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箱庭に流れる旋律

作者:biwanosin
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歌い手と笛吹き、出会う

「な、何!?」
「白夜叉さん!?」

 読み終わるとほぼ同時に白夜叉さんを閉じ込めるように黒い風が吹き荒れた。
 どうにか引きずり出せないかと手を伸ばしてみるも、黒い風は僕の手を弾く。

「何、この風・・・」
「気をつけろ、奏!」
「へ?・・・うわっ!」

 少し悩んでいたら、バルコニーで黒い風が発生し、僕たちを押し出した。

「きゃ!」
「リリちゃん、こっち!」

 僕はとっさに空中でリリちゃんを確保し、ギフトカードから多鋭剣を少し多めにだし、『剣の舞』を歌ってその上に乗る。
 最近、『剣の舞』の便利さに頼ってしまう傾向にある。

「ふう・・・助かった・・・リリちゃんは大丈夫?」
「はい、ありがとうございました」

 ぱっと見た感じも大丈夫そうなので、僕はリリちゃんを下ろしてみんなの元に向かう。

「奏さん!ご無事ですか!?」
「僕たちはなんともない!それより、この状況は・・・」
「魔王が現れた。・・・そう言うことでいいんだな?」
「はい」

 十六夜君の質問に、黒ウサギさんは短くそう答えた。
 舞台にいた観客の人たちも慌てて逃げているので、間違いないのだろう。

「でも、白夜叉さんの“主催者権限”は?あれがある以上、“主催者権限”は使えないはずじゃあ・・・」
「そちらについては分かりませんが、黒ウサギがジャッジマスターを務めている以上・・・」
「ごまかしは効かない、か。なら、連中はルールに則った上でゲーム盤に現れてる・・・ハハ、流石は本物の魔王様だ。期待を裏切らねえ」

 期待って・・・まあ、眼は笑ってないからいいか。

「どうするの?此処で迎え撃つ?」
「それが得策だろう。だが、全員で迎え撃つのは具合が悪い。いくつか気がかりな点もあるしな」
「確かに、“サラマンドラ”の人達は観客席の方向に飛んで行ったし、白夜叉さんのこともあるからね・・・白夜叉さんのところには僕が行くよ」

 僕は魔王側のプレイヤーと戦えるだけの力がない。
 でも、いざとなったら歌を使えば逃げるくらいのことはできるし、運よく該当する歌があれば白夜叉さんを解放できるかもしれない。

「それがいいでしょう。念のために、ジン坊ちゃん達も奏さんと一緒に行ってください」
「で、黒ウサギはサンドラの安否を確認。俺とレティシアは魔王様にご挨拶、ってところか?」
「うん、それでいこう。春日部さん、運んでもらっても?」
「分かった」

 僕たち三人は春日部さんにバルコニーまで運んでもらい、白夜叉さんに話を聞きに向かった。



♪♪♪



「白夜叉さん、そちらの様子はどうですか?」
「ああ、奏か。すまんが、よく分からん。おんしらの持っている“契約書類”には何か書いておらんか?」

 僕は白夜叉さんとの接触を絶っている黒い風に触れ、“音響操作”で音を伝えてクリアな会話をしている。

「ジン君、“契約書類”には何か書いてない?」
「少し待ってください・・・出ました!」

 ジン君に契約書類を見せてもらうと、そこには次のように書かれていたので、そのまま白夜叉さんに伝える。

『*ゲーム参戦諸事項*
      ・現在、プレイヤー側ゲームマスターの参戦条件がクリアされていません(・・・・・・・・・・・・・・・)
       ゲームマスターの参戦を望む場合、参戦条件をクリアしてください。』

「以上です。これ以上は何も記されていません」
「チッ・・・よいかおんしら!今から言うことを一字一句間違えずに黒ウサギに伝えろ!おんしらの不手際はそのまま、参加者の死に繫がるものと思え!」

