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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep13白と黒の決戦~Wish vs. Wish~

†††Sideルシリオン†††

「くそっ! フェイトとアルフは何を考えているんだ!?」

俺は今、アジトのマンションの1室で、フェイトのバインドによって動きを封じられていた。ここまで帰って、フェイトの治療を終えた途端にこのような状態にされてしまった。何故このようなことになったかというと、それは1時間前に遡る。

・―・―・回想だ・―・―・

マンションに帰ってしばらく経った頃。フェイトのダメージを治癒術式ラファエルで癒し、そして目を覚ました彼女は謝罪と感謝を繰り返した。そんなフェイトを見て、プレシアへの怒りでどうにかなりそうだったその時・・・

――リングバインド――

「えっと、フェイト? これは一体なんの冗談だ? 俺はあまりこういう冗談は好きじゃないんだがな」

いきなりのバインド。あまりに突然、想定外だったため完全に捕まってしまっている。その突然のバインドに、出来るだけ優しく問いかける。フェイトは俯き、俺から視線を逸らした。

「ごめんね、ルシル。私は、母さんとルシルがこの前みたいになるのが嫌なんだ。だから今日は、ここに残っていてほしいんだ」

フェイトがそんなことを言ってきた。あの女の元へフェイトとアルフだけで行かせる? それは却下だ、フェイト。

「ダメだ、俺も行く。この前のようにはならないから大丈夫だ」

フェイトは何も言ってくれない。必死の説得も通じていないようだ。顔を上げたフェイトは悲しそうな顔をして、「ごめんなさい」と謝るだけ。唯一の頼りとしてアルフに「君からも何か言ってくれ!」そう言うが反応は薄い。おい待て、まさか君までフェイトと同じようなことを言うんじゃないよな?

「・・・ごめん、あたしの御主人様はフェイトなんだ。フェイトがそうするって言うんだったら・・・あたしは従う」

最悪だ。こうなったら自力でバインドを破壊してやる。そう考え、魔力を生成しようとすると・・・

――エラー。現在魔力炉(システム)は重大なダメージにより修復中――

頭の中に浮かび上がる。まさか、あの時のクロノの砲撃がまずかったのか? 確か非殺傷設定の魔法は肉体ではなく、体内の魔力器官にダメージを与える、というものだ。だが、それはおかしい。砲撃の後に俺は複製術式を使った。

(まさか時間差で効果が出た? なんだこれは。俺は、こんなに弱かったか・・・?)

そんなことを考えている内に、フェイトたちは扉へと手をかけていた。

「待つんだ! フェイト! アルフ!」

・―・―・回想終了だ・―・―・

「ああもう! いつになったら魔力炉(システム)は復活するんだ!?」

部屋に俺の声だけが響き渡る。くそっ、無事でいてくれよ2人とも。

†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††

私たちはエイミィからプレシアの詳しい情報を聞き終えていた。話を聞く限り、あまりいい人間ではなさそうね。

(全く、こんな奴についてるなんて、ルシルは何を考えているのかしら?)

どうせフェイトとアルフのためなんだろうけど、なんか納得いかないわ。ルシルならプレシアをどうにかして、フェイトとアルフに別の道を見出させることくらい出来るはずだもの。それとも、そんな手段が行えない事情があるのかしらね。

「あなた達は、一休みしていた方がいいわね」

リンディ艦長がそう言ってきた。私としては必要がない。それよりルシル達が気になるから残りたいけど・・・。なのはも「え、でも・・・」私と同じ考えのようで、休まなくてもいいと言おうとした。

「特になのはさんとシャルロッテさんは、あまり長く学校を休みっぱなしというわけにもいかないでしょう。一時的に帰宅を許可します。ご家族と学校に少し顔を見せておいた方が良いわ」

そうだった、私は小学生なんだっけ? こういうときには枷になる肩書きみたいね。まぁ、学校に通うなんて生まれて初めての経験だから、嫌なわけじゃないのだけれど・・・。

†††Sideシャルロッテ⇒アルフ†††

「フェイト!? フェイト!」

あたしはあの女に傷つけられて倒れているフェイトの元へと駆け寄る。やっぱり、こんなことになるなら無理にでもルシルを連れてくるべきだった。判っていたのに。ごめん、ごめんよルシル。あたしはフェイトを守れなかった。

