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平凡に

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第三章

「嫌気がさしたんですよ」
「それで、か」
「テレビ局辞めてか」
「今ここにいるのか」
「そうなんだな」
「はい、そうです」
 その通りだというのだ。
「今の職場に皆さんと共にいます」
「わからねえな、本当に」
「そうだよな」
「いや、どう考えてもな」
「テレビ局の方がいいだろうに」
「向こうにずっといた方がな」
「キャスターの仕事も」
 彼等はこう言う、だがだった。
 秀翼は笑ってだ、こう言うばかりだった。
「本当に酷い場所ですから、それに」
「それに?」
「それにっていうと?」
「俺ここ好きですから」
 今の職場がだとだ、にこりとした笑顔で言った。
「工事現場で働くことも」
「まあ人それぞれだけれどな」
「御前さんがいいっていうならいいけれどな」
「しかしあんたいい大学も出てるんだろ」
 テレビ局にいたということからの予測だ、テレビ局だけでなくマスコミというものはとかく学歴を見たがる世界だからだ。
「それで工事現場の作業員か」
「俺達大抵高卒だぜ」
「それも大した高校じゃないぜ」
「その辺りの普通というかそれ以下の高校ばかりだぜ」
「中退の奴だっているしな」
「俺な」
 一人が自分を指差した、そのうえでの言葉だ。
「俺なんて高校中退だぜ」
「中卒もいるしな」
「学歴だってないしな」
「テレビなんてとてもな」
「犯罪でもしない限り出られねえよ」
「絶対にな」
 そこがだ、かつての秀翼と全く違うというのだ。
 こう話す彼等だったがそれでも秀翼はマスコミではなく彼が今いる場所の方が遥かにいいというのだ、そして。
 彼はいつも明るい顔で働き続けた、そこに嘘偽りはなかった、それでだった。
 周りはその彼の仕事ぶりに感心しながらも不思議に思い続けた、何故テレビ局のキャスターから工事現場の世界に来たのか。
 そのことがどうしてもわからなかった、何度聞いても彼はとにかくマスコミの世界よりもこちらの方がいいと言うのだ。
 そうしたある日のことだ、皆会社の事務所、仕事に出る前に新聞を読んでいてあるニュースを見た、そのニュースはというと。
 社長、初老のいかつい顔の彼が新聞を見て怒って言った。
「おい、これは酷いな」
「あれっ、どうしたんですか?」
「何かあったんですか?」
「ああ、新聞記者が取材の為に不正アクセスをしたんだよ」
 不正だ、言うまでもなく犯罪行為だ。
「けれどその記者のいる新聞社はな」
「その不正アクセスってのをですか?」
「当然だっていうんですか」
「そうだよ、うちの会社もホームページあるけれどな」
 だがそれでもだというのだ。
「そんな不正アクセスなんかしたらな」
「不正だから逮捕されますよね」
「犯罪になりますよね」
 社員の多くはそうしたネットのことは知らないし興味もない、だが不正と聞いてそこから犯罪の空気を感じて言った。
「やっぱり」
「そうですよね」
「そうだよ、文句なしにな」
 そうした行為は、というのだ。 
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