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ソードアート・オンライン〜Another story〜

作者:じーくw
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SAO編
  第59話 攻略の鬼と心の変化


~2024年3月6日 第56層・パニ~


 本日この場で……フィールドBOSS攻略の会議が行われていた。その数は大小のギルド多数の合同で行われている。戦力的には最前線において、全く問題ないほどの強力なメンバー達だ。
 其々のギルドの長は、殆ど揃っており 細かく分類するとすれば、攻撃部隊リーダー、守備部隊リーダーと、主力とも言える人物達も揃っていた。

 そして、会議の中心で、地図を広げているのが、トップギルドである血盟騎士団・副団長の彼女。

 彼女はこの会議の中心におり、その大きめのテーブルの上に広げていた地図を叩き、皆に聞こえるように大きな声で宣言した。

「フィールドBOSSを……村へと誘い込みます」

 栗色のロングへアー。その容姿は誰もが見惚れるもので、美しいという以外の言葉が見つからない程のモノ、現に彼女のファンだと言う者は、多い。……が、その凛とした佇まいから 高嶺の花として見られている部分が多い。
 そう、血盟騎士団・副団長のアスナだ。

 その言葉に場が困惑する。
 これまでの、フィールドBOSS戦では、村や街と言った場所へと誘い込む……などという事は行ったことがないからだ。
 因みに、その場所は危険地帯のど真ん中と言う事もあり、圏内という訳じゃない。だからこそ、その作戦には危険が伴うと思ったリュウキは。

「確かに、良い案だとは思う。……が、万が一にでも。ボス戦を行うにおいて、レベルの足りないプレイヤーが村にいたらどうするんだ……?」

 その会議の最後列付近で腕を組んでいたリュウキはアスナにそう聞いた。
 目立つような事は元々避ける傾向にあった彼だが、必要な事は必ず聞いているのだ。……必要な事以外はあまり話さないのは相変わらずだが。

「その点に関しては 心配ありません。その様な事態が起こらない様に、事前に我がギルド血盟騎士団のメンバーが、決行時間等を十分に周知を行います。故にレベルの足りないプレイヤーは、村には誰もいなくします」
「なるほど……な……。判った」

 リュウキは一歩さがり、再び腕を組み俯いた。
 確かにあの規模のギルドだったら、その様な作業、造作もない事だろうと判断した様だ。だが、その時声をあげる者がいた。

「ちょっと待ってくれ! 確かに、それなら プレイヤーには危害は加わらないかもしれないが、村の人たちが!」

 それは、全身黒で統一された装備。黒の剣士キリトだ。どうやら、作戦には反対の様で、割って入ってきたのだ。
 だが、アスナは、そのキリトの言葉をただ冷静に聞くと。

「……それが狙いです。フィールドBOSSが、NPCを殺している間にBOSSを攻撃……殲滅します」

 彼女は、無情にもそう言い放った。
 
 確かに……彼女が立てる作戦は正に鬼が如くと言った感じだ。或いは情け無用ともいえる。キリトが言わんとしている意味はよく判る。NPCは確かに《生きて》はいないが、彼らが死ぬ瞬間は……、消え去る瞬間はプレイヤーのそれと何も変わらない。

 だからこそ……そんな姿を見たくは無いのは事実だ。

 特にキリトはそうだ。……嘗ての記憶を揺り起こすから。

「NPCは岩や木の様なオブジェクトとは違う! 彼らは!」

 だからこそ、それを間近で見ていたからこそ、キリトはそう言うが、表情を1つも変えずにアスナはキリトを見て逆に問いかけた。

「生きている……とでも?」

 アスナがそうキリトに聞き返していたのだ。
 NPCとはこのSAOと言う構築した世界を成り立たせる要素であり、生きた人間では無い。消え去ったとしても、彼らはまた出現する。

