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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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Ep7それぞれの悩み~Worries and decision~

†††Sideシャルロッテ†††

朝日が窓から射し込んできて、私を良い具合に目覚めさせる。上半身を起こし、窓を眺める。空は晴天。気持ちの良い朝ね。でも私は起きてすぐだというのにまた眼を閉じ、「・・・界律。私に一体何をさせたいの?」独り呟く。
ルシルと出会ってから毎朝欠かさずにしていること。それは私の雇い主とも言える“界律”との精神接続(リンク)。“界律の守護神テスタメント”の複数柱契約。これが意味するのを知っているからこそ、慎重に事を進めておきたいのよね。そして今日、“界律”からの情報に進展があった。

――戦闘時のみ能力値上限が12%まで使用可能。制限された魔術を全て解禁――

たった2%の増減というけれど、それでも私たちにとってはかなり大きい数字だわ。

「戦闘時のみ? 私に、ルシルを殺せってわけ?」

正直これはありえない、とは言い切れないのが堪らなく頭にくる。“テスタメント”の契約には、死ぬこと・殺されることを前提に召喚されることがある。そしてその契約の実行者は、4thテスタメントであるルシルが筆頭となっている。ルシルはこの6千年、様々な世界へと召喚されては、殺し、殺されてきた。

「ふざけるな。こんなこと認めてなるものか」

私は怒りに茹だった頭を冷やすために、顔を洗いに行った。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

ずっと考えてたんだ。きっと私と同い年くらいで、深くて綺麗な瞳をしたあの子、フェイトちゃんのこと。会えばまたぶつかり合っちゃうことになると思うけど・・・。

「おはよう、なのは。今日も早いのね」

シャルちゃんの挨拶に、笑顔を浮かべて「うん、おはようシャルちゃん」挨拶を返す。するとシャルちゃんは小さく息を吐いて、「やっぱり、悩んでいるみたいね」って微苦笑。

「・・・うん。ちょっと、ね」

シャルちゃんは何でもお見通しなのかな。けど、それが少し嬉しいと思うんだ。それだけ見てくれていて、仲良しだってことだから。

「あまり抱え込まないようにね。私だって相談くらい乗るから」

「うん、ありがとう」

そうして私とシャルちゃんはリビングへと向かう。それから朝食を終えて登校。
ずっと考え事をしていたから、授業の内容はほとんど頭に入ってない。どんなに切り替えようとしても浮かび上がるあの子、フェイトちゃん。だから休み時間の最中、「いい加減にしなさいよっ!」アリサちゃんが怒鳴り声を上げて、私の机に両手を叩きつけた。私とアリサちゃんとすずかちゃんの3人でお話ししてたんだけど、私が上の空だったから、きっとアリサちゃんは怒っているんだ。

「こないだから何を話しても上の空で、ボケーっとして!」

やっぱりアリサちゃんが怒ってる理由はそれだった。私が悪いんだからちゃんと謝らないと・・・。

「ごめんねアリサちゃん」

「ごめん、じゃない! あたし達と話してんのがそんなに退屈なら、いくらでもボケーっとしてなさいよ! 行くわよ、すずか」

「あ、アリサちゃん!? ちょっと待って、アリサちゃんっ」

アリサちゃんは怒って教室を出て行ってしまった。いつも仲良しだった私たちが急にケンカしたみたいになってるからか、教室の中が静まり返っちゃった。みんなにもごめんなさい。そんな気持ちでいっぱいになっちゃう。

「・・・なのはちゃん」

すずかちゃんが心配してくれている。ううん、違うんだよ、すずかちゃん。これは「いいよ、すずかちゃん。今のは私が悪かったから・・・」そうだ、私が悪かったんだ。

「そんなことないと思うけど・・・。とりあえずアリサちゃんも言い過ぎだよ。少し話してくるね」

「うん、ごめんね」

そうしてすずかちゃんもアリサちゃんを追って、教室から出て行った。

「・・・怒らせちゃったなぁ。ごめんね、アリサちゃん」

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

呼び出された職員室(校舎内で蹴ったサッカーボールを、先生の頭にぶつけた所為)から教室へと戻る最中、アリサとすずかが階段の踊り場で何か言い争っているのを発見した。なのはという単語が聞こえたから、気付かれないように聞いてみることにしたのだけど・・・。

(・・・なるほどね。なのはが悩みの所為で上の空。アリサがそれに怒ったみたいね)

