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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百二十七話:オトコとオンナと攻略と

「……ヘンリー。……なんか、近くない?」
「そうか?」

 宿の食堂に下りて、朝食を摂っている現在。

 長椅子の真ん中に座る私の右隣に、密着するようにヘンリーが座っています。
 左隣にはモモが、これまた私に密着するようにして長椅子に前肢をかけ、テーブルに載った料理をこぼしもせずに器用に食べています。

 モモがくっついてくれてるのは別に嬉しいだけだとしても、そのせいで逃げ場が無い状況でもあり。

「……近いでしょ、これは」

 テーブルを挟んで反対側には、スラリン、ピエールとスラ風号、コドランがかけており。
 そっちはくっつきもせず余裕で座ってるし、こっちだってヘンリーの向こうにもモモの向こうにも、かなりスペースはあるわけで。

 つまり、スペースの問題で言えば、こんなにくっつく必要は微塵も無いんですが。

「これくらいしないとダメだろ。見てみろよ、周り」

 うん、確かにね。

 見るからに恋人的な雰囲気を醸し出している逞しいイケメンのヘンリーと、見るからに強そうな猛獣のモモが、ぴったりくっついているにも関わらず。

 男性からの熱視線が、すごいんですよね。
 この前の対バネッサさん仕様の時も注目度はすごかったが、今回は露出度高めな分、そういう目で見られてる感が強いというか。

 食堂に踏み込んだ瞬間に集中した視線は即座にヘンリーとピエールが威圧して、一旦は散らしてくれたんですが。

 ただ見たいだけなのか、ダメ元で隙あらば声をかけようとでもいうのか、なんだかわからないがヘンリーとピエールが見てない隙を突くように、あちこちから視線が注がれ続けておりまして。

 でもなあ、だからってなあ。

「……これでも、足りないな」
「足りないって、なにが」
「アピールが」

 言いながらヘンリーが私の腰に腕を回して引き寄せて、椅子の上で接している部分だけでなく、上半身までも密着する形になり。

 食堂に、野太いどよめきが起こります。

「……あの。ヘンリー」

 腰を抱かれるというか、お腹に手を回されて、捕獲されたみたいになってるんですが。

 ヘンリーが、また周りに見せ付けるかのように、これ見よがしに耳元に顔を寄せてきます。

 再び起こる、悲鳴のような野太いどよめき。

「ほら。効いただろ」
「……!」

 ……耳元でそんな風に囁くのは、本当にやめて欲しいんですけど!

「ドーラ。顔、赤いぞ」
「……食事中なんだから!食べにくいし、やめてくれないかな!?」
「そうか。食べさせてやろうか?」
「……結構です!!」


 そんな風にヘンリーがくっつくわ囁くわで、食べにくいことこの上無かったのですが。
 その甲斐あってか、諦めたように席を立つ男性が、一人また一人と増えていきまして。

 ……本当に、隙あらば声でもかけてくるつもりだったのか……。
 ヘンリーが、全て正しかったと言うのか。


 ヘンリーが私にベタベタする度に減っていく食堂の人口が、その正しさを完全に証明しており。
 すっかり料理の味がわからなくなりながらも離れさせることは諦めて、なんとか朝食を終えました。


「……こんなんで、一日大丈夫なのかな……」

 食堂を出て、またヘンリーとモモに挟まれて、気持ちぐったりしながら部屋への道を戻ります。

 行きとは違って、ヘンリーの手が肩ではなく腰に回されてるんですが。
 食事の間中しっかりと捕まえられていて、それにすらもう慣れてしまった。

「大丈夫だろ。俺と離れなければ。俺は離す気は無いから、大丈夫だ」
「……」

 一日、この密着具合なのか。
 それはそれで、大丈夫なのか。

「……最初に、キャサリンさんに会いに行きたいんだけど」
「キャサリン?誰だ?踊り子か?」
「……踊り子さんたちの宿舎の、警備員さんだけど。……ヘンリーは、来ないほうがいいかも……」
「何でだよ。中に入るわけじゃ無いんだろ?入るにしても、外で待ってりゃいいんだし。行くよ」
「……うーん……」

