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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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SAO
~絶望と悲哀の小夜曲~
  ネペント狩り

さすがに森の中では慎重にモンスターの反応圏を避けつつ、それでも可能な限りの速度で小道を駆け抜けたレンとユウキは、夕陽が消え去る直前に目的地【ホルンカの村】に辿り着いた。

民家と商店あわせて十数棟しかない村を、入り口から素早く見回す。視界に浮かぶカラー・カーソルには全てNPCのタグがついている。どうやらレン達が一番乗りのようだが、考えてみればそれも当然だ。茅場のチュートリアルが終わった瞬間、ろくに会話もせず一目散にダッシュしたのだから。

まずは、狭い広場に面した武器屋に向かう。チュートリアル開始前───つまりSAOがまだ普通のゲームだった頃に一人でひたすら青イノシシを狩っていたので、アイテム(ストレージ)には素材アイテムが幾らか貯まっていた。生産系スキルを上げる気はないので、それらをまとめてNPC店主に売却。わずかばかり増えた金貨(コル)をほぼ全額使って、そこそこ防御力の高そうな黒い革のジャケットを、ユウキは紫色のチュニックを買う。

購入時に表示される即時装備ボタンに二人揃ってタッチする。初期装備だった白い麻シャツと灰色の厚布ベストの上に、しっかりした質感のある革装備が光を放ちながらオブジェクト化される。

少しばかり増した安心感に短く息を吐き、レンとユウキは武器屋の壁に設置された大きな姿見を二人して見た。

「……………僕……だなぁ………」

「ボク……………だねぇ…………」

はぁ、と 揃って溜め息をつく。

そして、今後、状況が許す限りは革装備を貫こうと口にはださないが、決心し、武器屋を後にする。

隣の道具屋に駆け込み、回復ポーションを二人して買えるだけ買うと、所持金欄はまったくのゼロになった。

道具屋を出たレンとユウキは、レベリングのために森に向かった。

その途中、村の奥にある一軒の民家で、鍋をかき回していた、いかにも「村のおかみさん」といった感じのNPCが振り向き、レン達を見て言った。

「こんばんは、旅の剣士さん。お疲れでしょう、食事を差し上げたいけれど、今は何もないの。出せるのは、一杯のお水くらいのもの」

ここでユウキが思い出したようにレンに言った。

「ねぇ、レン。ボク、のど渇いちゃった。寄っていい?」

ここで少し悩んだ。

早くしなければ、レベリング に向かおうとしている森に自分と同じようなことを考える者たちが来て、レベリングに支障が出る。

レンの表情に何を見たのか、ユウキがパンと両手を合わせ、言う。

「お願い!」

「んー、そこまで言うなら………」

結局折れた。

「やったー!」

そう言ってユウキはおかみさんに駆け寄って、くださーい、と言った。

本当は「いいよ」や「イエス」だけでいいのだが、このへんは気分の問題だ。だがより礼儀よく「お構い無く」と言うと本当に何も出てこない。

NPCのおかみさんは、古びたカップに水差しから水をつぐと、ユウキに差し出した。ユウキはわーい、と無邪気に笑って、椅子に腰掛け飲み始めた。

ほんの少し笑い、おかみさんは再び鍋に向き直った。

そこで、水をちょびちょびと飲んでいたユウキが、こちらを見上げて疑念を含んだ声で言う。

「ねぇ、レン。何であの人、鍋の中身を出せないのかな?」

「えっ?んー………」

突然の質問に詰まって、回答に悩んでいると、隣の部屋に続くドアの向こうから、こんこん、と子供が咳き込む音がした。おかみさんが哀しそうに肩を落とす。

更に彼女の頭上に、金色のクエスチョンマークが出現した。

これは、クエスト発生の証。レンは少し驚いた後、声をかける。

「何か困ったことがあるんですか?」

「旅の剣士さん、実は私の娘が………」

──娘が重病にかかってしまって市販の薬草を煎じて(これが鍋の中身らしい)与えてもいっこうに治らず治療するにはもう西の森に棲息する捕食植物の胚珠から取れる薬を飲ませるしかないがその植物がとても危険なうえに花を咲かせている個体がめったにいないので自分にはとても手に入れられないから代わりに剣士さんが取ってきてくれればお礼に先祖伝来の長剣を差し上げましょう。

