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炎髪灼眼の討ち手と錬鉄の魔術師

作者:BLADE
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”狩人”フリアグネ編
  断章 「現状確認」

「本当に変な奴だったわ。存在が変わって、しかも消えると分かっても、全く動じないなんて」

あのミステスは謎だらけだ。

存在が変わっただけでも異常なのに、自分が消えると言われても全く動揺していなかった。
衝撃を受けている様子も見せたが、あれは自分が死んでいると言われたからじゃないと思う。

むしろ、当然のように状況の整理と確認をしていた。

「その上、身体も分裂寸前だったのにあの態度」

体が割れかけていても冷静だった。
いくら物理的に死なない身体だったとしても、精神は人間のままだ。
普通は、突然の事態に困惑するしか出来ないだろう。
何故、あんなにも平然と振る舞えるのか。
アレは―――、本当に元人間なのか。

胸元からの声がそれに答える。

「確かに、あれが蔵している宝具の性なのか……。原因は分からぬが普通のミステスではなかったな」
少女はますます不思議に思う。
この口振りからすると、アラストールもあの『ミステス』の事がどうにも腑に落ちないようだ。
理由は………、訊くまでもない。
「アラストール、奴らはあのミステスを狙ってくるわ。暫くの間、アイツの近くに居ようと思う」

「確かに……、アレの存在は『徒』に知られただろう。近くで監視していた方が良いかもしれんな」

―――よし。
アラストールからの了解も得た。
アレの異常性を考えると、『徒』に奪われる訳にはいかない。
あのミステスは近くにある高校の制服を着ていた。
接触は容易と思われる。
そうと決まれば、丁度良いトーチを探さなければ。
あの高校に在籍する、女のトーチが良い。

「本当に……変ね」
小さく少女は呟いた。
自分は使命の為に行動している筈だ。
そこにはいつも、自分の感情は含まれていない。
だが、今の自分はどうなのだろう。
あの異質な存在に進んで会いたがっている節がある。
何が自分をそうさせるのだろう。

あのミステスの『宝具』なのか。
それとも、あのミステス『自身』が知りたいのか。
フレイムヘイズとしての使命の為に生きてきた自分にとっての、初めての感情に私は当惑していた。

この得体の知れない興味は、一体何なのだろうか?











――――同時刻、市内某路上。

少女と別れた士郎は街中を歩き回っていた。
といっても、既に橋を跨ぐ巨大なA型主塔より、街一面を大まかに確認はしている。
かの弓兵同様、士郎の目を持ってすれば地形を確認するのは容易だ。
だが士郎は、可能であればその場に行って確認するようにしている。

高所から俯瞰しているだけでは、どうしても死角が生まれる上、実際にその場所に居る事で閃く作戦もあるからだ。

無論、ただ確認の為に歩き回るだけでは間に合わない。
その間、体に『解析』を掛けて状態の確認はしている。

今の自分に時間は全く足りないのだ。
無碍に時間を浪費する訳にはいかない。

解析結果の方は、現時点の自分の現状を考えると芳しくない結果であった。
まず身体能力。
これは第五次聖杯戦争当時と大差がない状態だ。
むしろ若干背丈が伸びている分、転移時点に近い間合いで立ち回ることが出来るだろう。

次に魔術回路。
回路数は27本、つまりは変化なし。
まぁ、欲張りをしてはいけないだろう。
魔力量にも変化はない。
しかし、これは転移時点と同じ量であって、聖杯戦争当時の魔力量と比較すると、大幅に増加している。

つまり、現在の肉体は転移時点の状態をほぼ受け継いだ形になる。
ここまでを見れば、プラスの修正ばかりなので非常に喜ばしい。


だが、良いことばかりが続く事はなかった。

『固有結界-無限の剣製-』外部展開不能。
副産物たる、『解析』『強化』『投影』にも不具合が生じている。

まず投影自体は使用可能。
だが、ここに不具合が発生。投影速度が大幅に低下している上に、消費魔力量が増加している。
物にもよるだろうが、夫婦剣で約5分の時間が要求された。
他の刀剣に関しては不明だが、相当時間が必要である事は疑いようもない。
実戦で使用するには工夫が必要と思われる。

宝具の実戦運用も難しい。
『全て遠き理想郷』及び『干将・莫耶』の投影は可能。

この二つの宝具は、もはや自身の一部と言っても過言で無い。
従って、悪影響が少なかったのだと思われる。
その他の宝具に関しては、投影をする事は出来るだろう。
だが、その場合は術者自身の生命の安全を保証出来ない。
設計図を作製している時点で、身の危険を感じる程の強烈な違和感を感じた。
おそらく、投影したらタダでは済まないだろう。

