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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三十二話 崩壊の始まり

side プレシア

 最下層にいる私のところまで振動が伝わった。
 ジュエルシードのモノじゃない。
 根本的に異質なもの。
 恐らくは

「……あの世界の魔導師ね」

 でもどうでもいい。

 私とアリシアはアルハザードに旅立って全てをやり直す。

 そうすれば眠り続けるアリシアはまた私に笑いかけて……
 「仮に根源に至りアリシアを蘇らせたとして、その時妹であるフェイトを虐待したお前を
 幾人もの命を生贄に捧げた貴様をアリシアは昔のように慕ってくれると思っているのか?」
 ……くれる。
 そう、取り戻せる。
 「アリシアの死を受け入れることが出来なかった」
 違う。
 確かにアリシアを失ってしまった。
 これはアリシアを取り戻すためだ。
 死を受けれていないはずなんてない。

 それにフェイトは所詮紛い物。
 アリシアの、あの子の偽物
 「ここにいるのはアリシアでも人形でもない。フェイト・テスタロッサという一人の少女だ」
 違う。
 フェイト・テスタロッサなどという娘は私にはいない。
 いらない。
 私はフェイトなんかいらな……
 「フェイトがいなければジュエルシードの回収すら出来なかったのにふざけた事を言う」
 違う!
 アリシアではないフェイトなど求めていない。
 それでもフェイトは私のそばにいた。
 どんなにひどい事をしても離れなかった。
 逃げる事は出来たはずなのになぜ?

「っ!!」

 いらない余分な思考だ。
 人形の事を考えても仕方がない。
 全ては……
 「フェイトの事を偽物と虐待することで、まだ間に合うと自分に言い聞かせた」
 ……違う。
 違う違う違う違う違う違う!!!

「フェイトの手は振り払ったのよ。今更私の事を母と思うはずもない。
 私にはアリシアだけ」

 そう、アリシアだけ。
 それにフェイトの手も振り払ったわけじゃない。
 もともとあの子は私の娘なんかじゃ……
 「妹であるフェイトを」
 違う。
 あの子はアリシアの妹でも、私の娘でもない。

「くっ、なんなのこれは」

 瞳から流れ出るこれはなんなの。
 いや、考える必要などない。
 こんなものを気にする必要もない。
 躾の出来ていない使い魔が残していった剣を握る。

「邪魔はさせないわ」

 この感情はわからない。
 振り払おうとしても、あの言葉が頭から離れない。
 でもアルハザードに行けば、このわけのわからない感情も言葉も消えるはず。

「そうよね、アリシア」

 縋るようにアリシアが入る容器を撫でた。
 だけど瞳から流れ出るものが止まる事はなかった。




side 士郎

 駆動炉に向かい上に昇る俺達

「シュートッ!!」
「ファイアッ!」

 なのはとフェイトが放った魔力弾が甲冑を撃ち抜く。
 それをかわした甲冑は俺がハルバートで叩き斬り、アルフが動力コードを食い千切り、ユーノが捕縛していく。
 だが

「……キリがないな」
「確かに数が多すぎるね」

 上へと続く吹き抜けのホール。
 そこからキリがなく降りてくる甲冑共。
 一体何体造ったんだか……
 あまりの数にアルフと並んでため息を吐く。

「二人とも無事か?」
「大丈夫!」
「平気!」

 俺とアルフよりも後ろにいるなのはとフェイトに声をかけるが元気のある返事が返ってくる。
 だがフェイトは少し息が荒くなってきている。
 無理もないのかもしれない。
 なのはとの戦いであれだけの魔法を使い、さらにはあの砲撃をまともに喰らったのだ。
 なのはもあまり余力はないだろう。

 ちなみに今の布陣は接近戦を得意とする俺とアルフを先頭に置き
 体力を可能な限り消耗させないように魔法の支援としてなのはとフェイト
 最後尾には防御と捕縛が得意なユーノをなのはとフェイトの支援、援護役として置いている。

 とため息をついていると、壁をぶち抜きなのはとフェイトの目の前に現れた一体の甲冑。

「大型だ。バリアが強い」
「うん。それにあの背中の」

 その姿にフェイトとなのはも杖を握り直す。
 無理もない。
 明らかに今までのと違う。
 斧を持った奴をデカブツと言っていたがアレの倍近いサイズに背中にはデカイ砲を二つ。
 なのはとフェイトを下げさせながら潰そうと思ったら

