| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

錆びた蒼い機械甲冑

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Ⅲ:機械甲冑の思考

 
前書き
時間をさかのぼり、騎士視点でお贈りします。

※オリジナル設定があります。 

 
 蒼錆色一色の機械甲冑の騎士は、戸惑っていた。


(俺ハ何故コンナ森ノ中ニ居ル?)


 自分は先程まで傭兵の依頼をこなしていた筈だった、なのに一瞬目の前が真っ暗になったかと思うと、こんな所に放り出されていたのだ。
 彼はとりあえずここかどこかを判断する為に、視界式レーダーを作動させて当たりを探るが、木々が不自然なポリゴンになった事以外何も分からない。



(座標ハ―――“不明”……カ)


 ため息の様に空気を吹き出しながら、機械甲冑はあたりを見渡した。








 彼が元居た世界では、対話インターフェイス搭載の人工知能(AI)や人の脳を組み込んだサイボーグなどはさして珍しいものでは無かった。
 武器のみになるが、テレポート技術もあったのだ。

 だが、どんな世の中にも予測不能な物事があり、そこから生まれるイレギュラーが居る。彼はそうしたイレギュラーから誕生した。

 とある科学者が人間の脳を組み込むだけでなく、人と同じ成長する要素をもった機械を作れないかと考えつき、すぐさま実行に移した。
 材料や制度確認のために、かなりの人間の命を犠牲にしたその実験の結果、いわば生体機械、生体武器とも呼べる代物が誕生したのだ。しかし、実験の集大成が自分自身に牙をむくなど、その科学者は予想していなかった。
 
 結果、科学者を殺し研究所を破壊した蒼錆色をした甲冑姿の生体機械は、自分が何者かを探るべく、傍にあった武器達を手に旅に出、途中で聞いた職業である“傭兵”を営む事にしたのだ。


 そして商売が乗ってきたその矢先――――彼は見知らぬ場所へ放り出されてしまったのだ














(……俺ガ“イレギュラー”ダカラ、ト言ウ事ハ関係無サソウダガ……モウ少シ探ッテミルカ)


 とりあえず邪魔な木々を避けながら進み、彼は不自然に開けた小さな遺跡のある場所に出た。


(トリアエズ、此処デ休憩ニスルカ)


 そう思った彼は、先程まで持っていた盾付きの鉄板刃の剣“プラエトリアニ”を地に刺し、地面に座り込む。
 生体機械である彼は、普通の生物と同じく休憩をとる必要があるのだ。とはいってもそれは“形的”な物で、普通の生物とは違う部分が多いのだが。


 ともかく、少し落ち着いてから再び探索を開始しようとした彼の聴覚器官が、奇妙な音を探知する。


 それは、何かが軽快に組み上がって行くような音であり、こんな大森林の中では決して聞こえる筈の無い、人工的な音でもあった。


(何ダ? 何ガ起コッテイル?)


 彼が“プラエトリアニ”を地面から抜くのとほぼ同時―――遺跡が突如として爆ぜ、中から牛のような頭を持った、迷彩柄の大きな亜人が飛び出して来たのだ。


「チッ!」


 ホバーの勢いを利用してその牛頭から距離をとった機械騎士は、剣を握っていない右手にピックのような投げナイフを持ち、その迷彩柄の牛頭と対峙する。


『ブモオオオォォォオオオ!!!』
「ゴオオオオオオォォォオオ!!」


 お互いに強烈な咆哮を放った後、まず仕掛けたのは牛頭の方だった。

 手にしている棍棒を豪快、且つかなりの速度で振り下ろし、機械騎士を狙う。その棍棒の一撃を走りながら躱わして軽く跳んで棍棒に足を付けると同時に、再び棍棒を足場にジャンプする。

 そしてホバーを“ブースター”に切り替えて高速で牛頭に詰め寄り、その勢いのまま右角を切り落とした。


『ボオオオォォ!?』


 少々機械的な動作で顔を掻きむしった牛頭は辺りを棍棒でめちゃくちゃに叩きだす。機械騎士はそれを、ブースターを使い上空に飛んで避ける――――かと思いきや、勢いそのままに地面に着地し、再びブースターを吹かして距離をとりながら、ナイフを投げた。