という大意の台詞をまくし立てるおかみさんをレンとユウキは、ぼけーと見ていた。

ようやくおかみさんが口を閉じ、同時にレンの視界左にクエストログのタスクが更新された。

レンはユウキと顔を見合わせ、同時に頷き、家から飛び出した。

「………行くよ、ユウキねーちゃん」

「…………うん!」

レンとユウキは村の門を潜ると、不気味な夜の森へと足を踏み込んだ。










アインクラッド内部には空がなく、代わりに次層の底が頭上百メートルに広がっているだけなので、太陽を直接目視できるのは朝夕のいっときに限られる。もちろん月も同じだ。

と言っても、日中薄暗かったり夜は真っ暗だったりするわけでもなく、VR空間ならではの空間ライティングによって充分な明度(ガンマ)は保たれている。夜の森でも、もちろん昼間ほどではないが薄青い光が足許までを照らし、走るのに不便はない。

だがそれと、心理的な不気味さは別の問題だ。どれほど周囲に気を配っても、すぐ後ろになにかがいるのでは、という不安が周期的に込み上げてくる。こんな時ばかりはパーティープレイでよかったと思う。

レベル1プレイヤーに与えられている《スキルスロット》は、わずか二つ。

レンはその片方を、道具屋でダガーを買ったときに《短剣(ダガー)》で埋め、もう一つの空きスロットは、あの悪夢のチュートリアルを経て【始まりの街】を後にした時点で《索敵(サーチング)》を取った。

理由は狩りの効率上昇。とにかく今日中に可能な限りのレベルアップをしないといけない。《索敵(サーチング)》は敵の居場所、すなわちプレイヤーの居場所さえも分かるため、不意打ちにも強い。

以上の理由から、レンはまず索敵を取り、その後、隠蔽(ハイディング)を取ることにした。

そんなことを考えつつ走っていたレンの耳が

パアァァン!

という凄まじいボリュームの破裂音に震えた。

それとほぼ同時に視界左に、小さくカラーカーソルが表示される。数は二つ、色は───緑。プレイヤーだ。

索敵スキルによって反応距離が増加しているので、まだ肉眼での視認はできない。

「な、何?今の音、どこから?」

レンと違って、隠蔽(ハイディング)を取ったユウキは、みだ何が起きたか、解っていないようだ。

確かにレンにも破裂音の正体は解らないが、今は動くしかない。

レンがそこまで急ぐには訳があった。それは、その二人のプレイヤーの周囲に立て続けに幾つものカラーカーソルが浮かび上がったからだ。

その色は赤。凄まじい数のモンスターが二人のプレイヤーを囲んでいる。

ようやくユウキの反応圏内に入り、事態を確認したのか、ユウキが顔を強張らせる。

「れ、レン!」

「うん。分かってる。いくらなんでも目の前でなんて寝覚めが悪すぎる!!」

そう言って、レンは足にいっそう力を入れて、加速した。










パアァァン!

と、凄まじいボリュームの破裂音が森を揺らした。

この音を聞くのは二回目だった。一回目は、もちろんβ(ベータ)テスト期間だ。あの時は、臨時パーティーの仲間がうっかり長槍(スピア)で突いてしまい、匂いに引き寄せられてきた『リトルネペント』の大群にによってレベル2~3の四人が離脱もままならずに死んだ。

《リトルネペント》、リトルとつくが、身の丈一メートル半の自走捕食植物である。ウツボカズラ(ネペンテス)を思わせる胴体の下部で、移動用の根が無数にうごめいている。左右には鋭い葉を備えたツルがうねり、頭にあたる部分では捕食用の《口》が粘液を垂らしながらパクパク開閉する。

実を粉砕した、俺と一時間、ともに戦ってきた元β(ベータ)テスター、コペルの片手直剣単発垂直斬り《バーチカル》は、『リトルネペント』の「実」、そして捕食器をも断ち切り、HPゲージを削り切った。モンスターはあっけなく爆砕したが、後には薄緑色の煙と、異様な臭気は残っている。

