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ソードアート・オンライン~ニ人目の双剣使い~

作者:蕾姫
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戦いの手段の正当性とは

俺とシノンが隠れている壁の窪みのある場所から一つ目の角を曲がったところにはボス部屋へと続く禍禍しい扉が存在する
現在、その扉の前はガヤガヤと騒がしい喧騒に包まれている
というのも、先程ユウキとアスナを含むスリーピング・ナイツ(プラスワン)の面々が、道を封鎖している攻略ギルドの面々とボス討伐の優先権を巡って争っているのだ
なお、常識的に考えてユウキたちに分がある
攻略ギルドの面々の方はメンバーが揃っておらず、状況を的確に表すのならば、待ち合わせをしていた、ということになる
つまり、ボス部屋へ挑戦する順番に並んでいるというわけではなく、ボスに挑戦している人もいないので、普通ならアスナたちはボスに直ぐに挑戦できるはずであった
しかし、攻略ギルド側が論理の通らない稚拙な言い訳を繰り返し、明らかな時間遅延工作を図っているのだ

アスナたちはわずかに七人。対する攻略ギルド側は十四人
……普通に勝てそうではある

ちなみにキリトとクラインの二人はボス部屋へと続く通路からさらに遠いの窪みで俺達と同じように隠れている
なぜ、こんな隠れ方になったかというと、ハイドスキルを持っていたのがキリトと俺しかいなかった上に、窪みが四人も隠れられるほど大きくなかったからだ

ハイドスキルを持った二人がもう一人に覆いかぶさる形で耳を澄ませながら窪みに伏せているわけで……なんというか、いろいろ柔らかい感触がするし、息遣いもよく聞こえる

シノンは俺が密着していることで、顔を赤くし縮こまってるし

なかなかに生殺しな状態でそのタイミングが早く来るように柄にもなく祈ってしまった

「そろそろ行くぞ、シノン」

「う、うん……」

体感的に数倍に引き延ばされた数分が過ぎ、そろそろ武力衝突が起こるかというタイミングでハイドを解き、身体を起こした
門の前の状況は、先程ギルド側のボス攻略のための人員が全員揃っているため、ユウキたちは十四人と三十五人の二グループに挟まれた状態となっている

キリトたちも立ち上がり、門に向かって走り出す

「俺とキリトが壁走りで向こう側へ行く。シノンとクラインはもう少し角に隠れていてくれ」

「わかった」

戦闘に関するセンスの高いメンバーなので作戦に関する言葉は最小限。全員が直ぐさま理解する

軽く装備を確認しながら敵の後発部隊の前まで走ると、俺とキリトは左右に別れて壁を走った

鋼糸を仕込みながら数秒間走り、後発部隊の前に割り込むことに成功する

お互いに靴底から火花じみたエフェクトを出しながらスピードを殺す
そして、キリトは剣を抜くと地面に突き刺した

「悪いな、ここは通行止めだ」

「キリト、カッコつけようとして失敗してるぞ?」

突然の登場にそこに元から居たほぼ全員が唖然としてしまっている。唯一、違うのは目をキラキラさせながらキリトを見ているアスナだろうか

「……言うなよ。自分でもちょっとやっちまったって思ったんだから……」

「はぁ……止まるのは何か作戦があるからって少しでも考えた俺がバカだった。こんなことなら不意打ちしてたのに」

「俺のせいかよ!?」

そんな漫才を繰り広げていると、他の面々も我に返ったらしく、こちらを警戒し始めた

「さてと……我に返ったところで一応警告しておくが……退け。さもなければ実力行使に出る」

剣を引き抜きながら、睨みつけると、敵の前衛が威圧感に戦いたように、一歩後ろに下がった

「そうだ。ここから先は通行止めだ!」

「二回目も同じだとつまらないというのがわからんのか?」

「…………」

キリト、撃沈
そんなキリトの様子を見て、多少勢いを取り戻したのか、敵のリーダーと思わしき剣と盾を持ったサラマンダーのプレイヤーが一歩前に出た

「そ、そうだ! いかに黒の双璧といえども、この人数を相手取れるわけがねぇ!」

その声に勇気付けられたのか、顔を青くしていた周りのプレイヤーも徐々にやる気を取り戻す

「よおし、討ち取って名をあげるぞ!」

「首級をあげてやる!」

時代錯誤が甚だしい輩も何人かいるようだが、各自思い思いに気炎をあげた様子を見て、敵のリーダーは一つ頷くと、剣を抜いた

「行くぞ! この人数なら怖くない! 黒の双璧を倒して名をあげ……」

思うのだが、戦い前の鼓舞は敵からかなり離れたところでやるべきだと思う
俺は敵の士気が上がるのを黙って見逃すようなお人よしでも、敵がこちらに意識を集中させるまで待つ騎士道精神溢れる人でもない

