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魔法少女リリカルなのは ~優しき仮面をつけし破壊者~

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A's編 その想いを力に変えて
A's~オリジナル 日常編
  47話:士の2月13日の出来事

 
前書き
 
大変お待たせしてしまい、申し訳ありません。
いろいろパソコンの調子がおかしくなり、ようやく復帰できました。

今回は今年最後の投稿となります。来年もよろしくお願いします。
  

 
 

「いや~、はやてはやっぱり料理が上手いな」
「はは、士君には負けるよ」

そう言うが、やっぱりはやては料理全般が上手い。今回のチョコだって、初めて作る割には上手に出来てる訳だし。しかも甘さ控えめのビターチョコ。

「これはお返しは少し覚悟しないといけないな。主にお財布事情方面で…」
〈がんばった方がいいですよ〉
「ははは、楽しみに待っとるよ。まぁ、そこまで高価なもんじゃなくてもえぇけど」

はやてはそういうが、やっぱりもらったもんのお返しとなれば、それと同等の物を用意しないといけないと俺は思う。そうじゃないと失礼だろ。

「そうだな…皆手作りだった訳だし、俺も手作りで対応するのが妥当かな…(ボソ)」
「ん?何かゆうたか?」
「いや、なんでもねぇよ」

おっと、聞こえてしまうところだった。楽しみに待っていてくれるのだから、中身は秘密にしていた方がいいだろう。

「そいえば、士君昨日はミッドで何しとったん?」
「ん?言わなかったけか?」
「うん。少なくとも私は聞いてへんよ」
〈因になのはさん達にも言ってませんよ。後で怒られるかもしれませんね〉
「それは…こわ…」

そうだっけか、と思いながら目の前に置かれている紅茶を口にする。どうせクロノかユーノ辺りがしゃべってると踏んでいたんだが、そうでもなかったようだ。

「試験を受けてたんだよ。陸戦AAA(トリプルエー)ランク取得の為の、な」
「え、そうだったん!?」

さらっと簡単に昨日の出来事を言うと、はやては目を見開いて驚いた。そこまで驚く事か?

「まぁ落ち着け。別にこれと言って重要なもんじゃないし…」
「いやいや、重要やないか!で、で!合格したんか!?」

机をバンッと叩いて抗議してくる。いやいや、耳痛いよ。もう少しボリューム下げて。

〈合格しましたよ。満点ではありませんでしたが…〉
「そっか!そりゃよかった…!」

トリスの言葉に目の前で安心するはやて。そこまで反応を表に示すかね…

「で、で!どんな試験やったんや!聞きたい聞きたい!」
「のわっ、顔近っ!わかったわかったから!話すから顔遠ざけろよ!」

ぐいぐいとはやての顔が押し迫る。あぁもう!なんでそんなになるかね!

「まぁ、そうだな…。まずは……」


















2月13日。
この日、俺はミッドチルダへやってきていた。いや、正確には昨日の夜にミッドに到着し、一泊してこの日に至る。

そしてこの日の最初の行動は、墓参りから始まっていた。

「………」

手を合わせ、頭を下げる先には……プレシア・テスタロッサとアリシア・テスタロッサの、二人の墓があった。
この二人の墓は最近出来たものだ。元々、フェイトがそう願っていたが、アリシアはともかくプレシアは事件の容疑者。あまりそういうのに詳しくないので、深い事情は知らないが、容疑者の墓を作るなんて話は前世でも聞いた事がない。

それでも、アリシアだけでなくプレシアの墓も作られているのは、リンディさんやレティさんの計らいらしい。
詳しくは知らないが、十二月の“闇の書事件”でプレシアの関係者であるフェイトやその他の皆が功績を上げた事で、“上の連中”が少しは融通を利かせてくれた、と言う事だそうだ。

墓の場所は一般人と同じ。この場所にはリンディの夫でクロノの父、クライド・ハラオウンの墓もあるという話だ。

「……よし…」

色々な近況や助けられなかった謝罪などを心の内でして、俺は閉じていた目を開け、立ち上がる。

「機会があったらまた。今度はフェイトと一緒に来るよ…」

そう言い残し、俺は踵を返す。

〈マスター、真っ黒が来ましたよ〉
「おい、真っ黒言うな。士、そろそろ…」
「あぁ。丁度終わったよ。今そっちに行く」

そこへ声をかけてきたのは、トリスの言う通り黒い服一式に身を包んだクロノだった。
俺はそのクロノがいる場所へ向かい、合流する。

「これから試験会場へ向かうが…気分はどうだ?」
「ふふ、万全も万全。気分最高だ」
「そうか」
〈マスターのバイタルは数値で見る限り万全です〉

並んで歩きながら、笑みを浮べながら話す。昨日はよく眠れたからな、気分はいい。

「筆記は合格ライン。後は実力を計る試験になる訳だが…」
「射撃系には、まぁ不安要素ありだが…他は何とかなると思う。いや、してみせると言えば良いか」
「自信たっぷりだな」
〈負けフラグにならなければいいですね〉
「変な事を言うなよ、相棒」