 キャサリンさんは淑女だし、礼儀正しく訪ねてくる紳士には変なことはしないって言ってたし。
 たぶん、大丈夫かな……。
 ……本気で惚れられたりなんか、しなければ。

「……本当に、行くの……?」
「行くよ。何だよ、なんかまずいのか?」
「……うーん。たぶん、大丈夫かな。……うん、きっと大丈夫」

 あのキャサリンさんが、嫌がる相手に無理強いするとは思えないし。
 いざとなったらそれこそ恋人のフリでもして、私がヘンリーを守ればいいか。



 荷物をまとめて宿の部屋を引き払い、同じ建物内の踊り子さんの宿舎に向かいます。
 結局、ヘンリーも含めた全員を引き連れて。


 警備員さんだからって、常に張り付いてるわけじゃ無くシフトとかあるだろうし、いなかったら出直そう。と思ってましたが。

「あら!ドーラじゃない!」
「キャサリンさん!」

 遠くから私の姿を認めたキャサリンさんが、声をかけてきてくれました。

 こちらから確認するまでも無く会えたことに自然と笑顔になる私の周りで、仲間たちが固まってるようですが。

「あら、今日も可愛いじゃない!」
「キャサリンさんと約束しましたから!」
「可愛いこと言うわよねえ。そんな可愛い顔して、言うことまで可愛いってどういうことよ。アタシとの約束なんか無くたって、男装なんかしてる場合じゃないのよ。ホントに」
「いやー。そこはほら、色々と」

 せっかく会いに来た知人を放っておいて、仲間のフォローに走ってる場合じゃないよね!

 ヘンリーも固まってたのをいいことに一旦腕から逃れて、一人でキャサリンさんに近付きます。

 私が離れたことで意識が引き戻されたのか、まずヘンリーが再起動して追い付き、声をかけてきます。

「……おい。ドーラ。……キャサリン、って」
「え?にーちゃん?ねーちゃん?……においは、にーちゃんだけど」
『え?男の人?だよね?……オカマさん?』
「……ピキー?」
「……ふむ。成る程」

 口を開いたヘンリーに続き、他の仲間たちもそれぞれに言葉を発します。

 自分のことを言われてるのにも関わらず、動じないキャサリンさんが私に問いかけます。

「あら、今日はぞろぞろ引き連れてんのね。アンタのお仲間?」
「はい!紹介しますね!まずは」
「おい、ドーラ。待て。待ってくれ」

 ヘンリーが背後から引き寄せるように抱き締めてきて、キャサリンさんから私を遠ざけるようにしながら警戒した視線を向けます。

「ちょっと、ヘンリー。キャサリンさんに失礼でしょ。離して」

 咎めるように、肩越しにヘンリーの顔を見上げますが。

 相変わらずキャサリンさんに警戒の目を向けながら、私に問いかけてきます。

「…………男、だよな?」

 ……改めて聞かれると。

 どこを指してるかによって、答えが変わる可能性が。

「……キャサリンさんの心が、乙女で淑女なのは知ってますけど。全体的には、どうなんでしょうね?」
「アンタも躊躇しないわねえ。そうねえ、心以外でなら、男と言われても仕方ない部分はあるわねえ」

 さらっと聞いた私に、キャサリンさんもさらっと答えてくれます。

「そうなんですか。色々ありますもんね、その辺は」
「そうなのよねえ。このままのほうが、都合がいいこととかねえ」
「ですよねー」

 頷き合う私とキャサリンさんの間に、再びヘンリーが口を挟んできます。

「……心は、女なんだな?」
「うん!そこは間違い無いね!」
「ちょっと、さっきから。やけにこだわるけど、アンタなんなワケ?…………ふーん。……なかなか、いい男じゃない」

 キャサリンさんが、ヘンリーに値踏みするような視線を向けます。

 ヘンリーが顔を顰めているようですが、先に失礼な態度を取ったのはヘンリーだし。
 これくらいは、仕方ないだろう。

 ……値踏みされるくらいならば。

 その結果アプローチされるようならば、そこは私が守らねば!
 合意の上なら別にいいとしても、明らかにヘンリーにその()は無いんだから!!

