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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第33話 さあ領地改革だ!!でも人手が足りない!!

 こんにちは。ギルバートです。最近母上のストレスの溜まり具合が、凄い事になっています。来る日も来る日も、書類の山……山……山です。あの後父上はエア・ハンマーでお仕置きされ、即座に治療されました。そこからすぐに執務室に移動し、一晩閉じこもって2人で書類仕事をしていました。

 朝確認に行った時に、書類の山が一山消えていた事に驚かされました。朝食後に復活していましたが……。

 本来なら私も手伝うべきなのですが、塩田の設置面積が突然5倍以上に膨れた為、その対応でそれどころではありません。私が設置しようとしている塩田は、流下式塩田です。

 流下式塩田は、上に海水を流し太陽熱で水分を蒸発させる流下盤と、上から海水を滴下させ風力によって蒸発させる枝条架(じじょうか)が特徴です。これらの装置で、かん水(濃い塩水)を作り釜で煮詰める事で製塩します。

 規模の変更によるレイアウト見直しは、如何しても必要です。そうなると風車や手押しポンプも、数の見直しだけでなく大出力な物に再設計が必要になります。それよりも問題なのが枝条架です。流下盤は《錬金》で再現出来ましたが、枝条架の再現は出来ませんでした。当然私は、淡い期待から竹を探しました。まあ、結果は当然駄目だったのです。代わりに見つけたのが、ホンダワラ系の海藻でした。使用済み海藻で、藻塩も作れますし。但し竹と比べると、交換が必要な上に効率が落ちるので、枝条架の数を増やさなければなりません。海藻の必要量の確保(不可能なら更なる代替品の捜索)と人件費で、ただでさえ高いコストが規模拡大で更に増加します。

 非常に頭が痛い問題ばかりです。竹は絶対に何処かから見つけて来て、領内で栽培しようと画策しています。……他にも色々と使えそうですし。

 話が逸れました。とにかく母上の事は、放って置く訳にも行きません。実状を言わせてもらえば、領地経営は母上1人に依存しています。ストレスによる被害程度なら許容範囲ですが、万が一倒れられたら開拓と領地運営に深刻な影響が出ます。

 暫くの間は父上が居るので問題無いでしょうが、父上もずっと領地に居ると言う訳には行きません。

 母上を補佐する人員を増員したいのですが、十分な能力を持ちつつ信用のおける人物が居ないのです。そこで私は、一計を案じる事にしました。

 と言う訳で、居間にやって来ました。居間に居るのは、ディーネとアナスタシアの2人です。

「ディーネ。アナスタシア。2人にお願いがあるのですが」

「如何しました? ギル」

「なーに」

 ディーネとアナスタシアには、私にはない余裕の様な物がありました。母上が忙しく、訓練が自習なのが原因ですね。ちょっとムカッとしたのは、私だけの秘密です。

「実はちょっと深刻な事になっていまして……」

「深刻?」「どーいう事」

「はい。実は2人に、仕事を手伝えるようになってもらいたいのです」

 私の言葉に、何故か2人は嬉しそうな表情を見せました。

「何故嬉しそうなのですか? 貴方達は……」

「ギルが手伝っているのに、私が手伝えないのは心苦しいと思っていました。ですが私達では、かえって邪魔になると思っていました」

「私も手伝いたいと思ってた」

 ディーネとアナスタシアも、現状を憂いていたのですね。先程の自分の一方的な感情が、ちょっと恥ずかしくなりました。

「で、仕事の内容は何ですか? 私達に出来る事なら何でもやりますよ」

 ディーネの言葉に、アナスタシアもうんうんと頷いています。

(……言ったな。ディーネ。その一言にありがとう。そしてアナスタシア。頷くなんて、なんて良い子なんだろう)

