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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep8砂漠の決闘~Schwertkampf~

 
前書き
Schwertkampf/シュベーアトカンプ/剣士の闘い 

 
†††Sideシャルロッテ†††

「それじゃ、いってきま~す!」

「いってきます!」

「2人ともごめんね~」

なのはとフェイトの2人が、今日の夕食の材料を買い出しに出掛けた。以前までならルシルが担当していたことらしいんだけど、ルシルはいま本局に居る。だからこそエイミィが、手の空いていたなのはとフェイトに頼んだというわけだ。
 
「いや~、買い物なんか頼んじゃって悪いことしたかな~?」

「2人には買い物という形のデートを楽しんでもらうってことで良いかと、仲良いし」

ちなみに私は勉強中。もちろん魔法の、と言いたいところだけど、そうじゃなくて学校の勉強だ。私のことを“サッカー女帝”と敬うアホな男子たちとまたバカをやってしまい、その反省文と上乗せされた宿題を片付けるために現在孤軍奮闘中なのだ。まぁ、そんなアホな男子に乗っかった自分もまたアホだけれど、そこは忘却の彼方へ。

「それよりエイミィがここを空ける方がよっぽどまずいから。リンディ艦長たちが帰ってくるまでの間は、エイミィが指揮官代行なんだしね」

今このハラオウン邸にはエイミィしか管理局の人間はいない。リンディ艦長もクロノ達も本局へと出向いているから。何でもアースラの武装追加が済んだから、アースラの試験運行をするためらしい。

「あはは、デートかぁ。そう思えば確かに悪くないかもだね」

エイミィが腕を組みながら納得してくれた。それじゃさっきから気になっているアースラの追加武装について聞いてみようか。

「あ、そだ。ねぇエイミィ。アースラの追加武装って何か聞いてもいいかな?」

「う~んと、たぶんアルカンシェルのことだと思うんだよね。アルカンシェルっていうのはね、空間歪曲と反応消滅によって対象を殲滅する魔導砲なんだ」

空間歪曲と反応消滅かぁ~。ルシルや殲滅姫(カノン)の対界真技に似てるかも。エイミィの説明によると、そのアルカンシェルって言うのは、艦船武装の中でも威力がずば抜けて高いらしくて、効果範囲も百数十キロメートルだって。

「今回の事件でそんなものって必要なの? いくらなんでもやり過ぎだと思うんだけど」

「闇の書事件の結末として、そのほとんどがアルカンシェルによるものなんだよ。前回・・・11年前の闇の書事件の時にも、闇の書の暴走を食い止めるためにアルカンシェルを使ったの」

そう話したエイミィの表情は暗く悲しげなものへと変化していた。気になるけど、私なんかが聞いていいような雰囲気じゃないから諦める。

「そこまで酷いことになるんだ、闇の書の事件って――って、なにっ?」

突然鳴り響く警報。それは守護騎士発見を報せるものだった。いくつものモニターが設置された部屋(なんとこれがエイミィの私室。女子らしさが全くない)に移り、私とエイミィ、そして留守番のアルフが、モニターに映ったシグナムとザフィーラの姿を確認した。
シグナムとザフィーラの居る世界の情報は、文化レベルがゼロで人の居ない無人世界。そんで、2人を確保できる結界を張れる武装隊があの世界に来れるまで45分も掛かる、と。2人は私たちに見つかったことには気付いていないだろうけど、45分もその世界に留まるかと言えば限りなく“NO”だ。こんな時にルシルが居ればどうとでもなるというのに。

「エイミィ、私が出るからなのは達に連絡を入れておいて。アルフ、私とのコンビじゃ不満だろうけど、ザフィーラの相手をお願い」
 
「ふふん、そんなことないさ。あんたとルシルには世話になっているからね。出来る限りのことはやってやるよ。それに、シャルとも組んでみたかったしさ♪」

アルフが子犬フォームから人間フォームへと変身して、右の拳を左の手の平に打ち付けた。やる気満々の私とアルフ。これで決まりだ。フェイトには悪いけど、シグナムとの決着は私が先につける。

