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ちょっと違うZEROの使い魔の世界で貴族?生活します

作者:うにうに
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本編
  第28話 初めての泥棒?水精霊はまたやった

 こんにちは。ギルバートです。入れ物を作り、精霊達に分霊を入れてもらったまでは良かったのですが、入れ物ごと分霊を運ぶのに凄く苦労しました。

 分霊達を運ぶには、騎獣の操り手と入れ物の持ち手が必要です。一度に運ぶには、最低でも騎獣4騎と8人の人間が必要になります。しかし私達には父上のグリフォンと、エディ・イネスのヒポグリフで騎獣3頭と人間4人しか居なかったのです。2回に分けて運べば簡単なのですが、往復4時間分のロスとなると今後の予定に影響が出てしまいます。また、大丈夫とは思いますが、待たされる精霊が不機嫌にならないとも限りません。

 仕方が無いので、木の精霊に許可を貰い木を切り倒し、ブレイドで斬り《錬金》で接着して、簡易竜籠(獣籠?)を作り上げました。4人がかりで僅か30分の早業です。私のブレイドの色は、エディとイネスには見せられないので、私は《錬金》による接着班に回りました。

 私は簡易竜籠(獣籠?)に同乗し、飛行中は《浮遊》レビテーションで騎獣達の負担を減らす作業をさせられました。非常に重く集中力を要しましたが、それだけなら全く問題ありませんでした。問題は飛行中に精霊(分霊)達が、容赦なく話しかけて来た事です。一度《浮遊》の魔法を途切れさせてしまい、墜落しかけました。(高度が高く無かったら、本当に墜落していた)流石に精霊達も悪いと思ったのか、飛行中は話しかけて来なくなりました。もちろん領地に到着後、父上に盛大に怒られました。

 ……物凄く疲れました。



 領地から王都までは、ちゃんとした竜籠を用意していたので、非常に楽な道のりでした。ディーネが「分霊を抱えて、丸一日飛ぶのは大変だと思う」と、事前に言ってくれなければ、王都まで簡易竜籠(獣籠?)で行く羽目になっていたかもしれません。ディーネに感謝です。

 王都に到着した時には、日も傾き暗くなっていたので、ヴァリエール公爵の別邸に泊まらせていただく事になりました。しかし私だけは別口でやりたい事があったので、魅惑の妖精亭に泊まりました。

 私のやりたい事とは、リッシュモンを如何にかする事です。

 王都のリッシュモン邸に忍び込み、不正や暗殺の証拠を見つけて来る心算だったのです。実は以前から私は、リッシュモン相手にまともに渡り合っても勝てないと考えていました。そこで対抗策として、リッシュモン邸への突入や忍び込む事を考えていたのです。この案の切っ掛けは、マリーニャさんから教えを受けたからですが……。

 まあ、その辺は置いておくとして、リッシュモン邸に忍び込むのに現状の戦力分析をしてみました。

 現状で私の最大の武器は、インビジブルマントです。しかし、このマントにも弱点はあります。一番問題なのは、臭いを消す事が出来ない事です。ですので、犬等の臭いで異常を感知出来る動物には、残念ながら効き目が無いと言って良いでしょう。そしてこちらは大丈夫とは思いますが、原作のメンヌヴィルの様に温度感知が可能なメイジにも当然効果がありません。後注意が必要なのが、風メイジです。私が居る事によって、空気の流れに僅かな狂いが生じます。これを感じ取れるメイジが居れば、見つかるのは決定です。そして私を見つけられる火か風のメイジが居れば、実力的にも勝つ事はまず不可能でしょう。

 後注意が必要なのが、魔法によるトラップですね。トラップの発見までは何とかなっても、師匠であるマリーニャさんが魔法の造詣に乏しかったので、解除の方に不安があります。魔法体系の違いもあり独学で勉強はしましたが、知識・経験共に不足しているのは否めません。

 次に屋敷中に関してですが、マギ商会に頼んで作った簡易見取り図が有ります。少し前に首になった使用人の証言を元に作りました。大体の造りしか分かりませんが、隠し部屋や隠し金庫の位置にだいたいあたりは付けてあります。