「士郎!!」
「ちっ! 目障りな!」

 上から四十以上もの小型の甲冑が向かってくる。
 小型はアルフに耐えてもらうしかないかと思ったら

「でも二人でなら」

 フェイトのそんな言葉になのはが一瞬目を丸くするがすぐに満面の笑みを浮かべ何度も頷く。
 その姿を見て、アレは二人に任せると決める。

「ユーノ、二人をサポートしろ!
 アルフ、足場を、一体も通すなよ!」
「わかった!!」
「あいよ!!」

 ユーノとアルフの返事を聞きながら、ハルバートを壁に突き立て、アルフの魔法陣の上に立つ。
 意識を向けるのは上から降ってくる烏合の衆。
 外套から取り出すように新たに投影するモノは黒鍵。
 半身を引き、自身の身体を弓として黒鍵を撃ちだしていく。
 俺の横でアルフは魔力弾を撃っていく。

 もっとも俺とアルフの二人がかりという事もあり、すぐに全て撃ち落とす。
 さらに降りてくる小型の甲冑がいない事を確認して、一息つく。
 そんな時

「それにしてもどんな魔法だい?
 あんな細い剣で小型とはいえアレを吹き飛ばすなんてさ」

 アルフが不思議そうに首を傾げるのも無理はない。
 明らかに投擲された黒鍵の質量と威力が矛盾している。

「鉄甲作用。魔法でも魔術でもない。純粋な投擲技法だよ」
「……あれがかい? 本当に常識外れだね」

 ほっとけ。
 まあ、そう思うのも無理はないのかもしれないが

 なのはとフェイトの二人も無事片付いたようだし、これ以上次が来ないうちにささっと昇るとしよう。




side ユーノ

 壁を突き破って出てきた大型。
 士郎ならなのは達を下げさせると思ったら

「ユーノ、二人をサポートしろ!
 アルフ、足場を、一体も通すなよ!」

 指示は意外にも大型をなのは達に任せるという選択。
 でも魔力もそんなに余力がないこの状況で笑顔の二人を見ると士郎があえて任せたのも頷ける。

「わかった!!」
「あいよ!!」

 アルフと共に士郎に返事をし、即座に行動を起こす。
 大型の背中の砲門がなのはとフェイトを捉える。
 素早く、そして正確に印を結ぶ。

「なのはとフェイトは攻撃を!」

 僕の言葉に二人は頷き動き出す。
 それを眺めながら士郎達の方にも視線を向けるけど、あちらはあちらで違う意味ですごいことになってる。

「行くよ、バルディッシュ!」
「Get set」
「こっちもだよ、レイジングハート」
「Stand by ready」

 フェイトのバルディッシュは近づかれた時に用意していた魔力刃を消し、サイズフォームからデバイスフォームへ
 なのはのレイジングハートも砲撃のためにデバイスモードからシューティングモードに形態を変える。

 砲門に魔力が集束し始めるが、撃たせたりしない。

「チェーンバインド!」

 バインドを砲門、手足にかけ全力で拘束する。
 バインドに引っ張られて大型がバランスを崩す。
 僕の力じゃ長くは持たない。でもこれだけ時間があれば十分

「サンダースマッシャー!」
「ディバインバスター!」

 大型のバリアに二人の砲撃がぶつかり阻まれる。
 だけどそれは

「「せーのっ!!!」」

 二人の魔力がさらに膨れ上がり、バリアを突き破り大型を包み、さらに直進していく。

「……外壁まで貫いたんじゃ」

 あまりの光景のそんなことを思うけど恐らく間違ってない気がする。
 士郎達の方も片付いたみたいだけど

「またこれは……すごい光景だね」

 上から降りてきた何十という自動機械の四分の一程はアルフの魔力弾により残骸になって転がってる。
 残りの全てはというと、なのはと僕が士郎に初めて出会ったときに見た細身の剣に磔にされている。
 数体程度ならあんな細い剣でという驚きだけなんだろうけど……

 何十もの機械とはいえ人型が磔にされている光景というのは正直あまりいい気分はしない。
 それに横目でちらりと見ただけだけど、士郎は魔法でもなく単純に投擲していたように見える。
 なのはとフェイトもあまりの光景に唖然としてる。

「ねえ、士郎の転送元ってどれくらい同じ剣があるんだろう?」
「そうだよね。
 あのフルンディングだっけ? あれもこんなにあるのかな?」

 フェイトとなのはが驚きのあまりそんな呑気な事を言ってるけどそれには同感。
 一体の甲冑にだいたい二~三本刺さっているので、ここにあるだけで細身の剣はざっと五十はある。
 あの赤い歪な矢、フルンディングが五十以上あるなんて正直想像もしたくない。
 そんな事を考えながら茫然としていると