「待ってシャルちゃん! えっと、その、あれだ、なのはちゃん達が来るまで待って!」

エイミィのその必死さに驚くけど、今はそんなことを言っている場合じゃない。

「なのは達が来るまでの時間稼ぎくらいどうってことない。行くよアルフ」
 
「おう!」

†††Sideシャルロッテ⇒シグナム†††

目の前に居るのは恐ろしく巨大な蛇のような生物。先程から何回か攻撃を与えているが、一向に倒れる気配を見せない。

「なるほどヴィータが手古摺るするわけ――なっ!?」

油断しているつもりはなかった。なかったのだが突如、背後に現れた尾から伸びた触手に捕われてしまった。

「しまった・・・! ぅぐ・・!」

巻きついた触手がさらに力を強めてきた。体に巻きつく触手から逃れようともがくが脱出できない。体のあちこちよりミシミシと軋む音が。これはまずい。このままでは己がなすべきことを為しえぬまま・・・。

≪Säge form≫

「どっっせえええい!」

上空より現れたのは、真紅の片翼を羽ばたかせたフライハイトだった。その手にしている“トロイメライ”は普段の片刃の長刀ではなく、両刃の大剣となっている。そして剣身の周りには複数の円い小さな刃と、刃から伸びたいくつもの魔力刃が唸りをあげて回転していた。フライハイトは降下してきた勢いのまま蛇の頭を踏みつけ、私を捕らえている触手を全て斬り捨てた。

「トロイメライ! カートリッジロード!」

≪Explosion≫

「蛇ごときがシグナムを仕留めようだなんて数千年早い!」

≪Blitz Ermordung≫

――雷牙神葬刃(ブリッツ・エアモルドゥング)――

フライハイトはその大剣を蛇へと突き刺し、蛇の体内に直接雷撃を流し込んだ。天地をも蛇をも貫いたその真紅の雷は、実に美しいものだった。蛇は聞くに堪えない悲鳴を上げながら地中へと潜り、その巨大な姿を完全に消した。

「・・・礼は言わんぞ、フライハイト」

「礼なんて必要ないよ。シグナムほどの剣士をあんな蛇如きに奪わせるわけにはいかないから。シグナム。あなたを倒すのは、私かフェイトのどっちかってこと。これだけは絶対なの」

「ふふ」

共に地面に降り立つなりそう言った私に、フライハイトはそう返してきたのだが、その内容に思わず笑ってしまった。フライハイトには、テスタロッサが持っていない“もの”を持っている。それは純粋な闘争心。戦いを心より楽しむ真の戦闘者のみが持つ想いだ。私の笑い声を聞き、「なにか可笑しい? シグナム」フライハイトは少し不機嫌さを顕わにしながら頬を膨らませる。

「いや、お前はどこまで私に似ているのか、と思ってな。決してお前を馬鹿にしたわけではない。だからそんな顔をするなフライハイト」

フライハイトは軽く溜息を吐き、私をただ見据える。本当に9歳児か疑ってしまうほどに力強い光を湛えた双眸に、私は否応なく心が躍り震える。

「似ている、か。それは以前から私も思ってたかな。あなたは私と同じ戦う者。戦って得るもの、得たものを守りたいがためだけの戦闘者。何故あなた達がそこまでして蒐集なんてことをしているのか聞きたいけど、まずは白黒つけてからにする」

「ふふ、そうか、そうだな。やはり騎士はそうでなくてはな。本当なら預けた勝負はまたにしたいところだが、お前のその気概に私は応えたい。 ゆえにこそ己が仕えし主のために、私はこの騎士の魂・・・炎の魔剣、レヴァンティンを振るおう」

フライハイトにはおそらくつまらない小細工は通用しないだろう。それより同じ剣の騎士として戦うからには純粋な剣での勝負にしたい。

「トロイメライ。行くよ」

≪Schwert Form≫

「今日こそ私たちに決着を」

「ああ。まずはお前との勝敗を決しよう」

フライハイトは蒼い刀剣・“トロイメライ”をいつもの形態へと戻し、鍔へとカートリッジを3発装填した。そして背にあった片翼が無数の羽根となり散っていった。邪魔になるからだろう。私も“レヴァンティン”へとカートリッジを装填する。互いに準備は万端、気合も十分、やるべきことは目の前の相手を打破するのみ。相手は幼いながらも正真正銘の騎士。セインテストのようにはいくまい。