たく、ほんとになったらどうしてくれんだ。

「それじゃあ、いくぞ」
「おう」

俺達が向かう先には、黒塗りの車。運転手は勿論管理局の局員だ。

「まぁ、なんだ……がんばれよ」
「あぁ。目指すは一発合格」

そう言ってクロノがらしくもなく拳を出してきたので、俺も言い返しながら拳をコツッと当てる。


















〈 Dimension bullet 〉
「はぁあっ!」

足を前に動かしつつ、銃口を向け引き金を引く。
銃口から放たれた魔力弾はスフィアへと向かい、命中する。

だが今度は別方向のスフィアから新たな攻撃が放たれる。

「ちぃ!」

俺は思わず声を漏らし、前へ飛び出す。前受け身を取るように体を動かし、その勢いでスフィアの方向を向く。

それと同時に銃口を向け直し、再び引き金を引く。
ライドブッカーから放たれた魔力弾三発中、二発は見事にスフィアに命中。しかし一発だけスフィアの横を通り、その奥の壁にぶつかり霧散する。

「ちっくしょう!」

その光景に思わず叫んでしまう。だがそんな暇もないのも事実。すぐにスフィアが次の弾を用意し始める。
俺ももう一度標準を合わせ、魔力弾でスフィアから攻撃が来る前にスフィアを破壊する。

『はい、これにて射撃レベル審査を終わります。お疲れ様です』
「あ、ありがとうございます…」

全てのスフィアの破壊を確認して、俺の目の前にモニターが出現する。そこに映るのは局員の人(名前忘れた…)とその奥にレティさんがいた。
局員の言葉に俺は少し肩を落としながら、変身を解いて言葉を返す。

だぁぁ、ちくしょう!最後に一発外した!

〈あ~あ、大変ですね〉
「人ごとのように言いやがって…!」

まぁ、外したのは今のが最初という訳じゃないからなんとも言えないが……あぁ、ちくせう…

因に、この射撃審査の他にもいくつかの試験をしている。まぁ内容は上々、と言った所だ。

『では最後に、総合戦闘能力を見させてもらいます』
「…?誰かと組み手をするとかですか?」

現在の試験会場はミッドの東部にある森林地帯の一部だ。木々が障害になって色々と困るかと思ったが、一部開けた場所を使うとの事でそこまで心配する事でもなかった。
しかし、ここで組み手をするとなると……少々狭い、か?

『はい。ですが、今回は組み手相手の都合上、場所を移す事になりますが』
「そう、ですか…」

となると何か特殊な場所になるのか?ん~、でもまぁそこまで変わらんか。相手は多分局員だろうし……

『士君、相手を甘くみちゃいけないわよ』
「え?」
『あなたにとって一番最適な人を選んだわ。まぁ場所はその人の都合というか、ちょっとした要望でね』
「は、はぁ…」

思考を巡らせていたら、レティさんがそう言ってきた。
俺にとって最適な人物?どういう基準で最適なんだろうか……

『まぁそういう訳だから、ちゃちゃっと転送しちゃうわね』
「え!?急ですね!?」

と叫んだ瞬間には足下に魔法陣が展開され、まばゆい光に目を閉じる。

次に目を開けると、そこは観客席に取り囲まれた場所だった。
あまりに急激な変化に、思わず周りを見渡す。どこかの競技場だろうか。四方は少し高いところの観客席で囲まれ、天井は覆われている。

「あら、もう到着したの?」

ふと聞こえてくる甲高い声。少なくとも男性のものじゃないだろう。そして聞こえてきたのは、俺の背後から。
俺は体ごと振り向いてみると、一歩一歩歩いてくる管理局の制服を着た人物が。身長はそこまで高くない。せいぜい160ぐらい、か?若干紫っぽい髪を腰の辺りまで伸ばして、歩く度にそれを揺らしている。

「あなたは?」
「名前を聞くなら自分から、っていうのは常套句かしら?」
「あ、それは失礼しました」

指摘された俺は頭を下げる。頭を上げると、やってきた女性は笑みを浮かべていた。

「ふふふ、別に謝らなくてもいいのに」
「では改めて…。今回陸戦AAA試験の受験者、門寺 士です。といっても、おそらく知ってるんでしょうけど」
「そうね。一応試験官として君の資料はもらってるわ」

じゃあこっちも、と女性は俺の前までやってくると、手を差し伸べてきた。

「今回君の組み手相手になるクイント・ナカジマです。よろしく」
「はい、よろしくお願いします」

俺は目の前の女性―――クイントさんの手の意味を察し、握手をする。

『それぞれの自己紹介は終わったかしら?』
「あ、はい」
「大丈夫です、レティ提督」

それぞれが自己紹介を終えたところで、横にレティさんが映るモニターが現れる。

『一応紹介するわね。クイント・ナカジマ、地上本部の捜査官で、現在陸戦AA(ダブルエー)ランク保持者よ』

レティさんから言われた情報に、俺は眉を寄せる。それを察したのか、クイントさんは口を挟んでくる。

「因に私もAAAの試験官は初めてよ。ていうか試験官自体あまり経験がないわ」
「そ、そうなんすか」
「でもまぁ安心して。しっかり見させてもらうから」
「はぁ…」

クイントさんはそういうと俺に背中を見せて距離を取り始める。

『士君も準備した方がいいわよ』
「は、はい」
『ただ、さっきも言ったけど甘く見ない方がいいわよ。おそらく彼女のようなタイプ、士君は魔導師相手には初めてだろうから』

