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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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無印編
  第二十八話 決戦前夜

 アルフの治療をユーノに任せ、なのは達が待っている部屋に入る。

「悪い、遅くなった」
「やっと来たわね。ほんと遅いわよ。でもいいタイミングね」
「だね。今からちょうど新しいダンジョンに入るところだよ」

 大型のテレビの前でゲームを楽しんでいるなのは達の様子に若干苦笑しつつ、アリサの横に腰掛ける。
 それにしてもこうしてアリサの家に入るのは初めてだが、すずかの家と変わらない位大きい。

 ちなみに当然のことながらこの世界の俺の家にはゲームはない。
 元の世界でもテレビゲームをやっていたのは学生時代の事だ。
 そこまで昔ではないはずなのだが、聖杯戦争からの生活が濃過ぎたのか、はるか昔のように感じる。

 そういうわけで俺はあまり直接プレイせず、三人との他愛のない平穏な時間を過ごす。

 だが平穏な楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、気がつけば空は夕焼けに染まっていた。

 ダンジョンをクリアし、丁度いいのでゲームはここら辺にして、テーブルに移動する。
 するとそれに合わせ、鮫島さんがアイスティーと俺が作ったものを持ってきてくれる。

「きれい」
「おいしそう」
「ほんと。それにしても……これって私が電話してから作ったのよね?」

 なのはとすずかは俺が作ったものに目を輝かせ、アリサは驚きながらも呆れたように俺にそんな事を尋ねた。

「当然だろ。初めはアリサの家にお邪魔する気なんてなかったんだから」
「まあ、お菓子作りや料理、家事全般が得意とは知ってるけど」
「知ってるけど?」
「女としてのプライドというかなんというか……」

 アリサの言葉になのはもすずかも苦笑している。
 それは昔イギリスでも言われたな。
 ここまで完璧にされると女として自信をなくすとか

「まあ、それはともかく食べてみてくれ」
「それもそうね。それじゃ」
「「「いただきます」」」

 三人が口にしてから俺も口にする。
 うむ。良い出来だ。
 三人も満足そうに食べている。

「それにしてもさくらんぼのタルトなんてよく思いついたわね」
「そろそろさくらんぼは旬だしな。上質で値段もお手頃なのが出ていたんだよ」
「まるで主夫ね」

 アリサの言葉になのは達は苦笑い。
 俺としては大いに否定したいところなのだが、これまでの生活で否定できないところであるというか否定できない。
 だがこのまま引き下がるのも癪なので

「アリサお嬢様に気に入っていただけたのでしたら光栄です」
「なっ!!」

 あえてにこやかに返してみる。
 アリサは顔を赤くし黙ってしまい、なのはとすずかの視線が痛い。
 いや、アリサはまだしもなのはとすずかはなんでさ。

 それからお茶を飲んで落ち着いたのか
 顔から赤みが引いたアリサが大きく息を吐き、なのはに向き直った。

「で、なのはは少しは吹っ切れたの?」
「ふえ?」

 アリサのいきなりの言葉になのはは驚いた表情を浮かべる。

「何を悩んでたのかも、なのはが話してくれるまで聞かない。
 でも不安そうだったり、迷ってたりしてた時もう私達のところに帰ってこないんじゃないかって思うようなそんな目を時々してた。
 それがその……」

 アリサも言葉にはし難いのだろう。
 あの時のなのはは迷走し、そのままどこかに消えてしまいそうだったのだから。
 すずかもアリサと同じ気持ちだったのか、どこか寂しげになのはを見ている。

「大丈夫。行かないよ、どこにも、友達だもん」

 目に浮かんだ涙をぬぐって、アリサとすずかに語りかけるように答える。

 なのはの迷いのない言葉。
 それにアリサもすずかも笑みを浮かべて頷いている。

 明日は最後になるなのはとフェイトの戦いが待っている。

 だけど全てうまくいかせてみせる。

 それが俺の役割

 そこからは互いに言葉はない。

 だけど夕焼けに染まった三人の表情に影はなく、ただ共にいる事を楽しんでいるようであった。

 そのまま静かな平穏な時間を過ごす。

 このままこの平穏を過ごしていたい。
 だがもう時間だな。

「なのは、そろそろお暇しよう」
「うん。お母さん達も待ってるしね」
「そうだね。私もそろそろ」
「うん。外まで送るわ」

 三人共惜しみながらもまたこの時間を過ごせる事をわかっているように不安もなく椅子から立ち上がり、歩きはじめる

 と一つ伝え忘れていた。

「アリサ頼みがあるんだがアルフ、あの犬を引き取っていいか?
 今回の件に関係ある娘が飼い主だから」
「いいわよ。あんたも何も聞かないけどちゃんと帰って来なさいよ」
「心得ているよ」