 ……さて、いよいよミッションスタートです。

 私は朝早く魅惑の妖精亭を出て、リッシュモンの屋敷に向かいます。屋敷の近くに身を潜めて、リッシュモンが出かけるのを待つ事にしました。暫く待つと、馬車がリッシュモン邸から出て来ました。精霊達と王が会合する時間を考えると、この馬車に乗っているとみて間違いないでしょう。

 私が進入路と脱出路の最終確認していると、リッシュモン邸から10人近い男達が出て来ました。その中の1人に、私は背筋が凍りつくような感覚を味わいました。そいつは、目元に大きな火傷の痕が有る傭兵風の大男でした。 

(まさか……いや、そんなはずは無いです。アイツは魔法研究所(アカデミー)実験小隊を脱走して、今は傭兵をしているはずです。こんな所に居るはずがありません)

 私は必死にその可能性を否定しましたが、私の耳が嫌な事実を拾いました。

「メンヌヴィル隊長。今夜も夜通し警備しなきゃいねえんだ。よく眠れるようにコレ行きましょうぜ」

 確定。私が視界にとらえる男は、《白炎》のメンヌヴィルで間違いありません。軍を脱走した男が、何故堂々とこんな所に居るのでしょうか?

 私は忍び込むのを中止しようと思いましたが、声を出した男が杯を傾ける仕草をしています。メンヌヴィルは、笑いながら頷いていました。話の内容から推察するに、夜勤明けに飲んでさっさと寝ようと言う事らしいです。

 私はメンヌヴィル達が十分離れたのを確認してから、インビジブルマントを被りました。庭には警備用に訓練された犬が居るので、マントを被ったまま正門をフライ《飛行》で飛び越え、そのまま2階のバルコニーに着地します。

(よし。先ずは上手く行きました。気分はⅡの蛇の人です。でも、ステルス迷彩(インビジブルマント)は壊れません。と言うか、壊れたら困ります。……私もハルちゃんのサポート欲しいです)

 そのままバルコニーから廊下へ入り、見取り図にあったリッシュモンの執務室に向かいます。途中で使用人を1人やり過ごし、執務室の前に到着するとディティクト・マジック《探知》で扉に罠が無い事を確認します。鍵がかかっていたので、アンロックで鍵を開け音が出ない様に、細心の注意を払って扉を開きました。

 執務室の中は、綺麗に整頓してありました。目に着く所に不正の証拠は無いと思うので、隠し金庫等が無いか室内の構造を読み取ります。

(土メイジで本当に良かったです。幸いトラップも無いですね)

 私は大きな隠し棚を発見すると、中を早速調べます。しかしそこに入っていたのは、たった3枚の報告書だけでした。私は落胆を押し殺し、速読で大筋の内容を読み取って行きます。

 1枚目には“リッシュモンの財産を、本日明け方に持ちだし隠し終った”と、書いてありました。報告書の日付は今日になっているので、作業は終了したばかりなのでしょう。ただ活動費用として残してある(自称僅かな)現金に、目玉が飛び出そうになりました。(……20万エキュー!? どんだけ溜めこんでるんだよ!!)

 2枚目には“ギョームが死亡が、リッシュモンの暗殺ではないかと疑われている”と、書かれていました。疑っている者の中には、ヴァリエール公爵も居るので、念の為に不味い物は処分しておいた方が良いと結ばれていました。……日付は1週間前ですね。

 3枚目はメンヌヴィルについてでした。元魔法研究所(アカデミー)実験小隊の副長である事から、傭兵としての経歴と性格等が事細かに書かれていました。そして“例の仕事をやらせるなら、早い方が良い”と、結ばれていました。……例の仕事? まあ、現状ではいくら考えても分からないですね。ちなみに日付は、4日前です。

 報告者の名前は、全てペドロになっていました。報告書の内容に、特に2枚目に私は頭が痛くなりました。目的の証拠は、全て隠滅済みと言う事になるからです。何気に3枚目の内容も気になります。

 リッシュモンが優秀な目を持っている以上、残念ながら簡単には退場してもらえない様です。何とかしてこの2人の間に不信感を植え付け、仲違させる事が出来ないでしょうか?