そんな謎の言葉を残して、レティさんが映っていたモニターは消える。
正面を見据えるとそこには十分な距離を取ったクイントさんが、何やら宝石らしい物を取り出していた。どうやらあれが彼女のデバイスのようだ。

「それじゃあ、いくわよ」

その言葉と共に閃光が視界を遮る。光の膜に包まれたクイントさんは、その膜を突き破るように現れる。

高い位置でポニーテイルのように結ばれていた長い髪はそのままに、黒っぽい上着のようなバリアジャケットを着ていた。
そして一番特徴的だったのが……脚部に装着しているローラーブーツらしい物と、両拳に歯車状のパーツの付いた機械的なグローブ…とでも言えばいいのだろうか。とにかく、今までに見た事のない武器だ。

「それは……」
「リボルバーナックル。私が愛用している、拳装着型アームドデバイスよ」

そう説明されても、上手く概要を掴めないが……少なくとも、フェイトやシグナムとは違った戦い方をするのだろう。

「私は準備できたわよ。さぁ…あなたも準備を、ディケイド(・・・・・)君?」
「…っ!」

いきなり言われて、思わず言葉を詰まらせる。いや、改めて考えれば俺の資料を見てるんだから、知ってて当然か。

だが、彼女が感じさせる雰囲気に、俺は気持ちが少しずつ高ぶっていくのを感じていた。

「…はは、いいですねこの感じ。俺、嫌いじゃないですよ」
〈 Stand by. Ready 〉
「ふふ、実は私もちょっと楽しみだったりするのよ。君との組み手」

それはそれは、と言葉を漏らす。
そしてドライバーへと変えたトリスのバックルを開き、カードを取り出す。

「変身!」
〈 KAMEN RIDE・DECADE ! 〉

カードを挿入し、バックルを回す。現れた九つの影が俺と重なり一つとなり、体はディケイドへと変わる。

「それが…君の力、ね」
「はい。それじゃあ……よろしくお願いします」
「あ、こちらこそよろしく」

変身した状態で頭をペコリと下げて、挨拶をする。クイントさんもそれに倣って頭を下げる。何事においても、礼儀ってのは重要だからな。

お互いに頭を上げて、相手の目を見る。クイントさんの目は、すでに真剣そのもの。まぁこっちは仮面つけているから、クイントさんはわからないだろうけど…雰囲気は察してくれているようだ。

「それじゃ…」
「やりましょうか…」

お互いの緊張感が高まっていくのを感じながら、それぞれの構えを取る。
俺は左半身が少し前に出るように立ち、右手を少し引く。左手は軽く開き、右手は拳を作る。
クイントさんはローラーブーツを立てて、俺と同じように右手を引いて構えている。ただ俺と違うのは、姿勢が俺よりも低いという点だった。

「「………」」

暫しの沈黙。互いに目をそらさずに、ゆっくりと力を込めていく。
瞬間。

ドンッ!!
「っ!」

クイントさんの足下から轟音が響き、クイントさんの姿が迫る。
それを理解した俺も左足を踏み込み、右拳を振りかぶる。迫るクイントさんも右拳を突き出そうと力を込める。

ドバァァァンッ!!
「「っ!」」

それぞれの拳が突き出され、中間地点で激突する。その衝撃で炸裂音が響き、両拳が弾かれる。
弾かれた拳はそれぞれの体をも引っぱり、二人の体は後退する。

「ぐぉおっ!?」

だが、ここで俺の方に違いが現れる。
確かにクイントさんも俺も勢いよく弾かれたが、クイントさんは何事もなく着地してみせる。だが俺はというと、その勢いのまま空中で後転していた。

(おいおい!あの体の何処にこんな力が…!?)

先程の一撃における俺と彼女の相違点。おそらくそれは拳を振るう時のスピードだろう。
彼女の足に付けているローラーブーツ。あれが瞬間的なスピードを生み出し、筋力以上の破壊力を生んだのだろう。

(こいつはどえらいな……。破壊力でいえばヴィータと同等のものを作り出せるだろう…)

自分でも、頬の筋肉が引きつるのがわかる。一撃で物体を粉砕できる攻撃……考えるだけでもぞっとする。
だが…それとは違う感情が湧いてきていた。どこかわくわくするような…いわば高揚感。

(マズいな……俺もシグナムのバトルマニアが移ってきたか?)

いや、あの高町家の環境で生きてきたんだ。知らず知らずの内に刷り込まれたんだろう。
そうやって勝手に決めつけて頭を切り替える。
周りを見渡すと、俺を中心にクイントさんが動き回っていた。

(ローラーブーツを使った移動法…時間をかければかける程スピードが速くなる…!)

スピードが上がれば、その分攻撃の威力も高くなる。

「はぁぁぁ!」

そこへ一気に飛び出してきたクイントさん。飛び出した勢いで右足を振り抜こうとしていた。

(女性を殴る、ってのはあんまやりたくないんだがな…!)

