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問題児たちが異世界から来るそうですよ?  ~無形物を統べるもの~

作者:biwanosin
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短編 あるお盆の物語 ⑪

続いて、第二部隊のところである。

「豊・・・貴方は何故龍が現れたのか分かるのですか!?」
「相手が霊獣だから確信はできんがな!少なくとも、アレはシンの力ではない!」

天に上がった龍が完全に顕現するまでの時間を使い、二人は情報の交換をする。
龍が顕現しようとしている余波で風が強いため、声を張り上げながらだ。

「では、何の力だというのですか!?」
「恐らく、大元は法螺貝の怪異、出世螺(しゅっせぼら)の法螺抜けだ!」

出世螺とは、山で三千年、里で三千年、海に三千年住ごした法螺貝が龍となる怪異現象だ。
そして、その龍が天に上がることを法螺抜けという。

似た現象としては、西遊記の蛟魔王が有名な海で千年、山で千年を過ごした蛇が龍となる、海千山千がある。

「ですが、あれはどう見ても法螺貝の要素はありません!」
「それ以前に、俺たちの間での常識があるだろう!妖怪は、似た性質さえあれば問題なくそれをやる!それが霊獣にも適応されるかは知らんがな!」

そして、二人の会話が終わるとほぼ同時に、龍となったシンが顕現する。

『これで我にも戦う力が備わった!さあ、武勇を決しようぞ!』
「質問ですが、豊は何か、龍に勝てるだけの力がありますか?」
「微妙なところだな。何より、アレがどれだけの力を持っているかによる。」

二人はそう言いつつも自分の獲物を構え、何か来ても対処できるようにする。
すると、龍の口から蜃気楼が吐き出される。

「やはり、シンとしての力は残っているか。『化け狐』、頼んでいいか?」
「もちろんです。渦巻きなさい、管狐!」

前は最初と同じように管狐を使って蜃気楼を吹き飛ばすが、その隙を突いて龍の口から激しく渦を巻く水流が吐き出され、二人を襲う。

「く・・・豊!」
「力技は苦手なのだが・・・蒐集されし物の怪どもよ!我らを守る防壁となれ!」

そして、二人がミキサーにかけられる前に豊が防壁を張り、どうにか耐え抜く。
現在は、防戦一方となってしまっている二人だ。

「さて・・・まず一つ、大きな問題があったな。あの高さに届く攻撃がない。」
「そうでしたわね・・・一輝ならば飛べますし、鈴女ならばそれこそ、式神がいますが・・・」
「俺たちには、それがない。が・・・」
「何とかするしかありませんわね。仕方ない、私は切り札を使います。」
「そうだな、頼んだ。」

会話が終わると、前は管狐を全員呼び戻し、小刀の状態に戻し、狐の面を被る。

「さあ、わが身に流れる血よ、今一時わが身を九尾としなさい!」

そして、前の体が狐のものとなり、九つの小刀はそれぞれが尾となる。
そこにいたのは、全長十メートルほどの九尾の狐だった。

「これで、強力な狐火が放てますし、多少は空を駆けることもできます。少しは攻撃ができるでしょう。豊はどうにかして倒せるだけの手段を準備してください。」
「分かった。何とかして手段を探してみよう。」

前は返事を聞きすらせずに空を駆け、龍へと迫る。

「さあ、貴方の相手は私です、シン!」
『よかろう!いざ参ろう!』

龍は火の玉を、前は青い火の玉をぶつけ合い、体当たりをし、前が尾で突き刺せば龍は牙で噛み付き、という怪獣バトルが繰り広げられる。

『その狐の力、稲荷のものだな!あやつ、人と交わっておったか!』
「私の家の祖先と交わりました。といっても、子を残してからはすぐに神域に戻りましたが。」
『あやつも物好きよな!人なんぞと交わるとは!』
「他にも、猫多羅天女が人と交わったそうですよ。私には関係ありませんが!」

