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気まぐれな吹雪

作者:パッセロ
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第二章 非平凡な非日常
  53、修業の果てには

目を開けると、そこには心配そうな銀の顔があった。

目は、今までのような糸目のままで、あの時感じた恐怖はどこにもない。

「傷、大丈夫か?」

「え……あれ?」

言われて気づく。

修業の最中に負った傷が、どこにもない。

意識を失う前に斬りつけられた、あの大きな傷さえも、跡形もなくなくなっていた。

「オレが全部治しておいた。その……ごめんな」

悲しそうに呟かれたその言葉。

いつも同じ言葉を聞いているのに、全く違う言葉だった。

オレは静かに起き上がると、銀の頭に手を置いた。

小さい頃、泣いていたオレを兄貴がこうして慰めてくれていたのを小さく思い出した。

「なんで謝ってんだよ。お前はなんも悪くねぇし。ただ、ただオレが弱くて無力なだけだ」

「お前は無力なんかじゃない!」

頭に乗せていた手を掴まれた。

暖かくて、優しい手。

その温もりは、やっぱり兄貴そのものだ。

兄貴は、あいつはもし生きていたら見た目的にも銀と同じくらいの歳だったはずだ。

けど、生きてはいない。

世間の誰もがその事実を知っているんだ。

オレだって。

気分の沈んでいくオレの手を、銀の手が優しく包んだ。

「お前は無力じゃない。弱くもない。お前には守りたい奴がいるし、お前を守りたい奴もいる。
 気づけ。お前には色んな人がついてんだ。心の中にもな」

銀の指が、トン、とオレの胸をつく。

心の中……。

一体誰のことを指してんだろうな。

両親や兄貴、それに彩加。

オレといたばっかりに死んでしまった皆なのか、それとも……。

「…………」

「……要?」

「セクハラ」

「なっ!?」





†‡†‡†‡†‡†‡





することがない。

いや、本当ならしなくちゃならないことは山程あるはずだ。

ここから戻って骸と沢田の戦いを止めることだってできるはずだし、はぐれた恭を探したりもしなくちゃいけない。

まぁ、戦いの方に関しては面倒だしやる気なんて起きないが。

それでも、絶対にやらなくちゃいけないことが1つだけある。

「銀、ちょっと頼まれてくんねぇかな」

消え去った原作と言う名の記憶の中、唯一、まるで砂漠に生えた一本の雑草のような僅かな記憶。

意識し続けなければ、いずれ忘れてしまいそうな記憶。

「マフィアの犯罪者リストがほしい」

「は……!?」

それは、骸達が復讐者(ヴィンディチェ)に連れていかれてしまう記憶。

原作の記憶は全部消え去ったはずだった。

なのにこれを思い出したのは、オレが骸と契約したから、いや、オレが骸達の仲間になったからかもしれない。

意識し続けなければ忘れてしまいそうなのに、意識しているとはっきりと焼き付いている。

骸達が、引きずられて消えていく様子がはっきりと。

「絶対に助け出す。その為の交渉材料としてどうしても必要なんだ」

「けどお前、リスクが高すぎるぞ。失敗したらお前まで投獄されるかもしれないんだぞ!?」

「失敗なんてしない。オレを信じろ」

根拠なんてない。

けど、自信はある。

投獄されたら骸と一緒に脱獄しちゃえばいい。

また捕まって最下層に入れられることになったとしても。

「急いでくれ。最悪の場合、もう戦いが終わってるかもしれないんだ」

「……わかった」

白い靄の中に姿を消した彼が帰ってきたのは、わずか数秒後。

その手に握られていた数枚の書類を受け取った。

「約束しろ。無茶だけはするな」

「分かってるよ。じゃあ、行ってくる」

意識が白の世界から遠退く。

そこから完全に抜け出たとき、オレが見たのは『闇』だった。 
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