっこ!お前鬼かよ!」

大声で笑いながら走る空斗の後を追いかける。

端の方で本を読んでる少数の男子を横目に、

俺たちは自分の存在を示すように駆け回り、

おもしろくもないこと大声で笑い飛ばす。

玲也が「鬼誰やねーん」と廊下から叫ぶ。

「龍、龍!」

袖を捲った悠次郎が、短めの黒い髪をくしゃくしゃ触りながら俺を指差す。

「龍?あいつおせえから捕まえられんとちゃう」

「玲也てめえそっから動いたら殴んぞ」

さて、俺もやるか。

スイッチを切り替えるように学ランの裾をまくる。

やってみろよ、と挑発する玲也の顔も

教室の中心でなにやっとんのーと笑う元カノの声も

ん、とそっけない返事をして廊下へ走ったあいつの背中も

全部ひっくるめて、もやもやしたこの感情を抑え込むように

俺は廊下へ駆け出した。




 
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