「三人共、次が来ないうちに昇るぞ」

 士郎から呼ばれる。

「は~い」
「うん」

 士郎の呼び声に上を目指す二人。
 士郎はなのは達を確認すると自分の体格よりも大きい戦斧? を担ぎ直し、螺旋状の足場を跳躍しながら上を目指す。

 それにしても士郎を見ながら少し呆れてしまう。

 戦い方もそうだけど何もかもがとんでもない。
 だけど士郎はまだ本気を見せていない。
 これは確信だ。
 そして

「本気になったらどれだけ強いんだろう」

 最近これがとても気になっている。
 そんな関係のない事を思いつつなのは達を追う。




side 士郎

 小型の甲冑の頭を掴み

「はあっ!!」

 扉に向かって投げつける。
 扉と甲冑が残骸になって広間に出る入口が出来る。

「あそこのエレベータから駆動炉に向える」

 フェイトの言葉に頷くが、フェイトはここまでだろう。

「フェイト、ここまででいい。
 プレシアのところに行け」
「だけど……」
「すでに息が上がってる。魔力もそんなに余力がないだろう。
 それにそろそろクロノなら辿りつくだろうしな」
「……わかった」

 フェイトは少し考えたようだがしっかりと頷いた。
 しかしその表情はまだ暗い。
 迷いや恐れ。
 無理もない。一度は人形と拒絶されたのだ。
 そんなフェイトを見て、なのははレイジングハートを置き、フェイトの手を包みこむ。

「私、うまく言えないけど頑張って」

 フェイトが目を丸くし、すぐに安堵の表情に変わった。
 だな。
 フェイトは一人じゃないって、俺達がいるってちゃんと教えてやらないと

「ぶつけて来い。自分の気持ちを」

 二人の手に俺も手を重ねる。
 フェイトの表情が少しだが穏やかになった。
 そして

「ありがとう。なのは、士郎
 行ってきます」

 しっかりと頷いて見せた。

「クロノももうすぐプレシアのところまで辿り着くみたいだから急いだ方がいい」

 予想通りだな。

「わかった。アルフ」
「ああ」

 ユーノの言葉にフェイトとアルフが走りだす。
 さて、俺達も行くとしよう。

 エレベータに乗り、駆動炉に乗り込むとまた幾多の甲冑共

「……いい加減見飽きたな」
「士郎君……」

 俺の発言に苦笑いしているなのは
 まあ、冗談はこの辺で

「なのはは駆動炉の封印を、ユーノはなのはの援護をしろ。
 俺はこの烏合の衆を潰す」
「うん」
「わかった」

 ハルバートを突き立て、外套から取り出すように両手合わせ六本の黒鍵を握る。
 一歩前に踏み出し、黒鍵を投擲する。

 それが駆動炉の戦いの始まりとなった。




side プレシア

 先ほどからジュエルシードとは違う振動が庭園を揺らす。
 だけどもう少しで次元断層が起き、アルハザードの扉が開く。
 そうすれば……本当に取り戻せるのだろうか?

「なにを迷ってるというの?」

 目から溢れた何かを拭う。
 自分自身が出した答えだというのに何を迷う事がある。
 その時、次元震が弱くなる。

「プレシア・テスタロッサ、終わりですよ。
 次元震は私が抑えています。
 忘れられし都アルハザード、そこに眠る秘術は存在するかも曖昧なただの伝説です」
「違うわ。アルハザードの道は次元の狭間にある。
 時間と空間が砕かれた時、その狭間に滑落する輝き。道は確かにそこにある」

 そう、そこに道はある。
 そして、その道ももうすぐ開かれる。
 そうすれば……

「私とアリシアの全てを取り戻す。こんなはずじゃなかった世界の全てを」

 「貴様は認めたくないだけなのだろう」
 またあの魔導師の声が頭に響く。
 だけどそれもあと少し
 あと少しでこの戯言も消える。

 その時、瓦礫が吹き飛び現れたのは執務官。

「世界はいつだってこんなはずじゃない事ばっかりだよ!
 ずっと昔からいつだって、誰だってそうなんだ!」

 耳障りだ。
 取り戻せるのよ
 あと少しでアルハザードに辿りつける。
 そうすれば世界の全てを変えられる。
 だから

「黙りなさい!!」

 ジュエルシードをコントロールしている今、詠唱などいらない。
 デバイスを振るだけで雷を放つ。
 だけどそれは

 黄金を纏った盾によって阻まれた。
 あっさりと防がれたことに思考が固まる。

「スナイプショット!」

 上空に待機させていた誘導弾が一直線に向かってくる。
 防御を展開……っ!

