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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第二章 呪印という花を君に捧ぐ。
  ナルト


 【   ドス・キヌタ
       VS
   うずまき ナルト  】

「来たあ来たあ来たぁあ! お待たせしました、やっと俺の出番だってばよ!!」

 ――死の森で戦った音忍の一人ね……リーダー格のあいつだわ
 ゆらゆらと揺れるような歩き方でドスが会場に下りるのを見据えながら、いのとサクラは顔を見合わせ険しい顔になる。
 ――その成長ぶり、見せてもらうぞ、ナルト
 カカシは思いながら、ハイテンションなナルトを静かに眺めた。音の三人のうち最後の一人――ドス・キヌタ。彼とナルトがどう戦うのか見ものだ。

「頑張ってね、ナルト! あいつは右腕に取り付けたもので音を利用した攻撃をしてくる……気をつけてね」
「任せとけってばよ!」

 ナルトは死の森でのあの戦闘中寝ていた為にドスの戦い方やその武器、その術についてはあまりわかっていないだろう。その術を受けたカブトが吐いたのは知っていても、同じくその術を受けたリー、はじめ、マナがどうなったかは知らないはずだ。耳から血を流し、胃の中のものを吐き出して地面に横たわる彼らを思い浮かべて、サクラはぐっと唇をかみ締めた。

「ああ、あいつ……やっべーなナルト」

 マナが呟いてうーんと伸びをした。今では九班も、中忍試験に残ったのマナ一人である。見たところ残っているのは砂の我愛羅、犬塚キバにロック・リーと日向ネジ、それから日向ヒナタだ。
 ――体術先輩ズはだめ。絶対だめ。剛拳による整形手術か柔拳による点穴破壊の二択とかムリムリムリ。アタシ体術スキルゼロだし
 ――我愛羅……こいつの実力はわかんねーけど、わかんないからあんまりあたりたくねーな。まあそんな贅沢言ってる場合じゃねえだろうけど、とりあえず一通り戦ってから判断しよっと
 ――で、キバにヒナタ……くっそ、キバにはぜってー負けねー! 紅丸と赤丸、どっちが強いのか勝負だ! そんでヒナタは……まあ、なんとかなるだろ。少なくともネジ先輩ほどの即棄権物件じゃない
 そうこう考えているうちに、下では準備が整っていた。ゆらゆらと揺れるような歩き方のドスが、自信に満ちたように鼻息を噴くナルトと向かい合う。

「けほ、――では、第七回戦、開始」
「先手必勝、だってばよ!!」

 ハヤテが言い終えたか終えていないかのうちに、ナルトはもう勢いよく飛び出していた。投擲された三本のクナイを、ドスが右腕にとりつけた機械――響鳴穿で防いだ。左手でクナイを投擲する。ナルトが咄嗟に飛び上がってそれを避けたが、それはただの目くらまし。
飛び上がったナルトの上空を飛んで、破竹の勢いで響鳴穿を振るう。チャクラで音の向きをコントロールして直接ナルトの耳をうがった。

「ここまでですか? あっけないですね!」

 ナルトがばたりと地面に倒れて動けなくなる。しかし瞬間背後から殺意を感じ取り、ドスは咄嗟に体をかがめた。九本のクナイがドスの体の真上を通過する。

「なるほど、これは影分身なんですね……!」

 背後にたつ三人のナルトを一瞥して、ドスは呟いた。正面に倒れるナルトが煙を巻き上げて消える。

「それだけじゃないってばよ! 多重影分身の術!」
 
 ナルトが一気に会場を埋め尽くすまでに増えた。これではどれが本物なのか判別できない。これほどまでに大量の影分身を生み出せるチャクラ量に感嘆しながら、ドスは脳内の情報の整理にかかった。
 ドスは博識な少年であり、影分身というのがどういうものなのか理解していた。影分身と分身の差異は、影分身は消えた時に経験したことを本人に還元できること。経験値をためるのなら修行にはもってこいの術だが、相対的に疲労や痛みなどの体験も本体に跳ね返ってくる。
 そしてこのような多重影分身とドスの術の相性は相当いい。ドスの攻撃は音によるもので、広範囲への攻撃も可能だ。チャクラを使って音の方向を制御できるというのもドスにとっては有利である。