 そこで私の目に、1枚目の報告書が映りました。残してある20万エキューが消えれば、リッシュモンはペドロを疑うはずです。上手くすれば、仲間同士で潰し合ってくれるかもしれません。

 あまりこう言う手は使いたくありませんが、背に腹は代えられません。

 私は執務室から金庫の鍵を見つけ出し、地下に在る金庫に向かいました。見張りも居なかったので、金庫の扉を開けて中に入りました。

(……広い)

 金庫の広さは、尋常ではありませんでした。高さは2メイル半位で低いですが、幅が10メイル奥行きが25メイル位あります。如何考えても、個人が所有する大きさの金庫ではありません。しかし中はスカスカで、殆ど何もありませんでした。

 唯一残っていたのは、奥の方に積まれた大きな箱でした。《探知》で罠等が無い事を確認して、箱を開けてみます。中にはエキュー金貨が、ぎっしりと詰まっていました。《探知》で確認すると、一箱に5千エキューほど入っている様です。数を数えると、40箱ありました。

(これが20万エキューか)

 私は中身を全て、精霊から貰った道具袋に収めました。これだけで、かなりの時間が掛りました。《浮遊》が無ければ、それこそ1日では終わらなかったでしょう。

(速くしないと、メンヌヴィルが戻って来るかもしれませんね)

 私は箱を閉じて、元の位置に並べると金庫のカギを閉め、執務室に戻りました。金庫の鍵も元に戻すと、執務室から慎重に出ます。

 何人か使用人をやり過ごし、後少しと言う所で男の馬鹿笑いが響きました。

(この声は!? メンヌヴィルの部下の声だ!!)

 私は焦りその場から離れようとしましたが、既に遅かった様です。

「そこの角の先に居る奴。お前は始めて見る体温だな」

(見つかった!!)

 私は姿を見せる訳にはいかないので、その場から全力で逃げ出しました。

「逃げるって事は、侵入者だな」

(不味い。不味い。不味い。不味い。不味い。如何する? 如何逃げる!?)

「は、はは! ははははははははははははははははははッ! 待ちに待った侵入者だ。ようやく、生き物が焼ける臭いを嗅げる」

 私は本能に従って、廊下を真直ぐ逃げました。

「隊長。何にも居ませんぜ」

「何!? 貴様らには見えんのか!? 面白い!! 見えない人間の子供が、焼ける臭いを嗅ぎたい!! 嗅ぎたいぞ!! オレは!! うわは!! うは!! はははははははははははは!!」

(こわ!! 怖い!! 怖い!! 何この変態!!)

 インビジブルマントのおかげでメンヌヴィル以外の者には、まだ私の事を知覚出来ていない様です。(この隙に……)と思った瞬間、背筋に悪寒が走りました。私はその感覚に従い、窓を突き破り外に逃げました。直後、先程まで居た廊下が爆炎で満たされます。

(正気かよ!! 使用人だって居るのに。それに普通、依頼人の家を燃やすか?)

「隊長!! 正気に戻ってください!! 依頼人の家を燃やすのは不味いって!!」

「五月蠅い!! 待ちに待った獲物なんだ!!」

 部下がメンヌヴィルに殴られて、強制的に黙らされました。私はこの間少しでも距離を稼ごうと取ろうと、足を懸命に動かします。

 メンヌヴィルも窓を突き破り、外に出て来ました。私はそれを音で確認すると、本能的に館の影に飛び込みました。次の瞬間には、私が居た位置を炎が通り過ぎます。その炎は庭先に在った小屋に命中して、小屋を炎上させました。

(ホーミングするファイヤー・ボール《炎球》じゃ無くて助かった)

 私は再び館の中に侵入し、逃走を続けます。

「お前ら!! 邪魔をするな!!」

 どうやら部下達が、メンヌヴィルを止めようとしている様です。しかし部下とメンヌヴィルでは、実力差が大き過ぎました。結局止められず、殴り飛ばされて居ました。

「はは! ははははははははははははははははははッ!! お前が燃え尽きる香りを嗅がせろ!!」

(うわーーーーん!! よるな変態!!)

