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ソードアート・オンライン 〜槍剣使いの能力共有〜

作者:カエサル
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GGO編ーファントム・バレット編ー
  63.温かな雫

 
前書き
第63話投稿!!

死銃事件が終わり、現実世界と向き合うシノン。

キリトがいうシノンが会うべき人とは? 

 

これが、最初の一歩だ。

私は、自分らしくないことをした。
私をいじめていた遠藤たちに抵抗した。

そのせいで力が抜けた脚にむちを打って、歩行を再開した。
正門前の広場をくぐり、早足に人を縫いながら校門に向かおうとして、ふと首を傾げる。
高い塀の内側に、いくつかの女子生徒の集団が足を止め、ちらちらと校門の方を見ながら何か話している。
そのうち二人が、同じクラスでそこそこ仲が良い生徒たちであるのに気づいて、彼女らに歩み寄る。

黒縁眼鏡を掛けたロングヘアの生徒が、私に気付き、笑って手を上げた。

「朝田さん、今帰り?」

「うん。何、してるの?」

そう言うと、栗色の髪を二つに束ねたもう一人が、肩をすくめて笑ながら答えた。

「あのね、校門のとこに、このへんの制服じゃない男の子がいるの。バイクを停めて、ヘルメット二つ持ってるから、ウチの生徒を待ってるんじゃないか、って。お相手の剛の者が誰だか、悪趣味だけど興味あるじゃない?」

それを聞いた途端、自分の顔から血の気が引くのがわかった。慌てて時計を確認する。

(いやまさか)

確かにこの時間に学校を出たところで待ち合わせと言った。電車代が勿体無いのでバイクで送迎しろとも言った。しかし、校門のど真ん中にバイクを停めて待ち構えるようなことをするわけ.......

......あの男なら、やりかねない。

おそるおそる塀に体を寄せ、校門の向こうを覗く。スタンドを降ろした黒をベースとした色の普通二輪に寄りかかり、ヘルメットを左右のハンドルに掛け、空を眺めている見知らぬ制服の男子生徒は、間違えなく一昨日あったばかりのあの少年だ。

「ええと......あの.....アレ、私の......知り合いなの」

消えそうな声で告げると、女子生徒の眼鏡の奥で目が大きく見開かれた。

「えっ......朝田さんだったの!?」

「ど、どういう知り合い!?」

もう一人も驚愕の叫びを上げる。その声に周囲の視線が集まり、その場から肩を縮めたち去ろうとすると、

「おーい、シュウ!見つけたよ!」

誰かの叫び声にビクッと、背が伸びる。
そして誰かが私の背中を押し、普通二輪にまたがる少年の元まで強制連行させられる。

「よっ!昨日ぶり、シノン」

昨日は暗くてあんまりわからなかったが、陽の元で見る現実世界のシュウは、黒い髪に直していないのか癖毛なのかはわからないがところどころ跳ねており、仮想世界のアバターとほとんど代わりがない姿の少年だ。

「......こんにちは。......お待たせ」

「いや、俺もさっき着いたところだから」

「嘘つくのはよくないよ、シュウ」

そう私の後ろから声がする。
そういえばさっき私を無理やり連行してきたのは、誰だったのか確認していなかった。
体を後ろに向け、その姿を確認するとその姿に驚かされる。

綺麗な茶髪のポニーテールに可愛らしい顔立ちの少女。
この学校でこの人の存在を知らないものはいないほどの有名人。一つ上の学年で生徒会副会長をしている少女、中井玲那。

「お前は黙ってろっつうの、玲那」

「.....って!アンタが何で副会長と知り合いなのよ?」

一瞬、目を完全に泳がせ黙り込む。

「まぁ、ただの関係じゃないことだけは覚えておいてね、朝田さん」

満面の笑みに少し前屈みで中井先輩は、口にする。

「誤解を生むような言い方すんじゃねぇよ、玲那!」

「それよりも時間は大丈夫なの、シュウ?」

「そうだな」

ハンドルに掛けられたヘルメットを取ると、差し出してくる。

コイツの中身は、GGOと変わらないのだ。私がピンチのなりと絶対に助けに来てくれる。そんなこいつのことだから彼女のことも助けたのであろう。
そんなことを思いながらヘルメットを受け取る。鞄を斜めに掛けにして、ヘルメットを被ったところで、ベルトの留め方がわからずにいると、