2人の会話の内容は全部なのはについての事だった。悩んでいるみたいなのに、どうして頼ってくれないのか、と。親友なら頼ってほしいんだってことは理解できるのだけど。さて、どうしようかしら。なんて、考えるまでもなく決まっているわ。ここはひとつフォローを入れておくのが友達、よね。

「今からそんなに怒っていると、将来後悔することになるわよ。アリサ」

「シャル!? もしかして、聞いてたの・・・!?」

「ええ、悪いと思っていたけど、なのはのことだから」

「あんた、何か知っているんじゃないの?」

最近のなのはの様子が変なことについて、私が何か知っていると感付いたアリサが迫ってくる。

「もし私が知っていたら、どうすつもり?」

「決まってるじゃない! 聞かせてもらうわよ! そしてなのはの相談に乗って、一緒に悩んで解決するのよ!」

(一緒に悩んで、ね)

なのはの悩みが世間一般にあるような悩みならそれでいいだろうけど、その原因が魔法という非現実なことであればそう簡単にはいかない。

「あなた達は私以上に付き合いがある親友なんでしょ? ならあの子の性格は知っているわよね。何故、相談しないのか。それはあなた達を苦しめないため、巻き込まないため」

「そ、それは・・・」

「例えそうでも・・・聞いてみないことには判らないじゃない!」

アリサは結構粘るわね。なのは、あなたはこれほど慕われているのよ。本当に羨ましい。私もこんな人生を歩み、親友をつくり、共に生きてみたかったわ。

「悩みを共有できていると思えている間は、それでいいかもしれないわね。けどねアリサ。解決できなかったら、相談したアリサとすずかを苦しめるって思うあの子の優しさもちゃんと理解してあげてほしいの」

「だって、そんなの・・・そんなのって悔しいじゃないの! 何もしてあげられないなんて。あの子の親友なのに。何も出来ないなんて悔しいじゃない!」

「・・・アリサちゃん」 

アリサが涙を流している。自分の非力さに、なのはの優しさに。

「アリサ、すずか。いつか、なのはからきっと話してくれる日が来ると思う。そのときはちゃんといつも通りに迎えてあげて。それが親友でしょ?」

「・・・当然よ!」

もうこの件は大丈夫だと思うわ。アリサもすずかもさっきまでの沈んだ顔ではなく、とても良い顔をしているのだから。

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

全ての授業が終わって、ようやく放課後になった。でも気が重い。やっぱりアリサちゃんに怒鳴られたことが効いてる。何度も溜息を吐きながら帰り支度をしていると、「なのは!」って私の名前をこれでもかっていうくらいに大声で呼ぶ誰か。

「っ!?」

び、びっくりしたぁ。私の名前を叫んだのはアリサちゃんだった。教室のドアの所から、仁王立ちして腕を組んだアリサちゃんが私を見ていた。その迫力に近くの男の子たちが目を丸くして茫然としてる。

「あんたが抱え込んでる悩み、いつかちゃんと話してよね! あたしたち待ってるから!」

「うん。なのはちゃん。私もいつか話をしてもらうまで待ってるから。あ、あと今日はお稽古があるから先に帰るね。またね、なのはちゃん!」
 
そう言って、アリサちゃんとすずかちゃんは教室を後にした。遅れてアリサちゃんの優しさが伝わってきて、ちょっと泣きそうになっていると・・・

「仲直りできて良かったわね、なのは♪」

私の机の隣に立って、笑顔を向けてくれるシャルちゃん。そっか、シャルちゃんがアリサちゃんとすずかちゃんに何か言ってくれたんだ。

「・・・あ、うん! うん! ありがとう! ありがとうシャルちゃん!」

私はシャルちゃんに抱きついて、やっぱりちょっと泣いてしまいました。
そして放課後。学校が終わったら私とシャルちゃんは1度家に帰って、ユーノ君を連れて街を探索。日課となってる“ジュエルシード”の手がかりを探すためだ。
それに加えて、新しい目的が出来た。ルシルとフェイトと会って話す。その近道が“ジュエルシード”。フェイトちゃん達も“ジュエルシード”を探してるから、こっちも探してればきっと会えると思うから。

「暗くなって来たわね・・・」

だけど収穫なしで時間は無情に過ぎ去っていった。空がすっかり暗くなって、「んー、タイムアウトかも。そろそろ帰らないと・・・」ビルの壁に設置されているディスプレイに表示された時刻を見て、私は肩を落とした。