 本来なら悲鳴の一つもあげたい所ですが、声を出せばメンヌヴィルの暴走を止めようとしてくれている者も、私を捕まえようと追って来るかもしれません。私は移動方法をフライ《飛行》による低空飛行で、ホバリング移動に近い方法に変えました。これにより、走行速度のアップと足音を消す作戦です。

(これで、足音で存在がばれる心配が無くなりました。後はこれで、少しでも狙いが甘くなってくれれば)

 そんな甘い事を考えた直後、ホーミング性の高い《炎球》が飛んで来ました。私は手近にあった角を曲がり、《炎球》を壁にぶつけ回避します。直後目の前に、人が6人居ました。私は継続中の《飛行》で飛び上がり、その6人の頭上を越えてぶつかるのを回避しました。

 その時に発生した《炎球》の爆風で、私は床を転がりましたが幸運にも、6人に私の存在はばれなかった様です。

「メンヌヴィル殿!! これはどういう事ですかな!!」

 結果的に6人は、私を庇う形でメンヌヴィルの前に立ち塞がりました。メンヌヴィルは「邪魔だ!!」と叫びながら、再び《炎球》を発動します。しかし《炎球》は、6人の中の誰かが発動したウォーターシールドで防がれます。これを皮切りに、メンヌヴィルと6人が戦闘を開始しました。

 私はこの隙に、屋敷の外へ逃げ出す事に成功しました。



 どこをどう逃げたのか、私は気付くと魅惑の妖精亭の前に居ました。手に持ったインビジブルマントを、物陰で道具袋にしまい魅惑の妖精亭に入ります。

 魅惑の妖精亭に入ると、ジェシカが声をかけて来ました。

「ちょっと。如何したの? 酷い顔してるよ。それになんか、焦げ臭い臭いがする」

 ジェシカの言葉に、私は脱力しました。

「うん。ちょっと変態に追いかけられて……」

 ジェシカの顔が、私の言葉で引きつりました。

「嘘よ。パパは、ずっとお店に居たわよ」

 ジェシカの言葉に、私は頭の中が真っ白になりました。私の反応に、自分がどれだけ見当違いなことを言ったか自覚したのか、ジェシカは目を逸らします。

「私を追いかけて来たのは、スカロンさんみたいに無害な変態さんじゃなくて、肉(生き物)が焼ける臭いが大好きな変態さんだよ」

(何気に、物凄く酷い事を言っている気がします。……スカロンさん。ごめんなさい)

 私の言葉に、ジェシカは首を傾げると聞き返してきました。

「えっ……でも、私もお肉が焼ける臭い好きだよ」

 ジェシカの目は「私変態じゃないもん」と、言っています。この切り返しに、私は再び脱力しました。と言うかこの場合、変にオブラートに言おうとした私が悪いですね。

「そうじゃなくて……。人間を生きたまま焼いて、その臭いを嗅いで気持ち良くなっちゃう変態さん」

(あっ……。今度はストレートすぎた)

 ジェシカの顔が引きつり、ガタガタ震えだしました。

「そ そんな人居るの?」

 私が頷くと、ジェシカの震えが目に見えて酷くなりました。

「まあ、顔を見られませんでしたから、ジェシカが喋らなければ問題無いでしょう」

 メンヌヴィルは今後、トリステイン王国には居られないでしょうから、問題無いと言えば問題無いのです。ただし、リッシュモン邸に私が居た事がばれるのは不味いです。まあ、こう言っておけばジェシカも喋らないでしょう。

 ふと気になり時間を確認すると、もうお昼の時間です。ジェシカはこんな所で、ゆっくりして居て良いのでしょうか?

