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鈴を鳴らす水賊頭

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水賊頭と面倒なクエスト

 俺は今、滅茶苦茶面倒くさい事になっている。


「ブルモォオオ!!」
「おるあぁ!!」


 一匹のでかい牛の突進を避けるとともに、連続で踏み込みながら上下に剣を振る――――無双のC3攻撃を、纏った焔と共に撃ちこみ、〆の回転切りでぶった切る。
 やたらと悲しげな断末魔を上げて四散した牛を見て、俺は面倒くささに頭をかきむしった。


「これを後何回やりゃあいいんだよおぉっ!!」


 今俺が受けている“逆襲の雌牛”というクエストは、物凄く面倒くさいもんだったのだ。
















 そもそもこのクソクエストを受けるきっかけとなったのは、ホルンカ(やっと覚えた)を出てから、ボスがいる迷宮とやらに一番近い村を目指しながら進んでいる途中に寄った村で、珍しい物を見つけたからだった。


(ずっと気になってんだが……あのNPCっつうのの上にある、!マークは何なんだぁ?)



 何やら困った顔をしたNPCが、頭の上に!マークを浮かべたまま立ち往生しているのだ。何の気なしに話しかけてみると、いきなりこっちの話も聞かずにこんな事を言い出した。



「た、助けてください! お願いですから助けてください!!」
「うわっ!! んだよお前!?」


 傍から見れば『盗賊が善良な市民を襲っている』構図になるのだが、そんな事今は如何でもよかった。

 聞いてもいないのに勝手に話し始めたNPCによると、この村の剣士がある牛のモンスターを退治しに行き、見事狩り終えたその矢先、その牛の倍はある更に大きな牛が、剣士どころかこの男の小屋まで打っ飛ばしてしまったのだと言う。
 他の農家仲間にも被害が出始め、もう商売あがったり。だから何とかしてほしいと言ってきたのだ。

 どうせ情報を得るまでは暇だし、甘寧兄貴なら放って置かないだろうと考えた俺は、腕上げも兼ねて受ける事にした。


「わかった! 任せときな!!」
「あ、有難うございます!」


 こうして農家の男から、“逆襲の雌牛”というクエストを受けたのだった―――――







 が、


「受けなきゃよかったぁ!! めんどくせぇ!!」



 もう、そりゃマジで面倒くさい。具体的に言や、剣士と同じ事を繰り返せば済む。
まず雄牛が湧いてくる場所を突きとめて倒しまくり、次いで出てくる雌牛の野郎(意味的に矛盾してるが)を打っ倒すという工程を繰り返すんだが、しかし最初の“雄牛が湧く場所”を突きとめるのに時間がかかる上、そこまで強く無くとも数がいる。そりゃもう、面倒臭ぇ事この上ない。


「後何回だよ! この野郎!!」


 同じ事を再度叫んで、喚いても仕方ねぇとクエストを再開する。

 ……や、ほんと頼むから後一、ニ回で終われよ……!














「七回って……アレから七回ってなんだよ……んなろぉ」


 合計何回やったか数えてないが、少なくとも十回は繰り返したと思う。最後に倒した後に、何やら特殊なアイテムがドロップし、面倒くさい工程の終了を告げた時の、あの嬉しさといったらない。
 別の意味で疲れた俺は、クエストを依頼した男の元へドロップ品を届けに行った。


「これは……あの雌牛の角……!? 有難うございます! 本当にありがとうございます!!」
「……おう」


 ま、NPCとは言え感謝されると嬉しいもんだ。

 俺は何やら小さな壺と、少ないながらも金を受け取ると、即行で宿屋へと行き、部屋を借りて床に倒れ込んだ。


 ……もう二度としたくねぇ……何でちいせぇ壺一個の為にあんなことしなきゃならねぇんだ……


 俺は甲刀を寝たままそこらに投げだすと、床に突っ伏した格好のままで寝てしまった。















 「くぁ~……ぁ」


 次の日の早朝。


 目を覚ました俺は、情報を得る為に村を歩きまわる。と、ある道具屋の店先に、何やら厚めのパンフレットが置いてあったのだ。


「おっさん! これ幾らだ?」
「そいつは無料だぜ、盗賊兄ちゃん」


 NPCでは無く後ろから帰ってきた答えに振り向くと、そこにはチョコレート色の肌を持ったスキンヘッドの、190はあろうかという大男がいた。(ちなみに俺……というか兄貴の身長は181)


「マジか! マジで無料なのかよ……こりゃいいぜ」


 手にとってもお金を払えなど言われなかったのでその言葉が真実と分かり、少し儲けた気分でパンフレットを眺める。


「あ~……あのよ、こんな事言うのはマナー違反だと思うんだが……あえて言うぞ」
「アン?」
「……何でお前、上半身の装備が腕だけなんだ? さっきも言ったが刺青や腰の鈴、頭のヘアバンドとかで、やっぱり盗賊に見えるぞ?」
「これは俺なりの“スタイル”って奴だ! 俺はこれを貫くぜ!」
「……まぁ、そこまでコダワリ持っているんなら別にいいんだが…」


 大方、この男は“あんたのその格好じゃ悪人と間違われるから、誤解を生む前に変えた方がいい”と言いたいのだろう。だが、俺はやっと手に入れた憧れそのものを捻じ曲げるつもりはない。


「そう言えば知っているか? この先の《トールバーナ》で、近々ボス攻略会議が行われるらしいぞ」
「ボス攻略会議だぁ?」
「ああ。なんでも最前線のプレイヤー達がもうすぐ出迷宮句のボス部屋まで到達しそうなんだとか。ボス部屋確認が終われば、すぐにでも会議が開かれるそうだ」


 中々そういう話を聞かなかった俺は、一人でもボスをぶっ倒して進むつもりだったので、この話はかなりひかれた。


「マジか! んで、トールバーナってのはどっちだ!? 何処にあんだ!?」
「うおっ……そ、そのパンフレットに書いてあったぞ…」


 そう言われてパンフレットをみると、確かにそこにはトールバーナへの道のりが書いてあった。


「こうしちゃいられねぇ……喧嘩で置いてけぼりにされてたまっかよ! ありがとなおっさん、じゃぁな!!」


 俺はスキンヘッドの大男に情報の礼を言うと、トールバーナへ向って駆け出した。

 これから行われるであろうボス攻略という、『大喧嘩』に胸おどらせながら。



 
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