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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第三十話 真実

 クロノに連れられ、アースラのブリッジに入る。

 出迎えてくれたのはリンディさん。

「お疲れ様。それからフェイトさん、はじめまして」

 フェイトを不安にさせまいと優しく微笑みかけるが、フェイトは俯いたままだ。

 無理もないのかもしれない。
 前回と今回、共に母親から攻撃されその身を危険にさらされているのだ。
 管理局につかまった事実以上にその事がフェイトの心を苦しめているのだろう。

 フェイトにかける言葉が見つからずブリッジのモニターに目をやる。

 プレシアの住処であろう場所に乗り込んでいる局員達。
 そして、プレシア本人は局員が乗り込んできたのにもかかわらず、椅子に座り肘をついて余裕の表情でそれを眺めている。

 単なる開き直りなのか、それともいつでも排除できる余裕なのかまでは判断がつかない。

「フェイトちゃん、よかったら私の部屋……」

 なのはがフェイトに声をかけるが、それに応えず一歩前に出る。

 リンディさんが横目でフェイトを一瞬見たから恐らく念話か何かで別の部屋に連れて行くよう指示したのだろう。
 子供の目の前で親が逮捕される瞬間を見せたくないというリンディさんなりの心遣い。
 だがフェイトは自分の目で見届けたいのだろう。

 その意思を察してか、リンディさんもなのはも何も言わない。

 その中、局員達がプレシアの背後の部屋に突入する。
 そこにはフェイトより若干小柄な瓜二つの少女が容器を満たす液体の中で長い金の髪を漂わせ、静かに眠っていた。
 いや眠っているという表現も正しくないのかもしれない。
 この少女が生きているのか判断できない。

 その時、余裕の表情を浮かべていたプレシアが豹変した。

「があっ!」
「うあっ!!」
「私のアリシアに近寄らないで!!」

 一瞬でアリシアと呼ばれた少女の前に移動し、そばにいた局員達を弾き飛ばす。

 プレシアの行動に杖を向ける局員達

「う、撃てッ!!」

 放たれる魔力弾。
 だがプレシアはそれを手を掲げる事すらせず、防ぐ。

「うるさいわ」

 ゆっくりと局員に向けられる手
 その手に魔力が集まる。

「危ない! 防いで!!」

 リンディさんが叫ぶが遅い。

「「「「「「がああああっ!!!」」」」」」

 雷が降り注ぎ、突入していた局員が一瞬にして全滅した。

 いやな予感ほどよく当たるというがどうやら本当らしい。

 慌てて局員の回収の指示を出すリンディさん。

 プレシアは局員が回収されることにも興味がないといわんばかりに少女に手を伸ばす。
 その表情は先ほどとはうって変わってどこか悲しげであった。

「もう時間がないわ。
 たった八個のロストロギアではアルハザードに辿りつけるかわからないけど
 でももういいわ。終わりにする。
 この子を亡くしてからの暗鬱な時間を、この子の身代りの人形を娘扱いするのも」

 プレシアの言葉にビクッと体を震わせるフェイト。

「聞いていて? あなたの事よ、フェイト
 せっかくアリシアの記憶をあげたのにそっくりなのは見た目だけの役立たずな私のお人形」

 プレシアの言葉に静かにエイミィさんが語り始めた。

「最初の事故の時にねプレシアは実の娘、アリシア・テスタロッサを亡くしているの。
 彼女が最後に行っていた研究は使い魔とは異なる使い魔を超える人造生命の精製。
 そして、死者蘇生の秘術、フェイトって名前は当時彼女の研究につけられた開発コードなの」

 エイミィさんの言葉でようやく理解できた。
 プレシアがジュエルシードを使って何を目指すのかも。

「よく調べたわね。
 でも駄目ね。所詮造り物は造り物。
 喪ったものの代わりにはならないわ」

 プレシアの言葉にフェイトの目から涙が静かに零れ落ちる。
 戯言だな。
 これ以上プレシアの言葉を聞く必要もないし、こんなことでフェイトが泣く姿なんて見たくもない。

「リンディ提督、アルハザードとは?」

 プレシアを無視し、いまだに理解できない言葉をリンディさんに尋ねる。
 とリンディさんが応えるよりも早く

「ずいぶんと無知なのね。アルハザードも知らないなんて」

 その言葉にアリシアを見つめ続けたプレシアが初めて俺の方を向いた。

「生憎と俺は魔導師じゃなくて魔術師なんでね」
「そう、なら教えてあげるわ。
 次元の狭間にある、今は失われたあらゆる秘術の眠る地。それがアルハザード。
 その秘術を使って私は取り戻す。アリシアを! 過去も未来も!」