「もう、お昼じゃないか。仕事は良いのですか?」

 私がそう聞くと、先程まで怯えていたジェシカは、笑顔になり言って来ました。

「新しくお店の人が来たの。デミグラスソースも完成したから、その人達の教育とお店の宣伝をすれば、もうお店を開けられる。ってパパが言ってた」

「おおっ!! いよいよ開店か!! おめでとうジェシカ」

「うん」

(今は忙しいはずなので、後でスカロンさんにもお祝を言っておきますか)

 私はそう考え、とりあえず自分の昼食を如何するか考えました。しかし気軽に外に出て、メンヌヴィルとバッタリと言うのは避けたいです。それ以前に、ここより美味しい店なんて知りませんが。

「ジェシカ。部屋で食事をとりたいので、適当に何か持ってきてくれませんか? それから汗もかいたから、食事の前に汗を拭く物も持ってきてくれると助かります」

「うん。分かった」

 ジェシカは元気に返事をすると、店の奥へ行きました。その姿を見て、私はチップをはずんであげようと密に思いました。

 後は父上ですね。上手く行っていると良いのですが……。



---- SIDE アズロック ----

 私が入室してから、王は固まっている。ヴァリエール公爵は、昨日の内に知らせていたので苦笑いを浮かべただけだった。一方でリッシュモンの周りは、騒然としていた。特にモンモランシ家の代わりに、水の精霊の交渉役になった貴族がやたらと騒いでいる。

 まあ、原因が私と一緒に入室した精霊達だから、仕方ないと言えば仕方が無い。しかしこのままでは話が進まないので、私はこの場を治める為に声を出した。

「お静かにお願いします」

 私の言葉に数人の貴族が黙ってくれたが、殆どに貴族には私の言葉が届かなかった様だ。自分の威厳の足りなさに、力不足を感じる。まあ、国王が正気を取り戻したので良しとしておこう。

「静まれ!!」

 国王の一喝で、貴族達は静かになった。あの十分の一でも良いから、私にも威厳が欲しい物だ。

「ご紹介いたします。精霊の森に住む木の精霊です。そして、その盟友のラグドリアン湖の水の精霊。同じく盟友の土の精霊。火の精霊。そして、風の精霊です」

 精霊達を紹介すると、またざわめきが起こった。無理も無いか。

「ドリュアス子爵よ。連れて来るのは、木の精霊だけでは無かったのかな? 何故他の精霊が居るのですかな?」

 言って来たのは、新しい水の精霊の交渉役だ。自分の領分を侵されたと思ったのだろう。

「木の精霊以外は、盟友としてこの場に居ます。これ以降、木の精霊に攻撃する敵が現れれば、この場に居る5柱の精霊が協力し、敵を葬ると言っています。この場に分霊を出していただいたのは、その意思表明とお受け取りください」

 私の言葉に、再び場が騒然となる。しかし何処まで行っても、空気が読めない馬鹿は居るものだ。

「ドリュアス子爵。水の精霊の交渉役でも無い貴方が、何故水の精霊を連れてこれたのですかな? 他の精霊も同様ですな。……まさか、偽物など言う事は無いでしょうな?」

 発言した馬鹿は、したり顔をしている。一部のみ「そうだ」と同意の声を上げているが、周りの者達がどの様な目で自分達を見ているか気付いていない。そう明らかな侮蔑と呆れの視線を……。この状況で苦い顔をしているは、馬鹿共の直接の上司であるリッシュモンだけだ。リッシュモンは自分に権力を集中させる為に、周りの部下から優秀な者を排除し、愚鈍で忠実な者を重用していた。それがこう言う場では、足を引っ張ると分かって居ないのだろうか? いや、前回私が謁見した時に、痛感しているはずだ。おそらく期間が短すぎて、対応出来なかったのだろう。