「あの女、もう我慢できない。ごめんフェイト。あんたの母さんは・・・あたしが!」

あたしが殺す。そう覚悟を決めて、あの女の部屋へと向かう。あたしはあの女の部屋の壁をぶち破り、殴りかかりにいった。

「はあぁっ!」

「・・・・」

だけど、この女は振り返りもせず、バリアであたしを弾き返してしまう。

「これで諦めるとでも思っているのかい!?」

再度殴りかかり、今度は弾き返されることなく「うおおおおおお!」バリアブレイクでバリアを破壊して、プレシアの胸倉を掴み上げる。

「あんたは母親で! あの子はあんたの娘だろ! あんなに頑張っている子に、あんなに一生懸命な子に、なんであんな酷いことが出来るんだよ!?」

今まで溜まっていた鬱憤が口から飛び出てくる。だというのに、この女はそんなことはどうでもいいっていう顔をしている。あたしはその無表情を見て、一瞬隙を生み出してしまった。だって母親がする表情じゃないよ、今の。そしてこの女は、あたしの腹に攻撃を放ってきた。避けきれるような距離でも態勢でもなかったから直撃。

「っが・・・っ!」

そのあまりの威力と衝撃で吹き飛ばされて、「うぐっ・・・!」壁に叩きつけられた。それでもまだ、まだ諦めない・・・こんくらいで諦めてたまるか!

「あの子は使い魔の作り方が下手ね、余分な感情が多すぎる」

「くっ、フェイトは、あんたの娘は、あんたに笑ってほしくて、頑張ってんだ。傷つけられても、それでも、うぐっ・・・優しいあんたに戻ってほしくて、あんなに! ぐっ・・!」

ダメだ、動けないほどにダメージを受けたみたいだ。動けないあたしにトドメを刺すつもりかあの女が杖を出し、魔法を放とうとしている。

「邪魔よ、消えなさい!」

こんなところで消えてなるもんか! 放たれた魔法を受けるギリギリのタイミングで、転移して逃げる。

(ルシルの元へ転移しなきゃ。ごめんフェイト。必ずルシルを連れて助けに・・・)

転移先を正確に設定する前に気を失ってしまい、そのまま転移した。ルシル。もしフェイトが来たら、守ってやってくれよ・・・。

†††Sideアルフ⇒なのは†††

私とシャルちゃんとユーノ君は、少しぶりに私の家へと帰ってきた。翌日、学校へ行って久しぶりにアリサちゃんとすずかちゃんと話をしていると、アリサちゃんがアルフさんの特徴と合う大型犬を拾ったって話してくれた。

『シャルちゃん、もしかして・・・』

『ええ、あちらは何かまずいことが起きているようね』

放課後、その大型犬のことを確認するために、アリサちゃんの家へと行くことになった。アリサちゃんの家に着いてすぐに件の大型犬を見に行くと、『やっぱりアルフさん・・・』だった。

『その怪我どうしたんですか? それにフェイトちゃんとゼフィ君はどうしたんですか? 一緒じゃないみたいですけど・・・?』

『・・・ユーノ、話はあなたが聞いて。私たちはアリサ達と一緒しないといけないから』

アルフさんは黙っていて、何もお話ししてくれそうになかった。だからシャルちゃんがユーノ君に話を任せると言いながら、私の手を引っ張る。

「アリサ、新しいゲームってやつを早くしよう。すごく楽しみなのよ。それに下手に構うと傷の治りが遅くなるかもしれないし、今は、ね」

「え? あ、うん。そうね、じゃあ家に入りましょ♪」

そうして私たちはアリサちゃんの屋敷へと向かった。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

私となのははお手洗いと理由をつけてアリサ達から離れて、アルフの話を聞いていた。聞く限りでは、フェイトは実母のプレシアにかなりの虐待を受けているみたいね。それはおそらくルシルも知っているはず。よくプレシアを殺さずに耐えたものだわ。もし私がフェイト達の協力者だったら、プレシアはすでにこの世にはいないと思う。

『ねぇ、アルフ。ゼフィってそれを見て何もしなかったの?』

一応、尋ねておく。ルシルならきっと干渉しているはずだから。私はいつかのために、ルシルに対する良い印象を管理局に与えておくことにした。

『ゼフィはもちろん止めようとしたさ。でもフェイトが大丈夫って言って聞かないんだよ。ゼフィはいつもあたし達のために行動してくれた。フェイトとあたしの盾になるとかってさ、本当に良い奴なんだよ。それなのにあたし達は、プレシアと会わせないためにゼフィをバインドで拘束して動けないようにしてから、あの女のところへ行ったんだ』

