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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第134話

月詠小萌は職員室でやつれた息を吐いた。
身長一三五センチ、見た目は一二歳程度という外見からはあまりに不釣合いな疲労感だったが、それも無理はない。
午前中に起きた生徒間の暴力沙汰(上条当麻の周辺では目立たないかもしれないが、普通の学生生活で考えれば結構大きなトラブルなのだ)もそうだが、その他にも原因はある。
それはスチール製の机の上に散らばっていた。
そこにあるのは安物の印刷物で、進路希望調査票、と書かれている。
もっとも、一年の段階での調査は結構曖昧なもので、『将来どんな仕事に就きたいか』ぐらいのものでしかない。
具体的な進学や就職、そして進学するならどこの学校のどんな学部を狙うのか、就職するならどこの企業へどんな手順でアタックするのか、といった話はもう少し先の事だ。
だが。

「はぁぁぁー・・・・・」

小萌先生は思わず頭を抱える。
土御門元春は『メイドの国へ行きたい。そしてクーデターを起こし、このオレが軍師になって薄幸メイドを女帝にする』とこの上なく真面目な筆跡で書いていたし、青髪ピアスは『モテたい』と調査票の枠からはみ出るぐらい大きな文字を、上条当麻は「しあわせになればなんでもいいです」と何だか涙を誘うような切実な願いを記していた。
自分の授業の時、最初から最後まで寝ていた麻生恭介は『将来に全く興味なし』と記されていた。
それを確認した小萌先生はさらい重いため息を吐く。
内容が未定や考え中など、という前向きな事が書かれていればよかったのだが、麻生の内容は将来に全く興味がない、という内容だ。
あの三人も書いている事は正しいと言えないが、内容を見ると麻生の内容よりかはまだ前向きだ。
以前、大覇星祭で常盤台の理事長に会った時の会話を思い出す。

「そう言えば、麻生君はどうしていますか?」

「いつも通りです。
 もう少しだけ勉強の方を頑張ってほしいです。」

「それなんですけど、月詠先生。
 彼の学力に関しての事などについてお話したい事があります。」

理事長から内容を聞いた小萌先生は驚きを隠せなかった。
あの麻生が常盤台の授業についていく事ができ、さらには三人の大能力者(レベル4)に勝ったという内容だった。
麻生の学力を考えると、常盤台の授業について行くなどありえない事だ。
何より彼は無能力者(レベル0)だ。
そんな彼が三人の大能力者(レベル4)に勝つ事など不可能なはず。
さらに理事長の話によると、麻生は何かしらの能力を使っているのが明らかになった。
これらが本当に事実なのなら麻生はもっと上の学園に通う事が可能だ。
それなのにそれをしない。
おそらく、進路希望調査に書かれていた内容と関係があるのだろうと、小萌先生は考える。
三度目の重いため息を吐くと、小萌先生はスチールの机の引き出しを開け、煙草の箱と小型の高性能空気洗浄機を取り出した。
禁煙エリアが拡大しつつある昨今、逆に喫煙専門の店舗を作る風潮も広まりつつあった。
カクテルの代わりに世界各国の煙草を揃えたバーも珍しくない。
学園など大抵は全面禁煙が敷かれていそうなものだが、学園都市では以外に校内の喫煙が認められている場合が多い。
これは学校の教師が様々な分野の研究者が兼ねているパターンが多く、彼らの集中力をごっそり欠く事が学園都市全体の損益に関わる、という統括理事会からの配慮だ。
そんな訳で、喫煙申請を出した教師には小型の高性能空気洗浄機が支給される。
小萌先生はそれらを四つ取り出し、机の四隅にそれぞれ配置する。
各々は一方向からの空気しか吸い込まない。
しかし四つがそれぞれ作動すると、まるで洗濯機に攪拌(かくはん)されるようなされるように机の上の空気が円状に動く。
薄っぺらい紙切れ一枚動かないほどの空気の流れだが、それが確実に煙草の煙を捕らえて吸い込み、フィルタを通して清潔な空気を吐きだすのだ。
空気力学を応用した最新モデルであり、同時に無料支給できるほどコストを抑える事にも成功した。

「よっと。」

小萌先生は机の端に置いた空気洗浄機のスイッチを入れる。
煙草に火を点けて、吸い始める。
そこへ、緑色のジャージを身にまとった信じられないほどの巨乳教師、黄泉川愛穂が後ろから小萌先生に話しかける。

「おっすー、センセ。
 今は息抜きの最中?」

「そうですよ。」

煙草の煙を机の板の表面に吹き付けるように煙を吐く。
いつもなら元気よく返事をする小萌先生なのだが、今日は進路希望調査を見て疲れているのか声に元気がない。

「黄泉川先生も吸いますか?」

煙草の箱を愛穂に差し出す。
それを愛穂は受け取らずに苦笑いを浮かべる。

「最近、黄泉川先生は煙草を吸わなくなったですね。」

「吸わなくなったわけじゃないくて、吸えなくなったじゃん。」

「どういう事ですか?」

「ウチの家に時々、おっかない家政婦みたいな奴が来るんじゃん。
 そいつはウチが煙草一本でも吸うと、その匂いに気がついて説教してくるじゃんよ。」

「その家政婦さんは黄泉川先生の事が大事なんですね。」

「それで心配させてしまうのも悪いし、それ以来煙草を止めたじゃん。」

と、説明している愛穂の顔はとても嬉しそうな顔をしている。
すると、愛穂は何かを思い出したのか携帯を取り出す。

「電話ですか?」

「そうじゃん。
 これからくる子供達の相手をしてもらう為の呼び出しじゃん。」

そう言って愛穂はその人物に電話を掛ける。
数コールが続いた後、その人物の声が聞こえた。

「何の様だ、愛穂。」

その人物とは麻生恭介である。
彼は愛穂と一緒にこれから来る二人の子供の入院生活の世話をしていた。

「今どこにいる?」

「近くの繁華街辺りだな。」

「んじゃ、ここからそう遠くないじゃん。
 恭介、今から学校に来れる?」

「何故だ?
 俺は学校生活に問題を起こした記憶がないが。」

「そっちの話じゃないじゃん。
 今日が何の日か知っている?」

「あいつらが退院する日だな。」

「そうそう、それであの二人がこの学校に来るから恭介もこっちに来てほしいじゃん。」

「・・・・・・・・・」

麻生の沈黙に愛穂は少しばかり驚く。
この手の話は麻生にすると即答で拒否する。
だが、麻生は拒否するどころか考えている。
少しの間、沈黙が続くと麻生が返事をする。

「分かった。
 今からそっちに向かえばいいんだな。」

「・・・・・・」

あまりの予想外の麻生の返答に愛穂は言葉を失う。

「おい、どうした?」

「べ、別に何でもないじゃん!
 それじゃあ、校門で待ってるから!」

急いで返事をして、通話ボタンを押す。

「麻生ちゃんを呼ぶのですか。
 でも、意外ですね。
 麻生ちゃんの性格を考えると、絶対に来ないと思ったのですが。」

「ウチもそう思っていたから、驚いているじゃんよ。
 まぁ、説得する手間は省けたしそろそろ行くじゃん。」

「ま、待ってください!
 まだ煙草は長いのです!
 もうちょっとだけ吸わせてください!」

いくら喫煙ができるとはいえ、職員室外は禁煙になっている。
小萌先生は愛穂の手を掴み、何とか止める。
数分後、フィルターのすぐ手前まできっちり吸い切った小萌先生はジャージ体育教師に連れて行かれる形で職員室を出た。
 
 

 
後書き
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