 私がそんな事を考え黙っていると、沈黙は図星を指されたからととったのか、馬鹿は調子に乗って精霊に言葉をぶつけた。

「本物だと言うなら、証拠を見せてほしいですな」

 馬鹿貴族に向けられる視線が、侮蔑と呆れがら敵意に変わった。それすら気付かずに、馬鹿は得意げな顔をしている。

「我を偽物と言うか。単なる者よ。ならばこの警告を持って、我が本物である証拠とする」

 発言したのは、ギルバートが温和だと言っていた土の精霊だ。他の精霊から先んじて力を見せつけ、被害を最小限に抑えようとしてくれているのだろう。

「実行する」

 土の精霊が呟くと、突然王宮が……いや、王都が揺れ始めた。土の精霊が地震を起こしたのだ。少し物がカタカタ揺れる程度の強さの地震だが、我々メイジにとっては十分過ぎるほどの証拠だ。これには馬鹿も黙るしかない。

「もう十分です!! 揺れを治めてください!!」

 私の言葉に、土の精霊は地震を止めてくれた。私が一息ついて居ると、次に発言したのは水の精霊だった。

「次は我の番だな」

「えっ?」「まっ」「なに」「ちょ」

「実行する」

 土の精霊だけでこの場は十分なのに、水の精霊は何をしたのだろうか? 見た所何も変化が無い様だが……。

「水の精霊よ。いったい何をしたのですか?」

「うむ。この近くの水の流れを止めた」

 水の精霊の言葉に、この場が騒然となる。

「水の精霊よ。もう十分です。水の流れを元に戻してください」

 私が願い出ると、水の精霊は聞き返してきた。

「確認はせぬのか?」

「大丈夫です。この場の人間は、既にあなた方が本物である事を信じています」

 私が言葉に合わせて、周りの者たちが頷いている。

「安心せよ。一時的に止めただけだ。日が落ちるまでには元に戻る。無理に戻すと逆に弊害が出る」

 一部貴族はこの言葉に、安堵した様だがそうもいかない。今日一日は、王都が断水するのだ。それにより、どれだけの被害が出るか……。考えただけでも、頭が痛くなってくる。

 暫くして場が落ち着くと、国王と精霊が話し始めた。話の内容は、開拓を交渉役以外の者にも許可して欲しいと言う物だ。だが木の精霊は、この頼みをハッキリと断った。その上でドリュアス家以外の者を、交渉役として認めないと断言までした。そして更に「ドリアード家の様な事が二度と無い様に」と、付け加える。

 国王と精霊の会談は、精霊に事実確認しただけで終わった。だがこれで、私の話が真実であると証明された。

 これにより私は侯爵の位を賜り、広大な領地を管理する事になったのだ。アンスールの月エオローの週に、王都にて陞爵式が行われる事になった。

(上手く行きすぎていて、落ち着かないな)

 私はそう思いながら、ギルバートが居る魅惑の妖精亭へ向かった。

---- SIDE アズロック END ----



 私が部屋で夕飯を頬張っていると、父上が帰って来ました。

「ギルバート。今帰ったぞ」

「父上。おかえりなさい」

 私と父上は挨拶を交わし、王と精霊の会合の話を聞きました。

 父上の話は、私からすると想定の範囲内でした。昼に感じた地震とその後に続いた断水は、既に知っていたからです。

「失礼します」

 父上の分の料理が運ばれて来ました。料理を運んできた新人従業員に、礼を言ってチップを渡します。従業員が退出すると、私はサイレントを発動し聞き耳を封じました。

「分霊が入っていた瓶等は如何したんですか?」

「回収してヴァリエール公爵の別邸に保管してある。近い内に、竜籠で領に送り返す心算だ。ギルバートはこれから如何するのだ?」

「いえ。竜籠を出す必要はありません。私が回収し、領まで持ち帰ります。それとエディかイネスを貸してくれませんか?」

「かまわんが、どうやって運ぶのだ?」

「私にはあの道具袋が有りますから」

 私はそう言って、精霊から貰った道具袋を見ました。父上は私の視線の先を見て、納得したように頷きました。

「分かった。好きな方を連れて行け。」

「ありがとうございます。それから、“水の精霊の涙”の処分についてですが、モンモランシ伯に協力してもらっては如何でしょうか?」

「何故だ?」

「下手にそのまま売り払うと、禁制の秘薬を量産する事になります。ならばモンモランシ家に委託して、なんらかの秘薬に調合してもらった方が安全です。これだけの量の水精霊の涙です。かなりの額になるでしょう。相応の儲けを分ければ、モンモランシ伯も借金地獄から立ち直れる上に、両家の関係を更に深める事が出来ます。……ディーネの事も、これを機会に話してみるのは如何でしょう?」