「ぼっこぼこの――」
「ばっきばきの――」
「ぐっちゃぐちゃの――」
「こてんぱんに――」
「してやるってばよ!!」

 ナルトの影分身たちは口々にそんなことを口にしながら、ドスの方へと飛び掛っていく。ドスの姿はナルトの衣服のオレンジに埋め尽くされ、全く見えなくなった。

「やった!」

 ヒナタが顔を輝かせて身を乗り出す。しかしそれを否定したのはシノだった。

「いや――やられた、な」
「え?」

 影分身が一人また一人と消え始めた。ナルト影分身の網の中にドスはいない。自分に変化したのだ、とナルトはそう結論を下した。一人のナルトがもう一人を殴り、一人が消える。ナルトたちは変化されたことに気づいたのだろう、ざわざわと喋りだし、仕舞いに互いを殴り始めた。

「お前ニセモノだろ!」
「そういうお前こそそうなんだろ!」
「ちげーよ、俺じゃねえって!」
「そういう奴ほど怪しいってばよ!」
「おい、やめろよ!」

 騒ぎながら殴りあうナルトに満足しながら、ドスも相手をタコ殴りにすることに徹した。本来は音の攻撃で一掃してしまおうと思ったのだが、この方が自分には逆に都合がいい。殴られたナルトの疲れと痛みは経験として術者に反映されるはずで、殴り合いが長く続けば続くほどいい。そして残った本物に音の攻撃を使えばいいだけのことだ。

「このままじゃ相手の思う壺だわ……!」

 警戒した表情になるサクラをよそに、ナルトたちの数は目に見えて減っていく。やがてナルトは二人になった。どちらかが本物のナルトで、もう一方はドスの変化であるはずだ。

「どっち……どっちがナルトなの?」
「びゃ、白眼を使えばっ」
「白眼使ったってナルトに教えちゃあ流石にルール違反だぜ、ヒナタ」

 サクラが双方に警戒した視線を投げかける。慌てた顔で意気込むヒナタを、三班の隣でため息をつきながらマナが制した。ヒナタの顔がぱっと赤らむ。ネジがそんなヒナタを見て軽蔑したように鼻を鳴らし、ガイは日向が絡むとすぐ感情的になる弟子を眺めてため息をついた。
 ついにナルトは、二人だけになった。

「やい、お前! 俺に変化して俺たちを混乱させてたのはお前だな!?」
「演技したって無駄だぞ! てめーが俺じゃないってのは、俺が一番よく知っているんだからな!」

 双方がクナイ片手にぶつかった。一方のナルトの頬をクナイが掠り、血が流れる。しかしもう一方のナルトは――煙を巻き上げて、消えた。
 
「なッ」
「――ナルト!」

 サクラが叫ぶのと同時に、上方からもう一人のナルトが降下してきた。首の根元をクナイでさされそうになったが、間一髪避ける。煙を巻き上げてその、ナルトにしては妙に残忍で理知的な顔をしたナルトが、変化をといてドスの姿に戻った。

「さあ……これで終わらせちゃいましょう!」
「ナルトくん!」
「くううん……」

――これをまともに食らったら、やべえ……!
――赤丸が警戒してる……こいつも多分相当の実力者だ。ドベのナルトにゃあ無理だよ……!
――ナルトくん……
――大丈夫、ナルトなら出来るわ。なんたって意外性ナンバーワンの忍者だもの!
――かかってからじゃもう遅い。さあどうする、ナルト