 俺の言葉にアリサは満足そうに頷き、玄関までアリサに送ってもらい、鮫島さんがアルフを玄関まで連れてきてくれた。

「元気でね」

 アリサはアルフを撫で、別れをすませる。

 そして、俺となのは、ユーノ、アルフは共に帰路についた。




side アリサ

 手を振り、なのは達を見送る。
 なのはは大丈夫。
 ちゃんと帰ってくる。
 だけど

「アリサちゃん、大丈夫?」
「うん。大丈夫」

 すずかも私と同じことを考えていたのか、少しだけ寂しそうな笑みを浮かべた。

「士郎君……だよね」
「うん」

 あいつの事はまだ不安だった。
 笑い合う私達。
 その中にいて、どこか自分がまるで傍観者のように一歩引いて見ている時がある。

 まるで気が付いたら陽炎のように消えてしまいそうな、そんな不安。

「大丈夫だよ。きっと士郎君は私達が悲しむ事なんてしないもん
 だから……」
「そうね。信じて待ちましょうか。帰ってくるのを」

 大丈夫。
 ちゃんとあいつは「心得ている」って言ったんだし、私達を裏切ったりしない。

 だから信じて待とう。

 それしか私達には出来ないから




side 士郎

 なのはとユーノ、アルフの四人……この場合二人と二匹かな?
 ゆっくりと歩いて帰る。

 言葉はない。
 でもそれで十分。

 そして、辿りついた分かれ道。
 なのはともここまで
 とあれを返しとかないと

「ありがとう。助かったよ」

 差しだすのはなのはから借りていた携帯。

「どういたしまして、でもいいの?
 明日は」
「大丈夫だよ。明日は、俺もなのはも向かうところは一緒だから、連絡がなくても」
「うん」

 そう、明日はなのはとフェイトの決着の時。
 なのはが家を出る時間も聞いている。
 ならば俺となのは連絡を取らなくても間違いなく会える。

「また明日」
「うん。また明日ね」

 なのはと一言言葉をかわし、ユーノも俺と視線が合うと頷く。
 そして、家に向かったなのはの背中を見送った。

 なのはと別れた後、家に食材がないので買い物を済ませる。
 そしてアルフを連れて共に俺の家に帰ってきた。

「ただいま」
「えっと……お邪魔します」

 誰もいなくても習慣としてただいまをいい、アルフは少し戸惑いながらドアをくぐった。

「楽にしてくれ」
「ああ、なら」

 見慣れた人の姿になるアルフ。
 まずは

「座って待っててくれ。とりあえずは夕食にしよう」

 アルフの怪我はユーノの治療のおかげで、ほとんど完治している。
 なら後はしっかりと食事摂って、明日に備えるべきだろう。

 夕飯は、骨付き肉の香草焼きにコーンスープ、厚揚げを甘辛く煮たものである。

 夕食を済ませた後、俺が片づけをしている間にアルフにはお風呂に入ってもらう。

 アルフに続いて俺もお風呂に入り、着るのは寝巻ではなく、戦闘用の黒い服。

 外套を誰も座っていないソファーにかけ、俺はソファーに腰を下ろす。

 窓の外を見れば満月ではないが、奇麗に光る月があった。

「眠らないのかい?」
「ああ」

 俺のそばに来ながらそんな事を訊ねてきたので静かに頷く。
 アルフが不思議に思うのも無理はないのかもしれない、いや夜も更けたにもかかわらず寝巻ではなく、戦う姿でいるのだから当然と言える。
 しかし、その認識が多少間違っているともいえる。

「俺にとっては本来人々が眠りについた頃。
 夜こそが行動する時間だからな」

 魔術師にしろ、死徒にしろ、本来活発に動く時間帯は闇に染まる夜である。
 なのはやフェイトのように人々が動く時間である昼間に活発に動く魔術師というのはほとんど聞いたことがない。
 魔術師は昼間は世間に紛れ、夜は裏の人間として生活するのが一般的だ。
 さらに死徒に関しては太陽の光は天敵なのだから昼間に動くこと自体が稀だ。

「アルフは眠ってもいいんだぞ」
「いや、私もここにいるよ」

 狼の姿になり俺が座るソファーのそばに腰を下ろすアルフ。
 そんなアルフから視線を外し、再び空に浮かぶ月を眺める。
 そのまま眠るためではなくただ瞼を閉じる。

 死徒の身である俺。
 太陽の光を克服したとはいえ得意なものではないしやはりあまり好きにはなれない。
 そして人と同じように太陽の下で生活する事は夜に動くよりはるかに体力を使う。
 この世界に来て、学校に行き始めてからは特にそうだった。
 命にかかる事はないが身体は疲弊する。

 その疲れた体を癒すように月の光を浴びる。

 明日、恐らくこの戦いは終わりを迎える。

 それがどのような形にあるのかは俺には分からない。

 だが後悔しないように、なのはが、フェイトが笑っていられるように戦う。

 そして、なのは達を連れて戻ってくる。

 アリサやすずか、この地で知り合った人達を悲しませないために

 約束を破らないために

 俺は月の下、静かに太陽が昇るのを待つ 
 

 
後書き
第二十八話でした。

今週ももう一話いきます。

では 
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