すぐに体を屈めて横に振り抜かれた蹴りを避ける。俺の頭上を通過したクイントさんは、蹴りの勢いで体をこっちに向けて反転させ、両足と左手で着地する。
だがすぐに右足のローラーが回転し、地を這う足払いのような蹴りがくる。

「くっ!」

背中を向けた状態で、その攻撃を視界の端に見た俺は、その蹴りをまたぐように右へ飛ぶ。
前受け身の要領で立ち上がり、体をクイントさんの方向へ向ける。足払いをした彼女はすでに立ち上がっており、拳を繰り出す。

「っ、せい!」
「ふっ、はぁっ!」

右手で繰り出された拳を、右手で左に弾き左拳を突き出す。
顔近くまできた拳を彼女は左手で受け止め、投げ放つように放し後退して距離を取る。

「はっ!」
「ふっ!」

俺はすぐに踏み込み、右足を振り上げる。クイントさんは腰を落としそれを躱して拳を握る。
蹴りの勢いで俺は体を半回転させて、クイントさんに背中を見せる。それをチャンスと見たのか、クイントさんは拳を突き出してきた。

「だぁっ!」
「っ!?」

だがその攻撃を屈んで躱し、そのままの体勢で左足で後ろ蹴りを出す。
その蹴りの行き先は、彼女の腹部。

ギィィン!
「っ!」

しかし俺の蹴りが決まる前に、クイントさんの左手が行く手を遮り、防御魔法を発動して蹴りを止める。
さらに彼女は後ろに飛び、蹴りの威力を抑えていた。俺はすぐに振り向いて、クイントさんも着地して、それぞれ体勢を整える。

〈 Gun mode. Dimension bullet. 〉
「いけっ!」

「リボルバー・シュートッ!」

俺はライドブッカーを取り出し数発の魔力弾を放ち、彼女はリボルバーナックルのスピナー部分で作り出した衝撃波を打ち出した。
双方の攻撃は中間でぶつかり、煙を立てながら大きな音を立てて消滅する。

「ちぃ!」

煙で先が見えない分、何をしてくるのかわからない。加えてあの破壊力だ。いきなり突っ込んで来られたらマズい。
そう思えた俺はいつでも防御できるように身を固める。

「ウイング…―――」
「……?」
「―――ローードッ!」

すると、煙の奥からクイントさんの声が聞こえてきて、ガッと何かを打ち付ける音が響く。
ギュンという風に煙から帯が、俺の頭上を通り空へと伸びる。何事か、と思うと伸びた根元から消えて行く。

煙が晴れるとその先にいる筈だった、クイントさんの姿がどこかに消えていた。転送魔法を使ったなんで事はないだろうから、さっきの帯がそれか。
そう思いながら振り向くと、さっきの帯が空中に無数に漂っていた。帯は一続きになっていて、その上に何か通過しているものがあった。

「あれ…クイントさんか?」
〈おそらくは〉

あれがクイントさん……ということは、この現象は彼女の魔法か。おそらく対空戦用の物だろう。

「ウイングロード、とか言ってたな…」

クイントさんの動きを目で追っていると、ウイングロードが俺のすぐ側までやってきた。

「はぁああ!」
「っ、まず…!」

その帯の上をクイントさんは辿っていき、猛スピードで俺に突っ込んでくる。
俺はすぐに帯のある方とは逆の方向へ飛ぼうとしたが、すでにクイントさんの拳が迫っており、俺の体に擦る。

「ちぃ…!」

クイントさんはそのまま帯を辿って上昇。その光景に思わず舌打ちをしてしまうが、ふとある事に気づく。
クイントさんが通った事で生まれた土ぼこりが、一部帯の上に降り掛かっていた。

「そうか…これは誰でも乗れるのか…!」

そうなれば俺もやれる事がある。
俺は帯を伸ばしながら疾走するクイントさんを見上げる。

「よし……はっ!」

俺は一度手を払い、一気にジャンプする。空中で前に一回転して、彼女の作り上げた帯の上に着地する。

「うん、読み通り…!」

そう呟きながら立ち上がり、クイントさんが進んだ方向へ走り出す。

さぁクイントさん、どう出る?


















門寺 士君。
九才という幼さながら、PT事件の協力者、そして闇の書事件で功績を残した、若きエース達の一人。
彼と同じ元は一般人だった高町 なのはさん、PT事件の関係者であるフェイト・テスタロッサさんに、闇の書…もとい夜天の主の八神 はやてさん。
そして彼を含めた四人は現在嘱託魔導士として活動しているが、いずれは管理局のエースとして活躍する日が来るのではないか、などと噂されていた。

その中でも彼は、抜きん出て噂された。
四人の中で唯一の男性との事で、色々大変な思いをしているのではないか。彼がなのはさんと同居しているなどという話が持ち上がれば、逆に彼女達に手を出しているのではないか、などと根も葉もない噂が立ちどころに上がっていた。

だがその中に、一際目立つ噂があった。


「仮面ライダー」、というフレーズだ。


なんでも、彼はレアスキル持ちで、そのスキルは自身を鎧のような物で包み、自らの顔を仮面で隠して戦う、との事だった。
だがそれが何故「仮面ライダー」というフレーズになるのか、誰が最初に言ったのかなどは、結局の所わからなかった。