「「いざ、参る!」」

†††Sideシグナムシャルロッテ†††

「「おおおおおおッッ!!」」

さっきから何度もお互いのデバイスが衝突して、私たちの周囲に激しい火花を散らす。やっぱりシグナムは強い。私の弱体化云々を除いてもその腕前は確かだ。それを証明するかのように、私もシグナムも体中にいくつも刀傷が付いてしまっていて、少なからず出血している。量からして失血死なんてことには絶対ないけどさ。と言うか、そもそもなったら困る。

(やっばい。シグナムって強い。でもそれ以上に楽しい・・・♪)

ルシルは以前、シグナムの力量は多く見積もっても中の下クラスの騎士程度だと言っていた。けど実際に剣を交えた私は、シグナムは上位近くに入り込める腕だと思った。

「「カートリッジロード!」」

お互いが同時にデバイスのカートリッジをロードして、標的を撃破するための準備をする。どちらの魔法が一早く相手に到達するかが勝負の分かれ目になるはずだ。

「紫電――」

光牙(シャイン)――」

相手はすぐ目の前。火炎を纏う“レヴァンティン”を振り下ろすシグナム。真紅の魔力光を纏う“トロイメライ”を振り上げる私。速さは互角。ならば威力がものを言う。

「一閃!」「月閃刃(モーントズィッヒェル)!」

真紅の閃光を纏う刃と紅蓮の炎を纏う刃がぶつかり合う。しばらくの鍔迫り合い、膠着状態が続く。シグナムの目を真っ直ぐに見つめる。うん。やっぱりシグナムは悪党なんかじゃない。瞳に映る光には、優しさがちゃんと存在してる。

「「はあああああああッ!」」

そこからまた連撃の応酬。身長差・体重差があり過ぎるけど、なんとか付いていける。何度目かの鍔迫り合いで、「末恐ろしいな、お前は」シグナムが笑った。末恐ろしい、か。未来の私は、過去の私だ。成長じゃなくて元に戻る、だ。もし大人になるまでこの世界に留まれたとき、本当の私でシグナムと戦ってみたいな。そんなシグナムに「楽しみでしょ?」って笑いかけた時、私の耳に“ピシッ”って嫌な音が届いた。

「む・・・!?」

シグナムは自ら間合いをとって、“レヴァンティン”を見る。もちろん私もバックステップで後退して“トロイメライ”を――正確には剣身を見る。

「・・・まさかレヴァンティンにヒビを入れるとは。さすがだなフライハイト」

「シグナムこそさすが。結構頑丈に作ってもらったんだけどなぁ~」

私の“トロイメライ”にも僅かだけどヒビが入ってしまっていた。“トロイメライ”は、私の魔力とカートリッジの魔力に耐えられるように作ってもらったんだけど、やはり相手は歴戦の剣士。一筋縄ではいかないということだ。

「しかし、純粋な剣技では決着が見えんな。残念だが手段を選んではいられんようだ」

シグナムは“レヴァンティン”を鞘へと収め、カートリッジをロードした。

「そう、だね。ならこちらも手段は選ばずにあなたを倒すから。トロイメライ、ゼーゲ・フォルム」

≪Explosion. Säge Form≫
 
“トロイメライ”を剣技ではなく、ただ破壊に特化したゼーゲフォルムへと再度変形させた。ゼーゲフォルムは大剣状のチェーンソーみたいなものだ。物理と魔力両方の攻撃力を限界にまで引き出すフォルム。刀身が大きく重い所為で機動力を根こそぎ奪われるけど、そこは私の技量次第でどうとでもなる。私は深呼吸して、「行くよ、トロイメライ」魔力刃が伸びた無数の刃が回転して唸りを上げ始める。

「いくぞっ、フライハイトッ!」

シグナムが間合いを詰めるために“レヴァンティン”を鞘に収めたまま突進してきた。よく見ると鞘がとんでもない魔力が帯びているのが判る。何かしらの魔法を仕掛けてある可能性大。でもね、そんなものがこのゼーゲフォルムの破壊力にどれだけ耐えられるかな?