 ナルトの、ドスのほぼ未知数に近い術へ対する焦燥。キバの、ナルトはきっと負けるだろうという判断。ヒナタの、窮地に立たされたナルトへの不安と、サクラのナルトとの絆とナルトへの信頼。そしてマナの、面白がるような声。それぞれの思惑が交わる。ナルトが下した判断は、

「影分身の術!」

 ドスの音の攻撃を、己の影分身を盾に直接受けないようにする。カブトが見切ったはずなのにダメージを受けたことをナルトはちゃんと覚えていたし、もし今回カブトが辞退を申し出た理由が本物ならば、彼は五日間の間ずっとダメージがひかなかったということにもなり、つまりこれは見切ったとしてもなんらかの術によってダメージを与えられたりする上に、持続性の高い術であるということでもある。
ナルトもマナもドベとは言えど決して頭が悪いわけではない。マナはシカマルやサクラほどでもなくとも、賢い方ではある。はじめを博識とするのなら、マナは賢い、というべきだろう。そしてナルトはマナほど賢いわけでも、はじめほど博識なわけでもないが、これくらいの推論なら彼にも出来る。

「多重影分身の術!」

 術によって更に大量の影分身を生み出し、ドスを取り囲む。先ほどのようにいっきに押し寄せてはまた同じ目にあう。今回は出来るだけ距離をとって、クナイや手裏剣を使用した一斉攻撃をしたほうがいいだろう。

「馬鹿の一つ覚えですか! モルモットなみの知能ですね!」

 響鳴穿でクナイや手裏剣を弾き飛ばし、左手にクナイを握って襲い掛かる。さっと咄嗟に本体を守ろうとする動きを見せた影分身たちに向かい、ドスは左手に隠し持っていた煙球を投擲した。
 爆発、と同時に紫の煙が立ち込める。

「どこだ!?」
「どこにいるってばよ!?」
「何も見えねえ……!」

 騒ぎ出す影分身たちにヒナタは戸惑ったように、

「でも、これなら相手も見えないはずじゃ……?」

 と呟いた。

「いや、相手が見えないとしても何か長ったらしい印を組むんならそれで十分だろうよ。――それに、あいつは音を扱う忍者だ。ひょっとしたら音だけでもナルトの位置を特定できるかもしれねえ」

 ヒナタの言葉を否定しつつ、マナは紅丸の背に手を乗せた。紅丸なら臭いでドスの位置を特定できるはずだ――残念なことにマナは紅丸の言葉を解さないから、紅丸がドスの位置を特定できても彼女にはどこにいるのか全くちんぷんかんぷんであろうが。
 またマナの言うとおり、ドスは音だけでもナルトの位置が特定できた。ドスたち音忍は、第一試験のカンニングでさえその音の高低などからどのような字を書いているかを特定するほどに音に対して敏感だ。 

「そこだッ!」

 ガッ、と響鳴穿に殴られたナルトの体が地面を滑った。そのナルトを左手で掴み上げ、そしてドスは、軽く右腕を揺らして見せた。
 きぃん、と、人間にはとても聞こえない甲高い音が鳴り響き、そしてその音はドスのチャクラの示す方向を辿り、その耳を貫いた。

「ぐあぁあッ!?」

 つう、とその耳から血が滴り、ナルトの体が地面へ投げ出される。それは影分身だったので煙を巻き上げて消えたが、しかしナルト本体の耳が僅かに痛んだ。
 キィイイイン、と人間には聞こえない甲高い音が空気を揺らし、鼓膜を突き破らんとした。その音に思わずそろって耳を塞ぐ。その隙をついて投擲されたクナイについていた起爆札が爆発し、影分身が一人残らず消えた。爆発に吹き飛ばされた本体を追ってドスは飛び上がり、その胸倉を掴むと、右腕を思い切りその顔に振り下ろした。ナルトの鼻から血が垂れ、そして音の攻撃に晒された耳からも血が垂れる。そんなナルトを地面に振り落とし、更に勢いをつけてその上に落下すると、ナルトの口から血が流れた。