「……分かった。私は許可する。シルフィアとディーネが了承すれば話して良い。伯爵への面会の手配は私がしておく」

 何故今さらと思うかもしれませんが、実はモンモランシ伯はディーネの母親(ミレーヌ)を、最近まで秘密裏に探していたのです。秘密裏に探した理由は、ロマリアの神官でした。神官の不祥事を隠すために、悪役としてロマリアもディーネの母親を探していたのです。

 ドリュアス家がこの事を知ったのは、モンモランシ家が干拓に失敗し借金まみれになったせいです。モンモランシ家に仕えていた人間が、人員削減により職を辞し、紹介されてドリュアス家に多く就職したのです。その中にミレーヌの捜索を担当していた、ファビオと言う男が居ました。彼は秘密裏に調査を続けていましたが、周りに見つかり喋らされ、その話が父上の元まで届いたのです。

「話はこれぐらいか? 所でギルバート。お前は今日1日何をしていたのだ?」

 出来れば黙っておきたいですが、それが許される状況では無いですね。私は正直に、リッシュモン邸に忍び込んだ事を話しました。

「大馬鹿者!!」 ゴン!!

 当然のごとく怒られました。拳骨のおまけ付きです。痛い。

「王と精霊の会合の後、リッシュモンが大急ぎで出て行ったのはその所為か。まさかとは思うが、リッシュモン邸に火を放ったのは……」

 私は首を左右に振りました。

「実は、温度感知が出来る火のメイジ見つかってしまいました。火のメイジの攻撃を避けている内に、何時の間にか館が大変な事に……」

「警備の人間の自爆か?」

「はい。……それから、その火のメイジの名前は《白炎》のメンヌヴィルです。元魔法研究所(アカデミー)実験小隊の副長でダングルテールの虐殺に参加したメイジの一人です。快楽殺人者で、ダングルテールにて隊長を殺害しようとし、失敗して軍を脱走しています。リッシュモンはその経歴を知っていて、メンヌヴィルを雇っていました。内容は分かりませんが、何か特別な任務をやらせようとしていた様です。……それからおそらく私は、メンヌヴィルに体温を覚えられました。幸いそれ以外の人間には見られていませんので、メンヌヴィルが無差別に暴れていたようにしか見えなかったでしょう」

 父上は私の話を聞いて、深いため息を吐きました。

「メンヌヴィルについては、私の方でも調べておく。もう二度とこのような無茶はしてくれるなよ」

「はい。それからリッシュモン邸から、20万エキューほど貰って来たのですが……」

 ゴン!!

 また拳骨を貰いました。せめて最後まで話を聞いてほしいです。この夜は延々とお説教を聞かせられました。



 後日父上から、私の行動でどのような影響があったか聞かされました。

 メンヌヴィルは、独力で逃走したそうです。発見された痕跡から行先はゲルマニアの様です。リッシュモンの隠蔽工作の所為で、手配が遅れに遅れ確保は難しいそうです。

 リッシュモンの金銭的被害は、総資産に比べれば微々たるものですが、かなり痛い額だったようです。そして今回の一件で、ペドロとの関係に亀裂を作る事が出来ました。また、軍を脱走していたメンヌヴィルを雇っていた事が発覚し、部下の数々の失言、金銭の滞納(財産を運び出したのが裏目に出た)等、多くの信用を失った様です。これが原因で高等法院内では、数々の派閥が出来てしまい、リッシュモンはその対応に追われる事になったのです。






 決して油断は出来ませんが、この様子なら領内の仕事に集中出来そうですね。 
 

 
後書き
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