 白夜叉さんは、普段のセクハラとかをしているときとは全然違う、緊迫した声を出している。
 今は、それほどの非常事態なのだ。

「第一に、このゲームはルール作成段階で故意に説明不備を行っている可能性がある(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)!これは一部の魔王が使う一手だ!最悪の場合、このゲームはクリア方法がない(・・・・・・・・・・・・・・)!」
「なっ・・・!」
「次は?」

 飛鳥さんが言葉を失っているが、そんな暇はないので次を促す。

「第二に、この魔王は新興のコミュニティである可能性が高い!」
「了解。次は?」

 判断材料などを聞きたいところではあるが、間違いなくそんな暇はない。
 いつ、魔王側のプレイヤーが来るか・・・

「第三に、私を封印した方法は恐らく、」
「はぁい、そこまでよ♪」

 そして、僕の懸念は当たった。
 声のしたほうを振り返ると、そこには露出度の高い白装束を着た、耳の長い女性がいた。
 そして、その後ろには“サラマンドラ”の火蜥蜴が三匹。

「あら、本当に封じられてるじゃない♪最強のフロアマスターもこうなっては形無しねえ!」
「おのれ・・・!“サラマンドラ”の連中に何をした!?」
「そんなの秘密に決まってるじゃない。封印に成功したとしても、あなたに情報を明かすほど奢っては」
「“音楽シリーズ”、ですよね?」

 僕が会話を遮ってそう言うと、火蜥蜴の方たち以外が驚いたようにこっちを見る。

「奏、それは間違いないのか?」
「多分、間違いありません。自分のギフトですから、これくらいのことが出来るのは分かりますし・・・何より、この人は会話をしながらも小さく口笛で音楽を奏でていますから」
「へえ・・・やっぱり、耳がいいのね」

 ラッテンさんは表情を面白そうなものに変え、会話を始める。

「まあ、魔笛の効果があるから吹き続ける必要はないのだけれど。
 初めまして。私は“音楽シリーズ”、“笛吹き”のギフト保持者、“グリムグリモワール・ハーメルン”所属の、“ハーメルンの笛吹き”、ラッテンよ」
「自己紹介、ありがとうございます。僕は“音楽シリーズ”、“歌い手”のギフト保持者、“ノーネーム”所属の、“奇跡の歌い手”、天歌奏です」

 僕の自己紹介を聞くと、ラッテンさんは嬉しそうな顔になる。

「歌ってたから予想はしてたけど、やっぱり“奇跡の歌い手”なのね♪ついてるわ、私!」
「どういうことですか?僕は他の“音楽シリーズ”と違って、どんな状況でもギフトが使えますよ?」

 僕は少しでも状況を有利なものにしようと、強気に出る。

「別に、それくらいはどの“音楽シリーズ”でも大差ないもの。それよりも、貴女が歌い手で、今回の目的だってことのほうが重要よ」
「僕なんかがですか。光栄なことですね」

 そして、タイミングをうかがう。
 他の皆も、僕に合わせて動けるようにと準備をしてくれている。

「貴方はもう少し、自分の立場を考えたほうがいいわよ」
「自覚はしているつもりですよ。自分がたいしたことないくらい」
「やっぱり、自覚してないわね。今このゲームに参加してる中では一番の、白夜叉にも並ぶ脅威なのよ、“音楽シリーズ”歌い手のギフト保持者は」

 ラッテンさんは、本気で呆れたように両手を上げ、目を瞑った(・・・・・)

「Gu-ten A – bend,gut’ Nacht」

 そして、その隙に子守唄を歌い、火蜥蜴の皆さんとラッテンさんを眠らせようとする。
 が・・・

「無駄よ。もしかして知らないの?」

 ラッテンさんは・・・いや、誰も歌の影響を受けていなかった。

「もしかして、知らないのかしら。なら特別に教えてあげるけど、“音楽シリーズ”に“音楽シリーズ”は効かないわ。そして、他のギフトを使いながらの音楽に、何も使っていない音楽が負けるはずがない」
「それは、初耳ですね・・・」