 私は思わず(邪悪に)微笑んでしまいました。私の内心を察したのか、ディーネとアナスタシアの顔が引き攣ります。私はそんな2人にかまわず、口を開きました。

「二人に覚えてもらう仕事は……」

 ディーネとアナスタシアが、涙目になり引きました。

「書類仕事です♪」

 ディーネとアナスタシアは、必死に首を横に振りました。口からは無理と言う言葉が、漏れ続けています。

「無理じゃない。オボエロ」

「いやいやいやいやいや……。私達の歳を考えてください。如何考えても……」

「そうよ兄様!!」

 2人の必死に反論を、私は黙殺しました。

「オーギュストに頼んで、書類仕事が出来そうな使用人を選出してもらっていますので、選出された者達と一緒に教育を受けてもらいます。講師はオーギュストが無理してやってくれるそうなので、絶対に無駄にしないでください」

 私は笑顔で言ってあげました。私はこのまま居間を出ようとしましたが、2人がこの上なく消沈しています。ここは気合が入る言葉を、かけてあげるべきでしょうか?

 私は居間の出口に向かって、数歩進んだ位置で立ち止まりました。

「万が一、オーギュストの教育を無駄にしたら……」

 私はそこで振り向き、飛びきりの笑顔で続きを言いました。

「……罰を与えます」

 何故かディーネとアナスタシアは、抱き合ってガタガタ震えていました。普段の私達の関係からして、怯える要素など無いと思うのですが……。しかし、失敗した時の罰ばかりで、ご褒美が無いのは不公平ですね。

「ああ、そうそう。そろそろ鍛冶場で、バスタードソードとレイピアを打とうと思っているのですが……」

 2人震えがピタリと止まり、そのままの姿勢で目を細めました。

「頑張った子には、ご褒美をあげるべきだとは思いませんか?」

 どうやら2人には、この上なく気合が入った様です。現在サムソンさんが打った武器は、(市場に流せば)ハルケギニアで他の追随を許さない高品質を誇っています。剣を志す者なら、のどから手が出るほど欲しい一品なのです。ある意味この反応は、当然と言って良いでしょう。

 私はそのまま廊下に出て、自室に向かいました。風車の製図の続きをする為です。

 ディーネとアナスタシアには悪いですが、実は書類仕事で2人には期待していません。2人には頑張っている所を母上に見ていただき、母上の心的負担を軽減してもらうのが狙いです。メンタル面は、身体に大きく影響を与えますから。

 実際の作業負担の軽減は、選出された使用人達に期待しています。まあ、戦力になってくれるに越した事は無いのですが、2人の年齢を考えれば無理でしょうね。実は罰も与える気も初めからありません。その為に罰の条件を、“教育を無駄にしたら”にしたのですから。



 父上が帰って来てから、5日の時間が経ちました。

 私の作業工程は、風車設計図の引き直しが終わり、手押しポンプの弁の型作りに入った所です。全て終わったらプロトタイプを作り、実際に稼働して不備が無いか見なければなりません。そこまで終わったら必要な部品を作って、オースヘムに向かいます。

 その日の夕食の席で、突然父上が口を開きました。

「ドリュアス家で問題になっているのは人材不足だ。この弊害を少しでも軽減する為に、各部署の連携を強化しておきたい。そこで守備隊長とマギ商会代表を呼んで、一度徹底的に話し合いたいと思う。また、ドリュアス領の青焼図を、信用おける者とは共有しておきたい」

 なるほど。父上の言いたい事は良く分かります。現状で人材不足は、死に至る病と言って良いでしょう。青焼図の共有は、人材が育つまで持たせる抗生物質と言った所ですか。

「信用おける者とは、どの程度の立場の者を指すの?」

 母上が父上に質問をしました。確かにその通りです。抗生物質の投与は、適量行わないといけません。この場合過剰投与は、敵に手の内をさらす事になります。

「取りあえず、守備隊長とマギ商会代表までだ。後は話し合いの場で、決定しようと思っている。私個人の意見としては、旧ドリュアス領(ドリュアス、タルブ、クールーズ)出身の幹部達までと考えている」