強化も使える。
しかしながら、投影と同様に消費魔力量が増大。
解析の方も消費魔力量増大の不具合があるが、使用速度に変動なし。
総魔力量が増大した上で消費量が増えている為、俺の使用できる全ての魔術の使用感は聖杯戦争当時とほとんど変わらない。

『壊れた幻想』『全待機投影連続層写』及び『真名開放』も使用可能ではある。
しかし、そもそも投影の行使も覚束ない状態なので、実戦に耐えうる代物ではない。

『ミステス』と言われる存在である、現在の自分の体が内包する宝具は解析が出来なかった。
どうやら強力なプロテクトが掛かっているらしい。
術式が俺の知識で理解できるものではない為、解除は不能。

これらでプラスを差し引くと、むしろマイナスが目立つ結果になってしまったようだ。
その上、イレギュラーを抱えている分、安定性は保証されてない。

「戦い方を考えないとな…」
呟きながら士郎は歩く。
実地見聞が必要な場所での確認は終了した頃には、辺りが既に暗くなっていた。
とりあえず俺は家路を辿っている。
無論、自分の家ではない。

元々の体の持ち主『坂井悠二』の家だ。

自分の身体を自分の物と思えない理由は解析によって判明している。
―――姿形が変わった。
―――まるで、作り変わったみたいだった。
先程の意味深な言葉の真意は、これを指していたという訳だ。

どうやら、この身体は衛宮士郎の物ではないらしい。
推測ではあるが、ゼルレッチは俺を転移させる際、俺を肉体と魂に、分離させたのだろう。
そうすれば、あっちでは俺の死体が出来上がる上、術式も簡略化出来る。
人間の身体と魂、どっちが加工しやすいかは火を見るよりも明らかである。
当然、魂だけでは意味がなく容れ物が必要な為、その容れ物に坂井悠二が選ばれたという事だろう。
ついでに言うなら、坂井悠二は偶然、ただのトーチではなくミステスだった。

その結果、どういう訳か彼の中にある宝具の方に、俺はくっ付いてしまった様だ。
同じ様に彼の身体を間借りさせて貰っている同士、引き合うものがあったのだろう。
自分の身体なのに、どこか他人の物の様な理由はこれが原因だ。
そこで問題なのは、衛宮士郎の意思があった所で身体は坂井悠二の物、という事である。
つまり、今の俺は坂井悠二を構成していた材料で作り上げた人形に居座る存在という事になる。
この身が“存在の消失による世界への影響を低減するための物”である以上『衛宮士郎』は『坂井悠二』の役を引き継ぐ必要があると思われる。

となると、学生は学校が終われば、家に帰るのが一般的だ。
それに、坂井悠二はアルバイトをしてなかったみたいだしな。
多少の寄り道はともかく、一晩中街を徘徊したりはしないだろう。
世界に対して、どのような影響が出るか分からない以上は、不用意な行動を取るのは避けた方が良い。
また、活動拠点を確保する手間が省けるという事もある。

「初めて行く家なのに、住み慣れた我が家って感覚は変な感じだよな」
坂井家の目の前に着いた俺は、そう呟いてから帰宅した。
すると、恐らくは坂井悠二の母親であろう女性が、お帰りなさい、と言ってきた。

「ただいま」
不思議と他人の様な感覚がしないことに俺は驚く。
まぁ、それもそうだろう。
この身体の持ち主にとっては実の母親なのだから。
「今日はちょっと疲れたから、このまま寝ることにするよ」
そう言って俺は逃げる様に二階へ上がる。
端から見れば不自然な事、この上ないだろう。
「なんだか悪い事をしたな。きっと、帰りを待っていたんだろうけど」
自分の部屋に入り、扉を閉める。
意識せずとも、ここが自分の部屋だと分かっていた。
そのまま扉にもたれて、座り込む。
「明日、ちゃんと謝らないとな」
短い間だが、暫くは俺の保護者になる人だ。
家族にあんな態度をされて、気を良くする訳もない。
だが、そのためにも俺は坂井悠二の部屋だった場所に来たんだ。

ここならば、より自然に接するために必要な情報が揃っているだろう。


盛大に部屋を散らかした所で、状況がようやく整理できた。
「結局こんな役か、相変わらず幸の薄い人生だな俺」
どうやら俺には幸運の女神に縁がないらしい。
いや、一応は縁があるって言った方が良いのか?
世にも恐ろしい、あかいあくまの加護があるし。
―――失言だった。
流石に言い過ぎたかも知れないな。