アルフからようやく聞けたフェイト組の真実。あはは、ルシルもよく貧乏くじを引くわね。ルシルの女運の悪さは、どこの世界でも健在というわけね。同情するわ。

『そう、ありがとう。・・・で? これからどう動くつもりクロノ?』

私はクロノに今後の行動指針を確認する。

『決まっている。プレシア・テスタロッサを逮捕する。アースラを攻撃した事実だけでも、十分逮捕の理由になるからな。艦長の命令があり次第、僕たちは任務をプレシアの逮捕に変更することになるだろう。それで、君たちはどうする? やっぱり最後まで関わるか?』

聞かれるまでもない。なのははフェイトのために、私はルシルの馬鹿を連れ戻すために。それに私もフェイトのことは気がかりだもの。母親のために頑張る。たとえ拒絶されて、虐待されてもだ。なんて健気。なのにプレシアはそれを認めようとしない。それは許せない。

『うんっ。私はフェイトちゃんを助けたい。アルフさんとゼフィ君の思い、それから私の意思のために。フェイトちゃんの悲しい顔を見ると、私も悲しい。だから、フェイトちゃんを悲しいことから助けたい。それに、友達になりたいって伝えたその返事も、まだ聞いていないから』

『判った、フェイトのことは君に任せる。シャル、君はどうする?』

『愚問ね。同じ魔術師である以上は私がいないと、そちらがまずいでしょう?』

『そうだな、君たちの魔力と技術を使えるのは正直ありがたい。もうしばらく僕たちに力を貸してくれ』

やることも決意も決まった。明日アースラに帰艦する予定になっている。その前にルシル達をどうにかしないと。
アルフから全てを聞いた翌日。私たちは何度も彼らとぶつかった海鳴臨海公園へと来ている。もちろんアルフも来ている。だけど、クロノはアースラで待機となっている。彼には彼の仕事があるからね。

「ここならいいよね・・・。出てきて、フェイトちゃん、ゼフィ君」

なのはが気持ちを込めて2人の名前を口にする。

≪Scythe Form≫

“バルディッシュ”の声と共に現れたフェイトは電灯の上に佇んでいる。剣の蒼翼アンピエル12枚を神々しく広げ、フェイトの横に浮遊しているルシル。しかも今回は“テスタメント”の聖衣じゃなくて、大戦時に着ていた戦闘甲冑――アースガルド同盟軍の軍服姿だった。

「無事で何よりだよ、アルフ」

「・・・ほっ」

黒を基調としたインバネスコート。前を留めるのは1つ1つにルーンが刻まれた銀の金具。コートの背部には、十字架の四方から4つの剣が伸びていて、その剣を繋げるように3重の円環、その円環の間にいくつものルーンが刻まれているデザインの、アースガルドの界紋にして魔法陣の刺繍。
詰襟の長衣も黒一色。前立ての赤いラインにも多くのルーンが刻まれている。ズボンもまた黒一色。黒の編み上げブーツ、と言う格好。首には小さな白い南京錠が付いた赤いチョーカーを付けていて、アレはルシルの全力を制限するリミッターとして機能しているモノね。

(携えるのは神槍グングニル・レプリカ・・・。本気、ということね)

「フェイト、もうこんな事はやめよう? あんな女の言うことなんて聞いちゃダメだよ。それにゼフィも、もういいよ! これ以上続けたらあんただって・・・!」

アルフはルシルとフェイトのことを本当に心配している。その悲痛な叫びが、なのはとユーノの表情を悲しげに曇らせた。

「ごめんね、アルフ。それでも私は、あの(ひと)の娘だから」

「俺もアルフの意見には賛成だ。だが、フェイトがまだ続けると言うのなら、俺はそれに協力する。すまないなアルフ。君の思いには応えられない」

ルシルの発言にはみんなが驚いている。まぁ、ルシルの性格ならそう言うのは判っていたけれど、それでもフェイトに協力するというのは聞き捨てならないわね。戦わずに済む、最後の分かれ道。それをルシルは戦う道へ進もうとしている。不毛な結果になることくらい理解しているはずなのに。

「なんでだよ、フェイト、ゼフィ・・・!」

フェイトの母親プレシアをなのは達と協力して止める。おそらく、それが今の私とルシルの役目だ。だからこそ、それを無視するルシルには・・・

「いい加減にしなさい! ルシリオン・セインテスト・フォン・シュゼルヴァロードっ!」

怒りしか湧いてこないわ。私は突発的にルシリオンが今使っている名前をフルで叫ぶ。しまった、と思ったけれど、どうせそう遠くない内に知られるのだから、それで良しとした。けど、それを聞いたフェイトとアルフは案の定驚いていた。