「ちょっと失礼」

シュウの手が伸びてきて、手早くベルトを固定する。顔が熱くなるのを感じ、慌ててシールド降ろす。
シュウも黒いヘルメットを装着し、ふと首を首を傾げた。

「......シノン、その.....スカートは大丈夫か?」

「体育用のスパッツ穿いてるから」

「それはそれで問題なような」

「別にあんたからは見えないでしょ」

「ま、まぁ.....そうだけど」

少し納得いってないような表情をしているのがヘルメットを被っていてもわかる。勢いよくバイクのリアシートに跨る。

「それじゃあ、しっかり掴まってろよ」

キーを捻ると、甲高い音を立ててバイクが起動する。私はシュウの体にぎゅっと手を回した。




学校がある文京区湯島から、目的地の中央銀座まで、地下鉄で行くのは大変だが、地上を行くなら案外近い。
十五分ほどで目的地には到達した。

外したヘルメットを手に持ったままいかにも高級そうな喫茶店へとシュウは向かっていく。ついていき、ドアを開けると白いシャツに黒い蝶タイのウエイターが、お二人様ですか、と聞かれていると店の奥からこの店の雰囲気をぶち壊す大声がした。

「おーいシュウくん、こっちこっち!」

「......えーと、アレと待ち合わせです」

シュウが言うと、ウエイターは、かしこまりました、と一礼して歩きはじめた。ものすごい場違いさを感じながらテーブルへと歩く。
目指すテーブルの向こうにダークブルーの高級そうなスーツにレジメンタルタイ、黒縁眼鏡を掛けた背の高い男だった。あともう一人、少しだけ不機嫌そうな顔をする少し長めの黒髪に、シュウと同じ制服を着ている少年の姿もあった。
右手で椅子を示す男の仕草に向かいの窓際に腰を下ろすと即座に湯気を立てるお絞りと革張りのメニューが出現した。

「さ、何でも頼んでください」

とメニューを開き、視線を落とすとし、唖然とした。その並んでいる全ての横に四桁の数字が並べられている。
凍りついていると、シュウが立ち上がって告げる。

「それじゃあ、俺はこれで」

「もう行くのか、シュウ?」

隣のキリトがシュウの方に視線をあげて言う。

「ああ、待たせるわけにはいかねぇからな」

制服のポケットからバイクの鍵を取り出しながら、じゃ、また後で、と言い残し、シュウは店を後にした。




「......ここか」

誰に言うでもなくボソッと呟いた。
ヘルメットを外し、今一度スマホの地図アプリにポケットに入っている小さな紙に書かれた住所を検索する。
地図が示したのは、間違いなく俺がいる現在地と一致している。

キリトとシノンと別れて俺が向かったのは、東京都のとある民家。
バイクを停め、エンジンをかけたまま俺のその家への【大澤】と彫られた石の表札を確認し、玄関の前に設けられたインターフォンを押す。

家の中で聞き覚えのあるようなの音が遠くに聞こえる。そこから数秒後、ガチャ、という音とともに玄関の扉が開く。
扉が開くとそこから、女性が現れる。三十歳くらい。髪はセミロング、化粧は薄めで、落ち着いた服装の主婦のイメージの女性。

「はじめまして、如月集也というものです。大澤祥恵さんですか?」

返事の代わりに女性は、こちらに一礼する。
するとその後ろから、小さな足音が響いた。女性の後ろから、まだ小学生前だと思われる女の子が走り出てきた。

しゃがみこんでその少女と身長を合わせる。

「瑞恵ちゃんだね?」

女の子が少し恥ずかしそうにこくりと頷く。
立ち上がって女性の方を今一度見る。

「大澤祥恵さん、瑞恵ちゃん、本日はありがとうございます」

深く一礼する。

「それでは、行きましょうか」




「会うべき......ひと.....?聞くべきことば.......?」

菊岡の話を終えキリトに連れられてこられた御徒町の小さな喫茶店。そこにキリトと同じ学校の二人の少女、明日奈と里香、それにマスターのエギル。

彼らは、私の過去を探った。
そして私の昔の向き合うべき事件のことを知った。
なぜそんなことを彼らがしたのか自分には理解できない。

呆然とする私の斜め前で、キリトが眼で合図しあった里香が立ち上がり、店の奥のドアへと歩いていった。そのドアが開けられると、その奥から、女性が現れた。
三十歳くらい。髪はセミロング、化粧は薄めで、落ち着いた服装のOLというよりは主婦のイメージ。
そしてその後ろから見知った顔の少年が現れる。先ほど菊岡の説明の場に私を送りつけた少年。その少年の背中には小学生前だと思われる女の子が乗っている。その顔立ちは先ほどの女性によく似ていた。

戸惑いは深まるばかり。なぜなら、親子が誰なのか、シュウがなぜここにいるのか、全くわからない。
女性は、呆然とする私に深々と一礼する。女の子も彼の上で頭を下げる。
親子は店内を横切り私が座っているテーブルの前までやってきた。女性を正面に、その隣にシュウが座り、その膝の上に女の子が座る。カウンターの奥から、マスターが母親の前にカフェオレ、彼の前にコーヒー、女の子の前にミルクのグラスを置いて去る。