「ええ。これ以上は士郎父さん達に迷惑が掛かるわ」

「大丈夫だよなのは、シャル。僕が残ってもう少し探していくから」

ユーノ君が単独での“ジュエルシード”探索を行うと言ってきた。悪い気もするけど、ここはお言葉に甘えさせてもらうことにしよう。出かけるにしても、お父さん達が寝静まってからだよ。

「それじゃユーノ、悪いけど頼める?」

「うん。あ、晩御飯はちゃんと取っておいてね。帰ってから残飯漁りなんてしたくないから」

「にゃはは、それはイヤだね~。じゃユーノ君、お願い」

そうして私とシャルちゃんは、ユーノに“ジュエルシード”の探索を任せて、家路に着くことになった。

†††Sideなのは⇒ルシリオン†††

ビルの屋上から海鳴市の街を見下ろしている俺とフェイト、それにアルフ。“ジュエルシード”の大まかな位置は判明したが、正確な位置が判らないので悩んでいると、フェイトがある提案をしてきた。

「強制発動って本当に危険がないんだな?」

フェイトが発案したのは、“ジュエルシード”を無理やり発動させて発見するという強行策。“ジュエルシード”は願いを叶えることの出来るという優れた能力があるが、反面暴走すれば厄介なことを起こす困ったモノだ。そんな危険物を強制発動するなど、どう考えても安全策とは思えない。だから2度に亘ってそう問い質す。何かあってからでは遅いからだ。

「うん、大丈夫だよ、ルシル。発動させるのにかなり魔力が必要だけど」

「それはあたしがやるから、フェイトにはなんも障害はないよ。だからあんたも覚悟を決めて手伝いな」

フェイトとアルフは完全に乗り気だ。本当ならもう少し慎重に進めてほしい。仕方ない。こうなってはフェイト達を止めることは無理だ。ならば、万が一彼女たちに危険が迫ったらこの身を盾にすればいいだけのこと。

「はぁ、判ったよ。任せたぞ、アルフ」

「あいよ!」

そしてアルフが魔力流を撃ちこみ、来た。ハッキリと判る覚醒した“ジュエルシード”の魔力。

「ありがとう、アルフ」

「このくらいどうってことないさ」

「では行こうか、向こうもそろそろ気付いて来るだろうしな」

さて、今回もシャルを無力化して“ジュエルシード”を貰っていこうか。

†††Sideルシリオン⇒なのは†††

私とシャルちゃんはユーノ君からの念話を受けたことで急いで引き返して、“ジュエルシード”の元へと走り、目覚めた“ジュエルシード”を視界に入れた。
すぐに封印に移るためにバリアジャケットに変身して、“ジュエルシード”を停止させるための砲撃を放った。それと同時、別の場所からフェイトちゃんも砲撃を放って、2人の砲撃によって“ジュエルシード”は沈黙した。

「フェイトちゃん、ゼフィちゃん・・・」

「もうこの件から引きなさい、と言ったはずよね? 高町なのは」

そして今、私とシャルちゃんは、フェイトちゃんとゼフィちゃんの2人と対峙している。遅れてユーノ君とアルフさんもやって来た。お互いにいつでも戦いに移れるような緊張状態。

「引けない。今度こそ、ちゃんとお話を聞いてもらうから! シャルちゃん、ユーノ君。フェイトちゃんは私に任せて」

――フライヤーフィン――

飛行の魔法、フライヤーフィンを使って、一気にフェイトちゃんから距離を取る。この私の行動で、私とフェイトちゃん、シャルちゃんとゼフィちゃん、ユーノ君とアルフさんの三つ巴の戦いに入ることになる。狙い通りにフェイトちゃんはゼフィちゃんと何か言葉を交わして、私を追いかけてきた。

「ディバインシューター!」

≪Divine Shooter≫

やることは以前と同じ。でもあれからさらに制御技術に磨きをかけた。それに同じ失敗はしない。シャルちゃんが教えてくれた教訓を胸に私は戦う。

†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††

「さてと、こちらも始めようか、シャルロッテ」

ルシルが静かに戦闘を開始しようと告げる。私は、かつての決闘と同じように名乗りをあげる。今はそうしないといけないと思ってしまったから。そう。今回の決闘で決着をつけるつもりだから。