「七つの穴から血を流すと、昔誰かがそんな言葉を言っていたように思いますが、どうします? 目からも血を流したいのなら、喜んでクナイをその目に突き刺しますが。ワタリガラスは目玉が好きだそうですので、場合によっては彼らに食わせるのもいいかもしれませんねえ――?」

 くつくつと残酷に笑うドスを、口からも鼻からも耳からも血を流しながらナルトが睨みつけた。
 ――もうムリだ! ナルトが、ドベのナルトがこんな奴に勝てるわけねえ……!
 キバは顔を青くしてナルトを見下ろした。最初からわかってたんだ、彼は思った、ナルトなんかがこいつに勝てるわけねえ。
 視界は歪み、ドスの体は波打つように揺れ、試験官のハヤテも、ガイとハッカが目指そうとした、東を面した手の像も、全てが波打つように、陽炎のように揺れ動いていた。ドスの声はくぐもって聞き取りにくくなり、何を言っているのかは全く理解できなかったが、多分いいことを言ってるのではない、ということはわかった。あと、「ワタリガラスは目玉がすき」という言葉だけはちゃんと聞き取れた。

「くっそお!」

 偶々眼前に落ちていたクナイを拾い、ドスに向かって構える。ドスはくくっと更に笑い声をこぼし、ホルスターを取り上げると、その中のクナイや手裏剣を全部地面に向かってばらまけた。

「さあ、やってみてください。これら全部の一つでも僕にあてられるか、試してみてくださいよ!」

 言いながらドスは、ナルトから距離を取った。背中はズキズキと痛むし、顔はドスの一撃を受けて真っ赤に晴れ上がっていたし、口の中には自分の吐いた血と鼻血の味が混ざり合って鉄くさかったし、耳から流れる血は不快だったし、何より目の前の光景はぐわんぐわんと波うち揺れ動き、どこからか聞こえるサクラの声らしきものもよく聞き取れなかった。
 そんなナルトの為にドスはわざわざ一言一句、ゆっくりハッキリ発音してくれたのだろう。意味はよくわかった。ふらふらしながらナルトはクナイを掴んで、波打つドスの姿に向かって投擲した。ドスがそれを弾き飛ばしたけれど、多くは彼が弾き飛ばすまでもなく地面に零れ落ちた。ナルトはクナイを掴み、ドスに飛びかかった。

「――動かないほうがいいのに」

 そう言ってドスが飛び上がると、ナルトは壁に激突して、ふらふらと後退した。気配を感じて振り返るのと同時、ドスの腕が強烈な勢いを以ってナルトを殴り倒す。ぐったりと前のめりに倒れるナルトを見据え、はあ、とドスは溜息をついた。

「どうせならサスケくんと戦ってみたかった」

 その何気ない一言に、ナルトの指がぴくん、と反応した。サスケ。サスケ。サスケ。
 思い返せば皆サスケサスケサスケのサスケ祭りだった。
 数週前に道端で我愛羅、テマリ、カンクロウの三人に出会えば、我愛羅が知りたがったのはサスケの名前だし。試験の始まった当日、ネジが話しかけたのはやっぱりサスケだし。いのとサクラが喧嘩してた理由も、サスケだし。あの草忍の目当ては、やっぱりサスケだし。こいつもやっぱ、サスケサスケうるさいし。

「うっせえ……ッ」

 ナルトは這って進み、そしてドスの足を掴み、思い切り引っ張った。ドスが転倒する。ふらふらしながら立ち上がり、ナルトはドスを蹴っ飛ばして地面に転がすと、その両手を押さえつけ、その顔に血の入り混じった唾を飛ばさん勢いで叫んだ。

「俺は! サスケより強くなる! ここにいる誰よりもずっと、強くなるんだ! 俺は火影になる男だ!」

 ドスは目を細めて、ナルトを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたナルトが地面を吹っ飛び、その間にドスは立ち上がってクナイを構えた。ナルトがふらふらと立ち上がる。