なお、他にも人と交わった霊獣の例は存在し、現在進行形で人と共に暮らす霊獣も、日本に一体だけ存在する。

「さて・・・後どれくらい時間を稼げばよいのでしょうか・・・」



        ================



「さて、任されたものの・・・龍ほどの存在をどう対処するか・・・」

豊は白澤図のページをめくりながら、そう漏らした。
呑気なように見えるが、白澤図とそこに蒐集されている妖怪こそが豊の武器。それを確認するのは必要なことなのだ。
それに、今シンの興味は前にむいているので、豊にとっての脅威は一切いない。
強いて言えばザコの妖怪が大量にいるが、そいつらは一定範囲内に近づくと白澤図に蒐集されていき、近づくことすらできず、ひたすらに武器を与えてしまっている。

「少なくとも、この中には対処出来そうな妖怪はいないな。かといって、すぐに手に入るようなザコでは意味がない。」

そう言いながらも蒐集範囲を広げていく辺り、諦めが悪い。

「次に奥義だが・・・俺が編み出したものも、陸上での戦いを想定したものだ。よって、これもまた対象外。遠距離に向けて放つことが出来る唯一の攻撃は蒐集だが、龍相手に通じるはずもないから対象外・・・万策尽きたな。」

本気で何もないようで、豊は白澤図を閉じ、ポケットからスマートフォンを取り出し、いじりだす。
少しいじると、画面にはある古文書、鬼道の奥義にかかわる古文書のコピーが写される。

「だとすれば、何か新しい手段を生み出すしかないな。なにか・・・興味があるものは多いが、すぐに使えるものではないな。また『型破り』に聞くとしよう。」

こんな時だというのに好奇心のことを優先する。
まあ、新しく作り出した奥義は全て好奇心からのものなので、好奇心を出すのは間違ってないだろう。

「・・・お、これならいけそうだな。何故今まで作っていなかったのか・・・ああ、俺には合わないと判断したからか。」

そう言いながらも、えり好みしている場合ではないと判断し、奥義の基盤をくみ上げていく。

「軸にする武器がないが・・・それについてはこいつで代用するとして・・・なら、いっそこうアレンジしてしまえば・・・」

そうして基盤をくみ上げていく豊の顔は、不気味な笑みを浮かべていく。
近くに人がいたなら、通報されているレベルだ。

「よし、出来た。ぶっつけ本番になるが、それもまた一興だな。」

そう言って、豊は言霊を唱える。

「さあ、蒐集されし全ての妖よ。妖を蒐集せし目録よ。汝らは、今姿を変える。」

豊が手に持っている白澤図は姿を変えていき、その中身は墨の姿で豊の周りを回る。

「我はここに武具を望む。敵を穿ち、妖の力を振るい、その身を蒐集する武具を望む。」

そして、白澤図は槍に姿を変え、墨はその槍に吸い込まれていく。

「さあ、大いなる武をここに表せ!」

そして、豊の手には白黒の槍が握られていた。

「やはり・・・このような野蛮なものは性に合わんな。まあ、必要である以上は仕方ない、と割り切るとしよう。」

豊はそう言いながら、片手で槍を構え、支えきれずに地面に落とす。

「・・・中身を使ってブーストすれば、いけるか。」

再び槍を拾い、今度は槍の石突きから墨を噴出することで問題なく槍を空に向けて発射し、龍にあてる。

『ぬ・・・これは・・・』
「ほう・・・やりましたね、豊。」

龍は体に刺さっている槍を興味深そうに見て、前は豊の元に降りてくる。

「後少しすればシンは問題なく蒐集される。」
「のようですわね。見たところ、無理矢理に法螺抜けをした影響で存在は弱まっているようですし。」
『ははは・・・よき戦いであった!礼を言うぞ、陰陽師たちよ!』

そして、シンは完全に槍に吸い込まれ、本の姿に戻った白澤図が豊の手に戻ってくる。
一番後ろのページを開くと、そこには蜃気楼に包まれる大蛤、シンが描かれていた。

「蒐集完了。これで、万事解決だな。」
「此処は、と付きますがね。」

こうして、二つ目の戦いも、終了した。
 
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