「ミッドガルド秩序管理機構左翼、天光騎士団・星騎士シュテルン・リッターが1人、第五騎士(フュンフト・リッター)・剣神シャルロッテ・フライハイト・・・!」

案の定ルシルが唖然としている。仮面で素顔が隠れているけれど長い付き合いだもの、それくらいは判るわ。

「・・・アースガルド同盟軍、対連合主力部隊アンスール、同盟軍後方支援部隊総指揮官。神器王ルシリオン・セインテスト・アースガルド」

ルシルも私に合わせて名乗りをあげてくれた。貰いもののシュゼルヴァロードじゃなく、本当の名前を告げた。
さぁ名乗りは終わった。即ち勝敗を確実に決する決闘をしようということだ。死んでも退かない、その意味を持つ戦い。“界律”が何を企んでいようとも、私はあなたを倒してでもなのはを守る。

「「参る!」」

(見せてあげるわ。魔術が解禁された今の私の力を!)

――我を運べ(コード)汝の蒼翼(アンピエル)――

その言葉を戦闘開始の合図として、ルシルは背にサファイアブルーに輝く剣のような翼を12枚生やす。

(空に逃げる気ね。けど、そうはさせないわ!)

私も空を飛ぶことの出来る飛翔術式、アインス・ルビーン・フリューゲルを習得している。けど、発動はしない。何故なら絶望的に下手なのだ、空を飛ぶことが。まるで死に掛けの羽虫のようにフラフラとしか飛べない。

(それでよく膨れっ面をして拗ねていたものよ)

まぁ、その代わりに魔法陣を足場にした戦法・空戦殺しの法陣結界もあるけど、今の少ない魔力では自滅行為だから使わない、使えない。だから、ここでルシルを空に逃がすと、私の攻撃手段が大幅に減らされる。

「逃がさない!」

両脚に魔力を付加して脚力強化。私は確かに飛べないけど、跳ぶことは出来る。瞬時にルシルの背後に跳躍し、左サイドの剣翼6枚全てを切り捨てる。

「バカな!?」

ガシャァン!とガラスが砕けたような音とともに崩れ去る剣翼アンピエル。そのまま滞空しているルシルが激しく動揺する。当然よね。以前まで圧倒的優位に立っていたのに、今は逆転しているのだから。

「そのままだと灰になるわよ!」

――炎牙焔牢刃(アオフ・ローダーン・シュテルン)――

私の持つ炎熱系攻性術式の一撃をルシルに放つ。これは対象を炎の球体に閉じ込め、爆発的な炎の斬撃で炎球ごと斬り裂くという術式だ。

「食らいなさい・・・!」

頭上に振り上げた炎に包まれた“キルシュブリューテ”を、ルシルを覆い包む炎球へと振り下ろす。縦一閃。直後、炎熱球が大爆発を起こす。むぅ、能力値が12%ではやはり大した威力は出なかったわ。それでもSランク程度はいくだろうけど。炎を引いて地面に叩きつけられたルシル。

「我が手に携えしは確かなる幻想」

一切の揺らぎの無い声色であの詠唱を口にするルシル。私もこの程度で勝てるなんて初めから思っていない。炎の中から現れたルシルは、左拳に真っ白な光を纏わせていた。

「ヘブンズ・・・ナックル!」

左拳が突き出されると同時、光は砲撃となって放たれた。すぐさま回避行動を取り反撃しようとしたところで、ルシルが弓矢を構えているのを視認。おそらく私の逃げ道を塞ぐための範囲攻撃系の術式だと推測。

「奥義クランブル・ガスト!」

放たれたのは無数の矢。ルシルの上級術式の1つ、弓神の狩猟(コード・ウル)みたいだけれど。あれほどの脅威は感じないわね。とは言え、ウルと同様に効果範囲がデタラメに広いから回避は不可能。ならば、私に当たるものだけをこの身と刀だけで叩き落すのみよ。

「そればかりに気をとられていると、今度は君が灰となってしまうぞ!」

――シアリングソロゥ――

ルシルの頭上に発生した炎塊が弾丸となって、雨のように降り注いでくる。

「まだまだ!」

――風牙真空烈風刃(エヒト・オルカーン)――

ここで使うのが私の風嵐系最強の一撃、エヒト・オルカーン。真空の刃を複数巻き込んだ風の壁を叩きつける術式だ。この一撃が炎の弾丸を一瞬にして消滅してくれる。そして私は接近戦へ持ち込むために最接近する。