「あれは単なるオブジェクトです。それに、例え殺されてもRePoPするのだから」

そのアスナの言い分は間違えてはいない。だが、納得できない部分も確かにある。

「……心情的には……な」

 リュウキは、そう考えを改めてもいた。キリトからしたら……納得できないところもあるのだ。その考え方はリュウキにも十分に判る。
 キリトと共に、リュウキもあの時《あの場》にいたのだから。

 だが、今を生きている人の……《プレイヤー》の1つしかない命と天秤にかけたら。

 どちらを選ぶべきかははっきりとしていた。

「……あなたは。リュウキ君は、今回の件、そして先ほどの事、合わせて どう思いますか?」

 そこで、アスナが目線を向けたのはリュウキだった。

「確かにキリトの言いたい事は判る。……NPCの、彼らの断末魔は……、最後の瞬間はプレイヤーのそれと全く変わらない。正直 視ていて、良い気分ではない。……だが」

 キリトは初めこそは援護の様な気持ちだったのだろうが……。自ずと理解したようだ。リュウキがどっち派なのか。

「……プレイヤーの命と天秤にかけたとしたら……、やむ終えないと判断する」

 そう言って目を瞑った。

「冷静な判断。ありがとうございます。」

 アスナは、そう言って少し……頭を下げた。だが、キリトは納得していなかった。

「……オレはその考えには従えない」

 断固として反対のようだ。拭えない過去の悪夢の記憶。それらが頭に浮かんでくるのだから。今でも思い返してしまうのだから。

 アスナは、まだ納得していないそんなキリトを見て告げた。

「今回の作戦は、私、血盟騎士団・副団長アスナが指揮を執ることになっています。私の言う事にはしたがってもらいます」

 その言葉を最後にこの場の攻略会議は終了したのだった。



「……相変わらず。だな」

 リュウキは、アスナの後姿を見てそう呟く。
 スイッチや基本的な操作方法を知らなかった、そして 細剣のスキル《リニアー》だけで、戦っていたあの頃が懐かしいとさえ感じている。
 本当に努力もしたのだろう、だからこそ 此処まで駆け上がってこれたんだと。

「そう言うリュウキ君もね? あは……、でも やっぱり初めて会った時より随分柔らかくなった気はするなー」

 そんなリュウキの隣には彼女がいた。

「……副団長の補佐であるレイナは、傍にいなくて大丈夫なのか? アスナの」

 リュウキは目を瞑ったままそう答える。そう、隣にいるのはアスナの補佐、副団長補佐のレイナだった。レイナの役割は、その名の通りにアスナの補佐。大きくなってきている血盟騎士団だから、どうしてもアスナだけでは賄いきれない事が多い。
 故に実力も同等であるレイナが、その役目に抜擢されたのだ。

「え? お姉ちゃん……? あ、……はは、フィールドBOSSの会議だし、副団長1人で十分だよー。それに同じような顔が並んで困惑するのもあれだし……さ?」

 レイナは笑ってそう言っていた。

「……アホ。いったい何回これやってると思ってるんだ……? 皆流石に慣れてるだろ」
「もう、良ーの! ……だって攻略は大切だけどさ? ……攻略の時の鬼になってるおねえちゃんはちょっとニガテだからね……」

 次にレイナは苦笑いをしていた。
 アスナの事をそう思っていたのはレイナも同様だったようだ。

「ははっ……だろうな。確かに」

 レイナは、リュウキは初めて会った時より随分柔らかくなったと思っている。それは正しい。リュウキ自身もそう思っているのだ。こうも気軽に会話する。そんな事、最初の層ではありえなかったからだ。
 以前レイナが言っていた通り。リュウキは、会議が終われば、気づけばもう出て行っているのだから。余りにもそれが続くから、それが≪普通≫だと思えるほどにだった。
 だが、今は違う。
 会議が終わったとしても、普通に残り、そして 殆ど親しい仲間限定だが、会話もしているのだ。そして、心なしか、口調も柔らかくなっている。それは間違いなく、目の前にいる人の影響だと言う事もわかる。レイナの事……色々あり感謝しているし、信頼している人だから。