 ……妥当な所ですね。

「私は良いと思います。それ以上広まらないように、厳重に注意しておく必要がありますが」

 見ると母上も頷いています。ディーネとアナスタシアも頷いていますが、本当に分かっているのですか?あなた達は……。まあ、今は分かっていなくとも、いずれ分かってくれる事を期待します。

「では、3日後のヘイムダルの週ダエグの曜日に、会議を開催する」 

 父上のが高らかにそう宣言しました。会議までに弁の型を完成させて、人員も集めなければなりませんね。



 そしていよいよ会議当日です。会議の準備や家族内での今後のスケジュール合わせで、塩田の準備が殆ど進みませんでした。頭痛いです。父上は私に、過労死しろと言いたいのでしょうか?

 そうこうしている内に、ドリュアス家の館に人が集まって来ました。まだ時間がありましたが、私はディーネとアナスタシアを連れて、今回の会議の会場となる部屋に向かいました。ドリュアス家の人間は、この会議に全員出席するからです。

 会場となる部屋の中には、まだ誰も居ませんでした。

「ギル。如何しますか?」

「すぐに来るだろうから、自分の席で待っていましょう。アナスタシアもそれでいいですか?」

「うん」

 アナスタシアが頷いたので、私達は自分の席に着きました。

 席に着くとほぼ同時に、1人の少年が部屋に入って来ました。私はその少年が、何故ここに居るのか分かりませんでした。それは、ディーネとアナスタシアも同様だったのでしょう。共に怪訝そうな顔をしていました。

「ファビオ。何故貴方がここに居るのですか?」

 ディーネが代表で質問しました。

「ディーネお嬢様。実は私の発案で、諜報部を立ち上げる事になりまして……」

「諜報部?」

「はい。現在ドリュアス家では、領内の情報取得にマギ商会と守備隊を当てています。しかし領外の事となると、マギ商会だけしかありません。商売を主としているマギ商会だけでは、重要情報を漏らす可能性があります。よって、諜報を専門に行う部署を設立する事になりました。私がここに居るのは、設立が決定したばかりで、配属予定の人員がまだ私しか居ないのですよ」

 困った様に話すファビオに、私は大いに不安を感じました。必要なのは私も良く分かりますが、他の人員が更に不足するのではないか? と言う不安が、如何しても先に立ちます。

「目標は3年以内に人員を揃えて、更に1年で諜報網を完成させる事です。諜報網さえ完成させれば、より速く正確な情報の取得ができます。マギ商会と連携すれば、大きな利益を出す事も出来るでしょう」

 私はファビオの言に、驚きを隠せませんでした。神童……いえ、この年なら才子ですが、その範疇を超え天才と言えるでしょう。これが本当に、17歳に満たない少年の言葉なのでしょうか? まあ、見た目だけなら私も人の事を言えませんが。彼を天然と例えるなら、私の場合はメッキですね。良く見ると、ディーネとアナスタシアがポカンとしています。

(……良い機会だから聞いておいた方が良いですね。ファビオほどの男に背中(情報)を預けるなら、信用したいですから)

 私は《念力》でマジックアイテムを作動させ、聞き耳を封じます。これはあくまで、ファビオに対する配慮です。まあ、当のファビオには私の突然の行動に警戒させてしまいましたが。……次の人がすぐ来るでしょうし、ここは短期決戦ですね。

「目的は復讐ですか?」

 私はズバリと聞く事にしました。ディーネの母ミレーヌは、近場の子供の面倒をよく見ていたそうです。ファビオもその1人でした。私の質問にファビオは驚きの表情を見しましたが、それもほんの一瞬だけで、すぐに平静を取り戻しました。ここまでなら、ドリュアス家の人間は知っていても不思議ではないからです。しかし続く私の言葉に、その平静が吹き飛びました。

「……ご両親の」

「ッ!! 何故!?」

 これは父上と母上から聞いた情報です。この2人が知っているのは、ファビオも自覚していたでしょう。その上で何も聞かれなかったので、すっかり油断していた様ですね。かなり動揺しています。まあ、私の見た目(8歳児)もあるので、それも仕方が無いでしょう。