「もう距離を開けさせないわよ、ルシル!」

「なら無理矢理にでも距離を開けさせてやるまでだ!」

――終局告げる洗礼の光(デルニエール・バテム)――

私とルシルの間に光の柱が落ちてくる。だけどそんなものは無駄な抵抗に過ぎない。

「だから、無駄なことをは止めなさいと・・・」

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

「言っているでしょう!」

その光ごとルシルにダメージを与えるため、“キルシュブリューテ”を横薙ぎに振り抜く。だけど、ルシルはいつの間にか“神槍グングニル”のレプリカを手にしていて、「この程度で・・・!」私の斬撃を防いだ。決まった。この戦いは私の勝ちだわ。接近戦でならまだ私に分がある。

「くっ、まさかこんなことになるとは・・・!」
 
「もう諦めなさい、ルシル!」

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

ルシルは複製術式を発動させようとするけれど、私の術がそれを妨害する。閃光系の魔力を纏わせた一閃が、ルシルの神父服の胸元を浅く裂いた。

「っ! くそ! このままでは・・・!」

ルシルがかなり焦っているのが判る。当たり前の結果だわ。私の術式が現実に作用するまでの時間はおよそ0,004秒くらいでしょうね。大戦に参加した主力級の魔術師なら大体この程度。ルシルももちろん、そうだ。もしくはもっと速いかも。

「せいっ!」

「距離を取らなくては・・・!」

けど、ルシルは私に押されている。それは何故か。ルシルの扱っている複製術式の発動までの時間が、私の術式発動よりはるかに遅いから。ルシルはわざわざ“英知の書庫アルヴィト”や“神々の宝庫ブレイザブリク”から術式や武装を引っ張り出さないといけない。その工程は最初に詠唱、そしてアクセス、どれを使うかを選択して、最後に現実へと具現化。それが致命的なタイムロスとなって、必然的に先手を取ることになる私に遅れを取るということだ。

「もう1発!」

――凶牙月影刃(フィンダーニス・モーントズィッヒェル)――

今度は闇黒系魔力を刀身に纏わせた“キルシュブリューテ”で連撃。ルシルは「あぁ、やはり近接では分が悪い・・・!」悔しげに呟きつつ、“グングニル”で何とか捌いていく。

「ほら、もう後が無いわよ・・・!」

当然ルシルもそれに気付いている。ならどうして、自分だけの固有魔術を使わないのか。その理由は、“界律”によって制限されているからに違いない、と私は踏んでいる。ルシルの固有魔術はどれも威力や効果がハンパじゃないもの。特に彼の最強の真技は、その一撃で街の1つ、いいえ国くらいは地図上から消せるでしょうし。

(そんなふざけた威力を持つルシルの魔術を、“界律”が制限しないわけがないわ)

だからルシルは複製した武装や術式に頼るしかない。結果魔術の出が早い私が有利となる。それが近接戦ならなおさらだ。「どう? ルシル。劣勢に立たされた気分は?」皮肉気にルシルを軽く挑発。乗ってくるわけはないだろうけど、今までの仕返しよ。

「くっ、ああ、本当に嫌な気分だ。だが、まだ終わりじゃない!」

――ウンギア・スプレンドーレ――

ルシルは両手の爪から白く輝く光の刃を伸ばして、ソレを勢いよく薙いできた。私は“キルシュブリューテ”を使って光の爪を寸断、間髪入れずにルシルの胴めがけて斬撃を放つ。

「俺は負けられないんだ! あの子たちのためにも、ここで終わるわけには!」

ルシルは咄嗟に身を引きそれを躱す。それにしてもおかしいわね。ルシルがあまりにも必死すぎるのよね。以前のルシルなら、負けをちゃんと潔く受け止めるはずなのだけど。

「天の風琴が奏で流れ落ちるその旋律、凄惨にして蒼古なる雷・・・!」

「呪文!? 詠唱による術式発動!」

詠唱から発動する術式は、魔術においては儀式魔術として見られる。その効果はまず高い。魔術で無いとしても、詠唱で術式効果を高めるそのルールが適用されるなら、かなりまずい攻撃が来るはず。