「トロイメライ!」

≪Zerschlangen≫

「鞘ごと斬り絶つ!」

「レヴァンティン!」

――パンツァーガイスト――

回転刃と鞘をぶつかって、ガリガリガリ!とものすごい音を発しながら火花を飛び散らせる。いくら魔力を込めた鞘の防御力と言えど、この破壊に特化した回転刃の前じゃ意味がないよシグナム。あっという間に鞘に付加された障壁を砕き切り、鞘本体をも削っていく“トロイメライ”。そんな中でシグナムは“レヴァンティン”を抜き放った。

「ここまで刃が食い込んでいると避けれまい!」

≪Sturm Winde≫

シグナムは私の目の前で“レヴァンティン”を振るい、炎の衝撃波を叩きつけてきた。

「しまっ・・・!」

≪Seelisch Widerstand≫

「うぐっ・・!」

“トロイメライ”がギリギリで障壁を張ってくれたおかげで直撃だけは免れた。けどその威力に最後まで抗えず、踏ん張りきれずに私は大きく弾き飛ばされてしまった。衝撃がすごくて宙で体勢を整えることが出来なかった私は、砂漠に背中から落ちて「げほっえほっ」咽る。少し離れた場所に突き刺さった“トロイメライ”が砂塵を巻き上げていたけど、“トロイメライ”の意思なのか回転刃が止まった。

「一か八かの賭けだったが、どうやら私に運が向いたようだ」

「運、なんかじゃない」

私は立ち上がって、少し離れた地点に突き刺さっている“トロイメライ”の元まで歩いて手に取り、シグナムと向き合う。あれはシグナムの運じゃなくて実力だ。鞘に収めたまま突進してきて、そのまま衝突に入った時点で気付かなかった私の失態。鞘に刃を噛ませ、押すことにも引くことにも数瞬の時間を有させる。その隙に私に一撃を入れる。良い手だよ、シグナム。まんまと乗ってしまった。悔しい反面、やっぱり楽しいという感情が占める。

「まだやるかフライハイト?」

「当然」

私は“トロイメライ”をもう1つの形態へと変形させる。

「トロイメライ、ツヴィリンゲフォルム」

≪Explosion. Zwillinge Form≫

†††Sideシャルロッテ⇒ヴィータ†††

『――ええ、いま砂漠世界で交戦してるの。フライハイトちゃんとテスタロッサちゃんの守護獣と』

とことん邪魔をする奴らだな。大人しくあたしらの蒐集を黙って見てればいいのに。あの犬っころとフライハイトのコンビってのもおかしな話だから『テスタロッサって奴はいないのかよ?』そう聞く。

『ええ、いないわ』

『そんじゃ他は? セインテストと高町・・・なんとか』

高町なんとかは別にいいとして、頼むから出てくんなよセインテスト。もう嫌だぜあんな思いするのは。昨日の晩、セインテストがあの戦いの場に来ていたことはシャマルから聞いた。今度こそ頭がおかしくなりそうだった。蒐集された翌日に現場復帰ってありえねぇよ。でもまぁ話を聞く限りじゃ、まともに戦えないらしいけどさ。

『なのはちゃんね・・・いないわ。セインテスト君も同様に。昨晩もう出て来ていたから、少し心配だったのだけど、良かったわ』

あぁ、まったくシャマルの言う通りだ。助かった、って本気で安堵してんのが判る。アイツが居ないってだけで十分だ。それじゃ今いるのはフライハイトと犬っころだけか。フライハイトはシグナムと同じ剣士だから、経験が豊富なシグナムが勝つに決まってる。ザフィーラもあんな犬っころなんかに負けることはないはず。
 
『つってもこれ以上時間を掛けちまうのは良くねぇよな。しゃあねぇ、助けに――チッ!』

『ヴィータちゃん・・・?』

「『くそっ、こっちにも来やがった。テスタロッサとアイツ・・・』高町ナントカ!」

あ~もう! 言いにくい名前しやがって。もっと言いやすい名前に変えやがれっ。

「う゛っ、なのはだってば! な・の・は! ちゃんと憶えてよヴィータちゃん! 名前を憶えないのは失礼だよっ」

「うっせぇ! にゃのはって言いにくいんだよ!」

「ほらっ、また間違ってるぅ!」

「知るかっ! お前なんか高町ナントカで十分なんだよッ!」

「にゃっ!? ひっっどぉぉーーーーいっ!」

言い合った所為でお互いに肩で息をしている。一体何してんだろあたし。

「えっと、なのは、今はね、その・・・」

「えっ? あ、うん、ごめんねフェイトちゃん。はふぅ・・・。 ねぇヴィータちゃん。やっぱりお話を聞かせてもらえないのかな? もしかしたらだけど、管理局でも手伝えることがあるかもしれないよ?」 