 ヘンリーの品定めを終えたらしいキャサリンさんが、ニヤリと口元を歪めながら聞いてきます。

「……ドーラ。それ、アンタのオトコ?」

 ……ここで、違うとか言ってしまったら。
 この後キャサリンさんがヘンリーに言い寄ろうとも、私が口を出す権利をその時点で失うことになるわけで。

 ……しかし知人を相手に、演技に入るという心積もりも無く、いきなりそういうことを言い出すのも……。

 返答の仕方に迷う私を、キャサリンさんが問い詰めます。

「ドーラ、どうなのよ?そうなの?違うの?……違うなら」
「そうです!!私の、…………です……」

 オトコとか彼氏とか恋人とか。

 間を置いておもむろに口を開いたキャサリンさんの様子に、不穏な気配を感じて咄嗟に口を開いたまではいいんですが。
 どう言うべきかまで咄嗟には判断できず、断言した割に言葉を濁す私。

 私のって、何だよ。
 子供か。
 子供が所有権を主張するみたいな、何だその言い方。

 色んな意味で恥ずかしくなって俯く私に、キャサリンさんが噴き出します。

「……ヤダ、真っ赤になっちゃって!ホントにアンタ、可愛いわよねえー!」
「……」
「冗談よ。アンタがどう言ったって、見りゃわかるわよ。その気も無い他人の男に手を出すほど、飢えて無いわよ。結構モテるのよ、アタシ」
「……」

 …………からかったのか!!

 そうですよね、キャサリンさんは、一本筋の通ったいいオンナですもんね!
 わざわざ気の無い相手に手を出さなくとも、それはおモテになりますよね!
 誰でもとはいかなくとも!

「ちょっと、ドーラ。そんな顔で睨んでも、可愛いだけだからやめなさい。アタシだからいいけど、相手が男ならそのまま襲われるわよ」
「……」

 真っ赤な顔のまま、涙目の上目遣いでキャサリンさんを睨み付ける私をヘンリーが背後に隠し、またキャサリンさんが噴き出します。

「……アンタはアンタで。ま、こんなに可愛い娘じゃ、心配するのもわかるけどね?うちの娘たちも、血迷ったくらいだし」

 はっ、そうだ!

 今はからかわれてしまったが、キャサリンさんはクラリスさんと共に、踊り子さんたちの暴走を収めてくれる恩人だった!
 いつまでも拗ねて、こんな態度取ってる場合じゃない!

 気を取り直して後ろからヘンリーの腕を引き、声をかけます。

「……ヘンリー。キャサリンさんは、()()踊り子さんたちを抑えてくれる人だから。心配しなくても、ほんとに大丈夫だよ」
「……アイツらを、か」

 私の言葉に、ヘンリーの警戒が緩みます。
 どんだけ評価低いんだ、踊り子さんたち。

 警戒を解いて姿勢を正し、改めてヘンリーが口を開きます。

「キャサリンさんだったか。失礼な真似して、悪かった。俺は、ヘンリーだ。ドーラが世話になった」
「いいのよ。失礼は、お互い様ね。ヘンリーさんね、聞いてるわ。うちの娘たちが、面倒かけたわね」
「……ああ」