「あなたのご実家の店は、ディーネの親の商会が潰されたあおりを食らったと聞いています。そして、ご両親の事も……」

 ロマリアの神官がディーネの親の商会を調べた際、金目の物を奪って行っただけでなく、取引があった商店も捜査したそうです。……捜査に加わった神官の中には、証拠と偽って堂々と金品を持ち出す者が居ました。モンモランシ伯が慌てて対策をとったそうですが、始祖の名の下に動く神官を完全に止める事は出来なかったそうです。略奪に励む神官に抗議したファビオの両親は、大怪我を負わされその怪我が元で逝ってしまいました。経営者が居なくなった店は、当然潰れてしまいます。その後ファビオは、モンモランシ伯に引き取られました。如何考えても、強い恨みを抱くでしょう。

「……はい」

「当家もロマリアには恨みがあります。しかし、復讐に手を貸せるとは限りませんよ」

 これはドリュアス家の本音です。恨みが元で暴走して、ドリュアス家を巻き込む様なら、とても信用など出来ないからです。まあ、大隆起の原因である風石の件で、個人的に少しだけ溜飲は下がっていますが……。

「かまいません」

 ……即答ですか。どうやら、落ち着きを取り戻した様ですね。少しくらいなら本音を引っ張り出せると思いましたが、考えが甘かったみたいです。

「元々復讐出来るとは思っていません。相手にするには、あまりに敵が巨大すぎます。しかし木の精霊は、ロマリアの神官に一泡吹かせた事があると聞きますし。私は一矢報いられればそれで良いのです。それに表向きはどうあれ、ロマリアと迎合する気など無いのでしょう?」

 ……この言葉に嘘は無さそうですね。それにこの様子なら、余程の事が無い限り暴走はしないでしょう。私はファビオの目を見ながら、そう判断しました。

「当然です」

「なら、私にはそれで十分です」

 軽く微笑んで見せるファビオに、私も微笑み返しました。

「しかし、ギルバート様と一緒なら“達成できてしまうのでは?”と、考えてしまいます」

「あまり淡い期待は、持たないでくれると助かります」

 ファビオは私の言に笑みを浮かべながら、自分の席に移動しました。

 続いて入室して来たのは、金髪青目の男でした。彼がマギ商会の代表です。まだ30前の男ですが、若手の集まりのマギ商会では平均より上です。彼はなんと、ミーア(以前のギルバートの世話係)を娶ったカロンです。結婚を機に頭角を現し、今ではマギ商会の仮の代表に収まっています。ちなみにミーアは、出産を機に落ち着きを得て、今では良妻賢母と言われているそうです。現場を見た事が無いので、私は信じていません。と言うか、信じられません。

 カロンに続いて入室して来たのは、白髪の混じった金髪と青目が特徴の戦士風の男です。彼はアルベールという名前で、守備隊長を長年務めて来た男です。今は侯爵軍の軍団長として、ドリュアス家に仕えています。未だに周りから(父上含め)守備隊長と呼ばれていますが……。

 私は座ったまま軽く手を振って、2人に挨拶をしておきます。最後に父上と母上が入室して席に着くと、いよいよ会議の始まりです。母上が聞き耳防止用のマジックアイテムが作動しているのを確認すると、父上の向かって頷きました。

「これより、ドリュアス領開発会議を始める」

 父上の宣言により、今回の会議が始まります。先ず今回の会議の趣旨を、父上が長々と(長いと言っても5分ほど)語ります。そして次に諜報部が新設された事と、ファビオの事が紹介されました。カロンとアルベールは、諜報部との連携と協力を約束させられました。

 これで新顔のファビオについては、話が終了です。

「先ずは、新しく所領に加わった地の領地運営についてだが、基本的にこれまでのドリュアス領の発展に倣う事にした。当然問題もいくつかある。資金については、ヴァリエール公爵の協力によってどうにかなった。人口不足は移民に頼る事になる」