だが……私はその意味をきちんと噛み締めることができた。

レティ提督にお話を伺った時は、少し驚いた。私は陸戦AAなのに、AAAの試験官をして欲しいと言われたからだ。
最初は断ろうとしたが、レティ提督に言葉巧みに追い込まれ、結局やる事になってしまったが……

『彼と会う前に見ておくといいわ。なんであなたが適任者として選ばれたかも、わかると思うわ』

提督はそう言い残し、私に映像データを渡してきた。

それを見て、私の心は大きく高揚した。
おかしな人型の敵、怪人と戦う士君。彼は噂通り鎧を身に纏い、仮面を付けて怪人達と戦っていた。

その拳を振るい、剣を振りかぶり、蹴りを突き出す。銃の引き金を引き、怪人を蹴散らして行く。
その力は見るからに強大で、あまりにも危険なものだった。火花を散し、あるときには血を流す。
そんな光景を見ていると、なんとも言えない気持ちになる。九才の子供が、こんな命がけの戦いをしているのだ。大人として、何も思わない筈がない。

だからこそ、私は今回の試験官を引き受けた事を後悔しなかった。

そして、今私は空を駆けながら彼の行動に気を配る。

「…やっぱりそう来たわね」

地面から飛び上がり、私の作り出したウイングロードを走っている。そうすれば少なくとも私と同じ場所で戦う事ができる。
だけど私と彼との一番の違いは、帯を駆けるスピードだ。私達拳を使った近接格闘においては、この速さというのは一つの武器になる。

私は駆ける彼へ横から走る。ナックルについているスピナーを回転させて、拳を構える。

「リボルバー・シュートッ!」

両手で作り上げた衝撃波を彼に向けて放つ。
それを彼はまるで体操選手のように動き、二つの衝撃波を躱す。

私はそのまま先程まで彼のいた場所を通り、空を駆ける。ふと振り返ってみると、彼は再び飛び上がり、私がついさっき作り出した帯の上に着地して、私を追いかけるように走り出した。

「面白いじゃない…!」

私はすぐにUターンして、拳を構える。それに気づいた彼も、歩みを止めた。
拳を彼に向けて放ち、当たったと同時にそのまま通り過ぎる。

「くっ…!」

拳が体に擦った苦痛による彼の声が聞こえるが、こんなんじゃ倒れない事は、データを見て知っている。
私は再びUターンすると、先程と同じように拳を突き出す。だが彼も今度は見切って見事に避けてみせる。


そんな攻防が数回続いた。
彼は既に片膝を付いていて、その息は荒かった。

だけど、攻撃の手を緩める訳にはいかない。
再び彼に向かって駆け、拳を構える。

真っ正面にいる彼はゆらりと立ち上がり、こちらを睨めつける。と言っても、仮面で表情は見えないから、予想でしかないんだけど。

「はぁああああ!」

私は雄叫びを上げて、拳を突き出す。今度も、彼の体にすれすれで当たるような軌道だ。

「っ!」

だが、今回の彼の行動は先程までと違っていた。

すれすれに当てるつもりだった拳の軌道へ、自ら当たりに来たのだ。

「なっ!?」

突き出した拳は既に止まらないところまで来ていて、このままでは彼の体に当たってしまう。
思わず声を上げてしまったが、彼はそんな物知らぬというように私が突き出した拳を真っ正面から大きな音を立てて受け止めた。

そう、受け止めたのだ。

両手を胸に添え、拳を鷲掴みするように受け止めたのだ。

「くっ…!」
「ぬぅ…!」

ザリザリと帯の上で足を摩りながら後退する。
そして私の勢いがなくなると同時に、彼は顔を上げて告げる。

「つ~かま~えた…!」
「っ!?」

思わず声を上げてしまいそうになる程、彼の声はドスの利いたものだった。

仮面の下にある彼の表情は、今どんな風になっているのだろうか。
そう考えると、体は一瞬固まってしまった。

「ふっ!」

そんな隙を彼が見逃す筈もなく、掴んでいた私の拳を上に弾くように投げる。
そこまで強い力でやられた訳じゃないので、体勢に影響があった訳ではないが、次の彼の行動が速かった。

右、左、次に右足を振り上げてくる。三発とも、リボルバーナックルでうまく防ぎ、左側で止まっていた足を弾く。

だが彼はその勢いすらも利用し、今度は右足の後ろ蹴りを放つ。
胸へとやって来た蹴りを、私はナックルをクロスさせて防ぐが、防御魔法を発動する時間もなく、私はその蹴りの威力で弾き飛ばされた。

帯を削るように停止して前を見ると、彼は既にこちらに攻撃を仕掛けていた。
私に飛びかかるような体勢で飛んで来て、右拳を振り抜く。クロスした両手で受け流すように防ぐが、すぐに彼の左ストレートが飛ぶ。

だけど、やられっぱなしは癪に触る。これでも経験は私の方があるのだ。
彼の拳を左手で左に受け流し、がら空きとなった彼の左のボディーに右拳を向かわせる。

当たる、と思ったその時、拳の進路を遮るように何かが現れ、私の拳を受け止める。
何か、と見るとそれは彼の左肘だった。ついさっき突き出した左手を戻す動きで、肘を拳の進路に割り込ませたのだ。
まぁそれでも勢いまでは最後まで防げるものでもなく、彼の体は少し左にズレる。