 プレシアが悲願が叶うとばかりに目を輝かせる。
 次元の狭間、なるほどそのためのジュエルシードか。
 複数使えばリンディさんが言っていた次元断層とやらも起こせるだろう。
 そこに至れば、死者蘇生に過去の改竄などのあらゆる秘術を知ることが出来る。

 それにしてもその地にはあらゆる秘術が眠るか。
 魔術を使う俺には似たような言葉が聞き覚えがある。

「なるほど……根源に到達する気か」

 俺の言葉にプレシアだけでなく、リンディさんやアースラの他のメンバーも目を丸くしている。

「そう、あなたは、魔術師は知っているのね。
 なら私に協力しなさい。
 そうすれば全てのジュエルシードが手に入る!」

 プレシアの言葉にリンディさん達が緊張する。
 確かにこの状況で俺が武器を持てば、アースラ内部に抱えた爆弾が爆発するのと同じ事だ。
 そう俺が武器をとれば
 だが

「断る。
 貴様と根源を目指そうとは思わない」

 俺の言葉にプレシアが俺を睨む。
 俺は魔術師ではなく、魔術使い。
 根本的に根源を目指していないのだ。
 そんなことよりもなにより俺は

「しかし愚かだな。プレシア・テスタロッサ」
「なん……ですって」

 プレシアが哀れに見えた。
 俺がプレシアに発した言葉にプレシアはすぐに反応し、俺を敵意を持って睨みつける。

「愚かだと言ったのだ。プレシア・テスタロッサ」
「何が愚かだというの?
 これで私はアリシアを、過去を、未来を取り戻すことが出来る!」

 まだ気が付いていないのか。
 いや、気がつく事を拒否しているのが正しいのだろう。
 そして、それこそが俺がプレシアに問いかけた答えでもある。

「アリシア・テスタロッサの器を作り、記憶を与え、アリシアを蘇らせるつもりだったのだろう。
 だがこのやり方ではいくら繰り返しても成功はしない。
 器がいくらアリシアを素体にしていようとそこに宿る魂はアリシアのものではない。
 ここにいるのはアリシアでも人形でもない。フェイト・テスタロッサという一人の少女だ」
「……ずいぶんと私達の知らない事を知っているのね」

 プレシアが驚いた表情で俺を見つめている。

 これがプレシアの間違い。
 根本的に魂というものを理解できてない。
 人がその人であるために必要な魂。
 もっともこれは魔術師と魔導師のあり方の違いから知られていないのだろう。
 遠坂曰く、「魔術師は過去に向かって疾走し、科学は未来に向かって疾走する」
 この世界の魔法を見る限り、魔術のように過去ではなく科学と共に未来に向かっている。
 未来を向かっている中で魂のようなオカルトじみた考えは不要ともいえる。
 しかし魂が理解できていなければアリシア・テスタロッサを生き返らせる事など不可能だ。
 もっとも理解出来ていても死者蘇生など無理だろうが

「それにフェイトが役立たずの人形?
 ふん。フェイトがいなければジュエルシードの回収すら出来なかったのにふざけた事を言う」

 プレシアの身体が何らかの病に侵されてるのは顔色から明白である。
 その身体ではジュエルシードの回収などまともにできるはずもない。
 フェイトがプレシアのために動かなければジュエルシード一つ手に入れる事すら出来なかっただろう。

「プレシア、俺の問いを覚えているか?
 『お前はなぜフェイトを受け入れ平穏に暮らすという選択が出来ないのだ』という問いだ」
「それがなんだというの」
「その答えを代わりに応えてやる。
 お前はただ認めたくないだけなのだろう」
「……なにを」

 俺の言葉にプレシアが理解できないとばかりに表情を歪める。

「フェイトの事を娘と認める事は、アリシアの死を受け入れる事だ。
 アリシアが死んだ事故。
 それに少しでも関わってしまった自分に対する罪悪感からアリシアの死を受け入れることが出来なかった」
「……るさい」

 プレシアが何かをつぶやくが無視する。

「その中でアリシアを生き返らせる事にすがり、フェイトの事を偽物と虐待することで、まだ間に合うと自分に言い聞かせた」
「うるさい!! 黙りなさい!!
 私は取り戻すの! アリシアを!!」

 俺の言葉にプレシアが激昂し、声を荒げる。
 その中、一つため息を吐き

「仮に根源に至りアリシアを蘇らせたとして、その時妹であるフェイトを虐待したお前を
 幾人もの命を生贄に捧げた貴様をアリシアは昔のように慕ってくれると思っているのか?」
「っ! それでもやってみせる!!」