 父上の言葉に、カロンとアルベールの顔が僅かに引き攣りました。それも仕方が無いでしょう。父上の言葉は、貴重な人材を教育に投入すると言う意味です。領内の人材不足は、深刻な問題です。言葉にこそ出しませんが、移民してきた人間の教育に人材を割くのか? と言う顔をしています。

「教育を任せられる人材については、ドリュアス領内で新たに募る事とする。一応は教員である為、当然雇用条件は他より良くする。試験内容は、テストと3か月の実地試験を考えている。試験官は、今現在寺子屋で教えている者達だ。読み書き計算とドリュアス領の常識なら、それで問題ないと判断した。……それと、ドリュアス領が移民を募っている事は、マギ商会の方で噂を流してほしい」

 父上の言葉に、カロンとアルベールがホッとした様な表情を浮かべました。この採用条件と試験方法なら、マギ商会と侯爵軍に影響は最小限で済みます。これはマギ商会と守備軍が、現地採用を主としているのが理由です。(土地勘とモチベーションの都合)

「次は現状の把握と検討だな。商会と軍の現状を報告してくれ。……そうだな、先ずは守備隊長(アルベール)の報告から聞こうか」

 アルベールが父上の声に返事をし、立ちあがって説明を始める。

「軍の編成は、既に終了しています。王国軍が撤退した跡に、侯爵軍の人間を詰めさせました。森の脅威が大きく下がった今は、配置人員は少数で十分ですから。手持ちの騎獣は、各領地にほぼ(・・)均等に配置予定です」

「ほぼ? 内訳は如何なっている?」

 父上が聞き返します。

「詳しい内訳は、後ほど報告書で提出します。38頭の騎獣とその乗り手は、旧ドリュアス領とオースヘムにそれぞれ7配置し、残りの領地はそれぞれ4配置予定です」

「旧ドリュアス領は今後発展の中心になるからとして、オースヘムは塩田の守護の為に多く騎獣を配備するのは分かる。しかし、残りの領に配備する騎獣が4頭ずつでは少なく無いかね?」

 父上がアルベールに、疑問をぶつけました。

「確かに少ないです。しかし、補充目処が既にありますから。少しの間なら、4頭だけでも問題無いでしょう。用途はパトロールと、亜人を森の奥に追いやるだけですし」

「だが、好ましいとは言えないだろう。明日にでも、木の精霊から第一陣の騎獣を受け取って来る」

「受け取りの内訳は、如何なさるおつもりですか?」

 その質問に、父上が少し考えました。

「その目的で行くと、グリフォン・ヒポグリフ・風竜は当然だな。この際だから、ユニコーンとペガサスも受け取っておくか。他はまだ、時期尚早か?」

 まるで独り言を言うように答える父上に、アルベールが言い返します。

「いえ、ワイバーンも一緒に引き取って来てください」

「何故だ?」

「野生のワイバーンは、人に慣れるのに時間が掛ります。それを利用して、新人達の教育も同時に行おうと思いまして」

「いきなりワイバーンは、流石にハードルが高すぎないか?」

「その位でなければダメです」

 何が駄目なのか良く分かりません。アルベールの物言いに、父上は渋い顔をしています。ひょっとしてアルベールは、母上を超えるドSなのか? と言う考えが頭をかすめ、背筋がうすら寒くなりました。

「……まあ、守備隊長がそうまで言うなら、私は反対しない」

 父上が、いたいけな新人達を見捨てた!!

「そうね♪」

 うわ!! 母上が物凄く良い笑顔で肯定した!!