「ふっ!はっ!」

が、すぐに彼は左肘を動かして拳を退かし、再び右拳を突き出した。

「くっ!」

私はそれを潜るように避け、次の攻撃を仕掛けようとした。

だが、今度は先程避けた右拳が、再びこちらに向かって来たのだ。
裏券だと理解したときには、私は両手でガードしていた。いきなりの事で体勢が左にズレてしまう。

「はぁあっ!」

だが彼は、すぐに少し飛び上がり、右足を振り上げて空中回し蹴りを放って来た。
両手で防御魔法を形成するが、相手は足。手の三倍の力がある物を、そう簡単に受けきれる訳もなく、またも私は弾き飛ばされてしまう。

「くぅ…!」

少し後退した所で、またも彼の回し蹴りが来る。今度は左足だ。
それを見た私は飛ぶように後退して、体勢を立て直す。

「うぉおおおお!」

彼は待つ時間も惜しいのか、すぐに私に向かって走り出していた。
私も左拳を握って、ローラーを勢いよく動かす。

爆発音のような音が足下から響き、彼が勢いよく近づいてくる。

「うぉおおおおお!」
「はぁあああああ!」

そして、


お互いの突き出した右と左の拳が、それぞれの頬を打ち抜いた。


















「これで…いいかしら?」
『OKよ、クイントさん。今回は無理言ってごめんなさいね』
「い、いえ…私もいい経験ができましたから…」

そう遠慮がちに言葉を発するクイントさんは……

俺と一緒に地面に転がってます。

何故そんな事になっているか。説明すると、先程の拳の激突で俺達二人の体は彼女が作り出したウイングロードから飛び出してしまい、そのまま地面へ落下してしまったのだ。

幸い大きな怪我もなかったが、少し体中が痛かったりして、二人ともまだ立ち上がれずにいた。

「……クイントさん、今回はありがとうございました」
「いえいえ、さっきもレティ提督に言ったけど、いい経験になったからいいのよ」

そう言われても、ちょっとは気にしますよ。女性を殴るのは、あまりいい気がしないから。

『士君、今回の試験の結果はおって伝えるわ。そこでゆっくりしててね』
「わかりました、ありがとうございます」

そう言って俺の横にあったモニターが消える。
ふぅ、と息を吐いて、体の力を抜く。いやいや、確かにいい戦いだった。

「どっ…こいしょ…!」

と言葉を吐きながらゆっくり立ち上がり、クイントさんの方へ歩み寄る。

「大丈夫ですか?」
「え、えぇ。ありがとう」

中々立ち上がれない彼女に手を差し伸べる。クイントさんもそれに応えるように手を出してくる。

だが……


「お母さんに近づくな!」


いきなりそんな大声を突きつけて、クイントさんと俺の間に割り込む影が現れた。

それに俺は思わず手を引っ込める。
クイントさんとの間に入り込んだのは、短髪の小さい少女だった。

え?と言葉を漏らす前に、また新たな影が現れた。

「ダメよスバル!」
「で、でもお姉ちゃん、この人お母さんに…!」

と半泣きになりながら反論する少女―――スバルというらしい。
その彼女を止めようとやってきたのは、クイントさんと同じように長い髪をした少女だった。スバルという少女がお姉ちゃんと呼ぶ辺り、どうやら二人は姉妹らしい。

「あらスバルにギンガ。なんでここに?」
「お、お母さん!」
「お母さん!?大丈夫!?」

スバルという子の言葉に、思わず声を上げてしまった。おいおい、女性が若く見えるのは、ミッドも共通なのか?
いや、それはすでにリンディさんで証明済みか。そう自己解決させた後、再び彼女達を見据える。

スバルと呼ばれる少女はまっすぐ俺を睨んでおり、その少女の肩を掴んでいる彼女の姉―――ギンガと呼ばれるらしい少女。そして未だに倒れているクイントさん。

(いやはや、この姿だと悪者のようにも見えるんだな…)