 うん、面倒はかけられたもんね。
 そこは、否定できないよね。
 キャサリンさんが悪いわけでは無いから、ここで怒るのも違うけどね。

「他にも、珍しいお仲間がいるじゃない?紹介してくれないかしら」
「あ、はい。そうですね」


 キャサリンさんに、仲間たちを紹介し。


『……うん、わかった!キャサリンさんは、オネエさんなんだね!あたし、知ってる!体は男でも、心は女の人なんだよね!キャサリンさんは、女の人なんだね!』
「そうだね!素敵な淑女だから、失礼の無いようにね!」
「ピキー!」
「……んー。……そっかー。……おいらは、初めて知ったけど。……女の子には優しくする主義のおいらとしては、……うん、やっぱ、優しくするべきだよなー……。全然好みじゃねーけど、それはそれだよなー……」
「あら、割とわかってんのね。アタシも全然好みじゃ無いけど、アンタもいい男じゃない」
「まーな!見た目で差別するのは、よくねーからな!でも、かわいーのは大好きだけどな!」
「そこも、完全に同意ね」
「ふむ。人間にも、このような方がおられるものなのですな。そこは、どのような種族でも変わらぬものですか」
「あら、スライムナイトでもいるワケ?どこも変わんないのねえ」


 一通り、話を終えて。


「この前はやけに早かったけど、この時間だと普通はみんな寝てるのよねえ」
「いいんです。約束があったし、迷惑にはならなそうだからキャサリンさんには会いに来ましたけど、みなさんにも一昨日会ったばかりですから。また来ることもあるでしょうし、今回は」

 クラリスさんには会いたいが、他の踊り子さんたちに囲まれたら正直疲れそうだし。
 会いたくないわけでは無いが、無理するほどでも。

「そう?アタシだけ会ったなんてわかったら恨まれそうだけど、それも悪くないわね。散々自慢してやることにするわ」
「そうしてください。では、今回はこれで」
「そうね。もう、男装なんてするんじゃ無いわよ!可愛いカッコしなさいよ!」
「えーと……機会があれば……」
「作るのよ、機会は!待ってても、そんなもの来ないのよ!」
「ソウデスネー……それじゃ、また」


 お別れしようとしたところで、キャサリンさんがヘンリーに近付いて囁きます。

「……こんな可愛い娘と居られて、庇ってもらえるだなんて。アンタも、幸せ者ね?……頑張りなさいよ」
「……ああ」
「……」

 ヘンリーに腰を抱かれてる私にも、丸聞こえなわけですが。

 頑張れって、何をだ。



 キャサリンさんとお別れして、踊り子さんの宿舎を離れて。

「ドーラ。さっきの、あれ」
「……あれって?」
「俺が、お前のって」

 ……蒸し返すのか!

「……あれは!だって、そう言わないと!」
「わかってるよ。嘘でも嬉しかったよ、ありがとうな」
「……!」

 ……嘘でもそう言われて嬉しいとか、コイツやっぱり、やっぱり……!



 …………いや、もういいだろう。

 認めるわけでは無いが、仮にそうだということにしておいても、そこはもういいだろう。

 もしも仮に万が一、そうなんだとしたら。
 コイツが私を攻略中なんだとしたら、私は考え方を変えねばならない。
 コイツの好感度がとっくに上がりきっていて、逆に私が上げられている最中なのだとしたら、私はそちらを気にしなければならない。

 なんかラブイベントっぽいのとか、攻略っぽい行動を取られたところで、私さえ気をしっかり持っていれば!
 コイツが何したって私の好感度が上がらないならば、上がりきらないならば、別に関係無いんだから!

 ……あくまで、仮定の話ですけどね!


 ヘンリーに一方的に腰を抱かれていた状態から、私もヘンリーの腰に腕を回します。

「……ドーラ?」
「行こうか!今日は、そういう設定だからね!そのほうが、安全だもんね!」
「……そうだな」
「まずは、灯台かな!モモ、行こう!」
『うん!』

 モモも楽しげに、私に擦り寄ったり跳ね回ったりしながら歩き出します。


 ……一方的に押してこられるから、動揺が深まるのであって。
 私もそういうつもりで、そういう設定だと割り切って動けば、そこまで酷いことにはならないはず!

 認めたわけでは無いが、これはそういう戦いなのかもしれない。

 仮にそうだとしても、私は負けないんだから!! 
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