そんな性格の俺が見逃すわけがなく、あらかじめ仕込んであった鋼糸で首を絞め、それによってリーダーの声が途切れたのだ

俺の鋼糸は前にも言った通り、多数の輪状の短い鋼糸が繋がった形であり、言わば大量の武器が繋がった状態だ
ALOはSAOとは違い、装備するなんて概念がなく、すべての武器でダメージ判定が出る
そして、そのダメージは武器本来が持つ威力よりもインパクト時の速度に比重が置かれている

つまり、仮にもSAOからの引き継ぎ組である俺が引いた鋼糸がクリティカルポイントである首筋に多数の武器をヒットさせたというわけである

敵のリーダーの言葉が途切れたのを不審に思った面々の視線がそのリーダーへと集中した次の瞬間、敵のリーダーはそのアバターを無数のポリゴンへと変貌させ、砕け散った

「ひ、卑怯だぞ!」

「不意打ちか!」

当たり前というか、なんというか、敵ギルド連合の面々は口々に俺を罵り始めるが、俺が一歩前に踏み出すと波が引くように一気に静まりかえった

「卑怯……か。卑怯で何が悪い?」

「開き直るんじゃねぇ!」

「持っている力には種類がある。今回、お前らは数という名前の力を持っている。総力ではそちらに分があるかもしれない。……それにも関わらず、相手の土俵に立って戦う意味がどこにある?相手を卑怯者と罵る行為は自分の偏った視点からのことに過ぎない。確かに、俺はお前らから見たら卑怯者だな。個人の力を最大限発揮できる不意打ちで、そちらの、集団としての力という土俵を破壊したのだから。だが、そちら側から見た俺が卑怯者ならば、こちら側から見たお前らも卑怯者ということになる。だから、俺はお前らを倒す。ユウキやアスナのためではなく、俺が自分の我を通すために。戦いは勝った方に義がある。もし、自分たちが卑怯者ではないと主張したいならば……俺達を倒してみろ、卑怯者」

俺の口上に逆上したのか、敵前衛の面々が叫び声を上げながら突っ込んでくる

そして、各自が思い思いの武器を振りかぶりつつ、だいたい間の距離を詰めたところで……一番前の奴らが後ろにずっこけた

しかし、煽ったのは俺だがまさかあんなにも綺麗に決まるとは

ワイヤートラップというものを知っているだろうか?
ほとんど肉眼では見えない鋼糸やピアノ線を使って張る罠の総称なのだが、今回使ったのはコレである
首の位置に張っておいただけの簡易なものだが、怒りで視覚狭窄に陥っていた敵ギルド連合の前衛の面々には関係なかったらしい
背の高い低いによってダメージの大小はあるものの、だいたいが首筋のクリティカルポイントに叩き込まれており、結構な量を削られている
そして、自分たちの前に居た面々がいきなりのけ反ったことで、中衛の面々も足を止めざるを得ず、さらに中衛の持っていた槍が刺さったり、顔面を後頭部に殴打されたりと二次被害が出るところも多数あった

さすがにボスを攻略しようとするレイドだけあって後衛の面々は驚いて詠唱中の呪文を途中中断するようなことはなかったが、直後に斬り込んできたクラインとシノンの援護射撃に阿鼻叫喚の騒ぎとなった

「キリト、アスナ、ユウキ。後ろをさっさと片付けてボス部屋へ行け。対多戦なら間違いなくキリトよりも俺の方が上だからな」

「死ぬなよ?」

「アホか。こっちと違ってそっちは負けられないんだからお前こそ死ぬなよ?」

話を打ち切って、今だ混乱する敵前衛に斬り込む
盾を持っているとはいえ、HPがかなり減っている上に転んでいて迎撃体制も整っていないため、鋼糸も使って軽く六人ほどをポリゴン片に変える

「くっ……予備の盾持ちは前に出ろ! そして中衛は槍を持って隙間から突け!」

流石は攻略組を名乗ることはある。立て直しがなかなか早い。サブリーダーと思わしきプレイヤーが号令をかけて、俺が追加で三人ほど斬り殺している間に体制を立て直していた

確かにパワーファイターのキリトが相手ならばそれでよかったかもしれない。盾を横から回り込む以外に手が無くなるのだから
敵の手を制限するのは勝負の鉄則。敵の手が少なければ少ないほど対策が立てやすいからな

だが、トリックスターの俺が相手ならば……甘い

「はっ……!」

単発操鞭術《エレキック・バインド》
雷九割、物理一割
当たると一定の確率で麻痺を付与する鞭スキルである
念のため言っておくと、鋼糸は鞭カテゴリに入る。すなわち、ソードスキルも使用可能なのだが、ソードスキルはすべて光を纏うため、鋼糸の最大のメリットである隠密性を殺す
故にあまり使わないのだが