 そして、その後 他のメンバー同様、会議場所の洞窟から離れていった。

 洞窟の外ではまだキリトは納得言っていないと言った様子だった。少し膨れているようにも見える。

「よぉ……。また揉めたな」

 エギルがキリトに話しかけていた。あの場にはエギルもいて、やり取りは見ていたのだ。

「エギル……」

 キリトもエギルに気づき、振り返った。

「お前さんと副団長さんはどうしていつも ああなんだ?」
「気が合わないんだろうな」

 そう言う風に見えるのは間違いないか? と疑問が浮かぶが、正直、2人を見ていて飽きない。

「まぁ、それは確かに。言えているかもな」

 リュウキも2人の傍に来ていた。

「……オレは、お前は援護してくれると思ったんだがな」

 リュウキが来たのが判ったキリト。どうやら、ちょっと拗ねているのだろうか。
 再び軽く頬を膨らませていた。

「……どの道。いつも通りアスナに押し切られるのは目に見えていたからな。心情的にはきついかもしれないが、アレが最良の範囲内だからな。終わるのは早いに越したことは無い。NPCも多少だが、抵抗してくれるし」

 リュウキはそう返した。これは間違いない事実なのだから。キリトがアスナに押し切られないなどはありえないと言えるからだ。……これまでにも色々とあったから。

「それに……」

 リュウキはキリトの肩を掴んだ。

「オレ達でさっさと倒せば、NPCの連中も殺られずに済む。……見なくて済む……だろう?」

 キリトにそう言うと軽くウインクした。

「……ま、それもそうだな。いっちょ やってやるか」

 キリトも表情を軽く和らげ、肯定した。リュウキとなら、被害なく出来る。普通ならBOSS相手に上手く良く分けない……、と思うのが普通なのだが。
 リュウキとなら、《いける》。そんな気がするのだ。

「お前さんも相変わらずだな。いや、随分優しくなったな? 《白銀の勇者様》よ?」

 そんなやり取りを笑いながら見ていたエギルはリュウキにそう言った。嘗て、広まっていたリュウキの二つ名を口にだして。それを聞いてリュウキは以前の事を思い出し……、露骨に嫌な顔をした。

「……それ、ヤメロ」

 そして、ジロリとエギルを睨んでいた。……どうやら、エギルはリュウキの事をからかって遊んでいるのだろう。エギルはリュウキにニヤリと笑い返していた。

「……それにしても、第1層の時から考えて、信じられないよな。まさか、トップギルドの攻略の鬼になってるんだから」

 キリトは懐かしそうに思い出しながら言っていた。何だかんだで、アスナとは第1層からの付き合いなのだから、感慨深いモノもあるのだろう。

「違う、鬼になりかかっている(・・・・・・・・)……だろう? アスナの傍にはレイナがいるんだ。……まぁ、今日は一歩離れて見てた様だが、いつもはアイツが旨く抑えてくれてるよ。お前より遥かに上手くな?」

 そう言うとリュウキは苦笑いをしていた。その言葉にキリトはため息を吐く。

「……オレは、そんなに起用じゃないんだよ」

 そして最終的には、3人は共に苦笑いが止まらないようだった。

「オレとしたら……リュウキの変わりようの方も信じられねーと思うんだが? 会議終わったらさっさと消えてたリュウキがよ?」

 エギルは、ゲラゲラ笑いながらそう言っていた。どうやらまだ、その内容を引っ張るつもりだ。

「……だからヤメロ。思い出させるな」

 あまり付き合いたくないリュウキは、思わずそっぽ向いていた。

「ははは……」

 キリトは、ただそんなリュウキを見て苦笑い。だが、今のリュウキの方が良いに決まっている。
 おそらく、それは皆が思っていることだろう。

 特に……、あの補佐殿は、より思っている事だろう。

 本当に笑顔が光っているのだから。

 
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