 この状況に、母上とアルベール以外の全員が、まだ見ぬ新人達の為に黙祷をささげました。(まだ死んで無いのに)

 その後議題は、騎獣の餌の確保や新人採用などの細かい話に移りました。その内容には、なるほどと頷かされる物がありなかなか勉強になります。隣でアナスタシアが、あくびを噛み殺していたのは気付かない振りをしておきました。母上が気付かなかったのは、ある意味幸運でしょう。その時母上は、ユニコーンを王家に献上する役目を父上に頼まれて、めちゃくちゃ喜んでいましたから。最低でも4日以上は、書類仕事から解放されますね。おめでとうございます。



 一通り侯爵軍の現状把握と検討が終わりました。

「次はマギ商会の方だな。カロン。報告を聞かせてくれ」

「はい」

 カロンが返事をして、喋り始めました。

「先ずは議題にもならない、ただの報告から入ります」

 ん? 何でしょう? カロンの眉間に皺が寄っています。どうやら、あまり良い話では無い様です。

「王都の横領事件のその後についてです」

 カロンの言葉に、この場に居る全員の表情が渋い物に変わりました。

「次の利子が発生する前日に、件の商会の代表を返済の名目で呼び付けました。呼び出した時間は早朝です。その間に手続きなどを理由にして、外との連絡手段を剥奪し夕方まで拘束しました。代表が王宮に到着と同時に、30万エキューの手形の存在と噂を流します。

 内容は「架空の横領をでっち上げ、王国より資金をかすめ取ろうとしている賊が居る」と、言う物です。これに対して王は激しく怒っていて、手形の行く先を徹底的に調べようとしている。と、件の商会名も合わせ噂を流しました。

 夕方まで拘束したのは、その噂が十分行きわたる時間を稼ぐ為です。件の商会には、噂と同時にあからさまな見張りを付けました。更に追い打ちとして、商会に出入りした商人達に衛兵の職務質問のおまけを付けたそうです」

 ……て 徹底的にやりましたね。いくら商会の人間が、リッシュモンに与した賊だとしても、何もそこまでしなくとも良いと思うのですが。と言うか、これで上手く行かなかったのでしょうか?

「この所為で商会は、取引先に次々に逃げられる事になります。リッシュモンもこの状況では、手形の回収を諦めざる終えなかったでしょう。数日後に、商会から小火(ボヤ)が出ました。見張りの者たちが商会に踏み込むと、代表の死体と手形が発見されます。商会の代表が裏切る前に、処分したのでしょう。手形は回収出来ましたが、暗殺者は発見出来ずリッシュモンに繋がる証拠は何一つ発見されませんでした」

 痛いです。物凄く痛いです。そこまで徹底的にやって、リッシュモンを捕まえられなかったのですか? そこまでお膳立てが出来ていて、何でしくじるかな……。

「恐らくこちらの見張りの中に、リッシュモンの息がかかった者がいたのでしょう。しかし、商会の帳簿の中から料金の二重取りの証拠が見つかりましたので、投獄されていた横領犯は放免されました。放免後に彼はリッシュモンが犯人と騒ぎたてましたが、残念ながら証拠が無い為決定打になっていない状況です。それでもリッシュモンの立場は、以前の事(メンヌヴィルの件)もあり追い詰めるに十分で、高等法院長の座を退く事になりました」

「……引き際がアッサリしすぎているな」

「そうですね」

 父上が思わず漏らした感想に、私は頷きました。

「いったん所領に身を隠し、ほとぼりが冷めるのを待つ心算だろう。今まで稼いだ財産も無事だろうから、遠く無い未来にまた顔を合わせる破目になるだろう」

「そう……ですね」

 父上の言葉は、鬱になるほど説得力があります。いい加減リッシュモンには、(この世から)退場して欲しいです。

「王都では、リッシュモンの後釜争いが発生しています。油断は出来ませんが、時は稼げたと見て良いと思います」

 カロンの言葉に父上が頷くと、取りあえずこの話題は終了ですね。

「次にマギ商会の拡大についてです」

 カロンはいったん言葉を切ると、眉間のしわが無くなり普通の表情に戻りました。どうやら、こちらの報告は期待出来そうです。

「来るべき塩の流通ルートの確保の為、マギ商会の拡大は必須事項と考えます。しかし、人材確保が難しい状況です。よって代案として、他の商会を傘下に組み込む事にしました」