「シ、シャル? どうしてあいつの・・・名前を・・・?」

アルフが動揺しながら聞いてきたから、私は正直に答える。

「この私、白きシャルロッテと対を成すのが彼、黒きルシリオンだから。彼が私のパートナーだった奴だからよ。本当なら話し合いで連れ戻したかったのけど、もういいわ。1度ボコボコにしてから強制連行することにしたから」

「ゼフィ君・・・ううん、ルシリオン君とは本当に知り合いなの? シャルちゃん」

なのはが驚いた表情のままでそう聞いてきた。それはそうよね。今までのことを考えたら信じられない話だろうし。けど、私は誤魔化さないし、もうこれ以上ルシルのことに関して騙していたくはない。

「ごめんなさい、なのは。本当のことなのよ。私は彼、ルシリオンとは昔からの知り合いなの。あなたとユーノに、ルシルの、彼女たちの仲間だと思われて嫌われたくなかったから嘘を吐いていたの。後でならどれだけ罵ってくれてもいい。だけど今は、今だけはあなた達の味方として一緒に・・・」

戦ってほしい、と最後まで言えなかった。たとえ嫌われるようなことになっても仕方ないような嘘を吐き続けてたから。

「そっか、うん。・・・確かに嘘を吐かれていたことは少しショック、かも。だけどね、それでもシャルちゃんは私の大事な友達だよ。だからそんな悲しいことを言わないで」

なのはが笑顔でそう言ってきてくれた。正直泣きそうだけど、何とか耐える。

「ゼフ――・・・ルシル」

フェイトがルシルの顔を見て戸惑っている。ルシルは私たちを見たままで、口を開く。

「どうするフェイト? 俺が彼女――シャルのパートナーだったというのは真実だ。もう信用できないと言うのなら、協力関係を切ってもらってもいいんだ」

「・・・ううん、今までのルシルを見ているから、私は大丈夫だよ。でも、後でいっぱい文句を聞いてもらうから」

「そうか、なら最後まで付き合うよフェイト」

どうやらあちらも現状のまま共に戦うようね。ならば、今回でケリをつけるまで。

「フェイトちゃん、ルシリオン君。お互いのジュエルシードを賭けて戦おう。私とフェイトちゃんは、全てそれからだよ。私たちの全てはまだ始まってもいないから。だから、本当の自分を始めるために、始めよう。最初で最後の本気の勝負を・・・! シャルちゃんとルシリオン君も、それでいいよね?」

なのはからの宣戦布告。フェイトもそれに乗り気なのか“バルディッシュ”を構える。尋ねられた私は「もちろんっ。今度こそ勝ってきなさい」と返し、ルシルは「構わないよ。君とフェイトにすべてを託そう」と頷いた。そうしてなのはとフェイトの2人は、空高く飛び上がって海上へと向かっていった。

「さて、フェイトとなのはも始めたし、俺たちも始めようか、これからを」

「ええ、そうね、始めよう、これからを。でも手加減はしないから」

――真紅の片翼(アインス・ルビーン・フリューゲル)――

私は片翼を出して、空戦モードへと移行する。

「よく言った。こちらも本気を出させてもらう」

ルシルが“グングニル”を手にゆっくりと降りてくる。そうして私たちは、なのは達の邪魔にならないように遠くの林の中へと場所を移す。対峙する私とルシル。さぁ、戦闘開始・・っと、その前に。万が一の保険として、ある魔術を空中に設置しておく。さぁ、私の準備は整ったわ。

「「参る!!」」

その言葉を戦闘開始の合図として、私とルシルは最後の戦いを始める。背中の剣翼を解除したルシルは一瞬で距離を詰めて、“グングニル”を薙ぐと同時に光の波を出現させる。それを「っく、はぁぁぁッ!!」切断するものの、“キルシュブリューテ”を持つ右手が痺れる。

「ぼさっとしている暇はないぞ、シャル! 我が手に携えしは確かなる幻想!」

「くっ、まだまだぁっ!」

ルシルは自分を軸にして回転しながら“グングニル”を振り回している。私もルシルの動きに合わせて回転しながら、それを避けては捌くという行動で防ぐ。2つの神器が衝突を繰り返し、周囲を照らし出すほどの火花を飛び散らせる。でも「せい!」“グングニル”を大きく弾き、返す一撃でルシルの戦闘甲冑を浅くだけど袈裟切りで切ってやったわ。

「やはり近接では俺の分が悪いか・・・!」

ルシルは1度間合いを取り、人差し指を向けてきた。中距離系術式を発動しようとしている。けれど、それを黙って見ているつもりはないわよ。

「双牙氷風、双牙炎雷、双牙凶閃・・・! 双牙奥義、滅牙翔破六天刃!」

複数属性同時使用の最大術式の1つを使い、6つの属性の刃を六閃放つ。これでルシルの術式の出がかりを潰せると思った。

黒虚閃(セロ・オスキュラス)

それより早くルシルの指先から放たれる黒い光線。

(ルシルの方が早い!?)