これでも誰かわからない。

ーーーいや。

どこかで.......記憶の奥で何かが知らせる。

女性は深々と一礼すると、続けて少し震え声で名乗る。

「はじめまして。朝田.....詩乃さん、ですね?私は、大澤祥恵と申します。この子は瑞恵、四歳です」

名前にも、聞き覚えはない。だが、記憶は何かを告げようとする。
挨拶を返すこともできず、ただ眼を見開き続けていると、母親は大きく息を吸ってから、はっきりとした声で言った。

「.....私が東京に越してきたのは、この子が生まれてからです。それまでは、.......市で働いていました。職場は......」

その言葉で全てを理解した。

「......町三丁目郵便局です」

「あ.........」

微かに声が漏れた。それはまさしくあの郵便局だ。五年前、私が母親とともに訪れ、あれ事件が起きてしまった、何の変哲もない、ただの郵便局。
最初の男性を射殺し、次にカウンターの奥の女性職員二人か、母親のどちらを撃つか迷う素振りを見せた。その時、無我夢中で飛びかかり、拳銃を奪い......引き金を引いた。

そうだ.....この祥恵という母親は、あの時居合わせた女性職員のひとりだ。
つまり、キリトは昨日、明日奈、里香と一緒にわざわざあの郵便局まで行き、すでに職を辞めて東京に引っ越した女性の住所を調べ、連絡し、今日、シュウが迎えにいき、この場所で引き合わせた。

(なぜ?どうしてキリトたちは、ここまでするの?)

「.....ごめんなさい。ごめんなさいね、詩乃さん」

不意に、正面の祥恵さんが、目尻を滲ませながら言った。

「本当に、ごめんなさい。私......もっと早く、あなたにお会いしなきゃいけなかったのに.....あの事件のこと、忘れたくて.....夫が転勤になったのをいいことに、そのまま東京に出てきてしまって.....。あなたが、ずっと苦しんでらしているなんて、少し想像すれば解ったことなのに......謝罪も......お礼すら言わずに.......」

目尻の涙が、すうっと零れる。隣の、瑞恵という名の女の子が、母親を心配するように見上げる。女の子の、三つ編みにした頭を祥恵さんはそっと撫でながら続ける。

「.......あの事件の時、私、お腹にこの子がいたんです。だから、詩乃さん、あなたは私だけでなく......この子の命も救ってくれたの。本当に......本当に、ありがとう。ありがとう......」

「.............命を........救った?」

その二つの言葉が駆け巡る。
あの時、十一歳の私は、一つの命を奪った。それが私のしたこと。でも、眼の前の女性は、確かに言った。

救った、と。

「シノン」

不意に、隣のキリトが、少し震えた声で囁いた。

「シノン。君はずっと、自分を責め続けてきた。自分を罰しようとしてきた。それが間違いだとは言わない。でも、君には、同時に、自分が救った人のことを考えるけんりもあるんだ。そう考えて、自分自身を赦す権利もあるんだ。それを......俺は.....俺たちは、君に.....」

そこでキリトは、言うべきことが見つからないのか、唇を噛んだ。
少年から視線を外し、もう一度祥恵さんを見た。何か言わなければ、と思うが言葉が出ない。

小さな足音がした。
四歳の女の子、瑞恵がシュウの膝から飛び降り、とことことテーブルを回り込んで歩いてくる。
幼稚園の制服らしいブラウスの上からポシェットに手をやり、ごそごそと何かを引っ張り出した。
それは、四つ折りにした画用紙。それを差し出してくる。
クレヨンで描かれる、母親と瑞恵、それに父親。その上に、覚えたばかりの平仮名で、《しのおねえさんへ》と書かれていた。

それを両手で差し出すその絵を、自分も両手を伸ばし、受け取る。

一生懸命に練習してきたような、たどたどしい声で、一音一音、はっきり言った。

「しのおねえさん、ママとみずえを、たすけてくれて、ありがとう」

視界がにじみ、ぼやけた。
自分が泣いていると気づくのに少し時間がかかった。

大きながようしをもったまま、ポロポロと涙を零し続ける右手を。
火薬の微粒子によって作られた黒子が残る、その場所を。
小さな、柔らかな手が、最初はおそるおそる、しかししっかりと握った。 
 

 
後書き
GGO編ーファントム・バレット編ー完結

次回は閑話を挟んだのちにオリジナル編か
マザーズ・ロザリオ編に突入したいと思います。


今年もよろしくお願いします。 
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