テスタロッサに促されて、高町が理由によってはあたしらの蒐集を手伝えるかもしれないって言ってきた。そう微笑みかけてきたアイツを見て、あたしは少し心が揺らいだ。だって似てるんだ。はやてのあの優しくて温かい笑顔に。でもアイツらは管理局だ、あたしらの邪魔をする敵だ。だから・・・。

「うるせぇっ! 管理局の人間の言うことなんて信用できるか!」

「私、民間協力者なんだ。管理局の人じゃないんだよ・・・」

「っ、そっちの奴は管理局の人間だろ!」

テスタロッサに“アイゼン”を向けて言い放つ。高町が何て言おうと側には管理局の奴が居る。

「わ、私だって何か手伝えるかも、だよ?」

テスタロッサが慌ててそう言うけどやっぱり信用できない。“闇の書”の蒐集は1人につき1回。高町からはもう出来ないし、テスタロッサから蒐集しようにも2人がかりで向かって来られたらさすがにまずい。カートリッジも無駄に出来ないし、ここは撤退するのが一番だ。

「テメェらをぶっ倒すのは、今度にしてやるっ! 吼えろっ、アイゼン!」

≪Eisen geheul≫

†††Sideヴィータ⇒フェイト†††

なのはの説得は残念ながらヴィータの心には届かなくて。もし私が一緒じゃなかったら、あの子の返事も変わっていたのかな? そう思うと、ちょっとやりきれないかも。

≪Eisen geheul≫

あの子は手に生み出した赤い球体を“アイゼン”で打ちつけた。その瞬間、世界が光と爆音に包まれた。あまりの音に私となのはは耳を塞ぎ、光の眩しさに目を閉じる。視覚と聴覚を潰す魔法。ベルカ式って戦闘特化だって言うから、こんな効果を持つ魔法があるなんて思わなかった。私となのはが動けないその隙に、ヴィータが逃走を図るはず。ようやく閃光も爆音を止んで、案の定撤退をし始めていたヴィータを追おうとしたら・・・

「逃げられる!」

「待ってフェイトちゃん!」

なのはに呼び止められた。なのはに振り向いてみると、“レイジングハート”をバスターモードへと変えて、すでに砲撃の準備に入っていた。

「な、なのは・・・?」

「大丈夫だよフェイトちゃん。今度こそ絶対に逃がさないから!」

≪Load cartridge≫

“レイジングハート”がロードし、前方に環状魔法陣が2つ現れる。いつ見てもなのはの砲撃は魔力濃度が高く、そして見惚れてしまうほどに綺麗だ。

≪Divine Buster. Extension≫

「ディバイィィィン・・・バスタァァァーーーッ!」

桜色に輝く砲撃が放たれた。砲撃は真っ直ぐヴィータへと向かって・・・直撃した。当たる直前の様子からして防御も回避もしてないことは確かだ。

「え~と、ちょっとやり過ぎちゃったかも・・・しれない」

≪Don't worry≫

“レイジングハート”は大丈夫だって言っているけど、私もやり過ぎかなってちょっぴり思う。けど、その心配はなかった。何故なら、突然私となのはにバインドが掛けられたからだ。

「バインド!? いったい誰が・・!?」

「この魔力光・・・ヴィータのじゃない!」

バインドブレイクを行いながらヴィータへと目を向ける。煙の中から現れたのはヴィータともう1人、仮面の男だった。ルシルやクロノから長距離バインドには注意するように言われてたのに。

「仮面の魔導師・・・!」

「ルシル君とクロノ君が言ってた・・・!」

私たちがバインドブレイクを使って自由になったときにはもう誰もいなかった。

「ごめんね、フェイトちゃん。私がフェイトちゃんを止めたから」

「ううん。もしあのまま行ってたら、あの仮面の人に気付かなかったと思う。そうしたらどうなっていたか」

どちらにしても私たちがこの世界ですることはなくなった。

†††Sideフェイト⇒シグナム†††

≪Explosion. Zwillinge Form≫

フライハイトの言葉に従い、“トロイメライ”が二振りの短剣となった。

「・・・それがお前の奥の手か?」

「奥の手というわけじゃないけど、この形態でないと扱えない魔法があるから」

その瞳には自信が漲っている。どうやらハッタリなどではなさそうだ。面白い。そして僅かばかり辛い。どうしてこうも今回の転生に限ってフライハイトやテスタロッサのような好敵手と巡り合ってしまうのだろうな。