「火影になる男、それを僕に話してなんになるんです? なれるといいですね、とでも祝福されたいですか?」

 ドスが問いかける。ナルトは答えなかった。
 ――俺は、お前とも戦いたい――
 ――こんなところで負けたら、男が廃るってこと! サスケくんに会わす顔ないわよ?――
 ――サスケェエエ! てめーはそれでも、うちはサスケかァアあ!? ダッセー姿見せてんじゃねえ! しっかりやりやがれェエ!!――

「こんなところで負けたら、男が廃る……サスケに会わす顔もなくなる!!」
「――ナルト」

 それが自分の言葉の引用だと知って、サクラは芽を見開いた。

「サスケは、俺とも戦いたいって、そう言ってくれた! 俺はアイツにダッセー姿見せんじゃねえって、そう言った!」

 だから、とナルトは続けた。

「サクラちゃんとカカシ先生に、後になって、うずまきナルトはダッセー姿晒して倒れたってサスケに伝えさせるわけにゃあいかねえ!」

 ナルトは走り出した。足がふらふらして足取りは覚束ない。真っ赤な血が口から、鼻から、耳から流れ、顎から滴りおち、地面にぽつぽつと血の染みを残す。

「俺がダッセー姿見せるわけにゃ、いかねえんだ――!」

 ――多重影分身の術!!
 一瞬に現れたたくさんのナルト。ドスはそれを、響鳴穿とクナイと手裏剣で片付けていく。それでもナルトは負けない。あの沢山の影分身たちは、ただの目くらまし。中に隠れて“作戦”を、かつてサスケと使ったあの“作戦”をドスに気づかれず実行するためだけの。

「ナルト流・風魔手裏剣!」

 飛び上がったナルトをもう一人のナルトが受けとめ、飛び上がったナルトが一瞬にして風魔手裏剣の、巨大な手裏剣の形態を取る。ナルトは波うち揺らめくドスの姿に向かって風魔手裏剣を投擲した。ドスがそれを回避する。けれどその風魔手裏剣の影には、もう一枚の風魔手裏剣が隠れていた。

「――あれは!」

 ――波の国で、再不斬に使った……!?
 カカシの脳内で当時の様子がリピートする。水牢に閉じ込められたカカシがどんなに逃げろと叫んでも、彼らは決して逃げようとはしなかった。勇猛果敢に立ち向かってきた。そしてその中で、ナルトはサスケと一緒に今のと同じ連携攻撃をしようし、だからカカシは隙をついて水牢を破ることが出来たのだ。ライバル視しあっていた二人が初めて力を合わせた、作戦だった。 
 影になっていた風魔手裏剣はドスの傍を通り過ぎていった。けれどその直ぐ近くで、元々投擲された一枚目の風魔手裏剣がナルトの形態に戻り、影になっていた風魔手裏剣を掴み、そしてそれを至近距離でドスに向かって投擲した。咄嗟に致命傷は庇おうとするものの、ドスの体は大きく吹っ飛んで地面に転がった。しかも、誰かの戦闘かで割れたらしい地面の亀裂に頭を強打したものだから、かなり痛かったし、多分血が出るんじゃないかとドスは他人事のように思った。しかしナルトもうまく着地できずに、頭から地面にぶつかってしまった。

「ぐッ……やりますね……さすがあのサスケくんのチームメイトということはある……! うッ」

 風魔手裏剣を抜き取って地面に投げ捨てる。相当頭を打ったらしい、触ってみると、血がべったりとついていた。会場の向こう側で白い目の医療忍者が今すぐにでもこっちにきて傷を治療したくてたまらないといった様子でオロオロしている。

「でも、これで……最後だ……ッ!?」

 ナルトにとどめをさそうとクナイを持って駆け出そうとした矢先、またもや足を引っ張られてドスは転倒した。さきほど怪我した場所を打ち付けてしまい、ドスはうめき声をあげた。見ると頭から地面にぶつかって昏倒していたはずのナルトは眼前で煙を巻き上げて消えてしまった。影分身!? と戸惑いながらドスは振り返った。ナルトがにたりとしながら自分の足を掴んでいる。