 その話は、既にこの場に居る全員が知っています。何気にその案を出したのは、私だったりしますし。

「既にいくつかの商会と話をして、話をまとめています。有名な所では……」

 カロンの口から出て来る商会名は、中小に属する商会では有名な所です。その中には、モンモランシ伯を相手に、秘薬を取り扱っている商会もありました。まあ、これは私が推薦した商会ですが。と言うか、これからモンモランシ伯は“水の精霊の涙”を原料とした秘薬を大量に出荷するのです。それに乗らない手はありません。

「以上です。詳細は、後ほど報告書と一緒に提出します。それと、リッシュモンに協力していた商会のシェアを、一部ですが奪取に成功しました。こちらも詳細も、後ほど報告書と一緒に提出します」

「うむ。良くやった」

「ありがとうございます」

 父上のお褒めの言葉に、カロンは恭しく頭を下げました。そして、また口を開きました。

「侯爵。お願いがあります」

「なんだ?」

「今後王都での取引が大規模化しますので、王都に支店が欲しいのですが……」

「許可する。詳細は報告書と一緒に出してくれ」

 父上は即答しました。リッシュモンが高等法院長の座から退いたので、問題無いと判断したのでしょう。

「はい。ありがとうございます。それから塩の流通ルートですが……」

「解っている。オースヘム・フラーケニッセ間の街道は、最優先で着工する。それと、この街道と塩田が完成後に、私はゲルマニアへと赴く事になる。それまでは、販売は自粛しておいてくれ」

「解りました。岩塩取引停止に対するカウンターですね」

「その通りだ。歯がゆいと思うが、暫く我慢してくれ」

「はい」

 カロンが頷くのを確認すると、父上は私を見ました。

「ギルバート」

「はい」

 私は返事をすると、カロンと交代する形で立ち上がりました。

「オースヘムで生産する塩は、大まかに分けて2種類存在します。一つは通常の海水塩ですが、もう一つは釜で塩を製塩する際に海藻と一緒に煮詰める藻塩と言う物です。これは、通常の海水塩より旨味が増し美味しい高級塩です。と言っても、向き不向きがあるので料理のよって使い分ける必要があります。最初に生産した塩は、両方とも王家に献上します。王家と言っても、トリステイン王家だけではありません。ガリアとアルビオンの王家にも献上します」

「ゲルマニアには良いのですか?」

「必要ありません」

 カロンが聞いて来ましたが、私はバッサリ切り捨てました。

「ゲルマニアに下手に関わると、岩塩の輸出を止められる可能性があるからです。準備が整うまでは、触れない方が良いでしょう。トリステイン王家は自国なので当然ですが、ガリア王家は街道が完成するまで商売上関わって来るので、無碍にすると後が怖いです。アルビオン王家は、現状の塩の価値がトリステインと似たり寄ったりです。今後良いマーケットになるでしょう。それに、トリステインとガリアの王家だけ挨拶に行って、アルビオンだけ行かないと言うのも後に禍根になる可能性があります」

 私の言葉に、カロンは大きく頷きました。

「それから通常の海水塩は、最優先でタルブに回してください」

「醤油と味噌の生産ですね」

 カロンの切り返しに、私は頷きました。

「醤油と味噌は、今後特産品として期待していますから」

「そうですね。既に工場建設の方も、タケオ氏主導の下で着工しています。つまずく事は許されませんね」

「あまりプレシャーをかけないでください」

 この時私は、苦笑いするしかありませんでした。






 リッシュモンは一時退場しましたし、人材不足もなんとかなりそうです。このまま領地開発は、上手く進んで欲しいですね。

 その前に、塩田設置をどうにかしなければ……。ダメです。父上に対する恨み言しか出て来ません。 
 

 
後書き
連投その3 
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