「そうか。ならば私も奥の手とまではいかないが・・・」

≪Explosion. Schlange Form≫

カートリッジ1発を消費して、シュベルトフォルムからシュランゲフォルムへと変形させる。シュランゲフォルムを見たフライハイトの表情が変わった。

「いくぞ! はあぁぁっ!」

――シュランゲバイセン――

連結刃がフライハイト目掛けて地を疾走する。

≪Eins Rubin Flügel≫

「はっ!」

フライハイトは背中からあの真紅の片翼を出し空へと回避するが、それだけでこの攻撃から逃れたと思わぬことだ。

「甘いわ!」

連結刃が渦を巻きながらフライハイトを追撃する。もう少しで包囲できるというところで・・・

「これだけで避けれたなんて初めから思ってない・・・!」

≪Gefrieren unt Finsternis≫

☓十字に振るわれた双剣より冷気の刃と影の刃が放たれる。その2つの刃の1発目――影の刃がまずは連結刃の勢いを殺し、2発目の冷気の刃で連結刃を叩き落した。

「トロイメライ!」

≪Geschwindigkeit Aufstieg≫

「はああああーーーーッ!!」

片翼が大きく羽ばたき、フライハイトは速さを上げて私へ向かって急降下してきた。そして双剣を☓十字に掲げて「せぇぇええええいっ!」振り下ろす。

――双牙炎雷刃(フランメ・ウント・ブリッツ)――

「うおおおおおおおっ!!」

少し砕けた鞘を使ってそれを防ぎ、捌く。さらに破損が大きくなってしまったが、今の斬撃の直撃よりは遥かにマシだ。

「まだまだ!」

フライハイトは翼を消し、右の短剣のみを逆手に持ち、くるくると回転しながらの連撃を繰り出してきた。私はそれを跳躍して回避。再度連結刃を突撃させる。

†††Sideシグナム⇒シャルロッテ†††

私の斬撃を跳躍して避けたシグナムは、もう1度私へと連結刃を向けてきた。私は双刀形態の“トロイメライ”を交差させて、剣先が到達すると同時に左右に引いて弾く。弾かれてことで勢いを失くし緩み切った連結刃の合間を飛んで、未だに滞空しているシグナムへと向かう。それを見たシグナムは“レヴァンティン”をシュベルトフォルムへと戻し鞘へと収めたあと、カートリッジをロードした。

(今度は何をするつもり?)

さっきみたいな方法で私の斬撃を防ぐとでもいうのだろうか。ツヴィリンゲフォルムはゼーゲフォルムに比べれば直接的な破壊力は低いけど、それを補うだけの連撃速度がある。今のあの鞘で防ぎきれるとは思えないけど、それを選択するというのなら・・・

「今度こそ斬り絶つ!」

≪Geschwindigkeit Aufstieg≫

「はあああああッ!!」

再び出した片翼を羽ばたかせて速度を上げ、シグナムの元へと向かう。

「これで終わりだ、飛竜・・・一閃!!」

(砲撃クラスの斬撃魔法! ルシルから聞いてるし、この前フェイトと戦った時に見た!)

鞘から抜き放たれた“レヴァンティン”が再度連結刃として襲い掛かってきた。あの速さじゃ回避は無理だと判断する。ならばと私は障壁の役割も持つ片翼を身に纏うことで、回避ではなく真正面からあの一撃を受けることにした。ドンッ!と強い衝撃が翼に包まっている私に届く。衝突したすぐに片翼が無数の羽根となって散っていって消えてしまうのが判る。

(貫かれた・・・!)

片翼が完全に破壊された。だけどまだ攻撃の勢いを殺しきれてないから、私はすぐさま双刀を掲げ盾とする。連結刃の“レヴァンティン”が双刀の“トロイメライ”に衝突した。片翼のおかげで飛竜一閃の威力がある程度殺がれていたから、なんとかこの一撃に耐えることに成功した。“トロイメライ”を振るって連結刃を弾き飛ばす。飛竜一閃敗れたり!