 もはや子供も駄々と変わらないな。
 その時

「大変大変!! 屋敷内に魔力反応多数!!」

 エイミィさんの言葉と共にプレシアの住居の映像が映る。
 そこには幾多の甲冑を纏った兵士。
 恐らくは魔法的な自動人形といったところか。

「邪魔はさせないわ。
 私達は旅立つのよ。失われた都、アルハザードへ!!」

 プレシアが手を広げるとジュエルシードが輝きはじめる。

 その瞬間、激しい揺れがアースラを襲った。

「次元震です! 中規模以上! さらに増大中です!」
「このままだと次元断層発生まであと三十分足らずです!」

 自棄になったか。
 しかし放置すればこのままだと次元断層が起きる。

「リンディ提督、仮に次元断層が起きたとしたら俺達の住処は?」
「……恐らく消滅するわ」

 やはりか。
 ならば止めるために剣を執るのは道理。
 すずかやアリサ、海鳴に住む大切な人たちを守るために。
 だがその前に

「俺はプレシアを止めに行く、どうする?」

 なのはとフェイトに尋ねる。

「私も一緒に行きたい」

 なのはは明確に行くと頷く。
 だがフェイトは

「……母さんは私の事、人形って」

 悲しみの言葉をつぶやいた。
 無理もない。
 母親と慕ってきた人から娘と思っていないと言われたのだ。
 フェイトのショックは計り知れない。
 だが問いかける。

「フェイト、君はどうする?
 ここで全てを終わるのを待つか?
 それともフェイト・テスタロッサとして一歩踏み出すか?」
「……私は」
「どのような選択をしてもそれがフェイトの答えだ。
 俺もなのはも責めたりはしない」

 ただ願わくばフェイトには逃げずに進んでほしい。
 あとで後悔しないように




side フェイト

「フェイト、君はどうする?
 ここで全てを終わるのを待つか?
 それともフェイト・テスタロッサとして一歩踏み出すか?」
「……私は」
「どのような選択をしてもそれがフェイトの答えだ。
 俺もなのはも責めたりはしない」

 士郎からの問いかけ

 母さんにとって私はアリシアの代わりでしかなかった。
 私はただ母さんに認めてほしかった。
 そして、こうして拒絶された今でも母さんに縋っている私。

 このまま全てが終わるのを待つ?

 それで何か変わるんだろうか?

 いや、変わるはずがない。
 立ち止まったって変わるはずがないんだ。

 そもそも本当の自分が始まってもいない。
 母さんに私のフェイト・テスタロッサの思いも伝えていない。

 歩き出そう。

 本当の自分を始めるために

 それは辛くて大変なことかもしれない。

 それでも前に進もう。




side 士郎

 フェイトが涙をぬぐう。

「私は行きたい。まだ始まってもいない私を始めるために
 例えそれが辛くて大変でも」

 フェイトは真っ直ぐ俺となのはを見つめる。
 いい眼だ。
 だが一つだけ訂正だな。

「確かに辛くて大変な時もあるかもしれない。
 だけどフェイトは一人じゃないだろう。
 頼ればいい。なのはを、アルフを、ユーノを、勿論俺もな」

 俺の言葉にフェイトが目を丸くする。

「絶対に一人で乗り越える必要なんてないんだ。
 大変だったら手を貸す」
「うん。いつでも手伝うよ」
「私もずっとそばにいるんだからね」

 俺となのは、アルフの言葉に、ユーノも頷く。
 新たに溢れた涙をフェイトがぬぐう。
 その涙は先程のように悲しみによるものじゃない。

「うん。頼っていいんだよね。
 行こう。母さんの所に」

 フェイトの言葉に俺達が頷く。
 フェイトが行くとなればまずは

「フェイト、腕を手枷を壊す」

 フェイトの手枷を外さないと、と思ったら

「その必要はないよ」

 俺達を見ていたクロノがフェイトの手枷を外した。
 それを驚きの表情で見つめるフェイト

「この状況だ。僕もプレシア・テスタロッサのところに行かないといけない」
「なるほどお互い目的は若干違うが向かう場所は同じ。ならば」
「ああ、協力した方が効率もいいだろう」

 クロノと俺の言葉に全員が頷く。

「エイミィ、ゲート開いて」
「了解」

 転送ポートに向かおうとする俺達
 その時

「クロノ、なのはさん、フェイトさん、士郎君、アルフさん、ユーノ君、すぐに私も現地に出ます。
 それから皆さん、気をつけてね」

 しっかりとしたでもどこか心配そうな表情で見送ってくれるリンディ提督
 リンディ提督の言葉にしっかりと頷き、ブリッジを後にする俺達

 そして、俺達は転送ポートに乗り、プレシア・テスタロッサの住居に降り立ったのである。 
 

 
後書き
一日遅れの更新です。

そして今回は一話のみです。

少し風邪気味なのか、体調がいまいちです。

次回更新は来週の予定です。

ではでは 
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