「喰らえ!」

――ブルーティッシュボルト――

地に現れた円陣から出でるは、紫色の雷で構成された無数の龍。

「まずい! 目醒めよ、キルシュブリューテ!」

ルシルに接近し過ぎていたのがまずかったわね。すでに目と鼻の先に暴力の塊がいる。雷龍を躱すことも、防ぐことも、相殺することも出来ないと瞬時に判断した私は、“断刀キルシュブリューテ”の誇る能力を発動させた。
刃物には少なくとも“切る”や“刺す”といった概念が備わっている。そして私の“キルシュブリューテ”は特にその概念が強い刀だ。それゆえに本来の能力を発動した“断刀キルシュブリューテ”は、その能力を超える神秘・幻想でなければその全てを切り裂くことが出来る。

「はぁぁぁぁーーーーっ!」

本来であれば、能力の完全発動に必要な魔力は最低でSSSランクはないといけない。だけど、今の私はせいぜいAAAランクあれば良いくらい。だから完全解放ではなく、ほんの数秒間だけ解放する瞬間解放を行った。

「散れぇぇぇぇーーーー!」

一心不乱に“キルシュブリューテ”を振い続け、「潰してやったわ・・・!・」迫りくる雷龍全てを斬り裂き終えた。私は疲労で落ちそうになる意識をギリギリ保ちながらもルシルを見据える。

「はぁはぁはぁ・・つ、疲れた~、もう十分でしょうルシル?」

†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††

私とフェイトちゃん、それにユーノ君とアルフさんもだ。みんながシャルちゃんとゼフィちゃんの戦いを見て、その動きを完全に止めていた。目まぐるしく放たれ続ける魔術の応酬。特にゼフィちゃんの魔術はどれもこれも派手で、不謹慎だけど綺麗だなぁって思った。

「す、すごい。これが魔術師の、本当の戦い・・・!」

フェイトちゃんが呟く。私だって声が出ないほど驚いている。ユーノ君とアルフさんなんて目を点にしているうえに口が開きっぱなしだ。シャルちゃんがあんなに強かったなんて知らなかった。シャルちゃんとゼフィちゃんが何か話してるようだけど、ここまでは聞こえてこない。

「・・・いけないっ!」

いち早く立ち直ったフェイトちゃんが“ジュエルシード”を封印しようとする。私もそれに続いて“レイジングハート”を“ジュエルシード”に向かって突き出す。“レイジングハート”とフェイトちゃんのデバイスが“ジュエルシード”を挟んで衝突する。そうしたら“ジュエルシード”からすごい光と衝撃が放たれて、「え・・・!?」私とフェイトちゃんはまともに衝撃を受けて吹き飛ばされちゃった。

「なのは!?」

「フェイト!?」

私たちを心配するユーノ君とアルフさんの叫び声が、真っ白に染まる視界の中で聞こえた。

†††Sideなのは⇒ルシリオン†††

「なに!?」

「ちょ、ちょっと、これはどういうことなの!?」

シャルとの戦いに没頭しすぎていた所為で、“ジュエルシード”の状態まで気が回らなかった。フェイトとなのはのデバイスが“ジュエルシード”を挟むように衝突したことによって、“ジュエルシード”が2人の魔力に反応して暴走状態になってしまったようだ。

「まずい・・・これってもしかして、私たちの使った魔力にも原因があるんじゃないの!?」

シャルが俺たちにも原因があるかもって言っているが、確かにそうだろう。せっかく“ジュエルシード”を休眠状態に戻していた。だというのに、俺たちがデタラメな力を使ったことで暴走寸前までになってしまったのだ。最終的な暴走の引き金となったのはデバイスとの衝突にあるだろうが、もとはと言えば俺たちが大本の原因だ。

「ダメ! 今の私じゃ手が出せないわ!」

シャルは打ち止めのようだ。が、俺には手がある。しかし能力値、特に魔力の制限が酷いため、今の状態でアレを使ったら俺はどうなってしまうのか判らない。この状況を打破する複製術式使用後の自分の姿を想像する。酷い結果しか想像できない。

(下手すれば死ぬかもしれないよな・・・)

それでもやらなければとんでもない被害が出てしまう。悩んでいる暇もないし、仕方がない、やってやるか。まずはフェイトが暴走する“ジュエルシード”に突っ込もうとするのを止めないとな。

『フェイトっ! 俺がジュエルシードを停止させる! 停止を確認後、すぐに封印に移ってくれ!!』

『え!? でもルシル、どうやって!?』

「我が手に携えしは友が誇りし至高の幻想・・・!」

俺はフェイトに答えず、“アルヴィト”よりある術式を発動させる。あぁ、これはまずい。身体と精神が悲鳴を上げている。当然だ。今、俺に扱える魔力はせいぜいAA+ランク。この術式の発動に必要な魔力はXXXランク。圧倒的に足りていない。

(今更やめられるわけがないだろう・・・!)