私たちの間で衝突した力は、爆発を起こして周囲の木々を薙ぎ払った。ルシルは続けて、腕を振り降ろすようにして術式を発動させる。

――砂漠の金剛宝刀(デザート・ラスパーダ)――

砂で出来たいくつもの刃が襲い掛かってくる。

「このぉぉッ!」

――風牙真空烈風刃(エヒト・オルカーン)――

真空の刃を複数巻き込んだ風圧の斬砲撃で砂の斬撃を吹き飛ばして、ルシルの元へと全力で疾走する。だけどルシルは私の行動を逆手にとり、両腕に炎が渦巻かせてカウンター攻撃の態勢に入っていた。

「いらっしゃい。不用意に近付いたのがまずかったな、シャル・・・!」

――煉牙灼熔 爆帝 双焔掌――

「な・・・!?」

以前受けた風牙裂千 空帝 双嵐掌の炎熱バージョンだ。これは受けると本当にまずい。勢いがつきすぎて停止は不可能。なら盾を出すまで。

――我が心は拒絶する(ゼーリッシュ・ヴィーター・シュタント)--

ルシルの火炎を纏う両掌打と私の対魔力障壁が激突し、私は攻撃を受けることなく踏み止まれた。だけどルシルはさらに追撃を仕掛けてきた。

――光牙輝星 天帝 双煌掌――

その閃光纏う両掌打の一撃によって、一瞬で盾にヒビが入り所々が砕けていく。これでダメなら、もう1つの盾を用意するまで。

「これなら・・・どう!?」

――真楯(ハイリヒ・フライハイト)――

真紅に輝く円にフライハイト家の紋章が浮かぶ、私の最高の盾。魔力が足りない所為で防御力は低いけれど、複製術式如きには遅れはとらない。ルシルの攻撃と私の盾が拮抗したのを見て、私は反撃の準備に移る。“キルシュブリューテ”の刀身に真紅の閃光系魔力を纏わせる。

「いっけぇぇーーーッ!」

――光牙烈閃刃(リッター・ネーメズィス)――

縦一線に振り下ろすことで発動した、真紅に輝く剣状砲撃を放つ。至近距離での一撃を放ち、これで決着させようとしたけれど、ルシルが光の粒子となって地面へと消えた。

(見失った!? 一体どこから攻撃を仕掛けてくる・・・!?)

――リベリアス・リペンタンス――

「なっ・・・!? ぅぐっ!?」

私の真下から光の粒子のままで突き上げてきて、また真上から撃ち降ろしてきた。まずい、これはかなり強烈だ。意識が少し飛びかける。

「フラついている場合か?」

――パーフェクト・シンメトリー――

背後に現れたルシルの両側に巨大な光球が生まれ、私に向けて叩きつけてきた。私は必死に翼を羽ばたかせてその場から離脱。直撃を避けるけど、着弾と同時に生まれた衝撃波で吹き飛ばされる。けど無様に倒れたりは決してしない。片手を地面について跳躍して勢いを殺し、トンと着地する。

「はぁはぁはぁ・・・、くっ、このままじゃ・・・!」

負ける、と脳裏に浮かぶ。だけどその弱気を振り払い、“キルシュブリューテ”を構え直す。

「諦めない、諦めない、諦めない! 私は栄えある天光騎士団が第五騎士(フュンフト・リッター)! 膝を屈せぬ誇り高き者!」

「むっ!?」

翼を羽ばたかせて、ルシルの周囲を飛び回りながらも少しずつ距離を詰めつつ、単なる魔力の斬撃を放ち続ける。ルシルは“グングニル”を振るって辛うじて防いでいるけど、次第に押されていく。複製の術式や武装を顕現させるのに必要な呪文を声に出させないために、勢いだけで立ち向かう。

「チッ、またこの策で俺の複製術式を防ぐか。もう少し考えたらどうだ? 我が手にたずさ――」

「させない!」

即座にルシルの懐へと突っ込み、私は瞬時に鞘を作り出してルシルの喉元を打ち付ける。

「ぁがっ・・・!?」

さすがにこれは効いたようね。ルシルは“キルシュブリューテ”にばかり気をとられていた。その所為で私が鞘を持っていることを忘却していたよう。喉にダメージを受けて声が出せなくなった以上、詠唱が出来ない。つまり複製術式は使えない。ルシルは急いで間合いを空けるために離れるけど、私はそれを許さない。