「まぁ、二度目の人生を送る事になった時点で十分な程の幸せ者か」

時間制限で転々としなければならないのが癪だが……。


部屋でアルバム等の資料を物色した結果、自分の設定は分かった。
名前は『衛宮士郎』のままらしい。
これはかなり重要な事で、実の所この世界に来てから、まだ誰にも名前を呼ばれていない。
それに、いかに身体が坂井悠二、知識も経験も継承しているとは言え、俺の名前は衛宮士郎だ。
自分が自分だという、最も分かりやすい証が名前である。
だからこそ、自分を偽る最も簡単な方法が偽名を使用するという事なのだ。
話がずれたな。
つまり坂井悠二と衛宮士郎を置き換えて、不具合のでる所には修正が加えられているらしい。
どうやら、火事に遭い両親を失った俺には身寄りが居なかった為、坂井夫妻が引き取ってくれ、居候として住まわせてくれている―――、という事のようだ。

面倒な手続きを全て片付けた上で、夫妻に俺を押し付けた人物は「ゼルレッチ」という老人らしい。
考えるまでもなく、あのゼルレッチだろう。
一応、公的な俺の後見人のポジションとの事。

孤児を押し付けるなんて、普通に考えたら迷惑な話だが、ここはあまり気にしないでおく事にしておいた。
気にした所で、今の俺にはどうしようもない。

どうやら設定修正に無理が生じた所には、俺を基点とした情報をワンクッション挟んでいるようだ。

「送り届けてくれた後にも、迷惑をかけちまったな」
実際にこちらの世界で、何かをゼルレッチにして貰った訳ではないが。
今頃、俺の作った借りを遠坂が返す事になっているのだろう。

もう会えるかどうかもわからない奴の為に、遠坂には苦労をさせた事になる。

「本当に迷惑をかけっぱなしだったな」
思えば今までの俺は遠坂に頼りすぎていたのかもしれない。
あの戦争から今まで、遠坂はいつも俺の味方で居てくれた。
だが、これからは自分の事は自分自身で管理しなければならない。
遠坂とも約束をしている。

「とにかく今日は寝よう、いざという時に動きが鈍ると困るしな」
思えば、死刑宣告の次は人形に喰われそうになっている。

そもそも、あの時から牢獄の中にいた為、満足に睡眠も取れずにいた。
頭では特に疲労を感じている訳ではない。
しかし、疲労という物は気付かない所で蓄積していく物だ。
何時、如何なる状況に置いても十全に動けるようにしておきたい。
この世界では、誰も自分の面倒を見てくれないのだ。

しかし、帰宅して夕飯も食べずに部屋に籠もりっぱなしなのは、健全な高校生のとる行動ではないだろう。
この身が消えるまでの間は坂井悠二の行動を演じなければならないのだから。
今日の所は疲れている、という事にしているが、明日からはちゃんと学生らしい生活をしないとな。
というよりも、進行形で腹が減った。
最後に飯を食べたのはいつだったろう。
とりあえず、今晩はこの腹の虫を宥めながら寝るしかない。
まぁ、三食抜きに睡眠無しの不眠不休には慣れてるから、別にどうって事もないんだが。
それに、あんな振る舞いをした手前、そう易々と階下に降りられない。
もう夜も更けてきたし、あの人も寝ているだろう。
感覚的には自分の家でも、一応はれっきとした他人の家だ。
他人の家の冷蔵庫を漁る様な真似はしたくない。

餓えた虎じゃあるまいし―――、な。

「まぁ、今日の所は寝るとするか」
もうこの部屋で出来る事は今の所は何もない。

横になって士郎は目を閉じる。
帰宅する段階での尾行はなかったし、ちゃんと帰路を特定されない様に帰った。
この場所が敵に露見している心配はない筈だ。

しかし、頭では疲れていないつもりでも、こうして目を閉じれば自然と睡魔が襲ってくる。

あぁ―――、今日はよく眠れそうだ。

ゆっくりと思考が闇に沈んでいく。
こうして衛宮士郎の二度目の人生、最初の日は終わりを告げた。 
 

 
後書き
皆様、大変お久し振りです。
またまた期間が空いてしまいました。

なんだかいつも、私が書く後書きは長過ぎる気がしているので、弁解は別の場所でさせていただきます。

単に『つぶやき』の機能を使ってみたいだけなんですけどね。

さて、やっと作品世界で一日が経ちました。
いやー、長かった。
次回のお話では、ようやく学校が絡んできます。
そろそろ、他のキャラクター達も出してあげたいですしね。

士郎の設定は文中で述べた通りなのですが、説明の至らない点がございましたらご指摘をお願いします。
まだ、本文中では説明出来ない箇所もございますので。

なんだか、いつも通りの文章量になってしまいましたね。

それでは、誤字・脱字・内容の不備等がございましたら、ご一報よろしくお願いいたします。

それでは、また次回お会いしましょう。 
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