| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

櫛風沐雨〜ネルザー戦記〜

作者:宿毛
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章 王国の英雄1

空には厚い雲がたちこめ、冬の冷たい雨が肌を突き刺す。
辺りに生き物の気配はなく、雨の音だけが時間に沿って流れていく。
数時間前からずっと立ったままだ。
ようやく後ろから声がかかった。
「おい、エル…」
心の底から心配してくれる仲間。
その重たい声が更に心に突き刺さる。
「おい、エル。いつまでそうしているつもりだ?俺だって…俺だって辛いんだ。でも今ここで嘆いても彼奴は喜びはしない…」
彼奴ー。彼奴とは俺の親友であり戦友でもあるフレッグの事だ。
フレッグはそれこそ不可能としか思えないような、偶然にしても意地悪な運命に命を奪われた。
その場に居ながら守りきれなかった自分を嫌悪している。
彼とは小さい頃から何時も一緒に居たー。


心地良い青い空の下地平線の先まで青々とした草で埋め尽くされてる。
軽い朝食を済ませて直ぐに家を飛び出したフレッグと俺。
いつもの様に村の鍛冶屋であるロズベルさんに剣技を習う。
ここはシスターナ村の東に広がる草原。
国境でもあるネプテフ山脈の麓に位置する。
そもそも剣技を習おうと言い出したのはフレッグだった。
2年前、つまり俺たちが10歳の頃だ。
このシスターナ草原で遊んでいたフレッグが旅芸人の群れを見かけて近づいた。
群の端で流れる様な無駄の無い動作で芸を練習している少年がいる。
それを見たフレッグがどうしても剣技を習いたいと言ったのだ。
俺が付き合う必要も無かったのだが、全く興味が無い訳でもなかったので共に練習する事にした。
師匠であるロズベルさんはとにかく厳しい人で数日後に控えるモルル地方剣術大会に向けて猛特訓させられている。
俺とフレッグは木刀を手に向き合う。
フレッグはやや腰を低くして突撃の体制をとっている。
師匠の「始めっ!」と叫ぶ声が聞こえると同時にフレッグが飛び掛かってくる。
俺は左に飛び退きそのまま木刀を右にいるフレッグの背中に叩き込む。
しかし既にフレッグはその場を離れており俺の木刀は空を斬ったー。
激しい剣戟の後、俺達は昼食を摂るべく草原に腰を下ろした。
汗を拭きながらフレッグが話しかけてくる。
「いやー。今日もお互いに一本も取れなかったな…」
「そうだな。ここまで均衡してる試合は無いんじゃないかな。モルル大会が楽しみだ。」
笑ながら話していると師匠が苦笑しながら腰を下ろす。
「モルル大会で互いに戦えればな。トーナメント表だと、お前らは決勝まで行かないと戦えんぞ。」
師匠の一言で俺達の顔色が変わった。
「師匠⁉︎トーナメント表が配られたんですか⁉︎」
ハモった。いつもなら互いに顔を見合わせ笑うところだが、今はそんな余裕が無いらしい。
「ははっ。さっき協会から手紙が来たよ。フレッグの第二試合の相手が厄介だ。モルルの街で一番の実力を持つ奴だからな。しっかり練習するように。」
師匠はそう言い残すと、今日は終わりだといいながら立ち上がり村へ歩いて行った。
夜が明け明日に控えるモルル大会の会場、モルルの街まで旅立つ。
師匠は道中一言も喋らない。
街に入り宿を探して部屋に向かう。
明日の大会に緊張しているのか、日もくれないうちに瞼が落ち眠りについた。
大会の日の朝。
まだ日は登ったばかりで肌寒い。
昨日早く寝たせいか、目が覚めてしまった。
フレッグも横に座っている。
朝靄(あさもや)が立ちこめる中、二人で軽口を叩き合う。
ふと、フレッグが真顔に戻り話し始めた。
「俺、どうすればいいのかな…」
「何を?」
「今日の大会さ。もし、二人で決勝に残ったらどうしようかなって…」
「そんなの決まってるだろ。」
フレッグが此方を向き、目が合う。
「全力を尽くすのみだ。」
俺は言い終わると、さてとと言いながら立ち上がる。
「もう少しで大会だ。少し街でも散歩しようぜ。」
「あぁ」
フレッグも立ち上がり二人で街へ歩いて行った。



第一話 (完) 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