「はぁぁぁーーーッ!」

ルシルは私の斬撃を半歩横移動することで回避。そんなルシルの背後に黒い魔力で出来たナイフのような物が12本と展開されていて、私に向かって一斉に飛来した。ルシルの背後と言う死角からの攻撃だったこともあって・・・

「っ!? きゃぁぁぁぁッ!!」

私はそれを防御も回避することも出来ずに全弾命中させられた。大戦時だったら気付けたと思うし反応も出来たはず。でもこの小さな体と鈍い感知力の所為で無様に受けてしまった。

「や、やってくれたわね・・・よくも。このドスケベ!」

戦闘甲冑がボロボロになってしまい、所々の肌が見えてしまっている。

『ハハ、油断のしすぎだよ、シャル。あとスケベとは酷い言いがかりだ。10歳程度の少女(シャル)の体に欲情すると思うのか、この俺が? あははは、ぶっ飛ばすぞ』

「あはは~、やってごらんなさ~~い」

私は片膝をつき、腰に回復効果のある神器・“ゼーゲン”を具現化させて、ダメージの回復をしながら戦闘甲冑の損傷を修復する。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

その間にもルシルは掠れた声でかの呪文を口にする。そして私に手の平を向けて、複製術式の術式名を宣告する。

凶王の(テネブライ)――」

「こんのぉぉぉぉっ!!」

私は回復と修復を途中でやめて、片翼を羽ばたかせてルシルへと突撃する。純粋な破壊の力の塊として、ルシルを潰しに掛かるためだけの突進攻撃。羽根の隙間から見えるルシルは私の行動に驚き一瞬動きを止め、攻撃ではなく回避行動をとって上空へと逃げるけど、その先には・・・

「何だと・・・!?」

(決まった。私の勝ちね、ルシル)

私が先に仕掛けておいたトラップ、不可視である風の機雷・圧縮爆弾(トーベン・ヴート)。その直撃による爆風によって、ルシルはどこかへと吹き飛ばされていった。

「ふぅ、まぁ戦闘甲冑を着ているのだから、死んではいないでしょ」

ルシルとの戦いは私の勝利という結果で決着した。さてと、なのは達の様子を見に行きましょうか。

†††Sideシャルロッテ⇒フェイト†††

ルシルと、シャルロッテと名乗った子が遠くへと離れていった。シャルロッテという子は、私と出会う前のルシルのパートナーって言ってた。

(パートナー、か。ルシルとどれくらいの間、一緒にいたのかな・・・?)

そう考えると胸のあたりがチクチクとしてきた。初めての感覚に戸惑うけど、ルシルはあの子より私と一緒にいてくれることを選んでくれた。そう思うと、さっきのチクチクがドキドキになった。

(うぅ、にやけちゃうよ)

ダメだ、今は白い子との戦闘が大事だ。私はあの子に向かってフォトンランサーを撃つ。あの子も同じ射撃魔法で私を狙ってきた。

――ディバインシューター――

――フォトンランサー――

「ファイアッ!」

「シューット!」

お互いを撃つために魔力弾が交差して向かってくる。あの子は全弾回避。私も回避行動を取るけど追尾してくる。振り切れないと判断した私は、対魔力攻撃に優れたラウンドシールドを張って防御。防ぐことに成功したんだけど、あの子は再度射撃魔法の発射準備を終えていた。

「シューット!」

私は魔力弾に対処しながら接近し、直接あの子にダメージを与えることにした。射撃戦になったらもう、私よりあの子の方が強い。

≪Scythe Form≫

“バルディッシュ”をサイズフォームへと変えて、魔力弾を切り払いながら接近する。あの子は回避より防御を選んでシールドを張る。衝突する刃と盾。私が前方に気を取られていると、背後から魔力弾が襲い掛かってきた。けど、私は難なくシールドを張って防御した。そして気付く。周囲を見渡してもあの子がどこにもいないことに。

(いない? 一体どこに・・・?)