少しショックを受けつつ、俺はバックルに手をかける。
変身を解いて、元の体である子供の姿に戻る。

「…あ、あれ?」
「ごめんな、怖がらせちまって。悪いようにはしないから」

そう言ってもう一度手を差し伸べる。クイントさんは脇にいる二人を少しどかしながら手を掴む。俺は彼女の手を引っ張って、上半身だけでも起き上がらせる。

「ありがと」
「どういたしまして」

元気そうに返事をすると、脇にいた二人の少女はクイントさんに飛びつく。よほど心配だったのだろうか。

「娘さんですか?」
「えぇ。スバルと…ギンガ。私の二人の娘よ」

俺の質問に彼女は二人の頭を抱えて笑顔を見せる。
側にいる二人をよ~く見ると、確かにクイントさんとどことなく似ている所があった。

「どことなく似てますね」
「そう?ありがとう」

クイントさんはそう言って立ち上がって、二人にありがとうと言いながら頭を撫でた。

「実は今日、この後二人と一緒に買い物に行こうって話をしてたんだけど」
「そうだったんですか…」

それは悪い事をしたな、と少し気を落としていると、妹さんの方が俺の方に近づいてくる。

「ん?どうした?」
「あの、その……ご、ごめんなさい!」

いきなり頭を下げられて、少し驚いたが……すぐに頬を緩めた。

「あぁ、大丈夫。気にしてないから」
「で、でも…私勘違いして…」
「だから気にしてないって。別に君が気に病む事じゃないよ」

俺はそう言って頭を撫でる。妹さんは少し恥ずかしそうにしながらこちらを見てくる。

「こっちこそごめんな。お母さんを怪我させちゃって」
「大丈夫よ。そこまで怪我をしたって訳じゃないから」
「それはよかったです」

ほら、と妹さんの背中を押してやって、クイントさんの元へ行かせる。
やって来た妹さんの頭を撫でるクイントさんと、笑顔を向けるお姉ちゃん。

(これが“家族”なんだ…)

そうしみじみと三人を見ていると、視線に気づいたクイントさんが、こちらに目線を向けて来た。

「ねぇ、少し聞いてもいいかしら?」
「はい?」

それは唐突に、投げかけられた言葉。

「あなたは…あんな怪人達と戦ってて、怖くなったりしない?」


















どうしても、知りたかった。

「あなたは…あんな怪人達と戦ってて、怖くなったりしない?」

彼が戦っている映像を見て、確かにすごいとは思った。
だが同時に、何故九才の子供がこんな戦いをしているのか、どうしてもわからなかった。

「怖くない…?」
「そう。あなたは戦う時どう思っているのか…どうしても知りたいの」
「そう、ですか……」

そう小さく呟く彼は、表情を暗くした。
どうかしたのか、と聞く前に彼はドカリと腰を下ろした。

「……正直言うと、めちゃくちゃ怖いです」
「…そう……」
「戦いの中で俺は死ぬかもしれない。もしかしたら、俺の大切な人達が奴らの手にかかるかもしれない。そう考えると、怖くて仕方ないんです」

ちびちびと愚痴を漏らすように言葉を発する彼の姿は、さっきまでの物とは比べ物にならないぐらい、頼りなく見えた。
おそらく、誰にも話せていなかったのだろう。少しずつ言葉を選びながら、彼は続けた。

「だけど…俺が戦わないと、多くの人が被害に遭う。そんなの、俺は嫌です」

(だから戦う、か……)

この子も、不安なんだ。
大切な物を失うかもしれない。そんな事を考えて、戦っているのか。

(最近の子供は、色々な物を抱え込み過ぎだわ…)

我が娘もしかり、彼もしかり…リンディ提督の息子さん、クロノ執務官だって父親を亡くしているのに、次元世界の為に戦っている。
ついこの間の二つの事件だって、事件解決に導いた主な人物はほとんど子供だった。

本当は、大人がしっかりしないといけないのに……

「じゃあ、もう一つ質問。いいかしら?」
「…なんでしょう」

少し気持ちを切り替えて、改めて知りたいことをもう一つ聞く。

「あなたは、何の為に戦っているの?」

それを聞いた彼の目は大きく見開かれ、まっすぐと私の顔を捉えていた。

「…そんな事まで聞いてきますか、普通」
「気になっちゃったんだもん」
「だもんって…どっかのガキですかあなたは…」

そうは言いながらも、彼は真剣な顔になっていた。

「……大切なもんを、なくしたくないから」
「え…?」
「俺にとって、あいつらはほんとに掛け替えのない宝物なんですよ。そいつらの笑顔が消えるのは…もっと嫌なんです」

またも静かに言葉を発する彼の表情は、とても悲しそうなものだった。

「怪人達がその笑顔を消しにやってくるというのなら、俺は何度だって戦います。そうしなきゃ、大切なもんは…守れないから」

そう言うと、彼は顔を上げて笑い始めた。
いきなりの事で私もビックリして、スバルやギンガも変な顔をしている。

「…あ、すいませんいきなり」
「い、いえ…。何かあったの?」
「いや、改めて戦う理由なんて考えてみて思ったんですけど……ずっと他人の為に戦ってると思ってたのが、実際は自分の大切なもんの為にしか戦ってないという事に、気づきましてね…」

頭をガシガシと掻きながら、彼は続けて言った。

「可笑しいですよね。結局は、ほとんど自分の為に戦ってるなんて」

私は、それを聞いてゆっくりと立ち上がり、座り込む彼へ手を差し伸べる。
それを見た彼は、ゆっくりと手を掴む。私は彼を引っぱり、立ち上がらせる。

「私は、それでも良いと思うわ」
「……え?」
「だってあなたはその理由で戦って、結果的に大切なものを守ってきたんでしょ?」
「まぁ…そりゃあ…」

私の言葉に言い淀む彼。そんな姿を見て、私はフフン、と笑みを浮べる。

「だったら、それでいいじゃない。あなたはあなたの為に戦って、大切なものを守れたんだから」
「…だけど」
「あなたの戦う理由は、結果的に誰かを守ってるのよ?それは誇ってもいいと思うわ」