「よっしゃぁぁぁーーーーっ!」

片翼はダメになったし“トロイメライ”もまたさらに破損。私自身も衝突の衝撃で両腕に結構なダメージを受けてしまった。だけどそれでも尚戦えるだけの力は残っている。未だに健在な私を見たシグナムは「なんだと!?」驚愕の声を上げる。連結刃になっていることで防御が薄い今こそチャンス。

風牙(エヒト)・・・真空烈風刃(オルカーン)!」

≪Echt Orkan≫

落下途中に風嵐系最強の術式をシグナムへと放つ。右の短刀より真空刃、左の短刀より烈風刃を別々に放つことによって、同時に放つオリジナルより威力が高まった一撃を放つことが可能となった。

≪Panzergeist≫

シグナムは体に魔力を纏った上で鞘を掲げて防ごうとするけど、真空烈風刃の一撃を受けて鞘の半分ほどが破壊された。そしてそのまま直撃して、私の着地に数瞬遅れた後、シグナムは力なく地面へと落下した。

(これで決まっていればいいのだけれど・・・)

いくら完全に避けれなかったとはいえ、飛竜一閃を受けたのがまずかった。墜落したシグナムの様子を窺う。ゆっくりと起き上がるシグナム。さすがにこれ以上の戦闘はまずいかもしれない。

「っぐ・・・まさかこれほどとは。恐れ入ったぞ、フライハイト」

傷ついている“レヴァンティン”を支えにして何とか立っているシグナムが称賛してくれる。

「何を言っているの? あなたも風牙真空烈風刃(アレ)を受けてまだ立つなんて・・・」

双刀形態となった“トロイメライ”のおかげでここまで戦えた。でももう限界。“トロイメライ”も“レヴァンティン”も所々が壊れてしまっている。おそらく耐えられるのはあと一撃。これで決まらなければ引き分けだ。

「はぁはぁ・・・もう少しだけ耐えてくれ、レヴァンティン」

≪Ja≫

シグナムと“レヴァンティン”もまだやる気だ。ならそれに付き合うのも悪くはない。

「トロイメライ、付いてきてくれる?」

≪Ja≫

さすがこの世界での私の新しい相棒、判ってくれている。そうだ。ここまでやったのなら最後の最後まで戦うのみ。

「「カートリッジロード!」」

≪≪Explosion≫≫

お互い最後のカートリッジ1発をロードする。

「紫電――」

双牙(ヴィント)――」

交わる視線。瞳に写すのは、相手を打ち倒した先にある勝利の二文字。数秒間の硬直。だけど感覚的には永遠とも思える長い時間だった。私たちの間に緩やかな風が吹いた。それを合図としてお互いが同時に疾走する。

「一閃!!」

風炎刃(ウント・フランメ)!!」

†††Sideシャルロッテ⇒シグナム†††

「「はああああああああああッ!」」

衝突する“レヴァンティン”と双剣の“トロイメライ”。火花が散らしながらもしばらく拮抗していたが、終わりは唐突に訪れた。“トロイメライ”の刀身が付け根から先が完全に壊れてしまったのだ。とはいえ私の“レヴァンティン”も遅れること一瞬、刀身が半ばから折れてしまった。
完全に武器を失ったフライハイト。刀身が半ばから折れていようとまだ戦闘が続行できる私。勝敗を決したのはデバイスの耐久力だろう。フライハイトの実力は私と同等だ。それだけは間違いないと言える。

「私の・・・負け・・かぁ」

「ああ、私の勝ちだ」

いや、正直勝敗なんてあってないようなものかもしれんな。2人とも未だに立っているのなら、引き分けと言えるかもしれない。

「ふふ、なかなかに楽し――え・・・?」

「フライ・・・ハイト・・・?」

それはあまりにも突然だった。フライハイトの胸から太い腕が伸びた。突如フライハイトの背後から現れた仮面の男の腕だ。その腕から光が発せられる。

「っあああああああっ!?」

あまりの激痛ゆえにかフライハイトが叫び声を上げ、気を失ってしまった。

「っ! 貴様ぁぁぁーーーッ!!」

頭に一気に血が上る。私とフライハイトの決闘を穢した、その仮面の男に激しい怒りを覚える。私は折れた“レヴァンティン”で仮面の男へと斬りかかろうとしたその時、仮面の男は「さぁ奪え」そう一言。あの男の手の平に浮かぶのは、セインテストと同じ3つの円環に包まれたリンカーコア。散々迷った末・・・私はフライハイトの魔力を蒐集した。

「許してくれ、フライハイト」

その後、テスタロッサの守護獣が来るまで私はフライハイトを抱きしめ続けた。 
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