俺たち魔術師は本来、体内で生成された魔力と、体外から取り入れた魔力を“魔力炉(システム)”で融合させてから発動に必要な分だけを使用する。だが、この世界ではそれが上手くいかない。
これこそ“界律”が、“テスタメント”としてではなく、魔術師としての俺たちに強いている最大の制限だ。
だから必然的に魔力不足となってしまう。それ以前にSランク以上の複製術式の使用は制限されている。それを無理やり使用するから、身体的なペナルティが発生するだろう。しかし今はそんな泣き言は言ってられない。意識を保てる間に終わらせなければ・・・。力を借りるぞ、アリス。

「結界王アリスの名に基づき具現せよ、一方通行(サンダルフォン)の聖域!」


・―・―・シャル先生の魔術講座・―・―・


シャル
「ようこそいらっしゃい。第3回シャル先生の魔術講座へ。
今回は残念だけど、私とユーノで進ませてもらうわ。だって、なのはってば大変なんだから」

ユーノ
「残念、って言われるとちょっとショックだよ、シャル」

シャル
「あ、ごめん。言葉のあやだから、そう落ち込まないで。別に、ユーノじゃなくてなのはを出せよ、みたいなクレームへの先手なわけじゃないから」

ユーノ
「それが本音っぽくてさらに僕の心情がどん底へ急降下だよ。確かになのはは女の子で可愛いし、僕みたいなフェレットじゃ面白くないかもしれないけど」

シャル
「ユーノが自虐モードに入ってしまったから、さっさと本題に入るわ。

――炎牙焔牢刃(アオフ・ローダーン・シュテルン)――

――風牙真空烈風刃(エヒト・オルカーン)――

――光牙月閃刃(シャイン・モーントズィッヒェル)――

――凶牙月影刃(フィンダーニス・モーントズィッヒェル)――

今回はこの4つの魔術を使用したの。
まずは、炎牙焔牢刃アオフ・ローダーン・シュテルンね。
作中にも説明していたけど、対象を炎の球体に閉じ込めて、その上から炎の斬撃を一閃。その衝撃で炎熱球は爆発を起こして追加ダメージ、というわけ。
アオフ・ローダーンは燃え上がる。シュテルンは星、という意味よ」

ユーノ
「閉じ込められちゃったら逃げ場なしになるんだね。これは結構危険な魔術なんじゃないかな」

シャル
「続いては、風牙真空烈風刃エヒト・オルカーン。
真空刃と烈風刃の合成バージョンと言ったところかしら。風圧の風である烈風刃の中にいくつもの真空刃を巻き込んで、ある種の砲撃とするのがコレ。
エヒトは真の、オルカーンはハリケーン・大暴風という意味ね」

ユーノ
「烈風刃と真空刃、単独でも十分な威力なんだし、それを一緒にしたらどれだけ強くなるんだ?」

シャル
「んー、落ちてくる炎の雨が吹っ飛んで行ってしまう程ね。
次は、光牙月閃刃シャイン・モーントズィッヒェル。
これは単純な魔力付加攻撃ね。閃光系と呼ばれる属性の魔力を纏わせての一閃。ただそれだけよ。シャインは光。モーントズィッヒェルは三日月という意味になるわ」

ユーノ
「シャル。属性って単語を出すのはフライングだよ?」

シャル
「仕方ないじゃない。説明するには必要な魔術ワードなんだから。
最後に、光牙月閃刃と同種の術式、凶牙月影刃フィンダーニス・モーントズィッヒェル。
後々に出てくる属性において、闇黒系の魔力を刀身に纏わせての一閃、という攻撃よ。
フィーンダーニスは闇。モーントズィッヒェルは既出だから省略するわ」

ユーノ
「また言っちゃった」

シャル
「文句があるなら、もう来なくて結構ですっ!」

ユーノ
「え? えええええええええええっ!!?」

シャル
「れっぷ~~~じ~~~ん!」

ユーノ
「な~のはぁぁぁぁ~~~~~~!」
 
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