 どうやら彼のホバーやブースターは微調整や加速にしか使えないらしく、飛べたとしても一直線に短距離を飛ぶのがやっとの様だ。


 やがて迷彩牛頭は叩きつけるのを止め、棍棒を構えて此方を睨みつける。その視線に何故か殺気等の生物らしさが感じられず、機械騎士は疑問に思うがすぐに戦闘の方へと意識を向ける。


『ブモオオォォ!!』


 これまた豪快な横振りをダッキングで避け、次いで来た振り下ろしは脚力を生かし、跳んで躱わす。そして牛頭は、少しの間力を溜めるかのように震えた後、土煙を上げながら爆音と共に突進を開始した。


(単純ニモ程ガアルナ……)


 その軌道上から外れる様に機械騎士は動き、突進を難なく避けながらナイフを命中させる。と、牛頭が転がるようにして手を地につけ、再び突進を行ってきた。
 が、想定の範囲内だったらしく、これまた苦も無く躱わす。

 突進が終わったらしく肩で息をする迷彩牛頭に、機械騎士は近寄ると脚を数回素早く斬りつけ、更にそこを足場に飛びあがって背を二回斬り裂いた。
 痛みに悶えながらも牛頭は彼を踏みつぶそうとするが、すでに距離をとった後でその踏みつけは空しく地を踏むのみ。そして、気を取り直すかのようにまた横振りを放った牛頭を見て、機械騎士はある事に気が付く。


(……一回目ノ横振リト軌道ガ同ジカ……?)


 続けて来る斜め振りおろされた棍棒を避け、近寄って足を斬りつける。いい加減当たらない攻撃にイラついた様に地団太を踏むと、再び横振りを行ってきた。


(ヤハリ…軌道ガ全ク同ジ、狂イガ無イ……!)


 その後で斜めに振り下ろすのも同じ。
 機械騎士は、見間違いではないかと他の攻撃も含めて検証したが……結果は全て同じだった。


(有リ得ナイ……マルデGAMEカ何カノ様ニ、“バリエーション”コソ有レド軌道ヤ予備動作ガ全ク同ジダト……!?)


 たとえ機械だろうとも多少なり軌道が違う事はあり得る。だがしかし目の前に居るのは生物であり、“全ての攻撃や予備動作が全く一緒”など、かなり訓練を積んで意図しない限りは絶対あり得ない筈なのだ。


 (不気味ナ奴ダ……サッサト始末シテヤルカ)


 そう考えた彼は、武器の“機能”をある程度解放しナイフをしまった後、それまでとは比べ物にならないスピードで迷彩牛頭に向かっていく。


「オオオオオォォォォオッ!!」


 ブースターによる加速も生かし、腰部を斬り裂き腹部を抉り、身体を駆け上がりながら斬り刻む。止めに牛頭の頭へ両手持ちでの斬撃を浴びせ、左角を切り落としながら頭部を斬り付けた。


『ボ……ブオオオオォォォ……!! オォ…』


 やがて限界が来たらしく、迷彩柄の牛頭は断末魔を上げて後ろに倒れた。


「……truncation pole(切り捨て御免)」


 何処の国だったか、こんな言葉を斬り捨てた相手に言う国があったなと考えていた機械騎士は、またも驚くべき光景を目の当たりにした。

 倒れ込んだ牛頭が、パリィィン、という軽快な音と共にポリゴン片となって消えてしまったのだ。


(……何ナンダ、コノ森ハ……?)


 レーダーを通すと精密なポリゴンになってしまう木々、ゲームのようにパターン化された攻撃を仕掛けてくる牛頭の亜人、その亜人がポリゴン片となって消えうせる……常識では考えられない事が次々起きている。


(……一先ズ、コノ大森林ハ抜ケタ方ガイイカ……)


 そう思った機械騎士は、奇妙な大森林を抜けるべく行動に移す。……が、レーダーが利かず地理も知らないこの森林の中では迷ってしまうのは必然であり、結局元の開けた場所へ戻ってきてしまった。


「ハァ……(ショウガナイ……今晩ハ此処デ過ゴスカ……)」


 やがてあきらめたらしい騎士は、日が暮れてくると同時に遺跡に寄り掛かるように座り込んだ。




 彼が噂になるのは、この数日後の事である。

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