そう言って、私は側にいるスバルとギンガを抱き寄せる。

「私は、この子達が幸せに過ごせる世界を作る為に、この子達の未来の為に、戦っていくつもりよ。でもそれも結局、根はあなたと同じ、自分の為に戦ってる」
「………」
「それにね……」

―――私は誰かを守る為に、誰かの笑顔の為に戦う事って、すごい事だと思うわ。

その言葉を聞いた瞬間、彼は目をさっきより大きく見開いた。そして私達に背を向けてしまう。

「…?どうしたの?」
「い、いえ…なんでも、ないです…」

そう言って背を向けたまま、何やら手を顔に添えた。後ろから見るだけでは何をしているかわからなかった。

「…ありがとうございます」
「え?」

急に言われた言葉は、お礼の言葉だった。

「そんな事、一度も言われた事もなかったので…」

顔だけこちらに向けて、頬を掻きながら照れくさそうに言った。

ちょっとその仕草が、少し子供っぽくて意外だった。
先程までのシリアスな雰囲気や、戦ってる間の時の雰囲気とも違う、年相応の仕草だった。

そこがまた、少しかわいらしくも見えた。

「フフフ…」
「な、なんですか…」
「いえ、なんでも」

そう言いながらも、未だに笑い続けてしまう。それを嫌そうに見る彼は、私の目に面白く映っていた。

その時、彼と私の間にモニターが現れた。

『士君、待たせたわね。合否の結果が出たわ』

そこに映っていたのは、レティ提督だった。

「どうなりましたか」
『あなたの性格から言って、遠回しに言うのは嫌いだろうから、結果だけ先に言うわね』

そう前置きをしてから、レティ提督は口を開いた。


















「そんでまぁ、合格した訳だ」
「へぇ、ほう…」

俺の話が終わると、はやては面白そうに頷いていた。まぁ反応なんてなんでもいいんだけど。

「そんなことがあったんか~…」
「あったんだ~」

と、昨日の経緯をはやてに放した。
なんだか変にニヤニヤしているが…そこまで面白い話だったか?

「まぁ合否の話の後、機会があったら模擬戦でもやろうって話もしたりしてな」
「へぇ~……だそうやで、なのはちゃん」
[へぇ、そうなんだ~]

だが突然聞き覚えのある声が聞こえ、俺の心臓は体の中で飛び跳ねた。

[そんな事があったのに、私には教えてくれなかったんだ~]
「お、お前なのはか!?」

その声の主はなのはだった。だがいつもの声色よりも、少し恐怖感があった。

[な、なのは、なんか恐いよ]
[でもフェイトちゃん、士君が別の女の人と会ってたんだよ?]
[い、いやそれは…]

ドス黒い雰囲気を醸し出すなのはの念話に、新たに声が割り込んできた。

「ふぇ、フェイト!お前なのはの側にいるのか!?」
[え、まぁうん…]

その念話の主はやはり、フェイトだったようだ。

「だ、だったらなのはを止めてくれ!そうでもしないと、俺が殺される!」
[う、うん。わかっ―――]
[フェイトちゃん、私はこれから士君とO☆HA☆NA☆SHIするから、邪魔しないでね?]

フェイトがなのはを止めるのを了承しようとした瞬間、フェイトの言葉に被せるようになのはが言葉を発した。

[……ごめん、士。私の手には負えそうにない…]
「畜生ぉぉぉぉ!!」

そしてフェイトが次に発した言葉は、諦めの言葉だった。
くっそ!最後の希望までも摘んでしまうのか、今のなのはの気迫は!

[それじゃあ士君……O☆HA☆NA☆SHI、しようか?]
「そんなもん、誰が黙ってされるか!」

俺はなのはの恐怖の言葉を聞いて、俺は八神家のリビングの机を勢いよく立ち上がる。

「士君、どうすんの!?」
「と、取りあえずここから離れる!じっとしていたら奴がやってくるか、砲撃がぶっ飛んでくるに決まってる!」

はやてはおもしろ半分でなのはに念話を繋いだんだろうが、こんな事になるとは予想していなかったのだろう。少し顔色が悪い気がする。

「で、でも建物内だし…砲撃が飛んでくるってことは…」
「今の奴はそれぐらいやりかねないんだよ、マジで!」

俺は急いで八神家の扉を開け、外へ走り出す。奴がこっちに来る前に、急いで射程範囲外に!

だが、このとき俺は肝心な事を忘れていた。

なのはの奴がいつも自身の訓練に余念がない事に。
そして……彼女が自身の得意な攻撃の強化をしない訳がない事に。

気づいた時には、俺はピンク色の何かに呑み込まれていた。


















時は一気に飛び、ホワイトデー。
士はあの後なのはに謝り倒し、その日は事なきを得た。

そしてこの日、バレンタインのお返しとして、士は自分に出来る限りのおいしいデザートを作り上げ、五人に提供した。

五人はそのおいしさに満足し、表面上は笑顔を見せていたが……

(これは…)
(おいしすぎる…)
(なんか、女子としての面子が…)
(ちょっと複雑…)
(むぅ…)

士は密かに五人の自尊心を傷つけてしまっていたことに、気づいてはいなかった。

  
 

 
後書き
 
次回はサウンドステージの話にちょろっと話を加えたものになります。

それでは、よいお年を!
  
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