鋼糸は鋼、つまり鉄であり、金属でできている
銀や銅には劣るものの、かなり電気を通す
ソードスキルが起動しているのは、手に一番近い鋼糸だが、その電気は先端まで走っているということになるのだ

俺の手元から壁や床を経由して、敵の集団の内部まで、仕込んでおいた鋼糸が光輝く

「なっ!?ぜ、全員待避ぃぃ!!」

「遅い」

鋼糸を引いて不規則に位置を変化させる
そんな面攻撃がかわせる筈もなく、悲鳴を上げながら次々と麻痺状態になって倒れていった

「な、なんで俺様まで……」

一人余計なやつが混じってる気がしたが、意識から外して倒れている面々を次々と斬っていく

「う、うおぉぉぉ!!」

「生き残りか」

数人、仲間を盾にして雷から逃れたのか、一斉に斬り掛かってきた

片手剣と盾持ちが一人と槍持ちが二人。片手剣が一番前に立ち、その後ろに槍持ち二人が構えて襲ってきた。片手剣持ちが、まず間合いに入る。
手の斬り下ろしを右の剣で斬り払って受け流すと、片手剣持ちの左後ろから突き出された槍を左に回り込みながら左の剣で流す

体術スキル《震脚》

地面が揺れ、片手剣と盾持ちが怯んだ隙に、震脚で足に溜まったエネルギーを解放し、推進のためのエネルギーに変化させる
ゼロから一気にトップスピードへとギアを変更し、その速度をさらに腕の動きでブーストする
俺の動きに全く着いてこれていない槍持ちの首筋を斬り飛ばす
さらに、腕の動きと連動して動いていた鋼糸が片手剣と盾持ちの首筋も刈り取る

「……えっ?」

返す刃で残る槍持ちも斬り飛ばすと、マヌケな声を上げてポリゴン片へと姿を変えた

「お疲れ、リン」

「……キリトか」

振り返るとキリト以外のプレイヤーの姿はなかった
状況を見るに、アスナやユウキたちはボスに挑戦している頃だろう

「あの鋼糸、凄かったな」

「キリトなら余裕で回避できる癖によく言う」

あの程度なら何人かかわせるやつらも存在するだろうに

「……時にクライン。ちょっと鈍ってるんじゃないか?」

「て、敵と戦ってる時にかわせるか馬鹿野郎……」

地面で芋虫のように転がってるクラインを一瞥してこちらに歩いてきたシノンの頭を撫でる

「クラインが考えずに戦うせいで近接戦闘をするはめになったんだけど……」

「ぐぅ!?そ、そりゃあ……」

「さて……その話は後でじっくりと聞くことにして、今はさっさとここを離れるぞ。さっきの奴らが戻って来ても面倒だ」

「そうね」

クラインの口に解痺ポーションを突っ込む
麻痺状態が快癒したクラインを立ち上がらせると、連れだってキリトとアスナのプレイヤーホームに戻った 
 

 
後書き
毎度お馴染み、蕾姫です

今回はまあ、対ギルド連合戦ですね

不意打ちに煽り、そして罠。完全に計算尽くした頭脳プレイ(と作者が勝手に思ってるけど稚拙である)で原作では勝てなかった相手をボコボコに
鋼糸の対軍能力が光ります
鋼糸が鞭スキルなのと電流の伝達云々は独自設定です。異論があろうが飲み込んでくださいw

今回は卑怯の定義について演説してます

まあ、お互いに納得済みのルールに違反したなら卑怯といえるでしょうが、片方の一方的な思い込みに違反したところで、それが卑怯だとは到底言えないんですよね
例えるならリリカルなのはの管理外世界で、蕾姫(レキ)に質量兵器を使うなんて卑怯だ、とクロノ君が言うようなもんです

わかりにくい?でしょうねw

ま、戦いに卑怯もくそもないんですよ。倫理的にどうかは置いておいて
個人で勝てないから数で押せばいい
数学のテストで勝てないなら英語のテストで勝てばいい
いかに自分の土俵に持っていくか。それが勝負です。それなのに卑怯と罵るのはただの負け犬の遠吠えに過ぎん、と思います

こんな考えなんで、リンも似たような戦い方をします。嫌な方は御退出くださいな

それでも読んでくださる読者様に最大の感謝を

これからもリンシノ夫婦と蕾姫よろしくお願いしますね!

では次回でマザロザ編、終了でございます
そのあとは……まあアシリゼーション編かな?
原作がアシリゼーションを完結させるまで閑話を連打しますがw
ではでは 
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