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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第二章 非平凡な非日常
  55、嫌われた転生者

周りの視線を気にしながら帰宅した要と骸。

取り敢えず、傷だらけで疲れはてている骸を三階の空き部屋に放り込む。

銀が何とかしてくれるでしょ、なんて言う放任主義である。

要本人もブレスの力を解除し、いつもの姿に戻った。

「さてと、明日には出掛けられるようにしねぇといけねぇな」

荷物を整理しようと、スーツケースを押し入れから引っ張り出したときだった。

ピンポーン

インターホンが鳴った。

「客? こんな時に……」

面倒だと思う反面、凪や正一だったらと思うと出ないわけにもいかない。

仕方なく玄関に向かい、扉を開けた。

しかし、そこにいたのは予想に反した意外な人物だった。

正直に言って、一番会いたくない人物。

「こんにちは、霜月さん」

「長谷川……ッ」

それはやちるだった。

「上がってもよろしいでしょうか?」

「おもてなしなんて期待しないならな」

「あら、構いません」

やちるがにこりと笑う。

露骨に嫌そうな顔をしながらも、仕方なくと言った感じで要はやちるを家に上げた。

ツナ側の人間を家に上げるのはこれで二度目だ。

一度目はもちろん、去年の勧誘の時である。

もてなさないとか言いつつも冷蔵庫からイチゴ牛乳を出した要は、やちるの前にそれを置き、ソファに座った。

「で、何の用だ?」

「まず、あなたは回りくどいことが嫌いそうなので簡潔にお尋ねします。何故、六道骸を助けたのですか?」

その言葉に息を飲む。

ここまで帰ってくるのに人目を避けたはずだし、人の気配も感じなかったはずだ。

それなのに、バレていた。

よりにもよってやちるに。

「勘違いしないでください。あなたの家に入ったときから気配を感じているだけです。骸の気配がすると言うことは、助けたのでしょう? 何故そんなことを?」

「気配ねぇ。つーか、理由をお前に教える義務なんてねぇだろ。どこで何をしようとオレの勝手だ」

「そう言うわけには行かないのです」

やちるが眼鏡をカチャリと押し上げた。

「あなたが転生者であることを前提に言いますが、これ以上原作(ストーリー)を壊すのは止めてください」

「は? 原作(ストーリー)を壊すだと?」

「ええ、そうです。武の自殺騒動に始まり、体育祭の棒倒しや、ジッリョネロファミリーのボス・アリアの息子であるコスモの存在。そして今回の六道骸の救出。
 あなたは今までに原作(ストーリー)にないことを起こしすぎました。これが原作壊し(オリジナルブレイク)じゃなくてなんと言うのです?」

要が今までにやって来たことを次々と並べていくやちる。

山本の自殺騒動や棒倒しなど、今では一種の思い出となっている事柄はともかく、要は1つ気にかかることがあった。

それは、コスモのこと。

名前だけなら自分だって呼んだし、雪合戦の時に名乗ったかもしれないから知っていることに関してはどうでもいい。

しかし問題なのは、コスモが、ジッリョネロファミリーのボスであるアリアの息子であるとバレていること。

いくら不注意なコスモであってもそこまで名乗るはずがない。

そうやって考えを張り巡らせる要に、やちるは小さく笑った。

「お忘れですか? 私、これでも裏社会で名のある人間。それくらいの情報は常識として持ち合わせています」

「ちっ、そうかよ。……チビ介は知ってんのか?」

「いいえ、知りません」

むしろリボーンの方が知ってそうなんだけどな。

その事実にまた舌打ちする。

「それで、原作(ストーリー)を壊して何を企んでいるのですか?」

やちるがまた眼鏡を押し上げる。

要以上に常人離れした水色の瞳が彼女を見つめる。

要はよく「凍てついた目」等と言われていたが、やちるもまた、同じイメージを与えていた。

「別に企んじゃいねぇよ。オレはただ、オレが後悔しないように人生を送ってるだけだ」

「けどそれでは原作(ストーリー)を壊す理由には」

「原作原作って、そんなもんに縛られた人生送って楽しいか?」

「……なんですって?」

「言っておくが、オレには原作(ストーリー)の知識ってヤツはこれっぽっちもねぇ。正確には、捨てた。だからオレにとっては何が原作通り(オリジナルストーリー)で何が原作壊し(オリジナルブレイク)なのか、知ったこっちゃねぇよ」

鼻で笑う要に、やちるは理解できないでいた。

やちるは、要の言葉を信じられないでいた。

原作と違うストーリーになってしまっては、この先何が起こるのか分からなくなってしまう。

そうすれば、守れるかもしれない人が守れなくなってしまうかもしれない。

だから原作に忠実にいきたいのだ。

しかしながら、要は真逆だった。

そもそも人生なんて何が起こるかわからないものだ。

この世界に転生するきっかけとなった事故に関しても同じことだ。

だったら、何が起きても対処できるように日々精進し続けるのみ。

それだけだ。

「そう……ですか。残念です、やはりあなたとは気が合わないのですね」

「そんなん入学式の時から分かってることじゃねぇか。今さら言うことじゃねぇな」

「ええ、ご尤もです。では、お邪魔しました、失礼します」

手のつけていないイチゴ牛乳をハンドバックにしまうと、一枚の紙を残しやちるは帰っていった。

ただ一言、「友達には感謝した方がいいですよ」とだけ言い残して。

玄関の扉がしまる音が聞こえた直後、要は盛大に溜め息をついた。

ついさっきやちるが残していった紙を手に取る。

「あんにゃろ、名刺なんか置いてくんじゃねぇよ」

そこにあったのは、裏社会でのやちるの名刺だった。

やちる、要と仲良くなることはまだ諦めてませんからね。 
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