煙を避けて大きく飛び退いたコペルに向かって、俺は呆然と言葉を投げかけた。

「な…………なんで…………………」

事故ではない。意図的な攻撃だ。コペルは自分の意志に基づいて「実」を割り、破裂させたのだ。

この一時間、ともに戦ってきた戦友は、俺を見ないでもう一度言った。

「………ごめん」

そのアバターの向こうに、幾つものカラーカーソルが出現するのを俺は見た。右にも。左にも。そして後ろにも。「実」が破裂したときに出た煙に引き寄せられてきたリトルネペント達だ。このエリアにPOPしていた個体が、残らず集まろうとしているに違いない。総数は二十………いや三十を軽く超える。

無理だ、と判断した瞬間に足が勝手に逃走を始めそうになる

が、それこそ無理だ。たとえ囲みを破れても、ネペントの最高移動速度は外見から想像されるよりも遥かに速く、引き離す前に他のモンスターにターゲットされてしまう。もはや離脱は不可能──。

つまり、これは、自殺?

俺を道連れに、死のうというのか?コペルは《現実の死》の恐怖に押し潰され、デスゲームから降りることにしたのか?

立ち尽くしたまま、俺はぼんやりとそう考えた。

しかしその推測は誤っていた。

もう俺に眼を向けることなく剣を左腰の鞘に戻したコペルは、振り向くと、近くの藪へと走り始めた。その足取りに迷いはない。彼はまだ生きることを諦めていない。しかし。

「無駄だよ………」

俺は喉から声ならぬ声を押し出した。

リトルネペントの大群は、全方位から殺到してきている。隙間をすり抜けるのも剣で切り開くのも困難だし、仮にできたとしても行く先で他の敵に足止めされる。いや、それ以前に、今更逃げようとするくらいなら、なぜコペルは《バーチカル》で「実」を斬ったのか。

死ぬつもりなのが、モンスターの大集団に怖じ気づき、最後の悪あがきを試みようというのか。

半ば以上痺れ上がった意識の片隅で、俺はそんなことを考えつつ、小さな茂みに飛び込んでいくコペルの背中を追った。密生した葉に遮られ、アバターは見えなくなったが、カラーカーソルは表示されたまま───

ではなかった。距離は二十メートルと離れていないはずなのに、俺の視界から、コペルのカーソルが消失した。

《転移結晶》で緊急脱出したのか、と一瞬思ったがそんなはずはない。あのアイテムは恐ろしく高価で、こんな序盤で買えるはずがないし、そもそも第一層には売っている店もドロップするモンスターも存在しない。

であるなら、答えは一つだ。《隠蔽》スキルの特殊効果。プレイヤーの視界からはカーソルを消し、モンスターからはターゲットされなくなる。

殺到するモンスター群が足許を地震のように揺らすのを感じながら、俺はそこまで考え、そしてようやく──あまりにも遅まきながら気づいた。

コペルは、自殺を試みたものの怖じ気づいて逃げたのではない。

俺を殺そうとしたのだ。

敢えて「実」を割り、周囲からネペントを呼び集める。しかる後に自分だけは隠蔽スキルで身を隠す。三十を超えるモンスターのターゲットは全て、ハイドできない俺に集まる。

実に古典的(オーソドックス)な手段の、これは《MPK》なのだ。

と、そこまで俺が考えた時、背後にいるリトルネペントが

「シュウウウウウ!!」

と明らかに悲鳴を捕食器でもある口から響かせた。

そして、不自然な体勢で体を硬直させ、直後二匹のネペントがポリゴンの欠片となり爆砕した。

「…………………へ?」

俺が思わずまぬけな声を出すと、その二匹のネペントがいなくなったことで開けられた僅かな隙間を二人のプレイヤーが駆け抜けてきた。

一人は紫色のチュニックを着た女の子のプレイヤーで、もう一人は──一言で言えば、小さい、という言葉しか思い浮かばないくらい幼い男の子のプレイヤーだった。 
 

 
後書き
なべさん「さぁ!始まりました。そーどあーとがき☆おんらいん」
レン「…………………………」
なべさん「今回はいよいよキリト君とからむよー!!」
レン「テンション高いな~」
なべさん「だってキリト君はねー………………」(この後キリトについてレンがどっ引くほど語りまくったため省略)
レン「はい、自作キャラ(他作品のキャラでも可)、感想など、じゃんじゃん送ってきてくっださーい」
なべさん「……キリト君のいいとこはねー……………」
─To be continued─ 
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