「……あの風魔手裏剣は、君の変化、でした、ね」

 ズキンズキンと痛む頭に顔を顰めながらドスはナルトを振り返る。へへ、とナルトは笑った。腕を見ると、太めの血管を切ってしまったらしい、出血量が夥しい。頭の血はあっというまに自分の額宛ての布さえ赤く染めてしまった。くらっと気が遠くなる。目がなんどか落ちそうになった。ナルトが立ち上がって、クナイを握り締めた。ドスは立とうとしたが、血で手を滑らせてしまった。痛い。

「――そこまで!」

 不意に聞こえた試験官の声に、ドスの意識は数秒だけ現実にひきもどされた。だがそれも一瞬のことだ。目の前がくらくらして、ドスはまた意識を手放しそうになる。

「これ以上の試合は私がとめます。よって、勝者うずまきナルト」
「――!」

 ナルトが息を呑むのが聞こえた。そしてナルトが歓声をあげるのよりも早く、サクラとかいうあの桜色の髪の少女が、嬉しそうな歓声をあげた。

「やった! やったわ! ナルト、あんた勝ったんだわ! 音の忍びに、勝ったのよ」

 ――マジ、かよ?
 顔を明るくさせるヒナタの横、キバは信じられないものを見るような顔つきでナルトを見た。ドベのナルトが。いつも先生に怒られてばっかりで、アカデミー三年目になっても変化の術ひとつろくに出来なかったナルトが、この強い音忍に、勝った?
 ナルトは数秒信じられずに立ちつくしていたが、次々にかけられる祝福の言葉にナルトはそれが現実だと実感し、叫んだ。

「いいいいやったあああああ!! サクラちゃーん! カカシせんせー! 俺ってば、俺ってば勝った! 勝ったってばよ!」

 歓声を上げるナルトの声がどんどん遠くなっていく気がする。不意に頭と腕の方を、びりっと痺れるような感覚が襲った。治療されてるんだな、と悟る。ドスはザクやキンを思い浮かべて、そしてそんな彼らと自分を捨て駒としか思っていない大蛇丸を思って、「僕、死ぬんですか?」と何気なく聞いた。「死ぬかもしれませんね」と白い瞳の医療忍者は答えた。

「血管をざっくりやられちゃったし、頭もすっごい打っちゃいましたしね。出血多量で死ぬかもしれない、下手したら。まあこの私が、この日向ヒルマがいる限りそんなことは絶対にありえませんが――もし私より下手な医療忍者だったら君を出血多量で死なせてしまっていたことでしょうね」
「……そんなにひどいんですか?」
「そんなにひどいって何いってるんですか? ぶっとい動脈を切っといて。しかも白眼で見たところ、切れてる血管はそれだけじゃない。まあ、あんな逆転勝利が納得できるような激しい攻撃ではありましたね。しかも血がでるまで頭を打つだなんて。……ああ、ヨロイさんとサスケくんの戦闘で出来た地面の亀裂のところに頭を打ち付けたんですね。それは痛い。破片が頭に食い込んでいなくてよかったですね」
「……よくしゃべるんですね、あなた」
「ええ、よく言われますよ。お前は鴉みたいにやかましいってね」
「僕、負けましたね」
「報告されずともよくわかっていますよ。見事な逆転勝利でしたね。貴方ならきっと火影になりますと祝福してあげてはいかがでしょう?」
「皮肉りますね。……いいでしょう。また彼と会う機会があったら、そう祝福しましょう」

 歓声をあげる金髪の少年を眺めながら、火影になる男だと、そう名乗った少年を眺めながら、ドスの意識は闇へと沈んだ。 
 

 
後書き
移転する前までに書き溜めていた分はここまでなので、これからはゆったりのろのろ亀ペースの更新になるかと思われ。 
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