≪Flash Move≫

あの子のデバイスの声だけが聞こえる。少し遅れてあの子の声が聞こえた。

「せぇぇぇいっ!!」

――フラッシュインパクト――

あの子は私の頭上に移動していて、急降下しながら私に向けてデバイスを振り下ろした。私はその姿に一瞬だけ硬直。ハッとして咄嗟に“バルディッシュ”を盾にした。魔力の爆発による衝撃波が周囲を照らし出す。私はその光の中を進み、あの子へと斬りかかる。まさか魔力付加打撃だなんて。油断してた。だってこの子、射砲撃ばかりだったし、接近戦には持ち込んでこない戦術だけだったから。

≪Scythe Slash≫

間髪いれずにサイスフォームにした“バルディッシュ”の魔力刃を一閃。あの子はギリギリで回避して、あの子の胸のリボンだけを少し裂いただけだった。だけど無駄だ。あの子が逃げた先にはすでにフォトンスフィアを用意している。

――フォトンランサー――

≪Fire≫

“バルディッシュ”の合図とともにあの子へと襲い掛かるフォトンランサー。あの子は咄嗟にシールドを張り、何とか耐えている状態だ。正直今ので決まると思っていたけど、上手くはいかないものだ。

(初めて会った時は、魔力が強いだけの素人だったのに、もう違う。速くて強い。迷っていたら・・・やられる)

母さんのためにも、私に付いてきてくれたルシルのためにも、私は負けられない。だから私は、私の最強の魔法を放つ決意をした。

†††Sideフェイト⇒なのは†††

フェイトちゃんの周囲に電気を放つスフィアがたくさん現れたから、私は警戒して“レイジングハート”を構える。だけど、その瞬間にバインドに捕まってしまった。

『ライトニングバインド!? まずいっ、フェイトは本気だ!』

『なのは! 今すぐサポートを!』

私が捕まったのを見て、アルフさんとユーノ君が念話で私を助けると言ってきたから「だめぇぇっ!!」私はそれを拒否。

『お願いだから手を出さないで! この戦いは、私とフェイトちゃんだけの、全力全開の一騎打ちだから!』」

このまま戦わせてくれるようにお願いした。それでもアルフさんは『でもフェイトのそれは本当にまずいんだよ!』って頷いてくれない。だからもう1度「大丈夫、平気!!」って念話じゃなくて口でハッキリと言う。絶対に誰にも邪魔させない。この戦い、この時間は、私とフェイトちゃんだけのものだから。

「アルカス・クルタス・エイギアス、疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル、ザルエル、プラウゼル・・・!」

フェイトちゃんが長い呪文を唱え終えた。

「フォトンランサー・ファランクスシフト・・・。撃ち砕け、ファイア!」

フェイトちゃんが腕を振り下ろして私に指を向ける。その号令と共に無数のフォトンランサーが襲い掛かってきた。

「レイジングハート、お願い」

私は対フェイトちゃん用に組んでいたライトニングプロテクションを直撃の瞬間で張った。たぶん、フェイトちゃんからは見えていないはずだ。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

「フォトンランサー・ファランクスシフト・・・。撃ち砕け、ファイア!」

私はあの子に、私が今撃てる最強の魔法を放った。本当ならここまでしたくなかったけど、あの子がすごく手強くなっていたから。手加減をすると私が負けることになると思ったから。だから使った。この圧倒的な物量による殲滅魔法を。

「くっ・・・!」

心が痛む。私と友達になりたいって言っていたあの子を撃ったことに罪悪感が生まれる。けど私は負けられない。止めの一撃として残っているフォトンスフィアを集めて、再度フォトンランサーを撃とうとして構える。だけど白煙の中から無事な姿で浮遊するあの子を見た。

(そんな・・・うそっ!? ファランクスシフトを受けたのに、あれだけのダメージしか与えられていない!?)

これだけのショックを受けたのは、ルシルと戦ったとき以来だ。ううん、それよりももっと酷い。素人だったあの子に、魔法戦の実力で追いつかれた。

「痛ったぁ・・・。撃ち終わると、バインドってのも解けちゃうんだね」

あの子はそう言って、デバイスを私に向けて砲撃の準備に入った。

「今度はこっちの・・・」

≪Divine≫

「番だよ!」

≪Buster≫

放たれる砲撃。私は待機させておいたフォトンランサーを、迫りくる砲撃に向けて放つ。だけど、そんなものは意味は無いと言わんばかりに消されてしまった。私は咄嗟にシールドを張り、防御に全力を注ぐ。

「(直撃! でも耐え切る。あの子だって耐えたんだから!)っ、うぐっ、ああ・・・!」

威力がハンパじゃなかった。これだけの砲撃をほとんど溜めもしないで撃つなんて、あの子はとんでもない魔導師だ。私は撃墜寸前までいってしまったけど、でもあの砲撃を耐え切った。耐えきって見せた。でももうボロボロだ。もう何も出来る気がしない。けど、それはあの子も同じはず、そう思った。