「ごぼっ!」

 咳と共に吐血する。
 その中、苦し紛れに手に持つ剣を盾にする。
 剣が触れた誘導弾は弾かれ消えた。

「なっ! その剣は士郎の物か」
「フェイトの使い魔が落していったものだけどなかなかに役に立つわ。
 そういうあなたの盾もあの魔導師の物じゃないの?」

 あの盾も、この剣と同じように異質なものだ。
 少なくとも魔導師が使うデバイスの類ではないのは間違いない。

 それにしても長くは持たないわね。
 魔力はともかく体力が続かない。
 一気に片をつけないと

 再び魔法を発動させようとした時

 私と執務官のほぼ中間位置にゆっくりと降りてきた者がいた。

 フェイト? なぜ?
 と疑問に思うも、戦闘の緊張が切れ、激しく咳き込み再び吐血する。

「母さん」

 こちらに走ってこようとするが私と目を合わせるとフェイトの足が止まってしまう。
 ……今まで虐待をしてきたのだから仕方がないのかもしれないわね。

「まだそう呼ぶのね。いえ、何をしに来たの」
「あなたに言いたい事があって来ました」

 虐待してきた私に向けられた瞳。
 意外にもその眼には怯えもなく、憎悪もない。
 ただ静かに私を見据えている。

「私はアリシア・テスタロッサじゃありません。あなたが作ったただの人形なのかもしれません」

 あなた。
 フェイトにそう呼ばれた時、胸が痛んだ。
 違う。病のせい。フェイトがあなたと呼んだ事は関係ない。

「だけど私は、フェイト・テスタロッサはあなたに生み出してもらって、育ててもらったあなたの娘です」
「……だからなんだというの?
 あなたの事を娘と思えというの?」

 フェイトの姿がアリシアとかぶる。
 違う。
 吐血のせいだ。
 血が足りてなくて目が霞んでるだけ

「あなたがそれを望むなら、私は世界中の誰からもどんな出来事からもあなたを守る。
 私があなたの娘だからじゃない。
 あなたが私の母さんだから」

 眼からまた何かが溢れた。
 その正体が涙という事に初めて気がついた。

 どうやらあの魔導師の言うとおりだったらしい。
 アリシアの死を受けれる事が出来ず、フェイトを拒絶し続けた。
 その結果がこれだ。

「……本当に愚かね」

 アリシアの妹、私のもう一人の娘、フェイト・テスタロッサ。
 アリシアのコピーでも偽物でもない。
 フェイトという名の私の娘。
 大切で手に届く幸せがすぐそばにずっとあったというのに私はその手を払い続けていたんだから

「いつもそうね。いつも私は気付くのが遅すぎる」
「母さん?」

 私の独白に困惑の表情を浮かべるフェイト
 出来る事ならフェイトがもっと大きくなる時まで一緒にいたかった。
 今まで辛くあたった分、優しく抱きしめてあげたかった。
 でも……その資格はもうない。

「執務官、名前は?」
「……クロノ、クロノ・ハラオウンだ」
「そう。クロノ執務官
 フェイトはあくまで私に命令されて動いていただけ、全ての責任は私にあるわ」
「か、母さん!?」
「プレシア・テスタロッサ、何を」

 私の言葉にフェイトだけでなく、次元震を抑えている女性も驚いた声を上げる。

「片をつけるわ。全てを終わらせる。
 フェイト、私にこんな事言う資格ないのかもしれない」

 そう、こんな資格ない。
 フェイトを一番傷つけてきたのは私なのだから
 それでも言わせてほしい。

「幸せになりなさい」

 体力もない。
 ジュエルシードのコントロールだけで限界。
 それでもやらないといけない。
 それが私のけじめ。

 手に持つ剣を投げ捨て、デバイスを両手で握り直す。

 そしてデバイスに魔力を流し、ジュエルシードを解き放つ。

 これでいい。

 アリシア、生き返すことが出来なくてごめんね。
 フェイト、愛してあげることが出来なくてごめんね。

 後悔はいくつもある。
 それでもこのケリは私がつける。


 そして、崩壊が始まった。 
 

 
後書き
今週の第二話目です。

ちなみに体調は若干向上中。
この調子でよくなればいいですが。

あとつぶやきでも書いていますが、貫咲賢希さんから頂いた挿絵を追加してます。
挿絵がある話はサブタイトルの横に★がついてますのでよろしければ見て下さい。

ではでは 
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