 予定が一気に狂った。
 もう、僕には勝算がない。

「へえ・・・まあ、“音楽シリーズ”についてはいまだに知らないことだらけだし、白夜叉に聞いてなくてもおかしくはないわね」

 そう言ってラッテンさんはギフトカードを取り出す。

 そして、カードが光り・・・中から、黒い風が噴き出してくる。
 正体は分からないけど・・・間違いなく、危ない。

「すう・・・わあ!」

 直感的にそう感じたので、僕は少し息を吸って、音響操作を使って振動により吹き飛ばす。

「春日部さん、予定変更!今すぐに此処から逃げよう!」
「分かった。少し待って!」
「いえ、またないわ」

 そして、ラッテンさんはフルートに口をつけ・・・音楽を、奏でる。

「あ・・・駄目だ、コレ・・・!」
「意識が、薄れて・・・」
「春日部さん、ジン君!」
「二人だけが影響を・・・?」

 そして、その音の影響を春日部さんとジン君が受け、力が抜けたように座り込む。

「僕が受けないのは、さっきのラッテンさんの説明で理解できるけど・・・なんで飛鳥さんも・・・」

―――まあ、魔笛の効果があるから吹き続ける必要はないのだけれど。―――

 そのタイミングで、ラッテンさんが言っていたことを思い出した。

「そっか。飛鳥さんの持ってる白銀の十字剣が、魔の属性を打ち消してるから・・・」
「奏君。私が隙を作るから、二人を連れて逃げて」

 そして、飛鳥さんがそんなことを言ってきた。

「飛鳥さん、何を言って・・・」
「この状況で、あの二人を放置しておくのは、賢くないわ。そして、奏君のギフトは相手には効かない。役割は決まっているでしょう?」
「・・・ゴメン」

 飛鳥さんの言っていることは何も間違っていない。むしろ少し考えれば分かることなので、大人しく従うことにする。

「じゃあ、此処は引かせてもらいますね、ラッテンさん!」

 そして、僕は二人を抱えて、その場を走り去った。



♫♫♫



「逃がすと思ってるのかしら?さあ、行きなさ」
全員、そこを動くな(・・ ・・・・・・)!」

 私は歌い手を追わせようとしたが、赤いドレスの少女がそう言うと同時に、自由が奪われる。

 そして、赤いドレスの少女がこちらに剣を向けて突きを放ってくる。

「この・・・甘いわ小娘!」

 ふう・・・一瞬あせったけど、永続的なものではないのね。
 抵抗しようと思えば消せるのだから・・・大したことはないわ。

「悪魔相手に、その程度の実力で勝てると思うな!」
「が・・・」

 そして、剣を避けて腹に蹴りを放ち、壁に打ち付ける。
 見れば気絶しているようだ。

「まったく・・・こんな小娘一人のせいで“歌い手”を逃がすなんて・・・とんだ損害だわ。この娘もそこそこのギフト保持者みたいだけど・・・やっぱり、“歌い手”には劣るし・・・」

 マスターに怒られそうね・・・今からでも“歌い手”を追いましょうか。

「貴様・・・!」
「あら、怖い怖い。でも、無駄よ?」

 そんな私を見て、捕まっている白夜叉がすごんでくる。
「この封印は、特殊な功績でえたマスターの“主催者権限”で出来ているわ。いくら貴女が最強のフロアマスターでも、箱庭の力の元には小さなものでしょう?」
「くっ・・・!」
「じゃあ、私は失礼するわ。早く“奇跡の歌い手”を追わないといけないもの」

 そして、私が白夜叉の前から立ち去ろうとすると、激しい雷鳴が、鳴り響いた。

「“審判権限”の発動が受理されました!これよりギフトゲーム“The PIED PIPER of HAMERUN”は一時中断し、審議決議を執り行います!プレイヤー側、ホスト側は共に好戦を中止し、速やかに交渉テーブルの準備に移行してください!」

 箱庭の貴族がその宣言を繰り返すのを聞きながら、私は舌打ちをした。
 つくづくタイミングの悪い・・・!

「仕方ないわ。今は、この娘だけで良しとしましょう」

 私はドレスの少女を肩に乗せて、隠れ家へと向かった。
 
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