「受けてみて、フェイトちゃん。ディバインバスターのバリエーション」

その言葉と共に、あの子の前面に現れた魔法陣へと光が集まっていく。それはまるで星の光のような、とても綺麗なものだった。

「しゅ、集束砲・・・!?」

――レストリクトロック――

私は残る力で何とかしようとしたんだけど、今度は彼女のバインドが私を捕える。

「バインド!?」

外れない、外せない。これはまずい。あんなのを受けたらどうなるか判らない。

「これが私の全力全開! スターライト・・・ブレイカァァァーーーッ!!」

とてつもなく巨大な桜色の閃光。もうダメだ、私はこれで終わる。

(ごめんねルシル。ごめんなさい母さん)

†††Sideフェイト⇒ルシリオン†††

「俺たちの負け、みたいだな」

俺は自力でシャル達の元へと戻ってきた。シャルがあんな機雷設置などというトラップを使ってくるとは思ってもいなかったために油断した。いや、それは言い訳にすぎないな。この大一番で負けたことは消えない事実だ。

「おかえり、ルシル。どこまで飛ばされていたのかしら?」

「・・・ほっとけ。それよりアルフ、今まで騙していてすまなかった。謝ったところで許してもらえるとは思っていないが、それでも謝っておく」

俺はアルフに頭を下げて、心の底からの謝罪を口にした。

「・・・ふぅ。フェイトが言ってただろ? 今までのアンタのことを思えば、そんなことはどうでもいいって。あたしもそうだよ、ルシル」

アルフは本心からそう言ってきているようだ。本当にいい奴だよ、君は。時折鬱陶しいが。

「そうか、ありがとう。それじゃあフェイト達を迎えに行こうか」

俺たちは浮遊しているフェイトとなのはの2人に視線を向ける。2人で何か話しているようだが、俺たちには聞こえない。だが、そこで再びプレシアの魔法がフェイトに襲い掛かろうとしていた。しかし俺だって、何の対策も考えていないわけじゃない。

「ただ祈りて、其は高みの盾とならん」

――大いなる雷神の天蓋――

蒼雷で構成された盾を2人の真上に展開させた直後、プレシアの雷撃が盾と衝突した。しかし雷撃は避雷針の代わりとなった盾によってフェイトを襲うことなく、周囲へと拡散していった。ざまぁみろ、プレシア。もう2度とフェイトを傷つけるようなマネはさせん。


・―・―・シャル先生の魔術講座・―・―・


シャル
「また来たのね。ようこそ、シャル先生の魔術講座へ」

なのは
「ねぇシャルちゃん。また来たのね――ってやつ。毎回思うんだけど、このコーナーってあとがきじゃないからさ、来たくなくても来ちゃうんじゃ・・・」

ユーノ
「あ、そういえば。なのはの言うとおりかも」

シャル
「・・・・・・・さて、今回も私の魔術が出て来たのだけど」

なのユー
(無視した!?)

シャル
「ルシルとの決戦で新しく使われた魔術は、

――奥義・滅牙翔破六天刃――

――真楯(ハイリヒ・フライハイト)――

――光牙烈閃刃(リッター・ネーメズィス)――

――圧縮爆弾(トーベン・ヴート)――

の4つね。まず、滅牙翔破六天刃ね。これは、属性複数同時使用の術式、双牙の奥義よ。
炎熱、氷雪、雷撃、風嵐、閃光、闇黒、6つの属性の魔力刃を複数放ったり、直接斬ったりするというもの。
私の保有する最高の防性術式の真楯ハイリヒ・フライハイト。意味は聖なる自由。
閃光系魔力を圧縮して、西洋剣の剣身状の砲撃を放つ光牙烈閃刃リッター・ネーメズィス。意味は天罰の騎士。
不可視の風を圧縮した設置型爆弾トーベン・ヴート。意味は荒れ狂う猛威」

なのは
「ハイリヒ・フライハイトって、シャルちゃんのファミリーネームが付いてるんだね」

シャル
「ええ。盾のデザインがフライハイト家の紋章なのよ。フライハイトのF。その両側に翼竜が羽ばたいてる様子のね。だからフライハイトって付けたの」

ユーノ
「トーベン・ヴートって爆弾ってことだけど、どこまでの威力があるの?」

シャル
「殺傷能力はさほど無いわね。意識を飛ばしたり、空戦機動を妨害したり。でも防御力が弱い奴によってはどうなるか判らないわ」

ユーノ
「結構危ない術式なんだな」

シャル
「魔術って基本そんなものよ。さてと。今回はこのあたりで幕ね。またのお越しをお待ちしているわ」

なのユー
「ばいばーい」
 
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